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第九章「海神編」
そして月に落ちる
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せっかくお昼を持ってきてくれたので、少し早いが食事にする事になった。
ノルに声をかけに行くと、置いておいてと言われた朝食はコーヒーだけが飲まれてサンドイッチがちょっと齧られてるだけだった。
う~ん、昨日もあんまり寝てないみたいだし、必要な物が届き始めたら本格的に寝ないだろうから今夜は強硬手段を使おう。
「ノル。」
「うん、後で。」
「お昼買ってきてくれたんだ。一緒に下で食べよう??」
「うん、後で。」
完全に聞いていない。
集中の邪魔をするのは良くないが体が心配だ。
俺は持ってきた昼食と共に、ミルクの小さい瓶を置いた。
「冷たいヤギミルク持ってきたから、一緒に置いておくよ??」
「あ、それはこっちに持ってきて。後、飴とかあったら持ってきてもらえないかな??」
作業しているテーブルに瓶を置くと、あまり見ずに蓋を開け、飲みながら作業を続けた。
サンドイッチとかなら作業しながらでも食べやすいかと思っていたが、基本はもう飲み物で摂取させるしかなさそうだな……。
それから飴か……頭は使っているから、糖分は必要なんだな……。
なら、頻繁にバナナシェーキとかスープとかを差し入れて、最低でも夕飯だけはしっかり食べさせて寝かせるようにしないとな……。
そんな事を思いながら、俺は朝食の残りを持ち帰った。
下に降りると、子供らの笑い声がする。
イヴァンと何か会話しながら楽しそうに笑っていた。
「楽しそうだな?何の話だ??」
「この前行った、クエストの話ですよ。」
「サーク!私も冒険者登録したい!!」
「僕も!!」
「う~ん??マダムが認めるかな??とりあえずその話はもう少し状況が落ち着いてからな?今はまずは飯だな。」
俺はそう言って食事を促した。
買ってきてくれたのはあんかけ焼きそばで、リアナとラニは物珍しそうにしながらも、美味しい美味しいと喜んでいる。
デザートの揚げ饅頭も興味津々のようだ。
「そういえばサークさん、ソファーはどこに置くんです??」
「うん、玄関フロアに仕切りを入れて設置しようかと思ってる。」
「なるほどなるほど。食べ終わったら動かしますか?それともテントを先に立てますか??」
「テントはまだいいよ。来る日がきちんと決まってからの方がいいだろう。」
「なら、まずはソファーですね。」
「悪い。流石に一人では動かせなかったから助かるよ。」
魔術を使えばできなくはないが、何でもかんでも日常生活を魔術に頼るというのは何となく気が引ける。
健康な肉体があるんだし、できる事は普通にやればいいという感覚がやはりある。
かと言って双子やカレンに手伝ってもらう訳にも行かない作業だ。
見るからに力仕事は任せてくださいという若手がいるのは心強い。
俺の言葉に、イヴァンはいつも通りの爽やかな笑みで答えた。
「良いんですよ。それよりシロクマは……。」
「……持って帰れ。」
「酷い!!」
しかし、何故かあくまでもシロクマをうちに置こうとするイヴァン。
お前とシロクマの間に何があった?!
謎である。
食べ終わって、俺はデザートの揚げ饅頭を持ってノルの所に行った。
ノルはミルクを半分ほど飲んだだけでまだ集中していた。
「ノル~。」
「う~ん。」
「甘いもの欲しくないか??」
そういった途端、ガバッと顔を上げる。
何か可愛いなぁと思ってしまった。
「いる!!」
「だと思った。」
そして手が汚れないよう紙で包みながら、揚げ饅頭を渡してやる。
これなら食べるかなと思ったので、自分の分も食べずにおいて良かった。
ノルは無心で糖分を補給している。
ぺろりと食べ終えたので、俺の分だったニ個目を渡してあげた。
「夕飯は無理矢理でも食べさせるからね。」
「ふふふっ、怒らずにこんなに世話を焼いてくれるのはサークぐらいだ。僕、ここに住もうかな?!」
「う~ん、それはウィルに聞いてからじゃないと返事ができないなぁ~。」
「冗談だよ。新婚の家に突撃したりはしないよ。」
「そっか。」
「うん。ありがとう、サーク。」
「こちらこそ。」
ノルはそう言ってミルクを飲み干すと、また作業に集中し始めた。
俺は空いた瓶と食べなさそうなあんかけ焼きそばの袋を持って下に降りた。
階段下の玄関フロアでは、三人がソファーを置くスペースを作り掃除している。
「待ってましたよ、サークさん。」
「ちょっと待ってろ、瓶とか置いてくるから。」
「私が置いてきてあげる。」
「そうか?ならお願い。」
俺は空の瓶と中の入った袋を渡した。
中がある事にリアナがびっくりしている。
「うん。こっちは冷蔵庫に入れてな?」
「食べなかったの??」
「集中しちゃうと駄目なんだよ。でもミルクと揚げ饅頭2個食べたから。その代わり夕飯は無理矢理でも食べさせるけどね。」
「わかった。」
リアナは苦笑してキッチンに向かって行った。
俺とイヴァンは協力してソファーを玄関フロアに運び始める。
「バンクロフト博士、本当に食べないんですね?」
「わかるんだけどね。俺も研究してる時、食べなかったり食べても片手間に齧るだけだったりするから。」
「え?!サークさんがですか?!」
「お前……俺の事なんだと思ってやがる……。」
「ん~??プレーリードッグ??」
「……は??」
「食べてる時だけじゃなくて、できるだけ動きたくなくて日向でぽよんと伸びてそうな感じとか。」
「マジか?!」
俺、イヴァンにそう思われてたのか……。
しかもできるだけ動きたくなくて日向で伸びてそうとか……ちょっと本質を掴んでる部分もあって、逆にショックだ……。
がっくりきながらソファーを運び出す。
リアナとラニが動かした後を掃除してくれた。
絨毯とローテーブルも運び終え、どこにどうやって設置しようかと思っていたとこでウインドチャイムが鳴った。
「お、来たかも。」
俺がそう言うと、カレンがまたシュルっと出てくる。
そしてイヴァンに一礼すると、俺に向き直った。
「旦那様、大旦那様がお客様をお連れになって戻られました。」
「うん、この間話した件の人達だよ。多分、ここに滞在する事になるから、皆にも戻る前に挨拶してもらっても良いかな?カレン?」
「承知いたしました。」
そして玄関ベルが成り、カレンが出迎えた。
「お帰りなさいませ、大旦那様。皆様、ようこそお越しくださいました。どうぞ中にお入りください。」
カレンは頭を下げて挨拶すると、皆を中に入れた。
来たのはパスカルさん・メイド長のバーバラさん・ヘーゼル医務官長とブラハムさん、そしてアレックだった。
「お帰り、義父さん。皆さんよくお越しくださいました。」
俺はそう、笑って挨拶した。
そんな俺の後ろにラニは速攻で隠れる。
しっかりしてきたけど、やっぱりまだ見知らぬ大勢の人に対しては引っ込み思案な部分はあるようだ。
以前と変わらぬその様子がちょっと可愛くて、くすっと笑ってしまう。
「お邪魔致します。アズマ男爵。ここが国王陛下に贈られたお宅ですか……。」
「ええ。他の貴族の皆さんの家に比べたら、物凄く小さいですし質素ですよね。驚かせてすみません。」
「いえいえ。とんでもございません。サーク様。」
「それより、そちらが件の精霊かね?」
「はい。カレンです。」
「この家の家守りの精霊、カレンでございます。どうぞよろしくお願い致します。」
カレンはそう言って、皆に礼を尽くした。
何故かバーバラさんの目がキラリと光った気がする。
まぁ気のせいだろう。
「それからこっちにいる女の子と俺の後ろにいる男の子が、ウィルの遠縁の親族の子で、事情ありまして預かっております。二人とも、挨拶を。」
俺に促され、リアナは一歩前に出ると綺麗にお辞儀をした。
「この様な格好で申し訳ございません。片付けをしておりましたのでお許し下さい。ウイリアム・クラフト伯父様の遠縁に当たります、リアナと申します。ラニの双子の姉になります。どうぞお見知りおき下さいませ。」
おお、いつの間にそんな挨拶を覚えたんだ?!リアナ?!
驚いている俺にカレンがこっそりウインクしてきた。
なるほど。いつの間にかは知らないが、カレンの淑女教室があったようだ。
挨拶を終えたリアナは軽く俺を振り返ってドヤ顔だ。
全く、立派にできたのにそのドヤ顔は駄目だろ。
ちょっと苦笑しながらも、うんうんと頷いてみせる。
姉のきっちりした挨拶を受け、弾かれたようにラニが俺の横まで出てきた。
そして赤くなり、アワアワしながら頭を下げる。
「双子の弟のラニです!よろしくお願い致します!!」
そしてぴゅっとまた俺の後ろに軽く隠れた。
ぎゅっと俺のズボンの裾を掴んでいて可愛い。
どうやら元々、ラニが引っ込み思案だからとリアナがしっかり挨拶をして、ラニは名前だけ言えばいいように調整してあったようだ。
本当しっかりしてるよ、リアナは。
そりゃドヤ顔をされても文句はない。
俺は笑いながら皆に顔を戻した。
「この二人の事はどうかあまり口外しないで下さい。この子達を家で預かっているのには理由がありまして、とても魔力が強いのです。姉のリアナはこの歳ながら、すでに宮廷魔術師レベルの魔術師です。そして弟のラニは……。」
「……もしや、その子が?!」
「はい。今回、ライオネル殿下の精神に潜る精神魔術師はこの子です。」
俺にそう言われ、ラニは真っ赤になりながら顔を上げ、俺を見つめた。
俺はそれを見返し、小さく頷く。
ラニもしっかりと頷き返してきた。
そしてさっきよりも俺から離れ、大きく1歩前に出た。
「……ぼ、僕がこの度、王子様に潜る精神魔術師です。精一杯、頑張ります!どうぞよろしくお願いします!!」
真っ赤になって、ぷるぷるしながら一生懸命、ラニは言った。
うんうん、頑張ったな~。
俺は妙な感動を覚えていた。
その時だった。
突然、ぴぎゃっ?!と言う変な声が聞こえた。
見るとアレックが手に持っていたであろうピアを床に落っことしていた。
そしてピアを拾いもせず、凄い勢いでこちらに歩いてきた。
あぁ、こんな小さい子をって反対されるんだろうなぁ~。
前にした約束を思い出し、俺は苦笑した。
だがアレックに反対されても、もう、さいは投げられているのだ。
どう説得すっかなぁと思っている俺とは裏腹に、ずんずんずんずん歩いてきたアレックは、ラニの前で止まった。
そして放心したようにラニを見つめる。
え??
どうしちゃったんだ??アレック??
何となく雰囲気に飲まれ、皆、唖然とアレックを見ている。
「アレック?どうしたん……?」
俺が不審に思ってそう声をかけた瞬間、予想打にしない言葉が飛び出した。
「お前は俺が守るからっ!!」
………はい??
思考が飛んで真っ白くなる。
しかし、アレックはラニの手をガシっと掴んで更に言った。
「絶対!守ってやるから!!」
「う、うん??ありがと……??」
ラニもぽかんとして、メチャクチャ真剣な眼差しで宣言したアレックを見つめる。
他の皆もよくわからなくて、ただそれを見守るしかない。
マジか……。
俺が呆然としている後ろで、イヴァンが楽しげに「ほほ~う??」と呟いた。
これでもかと言うほど爽やかな笑顔だ。
そしてリアナがずもももも…と青筋を立てている。
いやまぁ、そりゃな。
「……とりあえず、落ち着け、アレック……。」
予想外の展開に俺が苦笑いで声をかけると、いきなりアレックはビクッと硬直した。
そして我にかえり、目の前のラニを確認しすると、尻尾と耳が下からゾワゾワゾワゾワっと毛を逆立てる。
「……うわっ!!ごめんっ!!」
そう言って手を離し、ピョ~ンと飛び退いた。
メチャクチャ動揺してやがる。
ほほ~ん??
小生意気なアレック君にしては意外な反応ですな~。
だんだん面白くなってきてニヤッと笑う。
ラニはと言えば、よくわからないようでコテンと小首を傾けた。
ラニ!!
今、それやったら駄目なヤツ!!
え??
ラニ、もしかして天然系?!
お前も天然系なのか?!
そんなラニを凝視していたアレックは、またもブワッと毛を逆立てる。
「……もしかして!君がアレック君?!魔法師の!!」
しかしそんな事はお構いなしに、ラニは嬉しそうに笑ってアレックの所に駆け寄った。
キラキラした目でそう言われ、アレックはノックアウト寸前だ。
目がぐるぐるしているのが傍目からでも丸わかりだ。
「えっ、あ?!う、うん?!そうだけど?!」
「良かった~!!僕、大人の中に子供一人になると思って、緊張してたんだ~!!でもお兄ちゃんが同い年ぐらいの子がいるから大丈夫だよって教えてくれて!!これからよろしくね!!」
「えっ?!あっ?!……ああ!もちろん……!!よろしくな?!」
いつもは小生意気なアレックが、普段引っ込み思案なラニに懐かれアワアワしている。
「いやぁ~、サークさん。僕、人生で一度しかない貴重な瞬間を目撃してしまった気がするんですけど、どう思います??」
そこに後ろから、イヴァンが爽やかな笑顔で話しかけてきた。
どうって………そりゃな??
俺も思わず、ニヤッと笑ってしまった。
「あ~、奇遇だなぁ、イヴァン。何か俺もそれらしい瞬間を目の当たりにしたと思うよ。」
そして並んでニヤニヤ、アレックとラニを見つめる。
まぁ主に見ているのはテンパってぐるぐるしているアレックだけどな。
「う~ん、眩しくて直視できないなぁ~。」
「本当だな~。」
そんな馬鹿な会話をしながら、俺達は貴重な瞬間を生暖かく見守る。
他の皆も微笑ましそうにしている。
ただ姉のリアナはムス~っと膨れていて、落っことされて義父さんに拾われたピアは、何が起きたのかわからないようで目を白黒させていた。
ノルに声をかけに行くと、置いておいてと言われた朝食はコーヒーだけが飲まれてサンドイッチがちょっと齧られてるだけだった。
う~ん、昨日もあんまり寝てないみたいだし、必要な物が届き始めたら本格的に寝ないだろうから今夜は強硬手段を使おう。
「ノル。」
「うん、後で。」
「お昼買ってきてくれたんだ。一緒に下で食べよう??」
「うん、後で。」
完全に聞いていない。
集中の邪魔をするのは良くないが体が心配だ。
俺は持ってきた昼食と共に、ミルクの小さい瓶を置いた。
「冷たいヤギミルク持ってきたから、一緒に置いておくよ??」
「あ、それはこっちに持ってきて。後、飴とかあったら持ってきてもらえないかな??」
作業しているテーブルに瓶を置くと、あまり見ずに蓋を開け、飲みながら作業を続けた。
サンドイッチとかなら作業しながらでも食べやすいかと思っていたが、基本はもう飲み物で摂取させるしかなさそうだな……。
それから飴か……頭は使っているから、糖分は必要なんだな……。
なら、頻繁にバナナシェーキとかスープとかを差し入れて、最低でも夕飯だけはしっかり食べさせて寝かせるようにしないとな……。
そんな事を思いながら、俺は朝食の残りを持ち帰った。
下に降りると、子供らの笑い声がする。
イヴァンと何か会話しながら楽しそうに笑っていた。
「楽しそうだな?何の話だ??」
「この前行った、クエストの話ですよ。」
「サーク!私も冒険者登録したい!!」
「僕も!!」
「う~ん??マダムが認めるかな??とりあえずその話はもう少し状況が落ち着いてからな?今はまずは飯だな。」
俺はそう言って食事を促した。
買ってきてくれたのはあんかけ焼きそばで、リアナとラニは物珍しそうにしながらも、美味しい美味しいと喜んでいる。
デザートの揚げ饅頭も興味津々のようだ。
「そういえばサークさん、ソファーはどこに置くんです??」
「うん、玄関フロアに仕切りを入れて設置しようかと思ってる。」
「なるほどなるほど。食べ終わったら動かしますか?それともテントを先に立てますか??」
「テントはまだいいよ。来る日がきちんと決まってからの方がいいだろう。」
「なら、まずはソファーですね。」
「悪い。流石に一人では動かせなかったから助かるよ。」
魔術を使えばできなくはないが、何でもかんでも日常生活を魔術に頼るというのは何となく気が引ける。
健康な肉体があるんだし、できる事は普通にやればいいという感覚がやはりある。
かと言って双子やカレンに手伝ってもらう訳にも行かない作業だ。
見るからに力仕事は任せてくださいという若手がいるのは心強い。
俺の言葉に、イヴァンはいつも通りの爽やかな笑みで答えた。
「良いんですよ。それよりシロクマは……。」
「……持って帰れ。」
「酷い!!」
しかし、何故かあくまでもシロクマをうちに置こうとするイヴァン。
お前とシロクマの間に何があった?!
謎である。
食べ終わって、俺はデザートの揚げ饅頭を持ってノルの所に行った。
ノルはミルクを半分ほど飲んだだけでまだ集中していた。
「ノル~。」
「う~ん。」
「甘いもの欲しくないか??」
そういった途端、ガバッと顔を上げる。
何か可愛いなぁと思ってしまった。
「いる!!」
「だと思った。」
そして手が汚れないよう紙で包みながら、揚げ饅頭を渡してやる。
これなら食べるかなと思ったので、自分の分も食べずにおいて良かった。
ノルは無心で糖分を補給している。
ぺろりと食べ終えたので、俺の分だったニ個目を渡してあげた。
「夕飯は無理矢理でも食べさせるからね。」
「ふふふっ、怒らずにこんなに世話を焼いてくれるのはサークぐらいだ。僕、ここに住もうかな?!」
「う~ん、それはウィルに聞いてからじゃないと返事ができないなぁ~。」
「冗談だよ。新婚の家に突撃したりはしないよ。」
「そっか。」
「うん。ありがとう、サーク。」
「こちらこそ。」
ノルはそう言ってミルクを飲み干すと、また作業に集中し始めた。
俺は空いた瓶と食べなさそうなあんかけ焼きそばの袋を持って下に降りた。
階段下の玄関フロアでは、三人がソファーを置くスペースを作り掃除している。
「待ってましたよ、サークさん。」
「ちょっと待ってろ、瓶とか置いてくるから。」
「私が置いてきてあげる。」
「そうか?ならお願い。」
俺は空の瓶と中の入った袋を渡した。
中がある事にリアナがびっくりしている。
「うん。こっちは冷蔵庫に入れてな?」
「食べなかったの??」
「集中しちゃうと駄目なんだよ。でもミルクと揚げ饅頭2個食べたから。その代わり夕飯は無理矢理でも食べさせるけどね。」
「わかった。」
リアナは苦笑してキッチンに向かって行った。
俺とイヴァンは協力してソファーを玄関フロアに運び始める。
「バンクロフト博士、本当に食べないんですね?」
「わかるんだけどね。俺も研究してる時、食べなかったり食べても片手間に齧るだけだったりするから。」
「え?!サークさんがですか?!」
「お前……俺の事なんだと思ってやがる……。」
「ん~??プレーリードッグ??」
「……は??」
「食べてる時だけじゃなくて、できるだけ動きたくなくて日向でぽよんと伸びてそうな感じとか。」
「マジか?!」
俺、イヴァンにそう思われてたのか……。
しかもできるだけ動きたくなくて日向で伸びてそうとか……ちょっと本質を掴んでる部分もあって、逆にショックだ……。
がっくりきながらソファーを運び出す。
リアナとラニが動かした後を掃除してくれた。
絨毯とローテーブルも運び終え、どこにどうやって設置しようかと思っていたとこでウインドチャイムが鳴った。
「お、来たかも。」
俺がそう言うと、カレンがまたシュルっと出てくる。
そしてイヴァンに一礼すると、俺に向き直った。
「旦那様、大旦那様がお客様をお連れになって戻られました。」
「うん、この間話した件の人達だよ。多分、ここに滞在する事になるから、皆にも戻る前に挨拶してもらっても良いかな?カレン?」
「承知いたしました。」
そして玄関ベルが成り、カレンが出迎えた。
「お帰りなさいませ、大旦那様。皆様、ようこそお越しくださいました。どうぞ中にお入りください。」
カレンは頭を下げて挨拶すると、皆を中に入れた。
来たのはパスカルさん・メイド長のバーバラさん・ヘーゼル医務官長とブラハムさん、そしてアレックだった。
「お帰り、義父さん。皆さんよくお越しくださいました。」
俺はそう、笑って挨拶した。
そんな俺の後ろにラニは速攻で隠れる。
しっかりしてきたけど、やっぱりまだ見知らぬ大勢の人に対しては引っ込み思案な部分はあるようだ。
以前と変わらぬその様子がちょっと可愛くて、くすっと笑ってしまう。
「お邪魔致します。アズマ男爵。ここが国王陛下に贈られたお宅ですか……。」
「ええ。他の貴族の皆さんの家に比べたら、物凄く小さいですし質素ですよね。驚かせてすみません。」
「いえいえ。とんでもございません。サーク様。」
「それより、そちらが件の精霊かね?」
「はい。カレンです。」
「この家の家守りの精霊、カレンでございます。どうぞよろしくお願い致します。」
カレンはそう言って、皆に礼を尽くした。
何故かバーバラさんの目がキラリと光った気がする。
まぁ気のせいだろう。
「それからこっちにいる女の子と俺の後ろにいる男の子が、ウィルの遠縁の親族の子で、事情ありまして預かっております。二人とも、挨拶を。」
俺に促され、リアナは一歩前に出ると綺麗にお辞儀をした。
「この様な格好で申し訳ございません。片付けをしておりましたのでお許し下さい。ウイリアム・クラフト伯父様の遠縁に当たります、リアナと申します。ラニの双子の姉になります。どうぞお見知りおき下さいませ。」
おお、いつの間にそんな挨拶を覚えたんだ?!リアナ?!
驚いている俺にカレンがこっそりウインクしてきた。
なるほど。いつの間にかは知らないが、カレンの淑女教室があったようだ。
挨拶を終えたリアナは軽く俺を振り返ってドヤ顔だ。
全く、立派にできたのにそのドヤ顔は駄目だろ。
ちょっと苦笑しながらも、うんうんと頷いてみせる。
姉のきっちりした挨拶を受け、弾かれたようにラニが俺の横まで出てきた。
そして赤くなり、アワアワしながら頭を下げる。
「双子の弟のラニです!よろしくお願い致します!!」
そしてぴゅっとまた俺の後ろに軽く隠れた。
ぎゅっと俺のズボンの裾を掴んでいて可愛い。
どうやら元々、ラニが引っ込み思案だからとリアナがしっかり挨拶をして、ラニは名前だけ言えばいいように調整してあったようだ。
本当しっかりしてるよ、リアナは。
そりゃドヤ顔をされても文句はない。
俺は笑いながら皆に顔を戻した。
「この二人の事はどうかあまり口外しないで下さい。この子達を家で預かっているのには理由がありまして、とても魔力が強いのです。姉のリアナはこの歳ながら、すでに宮廷魔術師レベルの魔術師です。そして弟のラニは……。」
「……もしや、その子が?!」
「はい。今回、ライオネル殿下の精神に潜る精神魔術師はこの子です。」
俺にそう言われ、ラニは真っ赤になりながら顔を上げ、俺を見つめた。
俺はそれを見返し、小さく頷く。
ラニもしっかりと頷き返してきた。
そしてさっきよりも俺から離れ、大きく1歩前に出た。
「……ぼ、僕がこの度、王子様に潜る精神魔術師です。精一杯、頑張ります!どうぞよろしくお願いします!!」
真っ赤になって、ぷるぷるしながら一生懸命、ラニは言った。
うんうん、頑張ったな~。
俺は妙な感動を覚えていた。
その時だった。
突然、ぴぎゃっ?!と言う変な声が聞こえた。
見るとアレックが手に持っていたであろうピアを床に落っことしていた。
そしてピアを拾いもせず、凄い勢いでこちらに歩いてきた。
あぁ、こんな小さい子をって反対されるんだろうなぁ~。
前にした約束を思い出し、俺は苦笑した。
だがアレックに反対されても、もう、さいは投げられているのだ。
どう説得すっかなぁと思っている俺とは裏腹に、ずんずんずんずん歩いてきたアレックは、ラニの前で止まった。
そして放心したようにラニを見つめる。
え??
どうしちゃったんだ??アレック??
何となく雰囲気に飲まれ、皆、唖然とアレックを見ている。
「アレック?どうしたん……?」
俺が不審に思ってそう声をかけた瞬間、予想打にしない言葉が飛び出した。
「お前は俺が守るからっ!!」
………はい??
思考が飛んで真っ白くなる。
しかし、アレックはラニの手をガシっと掴んで更に言った。
「絶対!守ってやるから!!」
「う、うん??ありがと……??」
ラニもぽかんとして、メチャクチャ真剣な眼差しで宣言したアレックを見つめる。
他の皆もよくわからなくて、ただそれを見守るしかない。
マジか……。
俺が呆然としている後ろで、イヴァンが楽しげに「ほほ~う??」と呟いた。
これでもかと言うほど爽やかな笑顔だ。
そしてリアナがずもももも…と青筋を立てている。
いやまぁ、そりゃな。
「……とりあえず、落ち着け、アレック……。」
予想外の展開に俺が苦笑いで声をかけると、いきなりアレックはビクッと硬直した。
そして我にかえり、目の前のラニを確認しすると、尻尾と耳が下からゾワゾワゾワゾワっと毛を逆立てる。
「……うわっ!!ごめんっ!!」
そう言って手を離し、ピョ~ンと飛び退いた。
メチャクチャ動揺してやがる。
ほほ~ん??
小生意気なアレック君にしては意外な反応ですな~。
だんだん面白くなってきてニヤッと笑う。
ラニはと言えば、よくわからないようでコテンと小首を傾けた。
ラニ!!
今、それやったら駄目なヤツ!!
え??
ラニ、もしかして天然系?!
お前も天然系なのか?!
そんなラニを凝視していたアレックは、またもブワッと毛を逆立てる。
「……もしかして!君がアレック君?!魔法師の!!」
しかしそんな事はお構いなしに、ラニは嬉しそうに笑ってアレックの所に駆け寄った。
キラキラした目でそう言われ、アレックはノックアウト寸前だ。
目がぐるぐるしているのが傍目からでも丸わかりだ。
「えっ、あ?!う、うん?!そうだけど?!」
「良かった~!!僕、大人の中に子供一人になると思って、緊張してたんだ~!!でもお兄ちゃんが同い年ぐらいの子がいるから大丈夫だよって教えてくれて!!これからよろしくね!!」
「えっ?!あっ?!……ああ!もちろん……!!よろしくな?!」
いつもは小生意気なアレックが、普段引っ込み思案なラニに懐かれアワアワしている。
「いやぁ~、サークさん。僕、人生で一度しかない貴重な瞬間を目撃してしまった気がするんですけど、どう思います??」
そこに後ろから、イヴァンが爽やかな笑顔で話しかけてきた。
どうって………そりゃな??
俺も思わず、ニヤッと笑ってしまった。
「あ~、奇遇だなぁ、イヴァン。何か俺もそれらしい瞬間を目の当たりにしたと思うよ。」
そして並んでニヤニヤ、アレックとラニを見つめる。
まぁ主に見ているのはテンパってぐるぐるしているアレックだけどな。
「う~ん、眩しくて直視できないなぁ~。」
「本当だな~。」
そんな馬鹿な会話をしながら、俺達は貴重な瞬間を生暖かく見守る。
他の皆も微笑ましそうにしている。
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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