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第五章「さすらい編」
待ち人がいるという事
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「サーク!良かった!まだいた!」
俺が隊長の部屋を出て歩いていると、ライルさんがいつものように小走りでやって来た。
「ライルさん……。」
ライルさんとはあの時以来、話していない。
そのせいできっとたくさん心配をかけただろう。
あの時あのメモを渡してくれたのはライルさんだ。
こうなった事に対し、責任を感じてしまったかもしれない。
けれど俺は何を言ったらいいかわからなかった。
きちんと挨拶したいのにそれが出来ない。
だがライルさんはいつものように明るく笑って俺の手を引いた。
そして返事も聞かずに走り出す。
「ちょっと来てくれ!すぐ済むから!」
「え!?ライルさん!?」
手を引かれて走るのはなんだかリグ以来だ。
あの日のリグみたいにライルさんも笑っていて、訳もなく鼻の奥がツンとする。
連れて来られたのは副隊長の部屋だった。
そこには何故か副隊長がいた。
「サーク!良かった!会えて!」
「副隊長!?何で!?今日、隊長いましたよ!?」
さっき隊長に会ってきたのに、なぜ副隊長まで別宮にいるのか?
少しばかり混乱する俺に、副隊長はいつものようにさっぱりした笑顔を見せた。
「細かい事は気にしない!それよりこれ!!」
副隊長はそう言って俺に小瓶を差し出した。
とても綺麗で高そうな小瓶だ。
渡されるまま手に取り、俺は尋ねた。
「……これは?」
「上級回復薬よ。サークって案外ひょいって無茶するから、私からの選別。死にそうになったら使って?」
副隊長はそう言ってウインクした。
俺は言葉に詰まった。
なぜそれをくれたのか、俺は理解してしまった。
胸が熱くなる。
「俺からはこれね。」
副隊長と並んだライルさんが、そう言って同じように小瓶をくれた。
ニカッと笑うその顔。
何も言わなくてもお前の行動パターンなんかわかってるんだからなと言われた気がした。
俺はちょっと泣きそうになり変な顔で笑った。
そんな俺の背中をライルさんは明るくバンバン叩く。
「聞いて驚け!サーク!エリクサーだぞ!!」
「……は?!エリクサー!?どこでそんな貴重なものを!?」
「親父の書斎からくすねてきた。」
「ええええぇ!?それって大丈夫なんですか!?」
「まぁ、バレたら血祭りかな~。でもさ、魔術も使わないのに魔力回復薬持ってたって仕方ないと思わないか!?」
ライルさんはそう言ってあははと笑う。
俺は何も言えなかった。
だって、何も話していないのだ。
ふたりは何も聞かない。
だが、そこにある気持ちを俺は受け止めた。
「必ず帰って。サーク。」
「お土産よろしくな。」
何だか泣きそうだ。
いや、泣いていたのかもしれない。
「はい。行ってきます……。」
頑張って笑ったが、ますます変な顔になってしまった。
ふたりは何も言わず、いつも通り明るく笑って俺を送り出してくれた。
俺はいつぞやの訓練場の丘にいた。
気配を殺して近づく。
「サボってるやつ、見~つけた。」
「うわぁっ!?」
そこに座ってぼんやりとしていたガスパーの顔を覗き込む。
「なっなっなっ!?」
「あはは!!変な顔!!」
俺はそう言って少し離れた場所に横並びに座った。
特に顔は向けない。
ただ並んで座っただけだ。
ガスパーはちらりと横目で俺を見た。
「………どっか行くのか?」
「ああ。」
「帰ってくるのか?」
「わからん。」
「………………。」
俺は顔を見ずに淡々と答えた。
ガスパーも前を向いたまま黙ってしまった。
今度は俺がちらりとガスパーを見た。
そしてため息をついて少し笑った。
「色々ありがとな。それからごめんな。」
「何だよ、それ。」
「別に。何か言っときたかっただけ。」
そう、意味なんてない。
でもここを去ろうと思った時、何となくコイツの顔を見とかないとと思ったのだ。
俺は立ち上がろうと腰を浮かせた。
だが、立てなかった。
俺の言葉を聞いた瞬間、ガスパーが思いもしない行動をしたのだ。
「……何だよ……何だよ!?それは!?」
いきなりこちらに顔を向け、俺の襟首に掴みかかってきた。
コイツがそんな事をするとは思っていなかった俺は、ビックリしてまじまじとガスパーを見つめる。
ガスパーは目元を赤くして、憎々しげに俺を睨みつけていた。
「……何なんだよ?!その、ここにある全ての心残りを終わらせるみたいなのは!?……俺とお前なんか殆ど付き合いねぇだろ?!ほぼ接点がねぇ程度の付き合いだろ!?なのに……なのに何でそんな小さな心残りまで終わらせようとしてんだよ!!俺程度の小さな心残りぐらい残していけよっ!!」
こんな風にコイツに、ちゃんと目を合わせて憤りをぶつけられたのははじめてだった。
その事に少し驚く。
真剣なその目に薄っすらと涙が見え、俺は困ってしまった。
「え?!ええぇ~!?泣かすつもりじゃなかったのに~!?」
「泣いてねえ!!」
「いや?!どう見ても泣いてんだろ?!え~?!マジか~!?俺、そういうの弱いんだけど!?ガスパーでも泣かれるとちょっとヤバいわ~。」
「……そうかよ!だったら泣く!!」
「はあぁぁ!?何でぇ~?!」
混乱する俺の前で、ガスパーは苛立たしげに俺を睨みながらも泣いていた。
ガスパーの感情の起伏もよくわからないが、この状況に俺もプチパニックを起こしてどうしていいのかわからない。
そんな俺をますますキツくガスパーは睨む。
「お前は俺を泣かせたこと覚えたまま、どこへでも行け!!」
「いや?!それは何かモヤモヤすんだろ?!」
「知るか!馬鹿野郎!!」
「頼むよ~泣くなよ~!?」
「嫌だね!!」
何でそんなに意地をはる!?
おかしな膠着状態。
とはいえ、泣かれたのはショックだ。
マジか。
当たり障りなく挨拶するつもりだったのに、何でこうなったんだ!?
呆気にとられる俺。
本当にぼろぼろ泣くガスパー。
俺はどうする事もできず、ただその泣き顔を見つめていた。。
「……泣くなよ。」
「ほっとけ。」
ツンとそっぽを向くガスパー。
何をどうしたらいいだろう?
俺はわからなかった。
だって本当に俺とコイツは、そこまで付き合いがあった訳じゃない。
ガスパーはいつも俺に無駄につっかかってきて、俺はそれをあしらってはからかっていたのだ……。
「……う~ん??仕方ないなぁ~。」
どうしていいのかわからなかった俺は、仕方なくガスパーの顔を両手で掴むと額に軽くキスした。
シルクならこれで泣き止んで上機嫌になるんだが、こいつに効果はあるのだろうか??
「!!!?」
するとガスパーは、チュッと軽いリップ音がしたとたん、ビックリしたのか慌てて体を離し、真っ赤になった。
状況が飲み込めず目を白黒させているが、とにかく泣きやんだ。
どうやら効果はあったようだ。
「お~!泣き止んだ~!」
「なっ!?お前……っ!?」
あははと笑う俺。
ガスパーは赤い顔のまま苦々しそうに睨んてきた。
その顔がガスパーだなぁと俺に思わせ、何か安心した。
なんだかな~。
小さな心残り。
それはなくしてしまうにはもったいないような気がした。
ふっと肩の力が抜けた。
俺は何か無意識に気負い過ぎていたのかもしれない。
それに気付いて俺はほっと息を吐いた。
「……帰ってくるよ。約束は出来ないけど。」
「そこは普通、約束するんじゃねぇの?」
「しないな?何でお前と?」
「……最悪。」
俺の言葉を聞いて、ガスパーは苦々しい顔をしてばったりと大の字に倒れる。
俺はそれを見て少し笑った。
「……ありがとな。」
「知らねぇ。お前なんか……。」
「そろそろここを通るかなと思ってました。」
無駄に爽やかな笑顔が俺の前に立ちはだかった。
旅の準備をしに帰ろうとしていたところで、思わぬ人物に待ち伏せされた。
「サークさん。お昼、まだですよね?」
「新キャラの癖に出張るな~。」
「ははっ。流石にそれは、付き合いが短いからって酷くないですか?」
イヴァンは少し苦笑してそういった。
相変わらず屈託のない爽やか好青年だな~と思う。
とはいえ、どこをどう回ってコイツにまで伝わったのだろう?
そして何でイヴァンに待ち伏せされたんだろう?
シルクが一緒に行く訳でもないのに?
ただ……。
イヴァンの手には袋が2つ。
なんとなく予想がつく。
「サークさんの食べる姿が見納めかもしれないと聞いたので、急いで見に来ました。」
「……あのさ?俺の食事風景は見せ物じゃないぞ?」
何なんだ?
本当に?
俺は怪訝な顔をするしかなかった。
結局その辺の木の下でイヴァンと昼飯を食うことになった。
まぁ、理由がどうあれ奢りなら食う。
旅に出るからには、これからのお金の事も考えないといけないしな。
袋を受け取って、中のローストビーフたっぷりのサンドに思いっきりかぶりつく。
旨いな。
奢りだからなおさら旨い。
考えたらここの所、ちゃんと物を食べてなかったかもしれない。
でも……でもだな?!
「~~~っ!!だから見てんなっ!!」
「心外ですね、これを見に来たのに。」
頬張ってもぐもぐしている俺にイヴァンは爽やかに笑う。
こいつってもしかして、思ったよりいい性格してるのか!?
あまりに爽やかすぎて、かえって嫌味ではなかろうかと思えてくる。
まぁ見たいなら見てろよ。
何が面白いのかわけわかんねぇけど。
これもどうぞともう一つの袋も渡される。
俺はそれを遠慮なく受け取り、見守るイヴァンに呆れながら食事を済ませた。
イヴァンは特に何も言わず、長閑な時間が過ぎる。
「いい天気ですね?」
「だな。」
「行くんですか?」
「ああ。」
「僕との約束、破らないで下さいね?」
「約束?」
「また話したいって言ったじゃないですか?」
「今、話してね?」
「今は食べるのを見に来ただけです。」
何なんだそれは?
訳がわからない。
イヴァンはただにっこりと笑った。
そして、多くは語らず全てを一言で言い表した。
「……皆、ここで待ってますよ。」
さらりと言われた言葉。
けれどそれは俺の胸に残った。
その言葉を言ったイヴァンは、特に何も考えてなさそうだ。
地べたに投げ出した足をぶらぶらさせ、空を見ている。
俺もなんとなく同じように空を見上げた。
「……なんか、思った以上に支えられてんだなって思ったよ。」
思わず口をついた言葉。
イヴァンはそれに対して何も言わなかった。
代わりにこう言った。
「僕も待ってて良いですか?」
「……勝手にしとけ。」
コイツといい他の奴といい……。
降参だ。
俺はそう想って少し笑った。
帰れないかもしれない。
いつ帰れるかわからない。
その覚悟をして今日、ここに来たはずだった。
なのにそれなりの決着をつけようとして、かえってここに帰らなければ駄目なのだと思わされた。
「……巡りか~。」
「何です?それ?」
「俺にもわからん。」
空を見上げたまま、俺達はそんな言葉を最後に交わした。
俺が隊長の部屋を出て歩いていると、ライルさんがいつものように小走りでやって来た。
「ライルさん……。」
ライルさんとはあの時以来、話していない。
そのせいできっとたくさん心配をかけただろう。
あの時あのメモを渡してくれたのはライルさんだ。
こうなった事に対し、責任を感じてしまったかもしれない。
けれど俺は何を言ったらいいかわからなかった。
きちんと挨拶したいのにそれが出来ない。
だがライルさんはいつものように明るく笑って俺の手を引いた。
そして返事も聞かずに走り出す。
「ちょっと来てくれ!すぐ済むから!」
「え!?ライルさん!?」
手を引かれて走るのはなんだかリグ以来だ。
あの日のリグみたいにライルさんも笑っていて、訳もなく鼻の奥がツンとする。
連れて来られたのは副隊長の部屋だった。
そこには何故か副隊長がいた。
「サーク!良かった!会えて!」
「副隊長!?何で!?今日、隊長いましたよ!?」
さっき隊長に会ってきたのに、なぜ副隊長まで別宮にいるのか?
少しばかり混乱する俺に、副隊長はいつものようにさっぱりした笑顔を見せた。
「細かい事は気にしない!それよりこれ!!」
副隊長はそう言って俺に小瓶を差し出した。
とても綺麗で高そうな小瓶だ。
渡されるまま手に取り、俺は尋ねた。
「……これは?」
「上級回復薬よ。サークって案外ひょいって無茶するから、私からの選別。死にそうになったら使って?」
副隊長はそう言ってウインクした。
俺は言葉に詰まった。
なぜそれをくれたのか、俺は理解してしまった。
胸が熱くなる。
「俺からはこれね。」
副隊長と並んだライルさんが、そう言って同じように小瓶をくれた。
ニカッと笑うその顔。
何も言わなくてもお前の行動パターンなんかわかってるんだからなと言われた気がした。
俺はちょっと泣きそうになり変な顔で笑った。
そんな俺の背中をライルさんは明るくバンバン叩く。
「聞いて驚け!サーク!エリクサーだぞ!!」
「……は?!エリクサー!?どこでそんな貴重なものを!?」
「親父の書斎からくすねてきた。」
「ええええぇ!?それって大丈夫なんですか!?」
「まぁ、バレたら血祭りかな~。でもさ、魔術も使わないのに魔力回復薬持ってたって仕方ないと思わないか!?」
ライルさんはそう言ってあははと笑う。
俺は何も言えなかった。
だって、何も話していないのだ。
ふたりは何も聞かない。
だが、そこにある気持ちを俺は受け止めた。
「必ず帰って。サーク。」
「お土産よろしくな。」
何だか泣きそうだ。
いや、泣いていたのかもしれない。
「はい。行ってきます……。」
頑張って笑ったが、ますます変な顔になってしまった。
ふたりは何も言わず、いつも通り明るく笑って俺を送り出してくれた。
俺はいつぞやの訓練場の丘にいた。
気配を殺して近づく。
「サボってるやつ、見~つけた。」
「うわぁっ!?」
そこに座ってぼんやりとしていたガスパーの顔を覗き込む。
「なっなっなっ!?」
「あはは!!変な顔!!」
俺はそう言って少し離れた場所に横並びに座った。
特に顔は向けない。
ただ並んで座っただけだ。
ガスパーはちらりと横目で俺を見た。
「………どっか行くのか?」
「ああ。」
「帰ってくるのか?」
「わからん。」
「………………。」
俺は顔を見ずに淡々と答えた。
ガスパーも前を向いたまま黙ってしまった。
今度は俺がちらりとガスパーを見た。
そしてため息をついて少し笑った。
「色々ありがとな。それからごめんな。」
「何だよ、それ。」
「別に。何か言っときたかっただけ。」
そう、意味なんてない。
でもここを去ろうと思った時、何となくコイツの顔を見とかないとと思ったのだ。
俺は立ち上がろうと腰を浮かせた。
だが、立てなかった。
俺の言葉を聞いた瞬間、ガスパーが思いもしない行動をしたのだ。
「……何だよ……何だよ!?それは!?」
いきなりこちらに顔を向け、俺の襟首に掴みかかってきた。
コイツがそんな事をするとは思っていなかった俺は、ビックリしてまじまじとガスパーを見つめる。
ガスパーは目元を赤くして、憎々しげに俺を睨みつけていた。
「……何なんだよ?!その、ここにある全ての心残りを終わらせるみたいなのは!?……俺とお前なんか殆ど付き合いねぇだろ?!ほぼ接点がねぇ程度の付き合いだろ!?なのに……なのに何でそんな小さな心残りまで終わらせようとしてんだよ!!俺程度の小さな心残りぐらい残していけよっ!!」
こんな風にコイツに、ちゃんと目を合わせて憤りをぶつけられたのははじめてだった。
その事に少し驚く。
真剣なその目に薄っすらと涙が見え、俺は困ってしまった。
「え?!ええぇ~!?泣かすつもりじゃなかったのに~!?」
「泣いてねえ!!」
「いや?!どう見ても泣いてんだろ?!え~?!マジか~!?俺、そういうの弱いんだけど!?ガスパーでも泣かれるとちょっとヤバいわ~。」
「……そうかよ!だったら泣く!!」
「はあぁぁ!?何でぇ~?!」
混乱する俺の前で、ガスパーは苛立たしげに俺を睨みながらも泣いていた。
ガスパーの感情の起伏もよくわからないが、この状況に俺もプチパニックを起こしてどうしていいのかわからない。
そんな俺をますますキツくガスパーは睨む。
「お前は俺を泣かせたこと覚えたまま、どこへでも行け!!」
「いや?!それは何かモヤモヤすんだろ?!」
「知るか!馬鹿野郎!!」
「頼むよ~泣くなよ~!?」
「嫌だね!!」
何でそんなに意地をはる!?
おかしな膠着状態。
とはいえ、泣かれたのはショックだ。
マジか。
当たり障りなく挨拶するつもりだったのに、何でこうなったんだ!?
呆気にとられる俺。
本当にぼろぼろ泣くガスパー。
俺はどうする事もできず、ただその泣き顔を見つめていた。。
「……泣くなよ。」
「ほっとけ。」
ツンとそっぽを向くガスパー。
何をどうしたらいいだろう?
俺はわからなかった。
だって本当に俺とコイツは、そこまで付き合いがあった訳じゃない。
ガスパーはいつも俺に無駄につっかかってきて、俺はそれをあしらってはからかっていたのだ……。
「……う~ん??仕方ないなぁ~。」
どうしていいのかわからなかった俺は、仕方なくガスパーの顔を両手で掴むと額に軽くキスした。
シルクならこれで泣き止んで上機嫌になるんだが、こいつに効果はあるのだろうか??
「!!!?」
するとガスパーは、チュッと軽いリップ音がしたとたん、ビックリしたのか慌てて体を離し、真っ赤になった。
状況が飲み込めず目を白黒させているが、とにかく泣きやんだ。
どうやら効果はあったようだ。
「お~!泣き止んだ~!」
「なっ!?お前……っ!?」
あははと笑う俺。
ガスパーは赤い顔のまま苦々しそうに睨んてきた。
その顔がガスパーだなぁと俺に思わせ、何か安心した。
なんだかな~。
小さな心残り。
それはなくしてしまうにはもったいないような気がした。
ふっと肩の力が抜けた。
俺は何か無意識に気負い過ぎていたのかもしれない。
それに気付いて俺はほっと息を吐いた。
「……帰ってくるよ。約束は出来ないけど。」
「そこは普通、約束するんじゃねぇの?」
「しないな?何でお前と?」
「……最悪。」
俺の言葉を聞いて、ガスパーは苦々しい顔をしてばったりと大の字に倒れる。
俺はそれを見て少し笑った。
「……ありがとな。」
「知らねぇ。お前なんか……。」
「そろそろここを通るかなと思ってました。」
無駄に爽やかな笑顔が俺の前に立ちはだかった。
旅の準備をしに帰ろうとしていたところで、思わぬ人物に待ち伏せされた。
「サークさん。お昼、まだですよね?」
「新キャラの癖に出張るな~。」
「ははっ。流石にそれは、付き合いが短いからって酷くないですか?」
イヴァンは少し苦笑してそういった。
相変わらず屈託のない爽やか好青年だな~と思う。
とはいえ、どこをどう回ってコイツにまで伝わったのだろう?
そして何でイヴァンに待ち伏せされたんだろう?
シルクが一緒に行く訳でもないのに?
ただ……。
イヴァンの手には袋が2つ。
なんとなく予想がつく。
「サークさんの食べる姿が見納めかもしれないと聞いたので、急いで見に来ました。」
「……あのさ?俺の食事風景は見せ物じゃないぞ?」
何なんだ?
本当に?
俺は怪訝な顔をするしかなかった。
結局その辺の木の下でイヴァンと昼飯を食うことになった。
まぁ、理由がどうあれ奢りなら食う。
旅に出るからには、これからのお金の事も考えないといけないしな。
袋を受け取って、中のローストビーフたっぷりのサンドに思いっきりかぶりつく。
旨いな。
奢りだからなおさら旨い。
考えたらここの所、ちゃんと物を食べてなかったかもしれない。
でも……でもだな?!
「~~~っ!!だから見てんなっ!!」
「心外ですね、これを見に来たのに。」
頬張ってもぐもぐしている俺にイヴァンは爽やかに笑う。
こいつってもしかして、思ったよりいい性格してるのか!?
あまりに爽やかすぎて、かえって嫌味ではなかろうかと思えてくる。
まぁ見たいなら見てろよ。
何が面白いのかわけわかんねぇけど。
これもどうぞともう一つの袋も渡される。
俺はそれを遠慮なく受け取り、見守るイヴァンに呆れながら食事を済ませた。
イヴァンは特に何も言わず、長閑な時間が過ぎる。
「いい天気ですね?」
「だな。」
「行くんですか?」
「ああ。」
「僕との約束、破らないで下さいね?」
「約束?」
「また話したいって言ったじゃないですか?」
「今、話してね?」
「今は食べるのを見に来ただけです。」
何なんだそれは?
訳がわからない。
イヴァンはただにっこりと笑った。
そして、多くは語らず全てを一言で言い表した。
「……皆、ここで待ってますよ。」
さらりと言われた言葉。
けれどそれは俺の胸に残った。
その言葉を言ったイヴァンは、特に何も考えてなさそうだ。
地べたに投げ出した足をぶらぶらさせ、空を見ている。
俺もなんとなく同じように空を見上げた。
「……なんか、思った以上に支えられてんだなって思ったよ。」
思わず口をついた言葉。
イヴァンはそれに対して何も言わなかった。
代わりにこう言った。
「僕も待ってて良いですか?」
「……勝手にしとけ。」
コイツといい他の奴といい……。
降参だ。
俺はそう想って少し笑った。
帰れないかもしれない。
いつ帰れるかわからない。
その覚悟をして今日、ここに来たはずだった。
なのにそれなりの決着をつけようとして、かえってここに帰らなければ駄目なのだと思わされた。
「……巡りか~。」
「何です?それ?」
「俺にもわからん。」
空を見上げたまま、俺達はそんな言葉を最後に交わした。
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