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第五章「さすらい編」
夜の宝石
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「悪い知らせよ、サーク。あんたの探してる人、夜の宝石になるわ。」
リアナが言った。
夜の宝石が何かはわからなかったが、それがウィルの死であることは感じ取れた。
先程の具合の悪さから目覚め、俺はさんざん、ふたりに怒られた。
いない間に何をやってるのかと、どうして勝手な真似をしたのかと。
そして、何で危なそうなものを簡単に調べようなどとしたのかと。
俺も迂闊だったと、ふたりが戻るまで待つべきだったと謝った。
「あれは……何なんだ?」
「呪いの本人よ。」
「呪いの本人?」
「お兄ちゃん……。」
苦々しい表情で告げたリアナ。
ラニがわっと泣き出して、俺にしがみついてきた。
「泣かないでよ!ラニ!!あんたに泣かれると、私まで……!!」
リアナは堪えようとしていたが、堪えきれなかったのか堰を切ったかのようにわんわん泣き出した。
その泣き顔に、その年齢より大人びたふたりが、年相応のまだ小さな子供なのだと思い知らされた。
何が二人をここまで泣かすのかはわからない。
けれど俺はふたりを抱き締め、気のすむまで泣かせてやった。
ギュッと俺にしがみつく小さな手。
こんなにも小さかったんだなと改めて思う。
その背中を落ち着くまで何も言わずに擦ってやる。
暫くして、落ち着いてきたリアナとラニが話し始めた。
俺を不調に追いやった、禍々しいあの何重にも張られた結界の中に、竜の血の呪いである本体がいる事を。
バラバラだった全てが繋がっていく。
ロイさんとグラハムさんの考えは正しかった。
竜の血の呪いは確かに起こっていたのだ。
そして呪いとなった竜はやはり、リアナとラニが探していた迷子の竜。
竜が滅んだとされる外に出れば、当然、その存在は目立つ。
谷で育った竜は外の人間が恐ろしく貪欲であることを知らない為、疑う事を知らない。
それは初めて見た俺に対する対応からも推測できた。
だから簡単に捕まってしまったのだろうと。
誰が捕らえ、どこに連れて行かれたのかまではリアナたちも知らない。
竜の世話役としてはじめに谷の外に探しに出たふたりが戻らない事から、事を重く見た谷の長たちは捜索チームを組んだ。
そして彼らが竜を見つけた時には、既に正気を失い魂の全てを呪いにする寸前だったようだ。
それがどう言うことかはわからないが、とにかく完全に呪いとなってしまう前にその竜を谷に連れ戻したらしい。
だが一度、呪化してしまった竜は元には戻せない。
いずれ完全な呪いとなり、世界を揺るがす災厄となる。
そこで出てくるのが「夜の宝石」だ。
「夜の宝石は呪われた竜を清めて終わらせるもの。その命を持って竜を清め、共に夜に還る人を言うの。それがどういう事なのかは私もよくわからない。でも多分……。呪いを鎮める為の生け贄なんだと思う……。私たち的には少し意味合いが違うけど、サークから見たらそう表現するのがわかりやすいと思うわ。」
言葉が出なかった。
森の街ではじめて竜の血の呪いの話を聞いた時、まさかこんな巡り合わせになるとは思わなかった。
「どうして、ウィルがそれに選ばれたんだ?」
そしてウィルだ。
この一連の話に、何故かウィルが巻き込まれている。
ウィルが竜の谷の人だという事はわかったが、だからといって、何故、あんな風に連れ去られ、「夜の宝石」という生贄に選ばれてしまったのか……。
俺の言葉にふたりは顔を見合わせた。
「理由は幾つかあるわ。」
「ウィルさんて言うの?お兄ちゃんの探しに来た人?」
「ああ……。」
「ウィルさん、元々その力が強い人なの。血って言うのかな?竜の呪いを解ける血。」
「私たちには色々それぞれに役割があるのよ。魔力が強ければ、村の結界を維持するとかポータルを維持するとか。私とラニみたいに竜の世話をするとか、色々。」
「ウィルは元々、呪いが起こればそれを鎮める役目があったってことか?」
「そうよ。でもその人が選ばれたのは他にも理由があるの。」
「僕たちが探してた竜、ウィルさんに会うために谷から出たの……。」
「……え?」
意外な言葉だった。
問題となっている竜。
呪いとなってしまったその竜は、ウィルに会う為にこの谷を抜け出したというのだ。
この村の事、竜の谷の事は何一つわからない俺は混乱する。
「ウィルさんは前の世話係の人と仲が良くて、子供の頃手伝いをしていたみたいなんだ。その時、孵化をさせた竜のひとりが外に出た子なの……。」
「半年くらい前に一度谷に来て、その子と会ってたわ。私たちは彼の名前も知らなかったけど、遠くからそれを見てて、凄く絆が深いんだってすぐにわかったからそっとしておいたの。」
「でも絆が強すぎたんだね……。それにまだ、あの子は分別がつくほどちゃんとした大人じゃなかった……。だからウィルさんが恋しくて待ってられなくて……外が怖いとも知らずに飛び出しちゃったの……。」
「すぐに探したわ……。捕まったら、酷い目に合わされるから……。」
「僕たちには竜が全てなんだ……。だから、竜を呪いにしてしまった事は、とても重いんだ……。」
そこまで来て、ふたりはまた涙ぐんだ。
俺はどうする事もできなくて、また二人を抱きしめた。
言葉が胸に詰まった。
もしそうなら誰が悪いと言うのか?
ウィルを恋しがって外に出た竜が悪いのか?
外で暮らしていたウィルが悪いのか?
二人を抱きしめる腕に力が入る。
だってそれはあまりにやるせない話だ。
世話役をしていたリアナとラニが、小さな体でこんなにも責任を感じているのも理不尽だ。
ウィルに会いたがった竜を責めるなら、ウィルをどうして村の外に出したのかって話になる。
それは村の都合であり、ウィルにとっては任された仕事だったのかもしれない。
けれど不運にも全てが悪い方に巡った。
俺はそのどうする事もできない理不尽さに憤りを覚える。
だって誰も悪くないだろ!!
悪いのは!竜を苦しめて呪いにした奴だろ!!
なのに何で!?
そう思っても言葉は出なかった。
ここの事情やウィルやリアナたちが抱えている事情もわからず、それにケチをつける事は彼らを否定する事になる。
ここにはここのルールがあり、ここに生きる人々の信念があるのだから。
俺の腕の中で、リアナがポツリと呟く。
「ウィルさんは外界調査員の一人だったの。谷の外の国で暮らして、外の世界の情勢を調べる人よ。村の外の世界が今どういう状況か、どんな文化が形成され構築されているか調べる人……。世界から隔離された私達にとって、とても重要な役割の任務をしていたのよ、ウィルさん。でも重要な任務だからこそ、気持ちが傾いて谷の秘密を漏らすことがないよう抜き打ちで調査もされる。だから、秘密を漏らす恐れがあるほど親密な相手ができた場合、連れ戻される事が多いの。竜を守るために私たちはいるのだから……。」
そう言われて俺は目を閉じた。
思い当たる事があったからだ。
手紙がなくなったあの時、ウィルはその事をとても気にしていた。
俺達の関係を秘密にして欲しいとウィルは言っていた。
てっきり恥ずかしいとか世間体とかそういうものを気にしているんだと思っていた。
でも違ったんだ。
ウィルにとって、俺と通じ合う事は誰にも知られてはならなかった。
親密な相手ができた事を、誰にも知られてはならなかったんだ。
そう思うと、俺もウィルを連れ戻させた原因のひとつなのかもしれない。
「その人、密かに恋人がいたそうよ……。サーク、あなたなんでしょ?」
「……ああ、そうだよ。」
全てが繋がった。
本当に全てが繋がった。
ウィル……。
何も気づいてやれなくてごめん……。
どんな想いで俺と付き合ってくれてたかも知らなくてごめん……。
俺は固く目を閉じ、奥歯を噛んだ。
「……そういうの、全部の責任を取る形で、本人から夜の宝石になると言ったそうよ……。」
「通じ合っていた竜だからって事もあるけど……多分……お兄ちゃんを守る意味もあるんだと思う。呪いの件の原因が完全に自分に非があるとまでは言い切れないのに自ら志願したのは、多少の取引をしたんじゃないかと思う……。僕なら……お姉ちゃんを守るためにそうするから……。」
竜の谷の秘密は重い。
その事をひしひしと感じた。
竜を守るために、ここの人々は生きているのだと……。
その価値観は、俺が完全に理解することは難しいだろう。
だからそれを選んだウィルの想いも、完全にわかってやることは出来なかった。
でも……それでも……。
俺はウィルを愛してる。
理解できない部分があっても、その全てを俺は愛してる。
ウィルがいないと駄目なんだ。
この旅で俺はそれを痛感したんだ。
もう、出会う前の自分がどうやって生きていたのかすらわからない。
他の誰かじゃ駄目なんだ……。
ウィルじゃなきゃ駄目なんだよ、俺は……。
「それは……いつなんだ?」
俺の言葉にふたりは言い淀む。
ウィルが役目を果たす日、それがウィルとの永遠の別れになる。
それまでにどうにかしなければならない。
「……頼む。ウィルが役目を果たすのはいつなんだ?」
必死に懇願する俺を、戸惑ったように見つめるリアナとラニ。
そして絞り出すように呟いた。
「早くて明日の夜だと思う……。」
「身を清めに入るみたいだって……村で噂になってたから……。」
「……ありがとう。言い難い事を教えてくれて……。」
俺はもう一度、ふたりを抱きしめた。
そして意志を固めて立ち上がる。
明日の夜……。
なら、それまでに何とかしなければならない。
そしてそれは、ここからウィルを無理矢理連れ去っても何も解決しはしない。
竜の血の呪いは、国一つを簡単に滅亡させられる程の力がある。
それを無効化できるらしいウィルを攫っても、誰も幸せにはなれない。
ウィル自身、そんな事は望まないだろう。
ならばやることはひとつだ。
俺は覚悟を決めた。
腹を括った。
やれるかどうかじゃない。
やるしかないんだ。
強い意志で外を睨む。
ラニは不安そうな顔で俺の服の裾を掴み、リアナは困惑して訪ねてきた。
「……どうするつもりなの?サーク……。」
「呪いのところに行く。」
「行ってどうするの?お兄ちゃん?」
「壊す。」
ふたりは驚いて固まった。
そりゃそうだ。
そんな発想、普通は出てこないだろうから。
でも俺には確信めいたものがあった。
シルクの呪いも壊せたんだ。
呪いは壊せる。
だから竜の血の呪いだって壊せるはずだ。
比が比ではないが、やるしかない。
誰も不幸にしない解決策はこれしかない。
「俺は竜の血の呪いを壊して、ウィルを助ける。」
このまま何もせず引き下がる訳にはにはいかない。
ここまでの道程で出会ったたくさんの人が俺の背中を押してくれる。
悪足掻きだろうとなんだろうと俺はやる。
その為にここに来た。
俺は固く拳を握った。
リアナが言った。
夜の宝石が何かはわからなかったが、それがウィルの死であることは感じ取れた。
先程の具合の悪さから目覚め、俺はさんざん、ふたりに怒られた。
いない間に何をやってるのかと、どうして勝手な真似をしたのかと。
そして、何で危なそうなものを簡単に調べようなどとしたのかと。
俺も迂闊だったと、ふたりが戻るまで待つべきだったと謝った。
「あれは……何なんだ?」
「呪いの本人よ。」
「呪いの本人?」
「お兄ちゃん……。」
苦々しい表情で告げたリアナ。
ラニがわっと泣き出して、俺にしがみついてきた。
「泣かないでよ!ラニ!!あんたに泣かれると、私まで……!!」
リアナは堪えようとしていたが、堪えきれなかったのか堰を切ったかのようにわんわん泣き出した。
その泣き顔に、その年齢より大人びたふたりが、年相応のまだ小さな子供なのだと思い知らされた。
何が二人をここまで泣かすのかはわからない。
けれど俺はふたりを抱き締め、気のすむまで泣かせてやった。
ギュッと俺にしがみつく小さな手。
こんなにも小さかったんだなと改めて思う。
その背中を落ち着くまで何も言わずに擦ってやる。
暫くして、落ち着いてきたリアナとラニが話し始めた。
俺を不調に追いやった、禍々しいあの何重にも張られた結界の中に、竜の血の呪いである本体がいる事を。
バラバラだった全てが繋がっていく。
ロイさんとグラハムさんの考えは正しかった。
竜の血の呪いは確かに起こっていたのだ。
そして呪いとなった竜はやはり、リアナとラニが探していた迷子の竜。
竜が滅んだとされる外に出れば、当然、その存在は目立つ。
谷で育った竜は外の人間が恐ろしく貪欲であることを知らない為、疑う事を知らない。
それは初めて見た俺に対する対応からも推測できた。
だから簡単に捕まってしまったのだろうと。
誰が捕らえ、どこに連れて行かれたのかまではリアナたちも知らない。
竜の世話役としてはじめに谷の外に探しに出たふたりが戻らない事から、事を重く見た谷の長たちは捜索チームを組んだ。
そして彼らが竜を見つけた時には、既に正気を失い魂の全てを呪いにする寸前だったようだ。
それがどう言うことかはわからないが、とにかく完全に呪いとなってしまう前にその竜を谷に連れ戻したらしい。
だが一度、呪化してしまった竜は元には戻せない。
いずれ完全な呪いとなり、世界を揺るがす災厄となる。
そこで出てくるのが「夜の宝石」だ。
「夜の宝石は呪われた竜を清めて終わらせるもの。その命を持って竜を清め、共に夜に還る人を言うの。それがどういう事なのかは私もよくわからない。でも多分……。呪いを鎮める為の生け贄なんだと思う……。私たち的には少し意味合いが違うけど、サークから見たらそう表現するのがわかりやすいと思うわ。」
言葉が出なかった。
森の街ではじめて竜の血の呪いの話を聞いた時、まさかこんな巡り合わせになるとは思わなかった。
「どうして、ウィルがそれに選ばれたんだ?」
そしてウィルだ。
この一連の話に、何故かウィルが巻き込まれている。
ウィルが竜の谷の人だという事はわかったが、だからといって、何故、あんな風に連れ去られ、「夜の宝石」という生贄に選ばれてしまったのか……。
俺の言葉にふたりは顔を見合わせた。
「理由は幾つかあるわ。」
「ウィルさんて言うの?お兄ちゃんの探しに来た人?」
「ああ……。」
「ウィルさん、元々その力が強い人なの。血って言うのかな?竜の呪いを解ける血。」
「私たちには色々それぞれに役割があるのよ。魔力が強ければ、村の結界を維持するとかポータルを維持するとか。私とラニみたいに竜の世話をするとか、色々。」
「ウィルは元々、呪いが起こればそれを鎮める役目があったってことか?」
「そうよ。でもその人が選ばれたのは他にも理由があるの。」
「僕たちが探してた竜、ウィルさんに会うために谷から出たの……。」
「……え?」
意外な言葉だった。
問題となっている竜。
呪いとなってしまったその竜は、ウィルに会う為にこの谷を抜け出したというのだ。
この村の事、竜の谷の事は何一つわからない俺は混乱する。
「ウィルさんは前の世話係の人と仲が良くて、子供の頃手伝いをしていたみたいなんだ。その時、孵化をさせた竜のひとりが外に出た子なの……。」
「半年くらい前に一度谷に来て、その子と会ってたわ。私たちは彼の名前も知らなかったけど、遠くからそれを見てて、凄く絆が深いんだってすぐにわかったからそっとしておいたの。」
「でも絆が強すぎたんだね……。それにまだ、あの子は分別がつくほどちゃんとした大人じゃなかった……。だからウィルさんが恋しくて待ってられなくて……外が怖いとも知らずに飛び出しちゃったの……。」
「すぐに探したわ……。捕まったら、酷い目に合わされるから……。」
「僕たちには竜が全てなんだ……。だから、竜を呪いにしてしまった事は、とても重いんだ……。」
そこまで来て、ふたりはまた涙ぐんだ。
俺はどうする事もできなくて、また二人を抱きしめた。
言葉が胸に詰まった。
もしそうなら誰が悪いと言うのか?
ウィルを恋しがって外に出た竜が悪いのか?
外で暮らしていたウィルが悪いのか?
二人を抱きしめる腕に力が入る。
だってそれはあまりにやるせない話だ。
世話役をしていたリアナとラニが、小さな体でこんなにも責任を感じているのも理不尽だ。
ウィルに会いたがった竜を責めるなら、ウィルをどうして村の外に出したのかって話になる。
それは村の都合であり、ウィルにとっては任された仕事だったのかもしれない。
けれど不運にも全てが悪い方に巡った。
俺はそのどうする事もできない理不尽さに憤りを覚える。
だって誰も悪くないだろ!!
悪いのは!竜を苦しめて呪いにした奴だろ!!
なのに何で!?
そう思っても言葉は出なかった。
ここの事情やウィルやリアナたちが抱えている事情もわからず、それにケチをつける事は彼らを否定する事になる。
ここにはここのルールがあり、ここに生きる人々の信念があるのだから。
俺の腕の中で、リアナがポツリと呟く。
「ウィルさんは外界調査員の一人だったの。谷の外の国で暮らして、外の世界の情勢を調べる人よ。村の外の世界が今どういう状況か、どんな文化が形成され構築されているか調べる人……。世界から隔離された私達にとって、とても重要な役割の任務をしていたのよ、ウィルさん。でも重要な任務だからこそ、気持ちが傾いて谷の秘密を漏らすことがないよう抜き打ちで調査もされる。だから、秘密を漏らす恐れがあるほど親密な相手ができた場合、連れ戻される事が多いの。竜を守るために私たちはいるのだから……。」
そう言われて俺は目を閉じた。
思い当たる事があったからだ。
手紙がなくなったあの時、ウィルはその事をとても気にしていた。
俺達の関係を秘密にして欲しいとウィルは言っていた。
てっきり恥ずかしいとか世間体とかそういうものを気にしているんだと思っていた。
でも違ったんだ。
ウィルにとって、俺と通じ合う事は誰にも知られてはならなかった。
親密な相手ができた事を、誰にも知られてはならなかったんだ。
そう思うと、俺もウィルを連れ戻させた原因のひとつなのかもしれない。
「その人、密かに恋人がいたそうよ……。サーク、あなたなんでしょ?」
「……ああ、そうだよ。」
全てが繋がった。
本当に全てが繋がった。
ウィル……。
何も気づいてやれなくてごめん……。
どんな想いで俺と付き合ってくれてたかも知らなくてごめん……。
俺は固く目を閉じ、奥歯を噛んだ。
「……そういうの、全部の責任を取る形で、本人から夜の宝石になると言ったそうよ……。」
「通じ合っていた竜だからって事もあるけど……多分……お兄ちゃんを守る意味もあるんだと思う。呪いの件の原因が完全に自分に非があるとまでは言い切れないのに自ら志願したのは、多少の取引をしたんじゃないかと思う……。僕なら……お姉ちゃんを守るためにそうするから……。」
竜の谷の秘密は重い。
その事をひしひしと感じた。
竜を守るために、ここの人々は生きているのだと……。
その価値観は、俺が完全に理解することは難しいだろう。
だからそれを選んだウィルの想いも、完全にわかってやることは出来なかった。
でも……それでも……。
俺はウィルを愛してる。
理解できない部分があっても、その全てを俺は愛してる。
ウィルがいないと駄目なんだ。
この旅で俺はそれを痛感したんだ。
もう、出会う前の自分がどうやって生きていたのかすらわからない。
他の誰かじゃ駄目なんだ……。
ウィルじゃなきゃ駄目なんだよ、俺は……。
「それは……いつなんだ?」
俺の言葉にふたりは言い淀む。
ウィルが役目を果たす日、それがウィルとの永遠の別れになる。
それまでにどうにかしなければならない。
「……頼む。ウィルが役目を果たすのはいつなんだ?」
必死に懇願する俺を、戸惑ったように見つめるリアナとラニ。
そして絞り出すように呟いた。
「早くて明日の夜だと思う……。」
「身を清めに入るみたいだって……村で噂になってたから……。」
「……ありがとう。言い難い事を教えてくれて……。」
俺はもう一度、ふたりを抱きしめた。
そして意志を固めて立ち上がる。
明日の夜……。
なら、それまでに何とかしなければならない。
そしてそれは、ここからウィルを無理矢理連れ去っても何も解決しはしない。
竜の血の呪いは、国一つを簡単に滅亡させられる程の力がある。
それを無効化できるらしいウィルを攫っても、誰も幸せにはなれない。
ウィル自身、そんな事は望まないだろう。
ならばやることはひとつだ。
俺は覚悟を決めた。
腹を括った。
やれるかどうかじゃない。
やるしかないんだ。
強い意志で外を睨む。
ラニは不安そうな顔で俺の服の裾を掴み、リアナは困惑して訪ねてきた。
「……どうするつもりなの?サーク……。」
「呪いのところに行く。」
「行ってどうするの?お兄ちゃん?」
「壊す。」
ふたりは驚いて固まった。
そりゃそうだ。
そんな発想、普通は出てこないだろうから。
でも俺には確信めいたものがあった。
シルクの呪いも壊せたんだ。
呪いは壊せる。
だから竜の血の呪いだって壊せるはずだ。
比が比ではないが、やるしかない。
誰も不幸にしない解決策はこれしかない。
「俺は竜の血の呪いを壊して、ウィルを助ける。」
このまま何もせず引き下がる訳にはにはいかない。
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