欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

小さな助っ人

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その時、ドーンと言う様な衝撃波が空間に走った。
サークはハッとして意識を引き締めた。

「ラニっ!!」

『~~~っ!!大丈夫!!持ち堪えてる!!』

ライオネルが自己意識を取り戻し、表層に戻った事に海神が気づいたのだろう。
ラニの姿は見えないが、張り詰めた気配で状況が切迫している事が手に取るようにわかった。

「平気か?!」

『……うん!』

「義父さんは?!」

『ちょっと弾き飛ばされてたけど無事だよ!』

その後も地震のように空間が軋む。
ここが精神空間だというのに、だ。

良くない状況だ。
サークは奥歯を噛み締めた。
海神をライオネルの中に戻すにしろ、落ち着いた状態で、これ以上殿下の精神に影響を与えないように説得してからでなくてはならない。
暴れて力尽くで戻ろうとしているという事は、まだ説得に応じていないという事だ。
ライオネル殿下もそれを理解しているのだろう、硬い表情で黙り込む。

『僕!行くね!!おじさんが何とか海様をそこに留めてるけどこのままじゃ仮想精神空間が持たない!!王子様とお兄ちゃんはここにいて!!』

その言葉を最後に、ラニの気配がなくなった。
繋げた全ての空間を維持する為に、主線を切り替えて集中しているのだろう。
その場にいないからわからないが、おそらく義父さんも何らかの手段を用いて海神を留め鎮めようとしてくれているはずだ。

どうする?!
サークは考えた。

ここは殿下の精神部だろう。
肉体との絆を取り戻させる為にラニが引き上げた事から考えて、深部ではなく表層意識に近い場所の筈だ。
本来ならここにサークがいる事もおかしな事なのだが、ライオネルには「器」の素質がある。
それも海神を納めて置けたほどの素質だ。
だから敵意もないサークの意識体を入れておくぐらい、どうってことないのだろう。

だが問題はなくともここにいても何もできない。
少なくともラニの負担をできる限り減らすには、ウニの待つあの小部屋に戻らなくてはならない。
意識した事で手の中にあの欠片が戻った。
それを握りしめる。

「サーク。」

思考を巡らせていたサークに、ライオネルが声をかける。
サークはハッとして騎士を誓った主を見つめた。

「何でしょう?殿下?」

「私について来てくれますね?」

「……え?!」

そう言ったライオネルの顔には揺るぎない覚悟があった。
いつものぽわんとした雰囲気は影を潜め、一歩も引かない強さがそこにあった。
そんなライオネルにサークは動揺した後、仕方なさそうに大きくため息をついた。

もうわかっている。

この人がこの顔をしたら、たとえどんな手を使ってでもやり遂げる。
だったらジタバタしても仕方ないだろう。
ライオネルが何をしようとしているかはわからなかったが、サークは腹を括るしかない。

「……望むままに、我が君。私は貴方の剣であり盾ですから。」

「いい答えです。私の騎士。」

ライオネルはサークの答えに満足して、にっこりと笑った。
たとえこれが自分だけの騎士としての最後の仕事だとしても構わなかった。

最後にふさわしい仕事になる。
そう思った。

ライオネルは少しだけ瞳を伏せ、そして顔を上げた。
この戦いを終わらせなければならない。

サークの主として、自分は今、ここに立っているのだから。


「……私を海神の元に!!」

「えっ?!流石にそれは!!」

「ここまで来たのです。私にだって言いたい事があります!!」


意思の強い表情でライオネルが告げた言葉に、サークはギョッとする。

ライオネルの精神はまだ回復しきれていない。
だからできる限り海神との接触を避けておきたい。
だいいち、やっと海神を引き離してライオネル自身の精神を回復させたのだ。
できるならここで全てが終わるまでおとなしくしていてもらいたいのが本音だ。

「殿下は自己意識を取り戻されたばかりです。肉体と精神もつなぎ直したばかりですし……。おそらく今、外からその治療中です。あまりこの場を殿下が離れられるというのはお勧めできません。その前も長きに渡り海神をその身に宿していたせいで、精神体が疲弊しています。なのでここでおとなしく待っていて頂けると~。」

「……サーク?」

「はい……。」

「命令です。私を海神の元に連れて行きなさい。」

「はい……。」

駄目だ、この状態に入った殿下には何を言っても無駄だ。
サークはとほほと涙目になった。

とはいえ、海神の元に行くと言ってもどうやって行けばいいのだろう?
全てはラニが作った「道」で繋がっているとはいえ、精神魔術師でもないサークにはその道というのがどういうものなのか、どうやってそこを通るのか全く検討がつかない。

手の中の欠片を見つめる。
これは世界無意識の中でサークが迷った時の為にウニがくれたモノだ。
そしてこれはおそらくフーボーさんの欠片なのだ。
だからそう簡単には使いたくはない。
余程の危機的状況にならない限りは、使うべきではないものだ。
だが精神世界に疎いサークが安全で確実に元の場所に戻るなら、この欠片を用いるのが一番確実で早い。

どうする?!
迷っているほどの時間はないぞ?!

ドーンとまた空間が揺れた。
ライオネルが顔を顰める。
ずっと自分の中にいたもう一つの精神体だ。
その考えは誰よりよくわかっているのだろう。

「サーク!!」

「ぴぃ。」

「え?!」

「?!?!」

ライオネルの呼びかけに答えようとしたサークの口から、おかしな音が漏れた。

慌てて口を押さえ、サークは目を白黒させる。
緊迫した場にふさわしくないその音にライオネルの顔も思わず緩む。

「ふふっ。何ですか?サーク??そのぴぃって言うのは??」

「いや!!これは俺ではなく……っ!!」

そう、これはサークの意思で出たものではない。
そして考えた。

「……ピア?!」

『ぴぃっ!!』

頭の中で返事が返る。
それは頭の中、つまりサークの精神体の中にピアがいると言う事だ。

「どういう事だ?!」

突然、頭の中にピアがいた。
集中してみると、たしかに自分の中にピアがいる。
喉元に猫の鈴でもつけるように、光る欠片をくっつけてサークの頭の中にいた。
欠片の放つ光がピアを守っているようだった。

「ピア?!何で俺の中に?!」

『お兄ちゃんピアに言った!!だから迎えに来た!!』

よくわからないが状況を判断たウニが、ピアをサークの中に送り込んできたようだ。
そうか、とサークは気づく。

ピアは元々サークの夢に同行する形で図書館に入ったのだ。
つまり、サークの夢の中と通じている。

だからといって精霊として未熟なピアがサークの精神体の中に入り込むのは危険な事だっただろう。
それを補う為にウニは欠片を使った。

ピアがつけているくらいなのでサークが渡されたモノよりはとても小さいが、それでも欠片を使ってウニはサークを迎えに来たのだ。

「……ウニ……。」

ウニはこの件を必ず成し遂げなければならないと覚悟を決めているようだ。
それがフーボーとの約束なのだろう。
ウニと彼が存在の形を変えてまで成し遂げようとした事なのだから。

なら、俺も覚悟を決めないとな……。

サークはそう思い、エイッとばかりに自分の頭の中に手を突っ込んだ。
それを見たライオネルがぎょっとした顔をする。

う~!!
これは夢!夢の中だから!!

自分でやっておきながら、サークは気持ち悪くて目眩を起こしそうだった。
しかしこうなったらやるしかない。

頭の中を手で弄り、ズボッと取り出す。
その手には小さな黒猫のぬいぐるみが握られていた。

「サーク?!」

「は、ははは……。」

「ぴぃ!!」

「は~、二度とこれはやりたくない……。」

手の上のピアを見つめ、サークは大きくため息をついた。
サークの手の上で、やっとこちら側に出てこれたピアは誇らしげに胸を張っている。

「サーク、その……猫?のぬいぐるみ?は??」

「あ~、説明するのが難しいので色々割愛しますが~。ピアです。精霊です。」

「……精霊。」

「今回、仮想精神空間を作るのに協力してもらう為に、俺の夢の中に連れてきていたんです。」

「ぴぃ!!」

「ピア、ウニのいる場所までここから帰れるか?!」

「ピア、できる!ピアの元の体、通る!!」

「……なるほど、そういう事か……!!」

サークはピアの返答から、ウニがどうしようとしていたのか理解した。

いくらサークの夢の中にいたからと言って、サークの中を通じてピアをここに寄こしても、どうやって帰れば良いのかわからなかった。
ピアは精霊とはいえ生まれたばかりだし、ウニの様に精神世界の知識がある訳じゃない。

だからピアが来てもどうするのかと思ったが、緊急避難所として全てと繋がっている人形は、元はといえばピアの体だったものなのだ。
だからその繋がりは簡単には消えない。

それを利用しようというのだ。

ピアは人形との絆が深く、そこへ続く道を誰よりも認識できる。
避難場所である人形は、何かあった際どこからでも逃げ込めるよう、全員と直接触れ合う形で繋がっている。

つまり人形まで行ければサークは自分自身の夢の中、ウニのいる場所まで戻る事が可能なのだ。

「……よし!ピア!!案内を頼む!!」

「ぴぃっ!!」

ライオネルをどういった形で海神と対面させるかは決めかねるが、とにかく人形まで行く事が先決だ。
人形まで入り込めれば、ラニの負担もかなり減らせるはずだ。

「殿下、海神の元には必ずお連れします。しかし今はひとまず私の指示に従って頂けますか?」

「もちろんです、サーク。ピア、よろしく頼むよ?」

「ぴぃっ!!」

ピアは誇らしげにそうひと鳴きすると、ぴょんっとサークの手を飛び出して、ぴよぴよ駆け出した。
サークとライオネルは顔を見合わせ頷くと、その後を小走りに追いかけたのだった。
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