106 / 137
第九章「海神編」
生粋の愛と涙
しおりを挟む
ウィルは朦朧とするサーニャを背負うように抱き、門の間を出ようとした。
とても口惜しく、歯痒く、己の無力さに腹が立った。
しかし感覚が鍛えられた事で、ウィルには痛いほどわかってしまったのだ。
ボーンの判断に従うしかないのだと。
あれをこちら側に出してはいけない。
陰と陽、光と闇。
それは相反するものであり、同時に表裏一体。
お互いがあるからお互いが存在する側面を持ちながらも、決して交わってはならない。
もしも交わる事が起きれば混沌が訪れる。
その最大のものがナグラロクだ。
混沌は全ての常識、理論が覆る。
だから一度生まれてしまえば、その規模を測る方法もないのだ。
小規模で終わるか、ナグラロクを起こすか、誰にもわからない。
太古の昔、地竜が原動力となってこの門を封じたのはその為だ。
それを避ける為、冥界とこの世をつなぐ巨大な入り口を塞いだのだ。
なのに今、その結界を破り、冥界の魔物が出てこようとしている。
いつもダンジョンに現れる小さなものではない。
混沌を生むほどの魔物が出てこようとしているのだ。
それは地竜の力が完全な状態の結界を破ってくるようなもの。
いくらボーンが世界を代表するビショップの一人とはいえ、長くは持たない。
かの大魔法師が止めている間に、ここを完全に封印してしまわなければならないのだ。
悔しかった。
やっと自分の力を出せるようになってきたと言うのに、結局ここでも何もできない。
何が夜の宝石だ!!
肝心な時に、いつだってお前は役立たずじゃないかっ!!
だが自分の力のなさも、感覚が鍛えられた事で理解していた。
夜の宝石の力が出せない以上、今の自分はボーンの足手まといにしかならない。
それならせめて、彼の大切なものを安全な場所に導き、そしてここを封印しなければならない。
噛み締めた唇から血が滲む。
ウィルはキッと前を睨んだ。
今は今の自分の役割に集中しろ!
自分を憎むのも嘆くのも、そして憎まれるのも後だ!!
ここで先生の覚悟を踏みにじる訳には行かないんだ!!
きっと自分は生涯、この日の事を悔いるだろう。
それは背負わなければならない罪咎だ。
ウィルはその覚悟を決め、出口に向かって走った。
「……なっ?!」
しかし通路を覗いたウィルの足は止まった。
先程サーニャと戦闘に用いた細い通路の向こう。
そこに迷宮遺跡内の魔物達が集まってきていたのだ。
「クソ……ッ!!」
ウィルは急いでサーニャを下ろすと、通路を抜けてこようとする魔物の行く手を塞いだ。
しかしトート遺跡の魔物は死霊系のモノが多い。
物理攻撃の効かない魔物が、ウィルの槍を嘲笑いながらすり抜け中へと侵入していく。
「そんなっ!!先生!ボーン先生!!迷宮の魔物が……っ!!」
「なんだとっ?!」
ウィルはすぐに声を上げてボーンに知らせた。
しかし地獄の門から出ようとしてきている大物の魔物を防ぐ事で手一杯だったボーンはそれに対処できなかった。
「……グハ……ッ!!」
死霊達の攻撃をまともに食らい、ボーンの体はぐらりと揺れた。
集中の途切れたその一瞬をつき、地獄の門の結界から巨大な獣の足が勢いよく伸び、小さなドワーフを吹き飛ばした。
「先生っ!!」
ウィルは叫んだ。
しかし後から後からやってくる魔物達の相手で、その場を離れる事もできない。
吹き飛ばされたボーンの体が、硬い遺跡の石畳の上を跳ねるのを見ていることしかできなかった。
「ギギャアァァァァっ!!」
「オオォォォーっ!!」
ボーンの力が途切れた事で、魔物は結界を打ち破って出てこようとしていた。
四肢のいくつかはすでにこちら側に出てきている。
それを完全体の大きさになったヴィオールが迎え撃っていた。
だが、竜とはいえヴィオールは飛竜だ。
飛ばない闘い方は本来のスタイルではない。
今は結界を破られていないのでそれでも対応できているが、完全にそれがこちらに出てきてしまったら、飛び回る事のできないヴィオールは不利になる。
絶体絶命の状況だった。
ウィルは集まってきた迷宮遺跡内の魔物が地獄の門の間に入るのを防ぐ事で手一杯。
ヴィオールは出てこようとする魔物との攻防を繰り広げ、ボーンは気を失っている。
サーニャはそれをぼんやりと見ていた。
死霊の攻撃を受け、さらに出てこようとする魔物から攻撃され、ボーンがゴムまりのように床に叩きつけられ弾むのを、ぼんやりと見ていた。
あれ……私、何してるんだっけ……??
先生……攻撃されてる……。
床に叩きつけられる……。
……………………。
床に叩きつけられる?!
先生が?!
嘘でしょ?!
サーニャはハッと意識を取り戻し、目を瞬かせた。
しかしそれは夢でも幻でもなかった。
目の前には、床に叩きつけられてピクリとも動かないボーンが見える。
さぁ……っと血の気が引いた。
「先生!!先生っ!!」
サーニャは無我夢中で叫びながら、ボーンに飛びついた。
周りで死霊達がウロウロしていたので、サーニャは戦闘の為に魔獣化し、魔力をまとった爪で引き裂いてやった。
「先生!!先生っ!!」
うるさい死霊達を片付け、ボーンにすがりつく。
その他の事は一切、目に入らなかった。
なのにいくら呼びかけても、体を揺すってもボーンは目を覚まさない。
「……ヒッ!!」
魔物に殴られた時負傷したのだろう。
床に横たわったボーンの体からは、じわじわと血が流れ出し、水たまりのようにボーンを包んでいた。
手についた血を見て、サーニャはわなわなと震え上がる。
先生…先生…先生……。
あぁ…先生の体から血が出ている…。
こんなにもたくさん、血が出ている……。
先生…先生…先生…先生……。
きっと、先生より私達の方が先に死んでしまうから……。
そうしたらまた先生は独りぼっちになっちゃうかもしれないから……。
どうしたら先生を寂しがらせないでいられるだろう……。
そう思っていたのに……。
先生…先生…先生…先生…先生………。
「先生……先生……嘘ですよね……?目を開けて……目を開けて下さいよ!!先生っ!!いつもみたいに叱ってくださいよ!!先生……っ!!」
周りなど何も見えなかった。
地獄の門から世界を破滅させるかもしれない魔物が出てこようとしている事など、サーニャにはどうでも良かった。
サーニャにとって何よりも重大な事は、目の前でボーンが血を流し、目覚めない事だった。
「先生っ!!目を開けて!!うるさいぞ馬鹿って!いつもみたいに怒ってくださいよ……っ!!」
サーニャはボーンの手を握った。
目の前で起きている事が信じられなかった。
受け入れられなかった。
頭の中に、それまでの日々が走馬燈のようにかけ巡る。
弟の子守をしていたら、突然、見も知らない場所に出てきてしまった。
恐ろしくて、怖くて、不安で……。
そんな時にボーンに出会った。
顔はおじいさんみたいなのに、幼いサーニャよりは大きくて、でも大人よりずっと小さくて。
ムスッとした顔でサーニャを見てきたので、怖くて大泣きしてしまった。
それを困ったようにしながら、ぶっきらぼうに抱きしめてくれた。
大丈夫だと言ってくれた。
もう大丈夫だと。
それからの日々。
慣れない手つきで弟の世話を一緒に見てくれた。
美味しいご飯を毎日食べさせてくれた。
いつもぶっきらぼうで口が悪く怒ってばかりだけれど、本当に優しかった。
サーニャはその手に頬ずりした。
かけがえのない人なのだ。
自分とアレックのかけがえのない人なのだ。
「お願い……起きてよ……お父さん……っ。」
サーニャの目から、はらはらと涙が溢れて流れ落ちた。
ウィルはそれを見ていた。
ボーンを想い、サーニャが涙を流すのを見ていた。
サーニャの流す涙。
それを見た時、ウィルの中で何が変わった。
不思議な感覚だった。
それまで自分に抱いていた怒りややるせなさ、そういうものがふっと消えた。
そして静かに、でも確かに炎が燃えていた。
サーニャの流した涙。
それはウィルが呪われたサークに流した涙と同じものだ。
ただただ、苦しくて、愛しくて、切なくて……。
誰かを想う涙。
その他には何もない純粋な想い。
助けたいとか、自分の無力さとか、そういったものすら突き抜けてしまった想い。
ただただ、苦しくて愛しくて切ない。
その人を想う言葉にならない感情。
それをどうしても言葉にしなければならないのなら、愛だ。
月並みの言葉になってしまうけれど、愛なのだ。
だがそれは普段口にしているそれとは違う。
追い詰められてすり減らして、身の内の劫火で焼き締め、限りなく身を削った最後の最後に残った究極の想いの欠片。
極限まで精製された純度。
恒河沙数、数え切れないほどの感情が混ざり合う中、それのみを取り出した生粋の愛。
ウィルはちらりと通路を見た。
特に何も考えなかった。
槍を握り、構える。
身の内に灯った炎がゆっくりと自分と槍を包んでいく。
そして無造作に槍を振り下ろした。
槍に触れた魔物は死霊系のモノも含め、その炎に溶ける。
振った拍子に流れ出した炎が通路内に伸びて行く。
ウィルは静かにそれを見ていた。
炎が触れた魔物はそれを慌てて消そうとするが、何をどうしても消す事ができず、やがてその中に消えていく。
集まっていた魔物達は、表情を凍らせて後ずさっていた。
とりあえずここはこれでいい。
ウィルはそう感じた。
だから特に何も気にせず、背を向けた。
「……ウィルさん……。」
自分を見つめるサーニャが呆然としている。
それに少しだけ首を傾げ、微笑んだ。
「先生をお願いします。」
「はい……!!」
そう言われ、サーニャは急いでボーンに回復をかけ始める。
先程までは我を忘れて取り乱していたが、今しなければならないのはボーンの傷を少しでも塞ぐ事だ。
ボーンの手を握ったまま寄り添い回復をかけていくサーニャの顔を見て、ウィルは穏やかに微笑んだ。
サーニャは愛らしい娘だったが、今の顔はどんな絶世の美女よりも美しい。
ウィルは二人から視線を外した。
そしてヴィオールの方を見た。
こんな状況なのに……。
ウィルは少しだけ自分に対して不思議に思った。
とても心が穏やかで、そしてとても静かだった。
静寂は重くなく、むしろ清々しい。
状況を理解していない訳じゃない。
けれども何も心がざわつかなかった。
ゆっくりと地獄の門の方へ、先程までボーンが立っていたその場所へと足を進める。
そんなウィルをサーニャはちらりと見やった。
「……先生……。ウィルさん、目覚めましたよ……。」
青白い炎を身にまとったウィルを見て、サーニャはそう呟いた。
先程その血を燃やしていた時とは違い、陽炎のように淡く碧い炎に全身と武器である槍が包まれている。
覚醒したんだと思った。
力の出せない形から、力の出せる形に。
体を包む炎もそうだが、何よりも眼が違う。
あの深く青い眼が宝石の様に光を放っている。
ネクロマンシーの術を壊す為に無自覚に半覚醒を起こした時も、炎を宿した様にあの青い瞳が光を放っていたのだ。
おそらくあれが引き金になったのだろう。
ウィルは夜の宝石の力に目醒めたのだ。
サーニャには夜の宝石の事はよくわからない。
一応、魔法使いの勉強をしていた時に聞いた事はあった。
今では忘れ去られているが、魔法使いの起源は夜の宝石と呼ばれる特異的な浄化能力者だったと。
力が純粋すぎる故に、普段は使う事ができない特殊魔法師。
しかしその力は、竜の血の呪いすら癒やす事ができると。
古代。
魔法や魔術はそこまで厳密に別れていなかった。
魔力というものはあったが、その使い方によって呼び名を変えたりはしていなかったのだ。
あるものは精霊と血肉を分ける契約をし、あるものは精霊に祝福を受け、あるものは精霊に自分の魔力を与える形で魔法であり魔術を使っていた。
そう、太古の昔は魔法も魔術も精霊あってのものだったのだ。
そして精霊と人との距離も近かった。
だから太古の時代は、その間に子供ができる事も珍しい事ではなかったのだそうだ。
そして精霊と人との間に生まれた子供はどちらの性質も有している為、精霊の力を借りなくても魔法なり魔術が使えるだけでなく、その受け継いだ血の強さによっては、自分自身の血の力のみで特殊な事をする事ができたそうだ。
そして人と精霊の子が人との間に子を作り、長い時間をかけて薄まりながら精霊の力が人の中にも溶けて広がっていった。
その力を今でも使える者たちが、魔術師であり魔法師なのだ。
だからその力は古代の根源魔術などに比べれば弱まっている。
まれに先祖返りの様に魔力に恵まれその才能を目覚めさせるものもいるが、その分、体力や身体能力にかけるなど肉体的戦闘には向かない傾向が強まるのだ。
だがボーンやサーニャ、アレックなどは「迷い人」だ。
その法則の外から来た者。
だから迷い人の魔術師や魔法師は、身体的能力にも長け、肉体的戦闘も可能な形で強い魔力を使う。
サーニャははじめ、サークも迷い人なのだと思っていた。
ドワーフや獣人、半獣人等、この世界の人間とは違った姿をしている人だけが迷い人ではない。
この世界の人間と何ら変わらない迷い人もいる。
孤児だったと聞いていたし、そういう人だと思ったのだ。
だが地竜に血を分けたりする事から、ボーンがサークは人と精霊の間に生まれたのモノだと言った。
つまり、太古の昔と同じ形で生まれたモノなのだと。
だから肉体的戦闘能力も高く、魔力も魔術本部に席を置く高位魔術師レベルに高い。
ならウィルは、夜の宝石は何なのかという話になる。
夜の宝石は精霊の力を与えられたものではない。
むしろ、その逆の力に近い。
夜の宝石は呪いに変わるなどして穢れてしまった精霊の魂であり魔力、霊力すらも浄化してしまう。
そもそも浄化が何なのかということだ。
これには様々な説があるのだが、とても口下手で大雑把なボーンがサーニャやアレックにその力の使い方を教えた時、こう言った。
『可能な限りゼロにしろ』
そう教えたのだ。
場所や物についている、負の感情・負の力、または何らかの働きかけを行うプラスの力、そういうものを足したり引いたりして『ゼロ』に近づけろと教えたのだ。
つまり、何もくっついていないまっさらな状態にしろと言う事になる。
浄化とは物凄く大雑把に言えばそういう事なのだ。
だが世界は、陰と陽、光と闇、プラスとマイナス、温と寒、様々な相対性のバランスの中に存在している。
だから全ての面でゼロというのは、何もないことを指している。
無だ。
その理論で行くと、究極の浄化は「無」なのだ。
だからこの説は否定されがちだ。
特に宗教色の濃い魔法師達からは強く否定される。
それが正しいか間違っているかはひとまず置いておこう。
夜の宝石、つまり浄化能力者が回復系能力者の根源になっていると言われるのは、「ゼロに近づける」と言う浄化の考え方を使うと説明しやすい。
例えば毒によってダメージがあるとしたら、毒の力を逆の力でゼロに近づける。
傷ついているのなら、傷が開いた事によってついた肉体的エネルギーのマイナスをプラスに持っていく事で打ち消し治していく。
病気の場合も同じ。
病原菌やガンなどの場合は、増えていくもの・増えようとしていく力にマイナスを与えて「ゼロ」に近づけていくのだ。
つまり、やっている事は浄化と同じなのだ。
サーニャやアレックはボーンにその様に教わっている為、浄化と回復が同じものだと理解している。
おそらくサークがボーンの魔法をわかりやすいと感じるのは、そういった筋道がはっきりしており、理論的に解釈した上で魔法を使っているからだ。
神に祈り、神の力を借りて、神の奇跡によってそれを行っていると考えている魔法師や回復師とは、同じ事をするのであっても解釈が異なっている。
そしてその理論の基礎を築いたのが夜の宝石だったと言われている。
人が精霊の力を借りずに魔力を使うようになり、その使い方が研究され、別れたのが魔法と魔術。
魔術は法則に則り、効果を組み合わせ積み上げる数式のような形で発展していった。
魔法は浄化の「ゼロにする」と言う考え方を応用する形で発展していった。
魔法は信念の強さが直接術に影響する。
だが多くの回復師・魔法師は信念の代わりに信仰心の強さを利用している。
その為信仰と結びつきが強く、信仰を守るためにもその「奇跡」の力が利用された。
神に祈るからその助けを与えられるのだと、だから神を尊ばなければならないのだと。
宗教はそうやって信仰を集め地位を守ってきた。
だから夜の宝石が基礎を築いた、浄化を応用して回復等を行う考え方は原理を理論的に解きすぎていて、信仰によって「奇跡」が得られるとする宗教組織の思惑には合わなかったのだ。
その為、夜の宝石が回復能力者の起源と言う考えは広まらず忘れ去られた。
回復師や魔法師の聖地とされる白き癒やしの神殿遺跡も、夜の宝石と繋がりがあると言う逸話はあまり知られていない。
夜の宝石の事はサーニャにはよくわからない。
何故、魔力があるのに日常的には使えない形になっているのか。
何故、こんなにも強い浄化能力を持っているのか。
それなのに何故、本人は使う為の感覚すらないのか。
ウィルを見る限り肉体的戦闘能力も高い。
でも精霊との間に生まれた者などでもないのだ。
先日、ボソッとボーンが呟いた。
アレはおそらく、火消しの為に世界が常備している消化器にちぇげねぇ、と。
ウィルが無自覚にその力を使って迷宮遺跡の一部を浄化してしまった日の夜だった。
サーニャにはなんの事かよくわからなかった。
でも今なら少しだけその意味がわかる。
夜の宝石は多分、必要に応じて世界が生み出すものなのだ。
だから使わない事を前提に生み出される。
しかし使うとなったら、瞬時に火元を沈下できる能力を持っている。
その強さは、世界が危惧している危機の大きさに準じて生み出されるのだろう。
夜の宝石は先祖返りで強い魔力を持つ者とも、精霊と交わって生み出される者とも、迷い人としてこの世界に迷い出る者とも違う。
遺伝的確率の上に生まれる訳でも、両者の意志の元に意図的に生み出される訳でも、偶然の結果でもない。
世界がその形を保つ為に、安全措置として生み出すものなのだ。
そして本来ならその力は使われる事はない。
だが今、ウィルは覚醒した。
その力を使えない形から使える形へと変えた。
サーニャはグッとボーンの手を強く握った。
ウィルが覚醒した事でこの危機はおそらく乗り越えられると思う反面、本来なら使われるはずのない力が目覚めた事に今更ながら不安を覚えた。
考えてみれば、トート神殿が地獄の門を封じたのは遥か昔の話。
今では遺跡という認識になっているくらいだ。
それなのに規格外の魔物がこの門を破ろうとしている。
それだけでも異常な事なのだ。
そんな状況にウィルが居合わせたのは果たして偶然なのだろうか?
異様な状況に長時間いた事で疑心暗鬼になっているのか、何か全てが仕組まれているようにさえ思える。
この世界はこれからどこに向かっていくのだろう?
ウィルの覚醒で精神的に落ち着きを取り戻したサーニャだったが、漠然とした未来に不安を覚えていた。
とても口惜しく、歯痒く、己の無力さに腹が立った。
しかし感覚が鍛えられた事で、ウィルには痛いほどわかってしまったのだ。
ボーンの判断に従うしかないのだと。
あれをこちら側に出してはいけない。
陰と陽、光と闇。
それは相反するものであり、同時に表裏一体。
お互いがあるからお互いが存在する側面を持ちながらも、決して交わってはならない。
もしも交わる事が起きれば混沌が訪れる。
その最大のものがナグラロクだ。
混沌は全ての常識、理論が覆る。
だから一度生まれてしまえば、その規模を測る方法もないのだ。
小規模で終わるか、ナグラロクを起こすか、誰にもわからない。
太古の昔、地竜が原動力となってこの門を封じたのはその為だ。
それを避ける為、冥界とこの世をつなぐ巨大な入り口を塞いだのだ。
なのに今、その結界を破り、冥界の魔物が出てこようとしている。
いつもダンジョンに現れる小さなものではない。
混沌を生むほどの魔物が出てこようとしているのだ。
それは地竜の力が完全な状態の結界を破ってくるようなもの。
いくらボーンが世界を代表するビショップの一人とはいえ、長くは持たない。
かの大魔法師が止めている間に、ここを完全に封印してしまわなければならないのだ。
悔しかった。
やっと自分の力を出せるようになってきたと言うのに、結局ここでも何もできない。
何が夜の宝石だ!!
肝心な時に、いつだってお前は役立たずじゃないかっ!!
だが自分の力のなさも、感覚が鍛えられた事で理解していた。
夜の宝石の力が出せない以上、今の自分はボーンの足手まといにしかならない。
それならせめて、彼の大切なものを安全な場所に導き、そしてここを封印しなければならない。
噛み締めた唇から血が滲む。
ウィルはキッと前を睨んだ。
今は今の自分の役割に集中しろ!
自分を憎むのも嘆くのも、そして憎まれるのも後だ!!
ここで先生の覚悟を踏みにじる訳には行かないんだ!!
きっと自分は生涯、この日の事を悔いるだろう。
それは背負わなければならない罪咎だ。
ウィルはその覚悟を決め、出口に向かって走った。
「……なっ?!」
しかし通路を覗いたウィルの足は止まった。
先程サーニャと戦闘に用いた細い通路の向こう。
そこに迷宮遺跡内の魔物達が集まってきていたのだ。
「クソ……ッ!!」
ウィルは急いでサーニャを下ろすと、通路を抜けてこようとする魔物の行く手を塞いだ。
しかしトート遺跡の魔物は死霊系のモノが多い。
物理攻撃の効かない魔物が、ウィルの槍を嘲笑いながらすり抜け中へと侵入していく。
「そんなっ!!先生!ボーン先生!!迷宮の魔物が……っ!!」
「なんだとっ?!」
ウィルはすぐに声を上げてボーンに知らせた。
しかし地獄の門から出ようとしてきている大物の魔物を防ぐ事で手一杯だったボーンはそれに対処できなかった。
「……グハ……ッ!!」
死霊達の攻撃をまともに食らい、ボーンの体はぐらりと揺れた。
集中の途切れたその一瞬をつき、地獄の門の結界から巨大な獣の足が勢いよく伸び、小さなドワーフを吹き飛ばした。
「先生っ!!」
ウィルは叫んだ。
しかし後から後からやってくる魔物達の相手で、その場を離れる事もできない。
吹き飛ばされたボーンの体が、硬い遺跡の石畳の上を跳ねるのを見ていることしかできなかった。
「ギギャアァァァァっ!!」
「オオォォォーっ!!」
ボーンの力が途切れた事で、魔物は結界を打ち破って出てこようとしていた。
四肢のいくつかはすでにこちら側に出てきている。
それを完全体の大きさになったヴィオールが迎え撃っていた。
だが、竜とはいえヴィオールは飛竜だ。
飛ばない闘い方は本来のスタイルではない。
今は結界を破られていないのでそれでも対応できているが、完全にそれがこちらに出てきてしまったら、飛び回る事のできないヴィオールは不利になる。
絶体絶命の状況だった。
ウィルは集まってきた迷宮遺跡内の魔物が地獄の門の間に入るのを防ぐ事で手一杯。
ヴィオールは出てこようとする魔物との攻防を繰り広げ、ボーンは気を失っている。
サーニャはそれをぼんやりと見ていた。
死霊の攻撃を受け、さらに出てこようとする魔物から攻撃され、ボーンがゴムまりのように床に叩きつけられ弾むのを、ぼんやりと見ていた。
あれ……私、何してるんだっけ……??
先生……攻撃されてる……。
床に叩きつけられる……。
……………………。
床に叩きつけられる?!
先生が?!
嘘でしょ?!
サーニャはハッと意識を取り戻し、目を瞬かせた。
しかしそれは夢でも幻でもなかった。
目の前には、床に叩きつけられてピクリとも動かないボーンが見える。
さぁ……っと血の気が引いた。
「先生!!先生っ!!」
サーニャは無我夢中で叫びながら、ボーンに飛びついた。
周りで死霊達がウロウロしていたので、サーニャは戦闘の為に魔獣化し、魔力をまとった爪で引き裂いてやった。
「先生!!先生っ!!」
うるさい死霊達を片付け、ボーンにすがりつく。
その他の事は一切、目に入らなかった。
なのにいくら呼びかけても、体を揺すってもボーンは目を覚まさない。
「……ヒッ!!」
魔物に殴られた時負傷したのだろう。
床に横たわったボーンの体からは、じわじわと血が流れ出し、水たまりのようにボーンを包んでいた。
手についた血を見て、サーニャはわなわなと震え上がる。
先生…先生…先生……。
あぁ…先生の体から血が出ている…。
こんなにもたくさん、血が出ている……。
先生…先生…先生…先生……。
きっと、先生より私達の方が先に死んでしまうから……。
そうしたらまた先生は独りぼっちになっちゃうかもしれないから……。
どうしたら先生を寂しがらせないでいられるだろう……。
そう思っていたのに……。
先生…先生…先生…先生…先生………。
「先生……先生……嘘ですよね……?目を開けて……目を開けて下さいよ!!先生っ!!いつもみたいに叱ってくださいよ!!先生……っ!!」
周りなど何も見えなかった。
地獄の門から世界を破滅させるかもしれない魔物が出てこようとしている事など、サーニャにはどうでも良かった。
サーニャにとって何よりも重大な事は、目の前でボーンが血を流し、目覚めない事だった。
「先生っ!!目を開けて!!うるさいぞ馬鹿って!いつもみたいに怒ってくださいよ……っ!!」
サーニャはボーンの手を握った。
目の前で起きている事が信じられなかった。
受け入れられなかった。
頭の中に、それまでの日々が走馬燈のようにかけ巡る。
弟の子守をしていたら、突然、見も知らない場所に出てきてしまった。
恐ろしくて、怖くて、不安で……。
そんな時にボーンに出会った。
顔はおじいさんみたいなのに、幼いサーニャよりは大きくて、でも大人よりずっと小さくて。
ムスッとした顔でサーニャを見てきたので、怖くて大泣きしてしまった。
それを困ったようにしながら、ぶっきらぼうに抱きしめてくれた。
大丈夫だと言ってくれた。
もう大丈夫だと。
それからの日々。
慣れない手つきで弟の世話を一緒に見てくれた。
美味しいご飯を毎日食べさせてくれた。
いつもぶっきらぼうで口が悪く怒ってばかりだけれど、本当に優しかった。
サーニャはその手に頬ずりした。
かけがえのない人なのだ。
自分とアレックのかけがえのない人なのだ。
「お願い……起きてよ……お父さん……っ。」
サーニャの目から、はらはらと涙が溢れて流れ落ちた。
ウィルはそれを見ていた。
ボーンを想い、サーニャが涙を流すのを見ていた。
サーニャの流す涙。
それを見た時、ウィルの中で何が変わった。
不思議な感覚だった。
それまで自分に抱いていた怒りややるせなさ、そういうものがふっと消えた。
そして静かに、でも確かに炎が燃えていた。
サーニャの流した涙。
それはウィルが呪われたサークに流した涙と同じものだ。
ただただ、苦しくて、愛しくて、切なくて……。
誰かを想う涙。
その他には何もない純粋な想い。
助けたいとか、自分の無力さとか、そういったものすら突き抜けてしまった想い。
ただただ、苦しくて愛しくて切ない。
その人を想う言葉にならない感情。
それをどうしても言葉にしなければならないのなら、愛だ。
月並みの言葉になってしまうけれど、愛なのだ。
だがそれは普段口にしているそれとは違う。
追い詰められてすり減らして、身の内の劫火で焼き締め、限りなく身を削った最後の最後に残った究極の想いの欠片。
極限まで精製された純度。
恒河沙数、数え切れないほどの感情が混ざり合う中、それのみを取り出した生粋の愛。
ウィルはちらりと通路を見た。
特に何も考えなかった。
槍を握り、構える。
身の内に灯った炎がゆっくりと自分と槍を包んでいく。
そして無造作に槍を振り下ろした。
槍に触れた魔物は死霊系のモノも含め、その炎に溶ける。
振った拍子に流れ出した炎が通路内に伸びて行く。
ウィルは静かにそれを見ていた。
炎が触れた魔物はそれを慌てて消そうとするが、何をどうしても消す事ができず、やがてその中に消えていく。
集まっていた魔物達は、表情を凍らせて後ずさっていた。
とりあえずここはこれでいい。
ウィルはそう感じた。
だから特に何も気にせず、背を向けた。
「……ウィルさん……。」
自分を見つめるサーニャが呆然としている。
それに少しだけ首を傾げ、微笑んだ。
「先生をお願いします。」
「はい……!!」
そう言われ、サーニャは急いでボーンに回復をかけ始める。
先程までは我を忘れて取り乱していたが、今しなければならないのはボーンの傷を少しでも塞ぐ事だ。
ボーンの手を握ったまま寄り添い回復をかけていくサーニャの顔を見て、ウィルは穏やかに微笑んだ。
サーニャは愛らしい娘だったが、今の顔はどんな絶世の美女よりも美しい。
ウィルは二人から視線を外した。
そしてヴィオールの方を見た。
こんな状況なのに……。
ウィルは少しだけ自分に対して不思議に思った。
とても心が穏やかで、そしてとても静かだった。
静寂は重くなく、むしろ清々しい。
状況を理解していない訳じゃない。
けれども何も心がざわつかなかった。
ゆっくりと地獄の門の方へ、先程までボーンが立っていたその場所へと足を進める。
そんなウィルをサーニャはちらりと見やった。
「……先生……。ウィルさん、目覚めましたよ……。」
青白い炎を身にまとったウィルを見て、サーニャはそう呟いた。
先程その血を燃やしていた時とは違い、陽炎のように淡く碧い炎に全身と武器である槍が包まれている。
覚醒したんだと思った。
力の出せない形から、力の出せる形に。
体を包む炎もそうだが、何よりも眼が違う。
あの深く青い眼が宝石の様に光を放っている。
ネクロマンシーの術を壊す為に無自覚に半覚醒を起こした時も、炎を宿した様にあの青い瞳が光を放っていたのだ。
おそらくあれが引き金になったのだろう。
ウィルは夜の宝石の力に目醒めたのだ。
サーニャには夜の宝石の事はよくわからない。
一応、魔法使いの勉強をしていた時に聞いた事はあった。
今では忘れ去られているが、魔法使いの起源は夜の宝石と呼ばれる特異的な浄化能力者だったと。
力が純粋すぎる故に、普段は使う事ができない特殊魔法師。
しかしその力は、竜の血の呪いすら癒やす事ができると。
古代。
魔法や魔術はそこまで厳密に別れていなかった。
魔力というものはあったが、その使い方によって呼び名を変えたりはしていなかったのだ。
あるものは精霊と血肉を分ける契約をし、あるものは精霊に祝福を受け、あるものは精霊に自分の魔力を与える形で魔法であり魔術を使っていた。
そう、太古の昔は魔法も魔術も精霊あってのものだったのだ。
そして精霊と人との距離も近かった。
だから太古の時代は、その間に子供ができる事も珍しい事ではなかったのだそうだ。
そして精霊と人との間に生まれた子供はどちらの性質も有している為、精霊の力を借りなくても魔法なり魔術が使えるだけでなく、その受け継いだ血の強さによっては、自分自身の血の力のみで特殊な事をする事ができたそうだ。
そして人と精霊の子が人との間に子を作り、長い時間をかけて薄まりながら精霊の力が人の中にも溶けて広がっていった。
その力を今でも使える者たちが、魔術師であり魔法師なのだ。
だからその力は古代の根源魔術などに比べれば弱まっている。
まれに先祖返りの様に魔力に恵まれその才能を目覚めさせるものもいるが、その分、体力や身体能力にかけるなど肉体的戦闘には向かない傾向が強まるのだ。
だがボーンやサーニャ、アレックなどは「迷い人」だ。
その法則の外から来た者。
だから迷い人の魔術師や魔法師は、身体的能力にも長け、肉体的戦闘も可能な形で強い魔力を使う。
サーニャははじめ、サークも迷い人なのだと思っていた。
ドワーフや獣人、半獣人等、この世界の人間とは違った姿をしている人だけが迷い人ではない。
この世界の人間と何ら変わらない迷い人もいる。
孤児だったと聞いていたし、そういう人だと思ったのだ。
だが地竜に血を分けたりする事から、ボーンがサークは人と精霊の間に生まれたのモノだと言った。
つまり、太古の昔と同じ形で生まれたモノなのだと。
だから肉体的戦闘能力も高く、魔力も魔術本部に席を置く高位魔術師レベルに高い。
ならウィルは、夜の宝石は何なのかという話になる。
夜の宝石は精霊の力を与えられたものではない。
むしろ、その逆の力に近い。
夜の宝石は呪いに変わるなどして穢れてしまった精霊の魂であり魔力、霊力すらも浄化してしまう。
そもそも浄化が何なのかということだ。
これには様々な説があるのだが、とても口下手で大雑把なボーンがサーニャやアレックにその力の使い方を教えた時、こう言った。
『可能な限りゼロにしろ』
そう教えたのだ。
場所や物についている、負の感情・負の力、または何らかの働きかけを行うプラスの力、そういうものを足したり引いたりして『ゼロ』に近づけろと教えたのだ。
つまり、何もくっついていないまっさらな状態にしろと言う事になる。
浄化とは物凄く大雑把に言えばそういう事なのだ。
だが世界は、陰と陽、光と闇、プラスとマイナス、温と寒、様々な相対性のバランスの中に存在している。
だから全ての面でゼロというのは、何もないことを指している。
無だ。
その理論で行くと、究極の浄化は「無」なのだ。
だからこの説は否定されがちだ。
特に宗教色の濃い魔法師達からは強く否定される。
それが正しいか間違っているかはひとまず置いておこう。
夜の宝石、つまり浄化能力者が回復系能力者の根源になっていると言われるのは、「ゼロに近づける」と言う浄化の考え方を使うと説明しやすい。
例えば毒によってダメージがあるとしたら、毒の力を逆の力でゼロに近づける。
傷ついているのなら、傷が開いた事によってついた肉体的エネルギーのマイナスをプラスに持っていく事で打ち消し治していく。
病気の場合も同じ。
病原菌やガンなどの場合は、増えていくもの・増えようとしていく力にマイナスを与えて「ゼロ」に近づけていくのだ。
つまり、やっている事は浄化と同じなのだ。
サーニャやアレックはボーンにその様に教わっている為、浄化と回復が同じものだと理解している。
おそらくサークがボーンの魔法をわかりやすいと感じるのは、そういった筋道がはっきりしており、理論的に解釈した上で魔法を使っているからだ。
神に祈り、神の力を借りて、神の奇跡によってそれを行っていると考えている魔法師や回復師とは、同じ事をするのであっても解釈が異なっている。
そしてその理論の基礎を築いたのが夜の宝石だったと言われている。
人が精霊の力を借りずに魔力を使うようになり、その使い方が研究され、別れたのが魔法と魔術。
魔術は法則に則り、効果を組み合わせ積み上げる数式のような形で発展していった。
魔法は浄化の「ゼロにする」と言う考え方を応用する形で発展していった。
魔法は信念の強さが直接術に影響する。
だが多くの回復師・魔法師は信念の代わりに信仰心の強さを利用している。
その為信仰と結びつきが強く、信仰を守るためにもその「奇跡」の力が利用された。
神に祈るからその助けを与えられるのだと、だから神を尊ばなければならないのだと。
宗教はそうやって信仰を集め地位を守ってきた。
だから夜の宝石が基礎を築いた、浄化を応用して回復等を行う考え方は原理を理論的に解きすぎていて、信仰によって「奇跡」が得られるとする宗教組織の思惑には合わなかったのだ。
その為、夜の宝石が回復能力者の起源と言う考えは広まらず忘れ去られた。
回復師や魔法師の聖地とされる白き癒やしの神殿遺跡も、夜の宝石と繋がりがあると言う逸話はあまり知られていない。
夜の宝石の事はサーニャにはよくわからない。
何故、魔力があるのに日常的には使えない形になっているのか。
何故、こんなにも強い浄化能力を持っているのか。
それなのに何故、本人は使う為の感覚すらないのか。
ウィルを見る限り肉体的戦闘能力も高い。
でも精霊との間に生まれた者などでもないのだ。
先日、ボソッとボーンが呟いた。
アレはおそらく、火消しの為に世界が常備している消化器にちぇげねぇ、と。
ウィルが無自覚にその力を使って迷宮遺跡の一部を浄化してしまった日の夜だった。
サーニャにはなんの事かよくわからなかった。
でも今なら少しだけその意味がわかる。
夜の宝石は多分、必要に応じて世界が生み出すものなのだ。
だから使わない事を前提に生み出される。
しかし使うとなったら、瞬時に火元を沈下できる能力を持っている。
その強さは、世界が危惧している危機の大きさに準じて生み出されるのだろう。
夜の宝石は先祖返りで強い魔力を持つ者とも、精霊と交わって生み出される者とも、迷い人としてこの世界に迷い出る者とも違う。
遺伝的確率の上に生まれる訳でも、両者の意志の元に意図的に生み出される訳でも、偶然の結果でもない。
世界がその形を保つ為に、安全措置として生み出すものなのだ。
そして本来ならその力は使われる事はない。
だが今、ウィルは覚醒した。
その力を使えない形から使える形へと変えた。
サーニャはグッとボーンの手を強く握った。
ウィルが覚醒した事でこの危機はおそらく乗り越えられると思う反面、本来なら使われるはずのない力が目覚めた事に今更ながら不安を覚えた。
考えてみれば、トート神殿が地獄の門を封じたのは遥か昔の話。
今では遺跡という認識になっているくらいだ。
それなのに規格外の魔物がこの門を破ろうとしている。
それだけでも異常な事なのだ。
そんな状況にウィルが居合わせたのは果たして偶然なのだろうか?
異様な状況に長時間いた事で疑心暗鬼になっているのか、何か全てが仕組まれているようにさえ思える。
この世界はこれからどこに向かっていくのだろう?
ウィルの覚醒で精神的に落ち着きを取り戻したサーニャだったが、漠然とした未来に不安を覚えていた。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる