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第九章「海神編」
騎士という誓い
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俺が舞台に上がると、どこかから微かな風が吹いた気がした。
そしてゆっくりと椅子に近づく。
そこには、消えそうな陽炎の様に透き通ったライオネル殿下が腰掛け、目を閉じていた。
半透明よりも淡いその存在があまりに不確かで、眠っていると表現していいのかすら俺には判断がつかない。
「……でも、姿を見せてくれたんですね……。」
どうやってこの何もない空間の中で殿下を探せば良いだろうかと思っていたが、俺が状況を整えると殿下はちゃんとそこに現れてくれた。
もしかしたらどう姿を集めれば良いかすらわからなくなっていた所に、俺が「ここ」と言う場所を作った事で自己が集まる事ができたのかもしれない。
「……ごめんなさい……。」
その姿をじっと見つめる。
こんなになるまで、この人を追い詰めてしまったのかと思う。
そう思うといたたまれなくなる。
いやいや、駄目だ。
そんなネガティブな感情ではライオネル殿下の助けにはならない。
俺はその場に跪いた。
「……あの日の事を覚えていますか?ライオネル殿下……。」
俺はゆっくり、話し始めた。
「あの日はとても天気が良かった。俺は徹夜明けでそれが鬱陶しくて仕方なかった。」
そう言ってちょっと自嘲気味に笑った。
今思うと結構、荒んだ生活をしていたと思う。
気持ちの良い快晴を疎ましく感じる程に。
「性欲研究の実験の後で、眠いし生々しいモノを観察し続けた後だったし、早くデータをまとめたかったし、適当にあの日も仕事を終えて早く帰りたかったんですよねぇ~。」
リグの無節操さに呆れていたが、俺も方向性は違えどたいして変わらなかったよなぁと思う。
よく、あんなやさぐれた若い部下二人をコントロールしてたよなぁ、班長。
そりゃ、げんこつに頼らざる負えないよな。
そう思うと笑えた。
生々しいほど泥臭く、人間臭い生活だった。
個人個人、欲望を隠しもしないでそれに実直に生きていた。
動物的で下等だと言われそうだが、だからこそ色濃く原始的な生命の躍動の中にいた気がする。
俺はそれを否定したりはしない。
その中だからこそ得るものがあった。
その中だからこそ、俺はやり直せたのだ。
あの外壁警備隊の泥臭い日々が、俺を人として生きる事に繋ぎ止めてくれた。
「懐かしいなぁ……俺はあの頃、生きる事とかどうでもよくて、結構やさぐれてたから感じ悪かったですよね??」
全てを諦めていた中で、人として一番根源に近い欲望と生きる事の汚さと原始的な欲求という命本来の姿を間近で感じながら生活した事で、俺はかえって生きる事の崇高さを知ったのだ。
上辺だけ綺麗に繕った世界では、きっと俺は生きられなかった。
腹が立てば殴り合い、酒を浴びるように飲んで騒ぎ立て、欲求に従って性交を交わし、面白ければ笑い、頭に来れば怒る。
とても単純な事だけれども、それこそが何も隠す事のない命本来の生々しさだった。
根源的な生命の泥臭い輝き。
あぁ、そうか……。
俺が性欲研究をしていたのって、自分に欠けていたその泥臭さを欲していたからなんだ。
皆と同じ様に、生命本来の泥臭さを手に入れたかったんだ。
……俺、生きたかったんだ。
その頃の自分を今更理解する。
東の国を逃げ出して、俺は自分なんかどうでもいいと思ってた。
死ぬ程の活力もなくて、ただどうでも良かった。
人に対する嫌悪感が酷く、誰とも関わりたくなかった。
自分にすら興味がなく、生きている事が面倒で仕方がなかった。
そんな俺だったから、あの生々しいまでに生きる根元に近い外壁警備隊の環境が必要だったのだろう。
そしてそこで生きる事の意味を取り込んだ俺は、次のステージに進んだ。
「……そのはじまりが、あなただったんです。」
俺は空を見た。
俺の想像が生み出した空だけれども、あの日のように高く澄んでいて。
「俺、初めて殿下を見た時、掃き溜めに鶴と言うか、汚い空き地に金色のたんぽぽが咲いたと思ったんです。」
蒼く澄んだ空に映える、黄金の花。
風に柔らかくはんなりと揺れ、頼り無さそうに見えた。
世間知らずの王子様がこんな小汚いところに何しに来たんだろうと、何もわからないからにこにこしちゃって可哀想な人だなあと少し小馬鹿にしていた。
あなたはあなたでたくさんの事情の上にやっと訪れる事ができた初めての自由だったのに、何も知らない俺は王族のエゴを満たす為にこんな大事になってエライ迷惑だと思っていた。
「あの頃はお互い、何も知らなかったですよね……。」
抱えている事情も、どんな事を考えているのかも、お互いの性格も。
俺達は何も知らなかった。
自分勝手に相手を見て、勝手な事を思っていた。
だって、本当ならその日だけで……一時のすれ違いで、二度と会わないはずだったのだから。
袖触れあうのも多少の縁とはいえ、一国の王子と平民の警備隊員。
言葉を交わす事すらなく終わるはずだったのだ。
「俺にとっては、あれが今へと続くすべての始まりでした……。」
そう、あの日が来なければ、俺はのんべんだらりと外壁警備をして、リグと班長と変わらない日々をすごし、適当に一生を終えるはずだったのだ。
あの日が来なければ、初めての恋に浮かれポンチになる事もなく、騎士になって殿下の警護部隊に入る事もなかった。
今、当然のように一緒にいる仲間と出会う事もなかったし、ウィルにもシルクにも出会わなかった。
ウィルを探しに旅立って冒険者になる事も、魔術本部の皆と出会う事も、憧れの研究者であるノルと話す事も、ヴィオールやリアナとラニに出会う事も、蟠りを捨てて東の国に帰る事もなかった。
「全部、あなたがくれたんです……。殿下……。」
今ある俺の全て。
その始まりを作り、無理矢理その場所へと引き上げてくれた人。
いい迷惑だと当時は思っていたけれど、ライオネル殿下がいたからこそ、俺の今は始まったのだ。
俺は姿勢を正し、殿下の前に跪いた。
そしてその頭を垂れる。
「殿下……ライオネル殿下。どうかもう一度誓わせて下さい。」
別宮勤務の初日。
俺は何がなんだかわからないまま、その儀式を受けた。
あなたの前に跪き、その剣を肩に受けて誓った。
「我、アズマ・サークは、中央王国第三王子、ライオネル・ミスル・サバール・クインサー殿下の名の元に、その剣、その盾となることを誓います。」
ずっと俺は殿下の気持ちに答えを示さなかった。
殿下にはっきり言われていないからとか、俺はもう婚約してるんだからとか、一国の王子と平民出の騎士なのだからどのみちどうにもならないとか、何だかんだ理由をつけて逃げていた。
だって、俺もどう応えていいのかわからなかったんだ。
殿下の事を恋愛的に愛してはいない。
俺が愛しているのはウィルだったから。
どんなに想いを寄せられても応えようがなかった。
でも。
俺と殿下の答えは、本当はとっくの昔に出ていたんだ。
「今一度、騎士の誓いを捧げます。我が君主。」
俺は恋愛的な意味で殿下に応える事はできない。
だが、騎士として応える事はできる。
これが、俺のあなたに対する答えです。
そう思った。
ふと、何かが髪に触れた。
驚いて顔を上げると、淡く輝いたライオネル殿下の指が頭に触れていた。
先程までよりもその存在ははっきりしていたが、不思議そうに俺を見ている。
「殿下!」
「……あなたは誰?」
殿下の意識はだいぶ固まってきたようだが、まだ自己を忘れているようだった。
俺は少し落胆しながらも、慌てる事なく微笑んだ。
「あなたの騎士です。ライオネル殿下。」
「……私の騎士?」
「ええ、殿下は俺の事をよくそう仰っていました。『私の騎士』と……。」
「…………………。」
殿下はまだ、夢うつつの中にいるようで、ぼんやりと俺を見ている。
伸ばされている手を俺は軽く握った。
「俺と殿下は、ここで出会いました。」
「……ここ??」
「ええ、王宮都市を囲む一番外側の外壁内部です。」
「……外壁。」
「俺はそこで、外壁警備隊魔術班に所属している一般兵でした。」
「魔術??」
「ふふっ。こう見えて俺、魔術師なんですよ??……あ、でも、殿下と初めて会った時は、まだ魔術兵でしたけど。」
俺と話しているうちに殿下は自分という存在がはっきりしてきたのか、椅子の上で姿勢を整え、辺りを見渡した。
「……知っている気がします。」
そしてしばらく周囲を観察した後、俺に目を戻した。
不思議そうに首をかしげ、俺を見ている。
「あなたの事も知っている気がします……。」
「ありがとうございます、殿下。」
俺が笑いかけると殿下もふわりと笑った。
あの日のように、黄金色のたんぽぽの花が咲いた。
「あの日、殿下はここに視察の練習をされに来たんです。」
「視察の練習??」
「ええ。殿下はお体が弱く、それまでお一人で視察をされたことがなかったのですが、今後は行っていきたいと言う殿下の強い要望があり、警備体制や殿下のお体の具合を確かめる為に、まずは内々でその模擬視察を行う事になったんです。」
「……それで……こちらに??」
「はい。いきなり決まったみたいで、俺たちも朝に知らされたもんだから、てんやわんやでしたよ。」
「ふふ、それは苦労を掛けましたね。」
俺が大袈裟にリアクションしながら話すと、殿下はおかしそうに笑った。
表情もだいぶ戻ってきている。
「でも、それは仕方のない事でした。」
「どうしてです?」
「……殿下には秘密がありました。それ故に、慎重にならざる負えなかったのです。」
「秘密……。」
俺にそう言われ、それまで明るかった表情が曇り、殿下は額を手で軽く押さえた。
俺は握っている方の手を大丈夫だと伝える為に強く掴んだ。
「……あなたは誰??」
「サークです。」
「サーク……。」
不安の混じった顔色が、何かを思い出したように驚いた。
でも完全に思い出した訳ではないようで、ただじっと、俺の顔を見つめていた。
「あの日、あなたはここに視察の練習に来られ、外壁の上を歩かれたんです。」
「外壁の上……。」
「目の前のあの壁の上です。」
「……あの上を?」
「はい。……そして、王宮政府が心配していた事が起こってしまいました。……殿下は襲撃を受けたのです。」
「!?」
俺の言葉に動揺したのか、もしくは自己意識がはっきりしてきたのか。
俺の作った青空は、まるで雨雲に覆われたように暗くなった。
俺の働きかけよりも、ライオネル殿下の意識の動きが場に強く影響し始めだ現れだった。
「……あ……っ。」
「大丈夫です。殿下。落ち着いて下さい。あの日も俺達は、キチンとあなたをお守りしました。」
「……でも……!!何か恐ろしい事が……っ!!」
グワッと空間が歪んだ。
だが俺は動揺せず、ただ、真っ直ぐにライオネル殿下を見つめた。
ライオネル殿下は額を押さえ、俯いて苦悩し始める。
場が不安定になり、俺の作り出した幻影は崩れ去り、嵐のような闇が吹き荒れる。
俺は黙って、殿下の手を握り続けた。
「……サーク?あなたはサークですか……?!」
「ええ、殿下。あなたの騎士です。」
「私の……私の騎士……。」
殿下の手が、ギュッと俺の手を握り返した。
俺はその手を両手で包む。
「俺、ずっと殿下に『私の騎士』って言われるのが変な感じがしてました。だって俺、貴族の生まれでもなければ、そもそも元は東の国の人間でしたから。騎士って言われてもピンと来なかったんですよね。」
そう、騎士と言われてもよくわからなかったのだ。
単なる称号であって、「班長」や「隊長」なんかみたいな、出世してついた役名ぐらいにしか思ってなかったのだ。
「でも……。ずっと警護部隊で働いてきてわかったんです。騎士は……爵位とは違う。役名とも違う。特別な位置づけにあるものだって。」
俺がゆっくりとそう話すと、ライオネル殿下は辛そうにしながらも顔を上げ、俺を見つめた。
吹き荒れていた闇の嵐も少しずつ落ち着いていく。
俺はしっかりとライオネル殿下の目を見つめた。
そしてその瞳の中に薄っすらと光が戻っている事を確信すると手を離した。
「サーク……??」
「お見せするのは、これが初めてですね。」
跪いたまま、俺はゆっくりと自分の服に手をかけた。
ここは精神世界で俺自身今は意識体だけれども、俺が俺だと認識するのは恐らく俺だから、多分この意識体の外見にもあると思ったのだ。
「!!」
不思議そうに俺を見ていたライオネル殿下が息を飲んだ。
俺がはだけさせた肩から胸元には、大きな傷跡が残っていた。
「サーク!!それは……っ!!」
「はい。あの時の傷です。ライオネル殿下。」
そう。
俺が見せたのはあの傷だ。
ライオネル殿下を狙ったアサシンの目の前に魔術で移動して刃が突き刺さった傷。
「……あ……。」
「これ、治らないんです。どうしても。」
「サーク……。」
「でもいいんです。これは俺の始まりの証であり、殿下をお守りした勲章ですから。」
青ざめたライオネル殿下に俺はそう言って晴れやかに笑った。
恐る恐るといった感じで殿下の手が伸びる。
俺はその手を取って傷に触れてもらった。
意識体同士なのに何となくその手は暖かかったし、触られてくすぐったかった。
「これ……あの時の……。」
「そうです。あの時の傷です。ライオネル殿下。」
泣きそうな顔で俺の傷に触れる殿下。
その顔は苦しげではあったが、自分が誰なのか、どういった経緯でついた傷なのかわかっている様だった。
「俺ね、あの時、一度死んだんです。」
「え?!」
「死んだと言うと大袈裟ですけど、確かにその一歩手前まで行ったんですよ。だからそこで色々、魂と体の行き違いが起きたんです。」
そう、そしてそれが始まりを生んだのだ。
死んだと言っている割ににこにこ話す俺を、ライオネル殿下は困惑したように見つめている。
「本当ならあのまま、俺は普通の人間として死ぬはずでした。でも、殿下が回復薬で助けて下さいました。」
「……ええ、そうです。そうでした……。」
「そこでね、俺の魂につけられていた封が外れちゃったんです。」
「封??」
「はい。俺の体と魂は短い間ですが自分が死んだと思ったんです。だから魂の一部に施されていた封がとれちゃったんです。で、回復薬により急速に肉体と生命力が回復された事で、その外れちゃった状態で魂が復活しちゃって。」
「え?どういう事ですか??魂に封って何ですか??」
「あ!そうか!殿下にはまだきちんとお話してませんでしたね!俺、何かちゃんとした人間じゃないらしいんですよ!」
「えええぇぇっ?!」
殿下はびっくりして目を丸くした。
ちょっと面白くて俺も笑ってしまった。
「え?!ちゃんとした人間じゃない?!」
「はい。俺、血の魔術が使えるじゃないですか?アレもそのせいみたいです。」
「え?なら、サークは何者なんですか?!」
「それはまだわかりません。物凄く強い力の精霊と人の間に生まれたモノみたいなんですけど、何との間に生まれたのかとかもまだ良くわからなくて。そもそも俺自身、その事を知ったのは本当ごく最近ですし。」
「……そう、だったんですね……。」
「はい。それで孤児だった俺は東の国の神仕えである義父に引き取られたんですけど、その際、義父は俺が人の子じゃないとすぐに気づいて、人として生きていけるように色々な封を施してくれていたんです。その最たるものが魂につけられていた封なんですけど、それがあの時、外れてしまったんですよ。」
平然と話す俺の言葉に、ライオネル殿下は呆然としていた。
まぁ、そりゃそうだよなぁ。
俺自身、あんまりピンとくる話ではない。
「で、外れた状態で魂が復活したもんだから、体の方は混乱して。それでどうも初期化されたらしいんです。」
「……初期化?!」
「はい。この状態がノーマル状態だって認識しちゃったって言えば良いんですかね??この傷がある状態が正常な状態だと認識しているので、傷のない状態に治そうとしてもこれが普通って認識しちゃってるから、直し様がないというか……。」
ライオネル殿下はぽかんとしている。
だが、ボーンさんから言われた事を考えるとこういう事なのだ。
俺の体はこの状態を正常だと思っているから、この傷を治す事はできない。
「そんな……。」
「あ、心配しないで下さい。見てくれがこんな感じで跡が残っているだけで、殿下がすぐに回復薬を使って下さったので筋肉や筋や神経はどこも後遺症なく元通りなんです。ただ、外皮膚だけがこの跡の残っている状態を生まれた時からの正常な状態だと認識されちゃってるみたいで。」
「………………。」
殿下は難しい顔をして俺の傷を指で確かめた。
俺はその手を上から握った。
「……これは俺が俺である証です。そして俺があなたの騎士である証明なんです。」
「サーク……。」
「俺はあの時一度死んで、新しく生まれました。そして今に繋がるんです。新しくすべてが始まった証がこれなのです。ライオネル殿下。」
俺はじっと、ライオネル殿下を見つめた。
ライオネル殿下も俺を見ていた。
「私はあなたの騎士です。それが俺の答えです。」
爵位とも役職とも違う「騎士」と言う称号。
それは称号である事よりも、恐らく心のあり方なのだ。
ギルがライオネル殿下に生涯を捧げている事。
ガスパーが俺に明かす事なく誓いを立てた事。
そういった心のあり方を言葉に表現しようとしてできたのが「騎士」なのだと思う。
俺は殿下の想いに応える事はできない。
でも、俺は殿下の騎士なのだ。
それが始まり。
跪き、俺は殿下を見つめた。
俺の胸に当てられた殿下の手は、あの日の誓いの剣のように俺に向けられていた。
そしてゆっくりと椅子に近づく。
そこには、消えそうな陽炎の様に透き通ったライオネル殿下が腰掛け、目を閉じていた。
半透明よりも淡いその存在があまりに不確かで、眠っていると表現していいのかすら俺には判断がつかない。
「……でも、姿を見せてくれたんですね……。」
どうやってこの何もない空間の中で殿下を探せば良いだろうかと思っていたが、俺が状況を整えると殿下はちゃんとそこに現れてくれた。
もしかしたらどう姿を集めれば良いかすらわからなくなっていた所に、俺が「ここ」と言う場所を作った事で自己が集まる事ができたのかもしれない。
「……ごめんなさい……。」
その姿をじっと見つめる。
こんなになるまで、この人を追い詰めてしまったのかと思う。
そう思うといたたまれなくなる。
いやいや、駄目だ。
そんなネガティブな感情ではライオネル殿下の助けにはならない。
俺はその場に跪いた。
「……あの日の事を覚えていますか?ライオネル殿下……。」
俺はゆっくり、話し始めた。
「あの日はとても天気が良かった。俺は徹夜明けでそれが鬱陶しくて仕方なかった。」
そう言ってちょっと自嘲気味に笑った。
今思うと結構、荒んだ生活をしていたと思う。
気持ちの良い快晴を疎ましく感じる程に。
「性欲研究の実験の後で、眠いし生々しいモノを観察し続けた後だったし、早くデータをまとめたかったし、適当にあの日も仕事を終えて早く帰りたかったんですよねぇ~。」
リグの無節操さに呆れていたが、俺も方向性は違えどたいして変わらなかったよなぁと思う。
よく、あんなやさぐれた若い部下二人をコントロールしてたよなぁ、班長。
そりゃ、げんこつに頼らざる負えないよな。
そう思うと笑えた。
生々しいほど泥臭く、人間臭い生活だった。
個人個人、欲望を隠しもしないでそれに実直に生きていた。
動物的で下等だと言われそうだが、だからこそ色濃く原始的な生命の躍動の中にいた気がする。
俺はそれを否定したりはしない。
その中だからこそ得るものがあった。
その中だからこそ、俺はやり直せたのだ。
あの外壁警備隊の泥臭い日々が、俺を人として生きる事に繋ぎ止めてくれた。
「懐かしいなぁ……俺はあの頃、生きる事とかどうでもよくて、結構やさぐれてたから感じ悪かったですよね??」
全てを諦めていた中で、人として一番根源に近い欲望と生きる事の汚さと原始的な欲求という命本来の姿を間近で感じながら生活した事で、俺はかえって生きる事の崇高さを知ったのだ。
上辺だけ綺麗に繕った世界では、きっと俺は生きられなかった。
腹が立てば殴り合い、酒を浴びるように飲んで騒ぎ立て、欲求に従って性交を交わし、面白ければ笑い、頭に来れば怒る。
とても単純な事だけれども、それこそが何も隠す事のない命本来の生々しさだった。
根源的な生命の泥臭い輝き。
あぁ、そうか……。
俺が性欲研究をしていたのって、自分に欠けていたその泥臭さを欲していたからなんだ。
皆と同じ様に、生命本来の泥臭さを手に入れたかったんだ。
……俺、生きたかったんだ。
その頃の自分を今更理解する。
東の国を逃げ出して、俺は自分なんかどうでもいいと思ってた。
死ぬ程の活力もなくて、ただどうでも良かった。
人に対する嫌悪感が酷く、誰とも関わりたくなかった。
自分にすら興味がなく、生きている事が面倒で仕方がなかった。
そんな俺だったから、あの生々しいまでに生きる根元に近い外壁警備隊の環境が必要だったのだろう。
そしてそこで生きる事の意味を取り込んだ俺は、次のステージに進んだ。
「……そのはじまりが、あなただったんです。」
俺は空を見た。
俺の想像が生み出した空だけれども、あの日のように高く澄んでいて。
「俺、初めて殿下を見た時、掃き溜めに鶴と言うか、汚い空き地に金色のたんぽぽが咲いたと思ったんです。」
蒼く澄んだ空に映える、黄金の花。
風に柔らかくはんなりと揺れ、頼り無さそうに見えた。
世間知らずの王子様がこんな小汚いところに何しに来たんだろうと、何もわからないからにこにこしちゃって可哀想な人だなあと少し小馬鹿にしていた。
あなたはあなたでたくさんの事情の上にやっと訪れる事ができた初めての自由だったのに、何も知らない俺は王族のエゴを満たす為にこんな大事になってエライ迷惑だと思っていた。
「あの頃はお互い、何も知らなかったですよね……。」
抱えている事情も、どんな事を考えているのかも、お互いの性格も。
俺達は何も知らなかった。
自分勝手に相手を見て、勝手な事を思っていた。
だって、本当ならその日だけで……一時のすれ違いで、二度と会わないはずだったのだから。
袖触れあうのも多少の縁とはいえ、一国の王子と平民の警備隊員。
言葉を交わす事すらなく終わるはずだったのだ。
「俺にとっては、あれが今へと続くすべての始まりでした……。」
そう、あの日が来なければ、俺はのんべんだらりと外壁警備をして、リグと班長と変わらない日々をすごし、適当に一生を終えるはずだったのだ。
あの日が来なければ、初めての恋に浮かれポンチになる事もなく、騎士になって殿下の警護部隊に入る事もなかった。
今、当然のように一緒にいる仲間と出会う事もなかったし、ウィルにもシルクにも出会わなかった。
ウィルを探しに旅立って冒険者になる事も、魔術本部の皆と出会う事も、憧れの研究者であるノルと話す事も、ヴィオールやリアナとラニに出会う事も、蟠りを捨てて東の国に帰る事もなかった。
「全部、あなたがくれたんです……。殿下……。」
今ある俺の全て。
その始まりを作り、無理矢理その場所へと引き上げてくれた人。
いい迷惑だと当時は思っていたけれど、ライオネル殿下がいたからこそ、俺の今は始まったのだ。
俺は姿勢を正し、殿下の前に跪いた。
そしてその頭を垂れる。
「殿下……ライオネル殿下。どうかもう一度誓わせて下さい。」
別宮勤務の初日。
俺は何がなんだかわからないまま、その儀式を受けた。
あなたの前に跪き、その剣を肩に受けて誓った。
「我、アズマ・サークは、中央王国第三王子、ライオネル・ミスル・サバール・クインサー殿下の名の元に、その剣、その盾となることを誓います。」
ずっと俺は殿下の気持ちに答えを示さなかった。
殿下にはっきり言われていないからとか、俺はもう婚約してるんだからとか、一国の王子と平民出の騎士なのだからどのみちどうにもならないとか、何だかんだ理由をつけて逃げていた。
だって、俺もどう応えていいのかわからなかったんだ。
殿下の事を恋愛的に愛してはいない。
俺が愛しているのはウィルだったから。
どんなに想いを寄せられても応えようがなかった。
でも。
俺と殿下の答えは、本当はとっくの昔に出ていたんだ。
「今一度、騎士の誓いを捧げます。我が君主。」
俺は恋愛的な意味で殿下に応える事はできない。
だが、騎士として応える事はできる。
これが、俺のあなたに対する答えです。
そう思った。
ふと、何かが髪に触れた。
驚いて顔を上げると、淡く輝いたライオネル殿下の指が頭に触れていた。
先程までよりもその存在ははっきりしていたが、不思議そうに俺を見ている。
「殿下!」
「……あなたは誰?」
殿下の意識はだいぶ固まってきたようだが、まだ自己を忘れているようだった。
俺は少し落胆しながらも、慌てる事なく微笑んだ。
「あなたの騎士です。ライオネル殿下。」
「……私の騎士?」
「ええ、殿下は俺の事をよくそう仰っていました。『私の騎士』と……。」
「…………………。」
殿下はまだ、夢うつつの中にいるようで、ぼんやりと俺を見ている。
伸ばされている手を俺は軽く握った。
「俺と殿下は、ここで出会いました。」
「……ここ??」
「ええ、王宮都市を囲む一番外側の外壁内部です。」
「……外壁。」
「俺はそこで、外壁警備隊魔術班に所属している一般兵でした。」
「魔術??」
「ふふっ。こう見えて俺、魔術師なんですよ??……あ、でも、殿下と初めて会った時は、まだ魔術兵でしたけど。」
俺と話しているうちに殿下は自分という存在がはっきりしてきたのか、椅子の上で姿勢を整え、辺りを見渡した。
「……知っている気がします。」
そしてしばらく周囲を観察した後、俺に目を戻した。
不思議そうに首をかしげ、俺を見ている。
「あなたの事も知っている気がします……。」
「ありがとうございます、殿下。」
俺が笑いかけると殿下もふわりと笑った。
あの日のように、黄金色のたんぽぽの花が咲いた。
「あの日、殿下はここに視察の練習をされに来たんです。」
「視察の練習??」
「ええ。殿下はお体が弱く、それまでお一人で視察をされたことがなかったのですが、今後は行っていきたいと言う殿下の強い要望があり、警備体制や殿下のお体の具合を確かめる為に、まずは内々でその模擬視察を行う事になったんです。」
「……それで……こちらに??」
「はい。いきなり決まったみたいで、俺たちも朝に知らされたもんだから、てんやわんやでしたよ。」
「ふふ、それは苦労を掛けましたね。」
俺が大袈裟にリアクションしながら話すと、殿下はおかしそうに笑った。
表情もだいぶ戻ってきている。
「でも、それは仕方のない事でした。」
「どうしてです?」
「……殿下には秘密がありました。それ故に、慎重にならざる負えなかったのです。」
「秘密……。」
俺にそう言われ、それまで明るかった表情が曇り、殿下は額を手で軽く押さえた。
俺は握っている方の手を大丈夫だと伝える為に強く掴んだ。
「……あなたは誰??」
「サークです。」
「サーク……。」
不安の混じった顔色が、何かを思い出したように驚いた。
でも完全に思い出した訳ではないようで、ただじっと、俺の顔を見つめていた。
「あの日、あなたはここに視察の練習に来られ、外壁の上を歩かれたんです。」
「外壁の上……。」
「目の前のあの壁の上です。」
「……あの上を?」
「はい。……そして、王宮政府が心配していた事が起こってしまいました。……殿下は襲撃を受けたのです。」
「!?」
俺の言葉に動揺したのか、もしくは自己意識がはっきりしてきたのか。
俺の作った青空は、まるで雨雲に覆われたように暗くなった。
俺の働きかけよりも、ライオネル殿下の意識の動きが場に強く影響し始めだ現れだった。
「……あ……っ。」
「大丈夫です。殿下。落ち着いて下さい。あの日も俺達は、キチンとあなたをお守りしました。」
「……でも……!!何か恐ろしい事が……っ!!」
グワッと空間が歪んだ。
だが俺は動揺せず、ただ、真っ直ぐにライオネル殿下を見つめた。
ライオネル殿下は額を押さえ、俯いて苦悩し始める。
場が不安定になり、俺の作り出した幻影は崩れ去り、嵐のような闇が吹き荒れる。
俺は黙って、殿下の手を握り続けた。
「……サーク?あなたはサークですか……?!」
「ええ、殿下。あなたの騎士です。」
「私の……私の騎士……。」
殿下の手が、ギュッと俺の手を握り返した。
俺はその手を両手で包む。
「俺、ずっと殿下に『私の騎士』って言われるのが変な感じがしてました。だって俺、貴族の生まれでもなければ、そもそも元は東の国の人間でしたから。騎士って言われてもピンと来なかったんですよね。」
そう、騎士と言われてもよくわからなかったのだ。
単なる称号であって、「班長」や「隊長」なんかみたいな、出世してついた役名ぐらいにしか思ってなかったのだ。
「でも……。ずっと警護部隊で働いてきてわかったんです。騎士は……爵位とは違う。役名とも違う。特別な位置づけにあるものだって。」
俺がゆっくりとそう話すと、ライオネル殿下は辛そうにしながらも顔を上げ、俺を見つめた。
吹き荒れていた闇の嵐も少しずつ落ち着いていく。
俺はしっかりとライオネル殿下の目を見つめた。
そしてその瞳の中に薄っすらと光が戻っている事を確信すると手を離した。
「サーク……??」
「お見せするのは、これが初めてですね。」
跪いたまま、俺はゆっくりと自分の服に手をかけた。
ここは精神世界で俺自身今は意識体だけれども、俺が俺だと認識するのは恐らく俺だから、多分この意識体の外見にもあると思ったのだ。
「!!」
不思議そうに俺を見ていたライオネル殿下が息を飲んだ。
俺がはだけさせた肩から胸元には、大きな傷跡が残っていた。
「サーク!!それは……っ!!」
「はい。あの時の傷です。ライオネル殿下。」
そう。
俺が見せたのはあの傷だ。
ライオネル殿下を狙ったアサシンの目の前に魔術で移動して刃が突き刺さった傷。
「……あ……。」
「これ、治らないんです。どうしても。」
「サーク……。」
「でもいいんです。これは俺の始まりの証であり、殿下をお守りした勲章ですから。」
青ざめたライオネル殿下に俺はそう言って晴れやかに笑った。
恐る恐るといった感じで殿下の手が伸びる。
俺はその手を取って傷に触れてもらった。
意識体同士なのに何となくその手は暖かかったし、触られてくすぐったかった。
「これ……あの時の……。」
「そうです。あの時の傷です。ライオネル殿下。」
泣きそうな顔で俺の傷に触れる殿下。
その顔は苦しげではあったが、自分が誰なのか、どういった経緯でついた傷なのかわかっている様だった。
「俺ね、あの時、一度死んだんです。」
「え?!」
「死んだと言うと大袈裟ですけど、確かにその一歩手前まで行ったんですよ。だからそこで色々、魂と体の行き違いが起きたんです。」
そう、そしてそれが始まりを生んだのだ。
死んだと言っている割ににこにこ話す俺を、ライオネル殿下は困惑したように見つめている。
「本当ならあのまま、俺は普通の人間として死ぬはずでした。でも、殿下が回復薬で助けて下さいました。」
「……ええ、そうです。そうでした……。」
「そこでね、俺の魂につけられていた封が外れちゃったんです。」
「封??」
「はい。俺の体と魂は短い間ですが自分が死んだと思ったんです。だから魂の一部に施されていた封がとれちゃったんです。で、回復薬により急速に肉体と生命力が回復された事で、その外れちゃった状態で魂が復活しちゃって。」
「え?どういう事ですか??魂に封って何ですか??」
「あ!そうか!殿下にはまだきちんとお話してませんでしたね!俺、何かちゃんとした人間じゃないらしいんですよ!」
「えええぇぇっ?!」
殿下はびっくりして目を丸くした。
ちょっと面白くて俺も笑ってしまった。
「え?!ちゃんとした人間じゃない?!」
「はい。俺、血の魔術が使えるじゃないですか?アレもそのせいみたいです。」
「え?なら、サークは何者なんですか?!」
「それはまだわかりません。物凄く強い力の精霊と人の間に生まれたモノみたいなんですけど、何との間に生まれたのかとかもまだ良くわからなくて。そもそも俺自身、その事を知ったのは本当ごく最近ですし。」
「……そう、だったんですね……。」
「はい。それで孤児だった俺は東の国の神仕えである義父に引き取られたんですけど、その際、義父は俺が人の子じゃないとすぐに気づいて、人として生きていけるように色々な封を施してくれていたんです。その最たるものが魂につけられていた封なんですけど、それがあの時、外れてしまったんですよ。」
平然と話す俺の言葉に、ライオネル殿下は呆然としていた。
まぁ、そりゃそうだよなぁ。
俺自身、あんまりピンとくる話ではない。
「で、外れた状態で魂が復活したもんだから、体の方は混乱して。それでどうも初期化されたらしいんです。」
「……初期化?!」
「はい。この状態がノーマル状態だって認識しちゃったって言えば良いんですかね??この傷がある状態が正常な状態だと認識しているので、傷のない状態に治そうとしてもこれが普通って認識しちゃってるから、直し様がないというか……。」
ライオネル殿下はぽかんとしている。
だが、ボーンさんから言われた事を考えるとこういう事なのだ。
俺の体はこの状態を正常だと思っているから、この傷を治す事はできない。
「そんな……。」
「あ、心配しないで下さい。見てくれがこんな感じで跡が残っているだけで、殿下がすぐに回復薬を使って下さったので筋肉や筋や神経はどこも後遺症なく元通りなんです。ただ、外皮膚だけがこの跡の残っている状態を生まれた時からの正常な状態だと認識されちゃってるみたいで。」
「………………。」
殿下は難しい顔をして俺の傷を指で確かめた。
俺はその手を上から握った。
「……これは俺が俺である証です。そして俺があなたの騎士である証明なんです。」
「サーク……。」
「俺はあの時一度死んで、新しく生まれました。そして今に繋がるんです。新しくすべてが始まった証がこれなのです。ライオネル殿下。」
俺はじっと、ライオネル殿下を見つめた。
ライオネル殿下も俺を見ていた。
「私はあなたの騎士です。それが俺の答えです。」
爵位とも役職とも違う「騎士」と言う称号。
それは称号である事よりも、恐らく心のあり方なのだ。
ギルがライオネル殿下に生涯を捧げている事。
ガスパーが俺に明かす事なく誓いを立てた事。
そういった心のあり方を言葉に表現しようとしてできたのが「騎士」なのだと思う。
俺は殿下の想いに応える事はできない。
でも、俺は殿下の騎士なのだ。
それが始まり。
跪き、俺は殿下を見つめた。
俺の胸に当てられた殿下の手は、あの日の誓いの剣のように俺に向けられていた。
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