欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第五章「さすらい編」

血と血

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「何言ってるのよ!!サーク!!できる訳ないわっ!!」

行こうとする俺の足に、リアナとラニがしがみつく。
リアナはいつものように怒っていて、ラニは半泣きで首をふっている。

「あんたわかってる!?竜の血の呪いは国1つを簡単に滅ぼせるのよ!?それを壊す!?出来るわけないでしょ!?人間1人でどうにかできる程度のものだったら!とっくに私たちで何とかするわよ!!」

「でも、ウィル1人で鎮められるんだろ?」

「それは特殊な人だからよ!!」

「なら、俺にも出来るかもしれない。俺、結構、特殊だから。」

「そういう事を言ってるんじゃないっ!!」

俺はしゃがんで、ふたりを抱き締めた。
他に方法がなかったからだ。
暴れるリアナとわんわん泣き出すラニを、ただ抱きしめ続けた。

何でだろうな?

出会って何年も一緒にいた訳じゃない。
なのにこんなにも俺たちには絆がある。

だからわかってくれると思った。
わかってくれるまで、何も言わずぎゅっと抱きしめた。

「わかったよ、お兄ちゃん……。」

ラニはそう言ってぐずぐずと涙を拭った。
俺はラニの目を真っ直ぐ見つめ、頭を撫でた。

「ごめんな?ラニ。」

ラニは涙を拭いながら頷く。
後から後からこぼれ落ちるその雫を、俺は心で受け止めた。

「私は認めない!行かせないわ!」

だが、リアナは違った。

悔しそうに顔を歪めながらそう言った。
俺に背を向け、小走りに出口をふさぐ。
その覚悟を持った顔に俺は小さく笑った。

リアナは優れた魔術師だ。
そこら辺の名ばかり魔術師なんかよりずっと魔力も実力もある。
度胸に至っては下手すると俺よりあるかもしれない。
そんな彼女が俺の前に小さな体で立ち塞がり、魔術を展開して氷の矢を無数に準備している。
行くなら自分を倒していけ、と言うことだろう。

敵わないな、と思う。
リアナはいつか、世界に名を知られる魔術師になる、そんな気がした。

その覚悟を持った挑戦に、応えずに先に進む事は出来ない。
俺は一歩、足を進めた。

「行かせないって言ったでしょ!?」

リアナが矢を数本放った。
殆どはかすめるだけで当たりはしない。
頬を矢がかすめ、血が流れた。

俺はそのまま足を進める。

覚悟には覚悟で応えるのが礼儀だ。
リアナの俺に対する答えに、俺も俺の答えで応じる。

ゆっくり一歩、一歩、出口に近づく。
魔術は使わない。
それが俺の答えだから。

リアナは必死に抵抗した。
でも俺は足を止めなかった。
矢がいくつも体をかすめる。
皮膚が切られ、血がその度滲んだ。
それでも俺は歩き続ける。

意思の強いリアナの顔が、くしゃっと歪んだ。


「……何でよ……馬鹿ぁ……。」


俺はリアナの前に立った。

体にはあちこちに傷ができたが、どれも深い傷じゃない。
かすり傷程度のものだ。
リアナは本当はわかってくれていた。
それでもこうせずにはいられなかったのだろう。

俺はそんなリアナが好きだった。

足止めできなかった事に、リアナはわんわんと泣いた。
矢は1つも俺に刺さらなかった。
全部、かすめただけだ。
それがリアナという人を表していると思った。

「……リアナ、俺を見て?」

泣くリアナの頭を撫でながら、俺は声をかけた。
しゃくりあげながらリアナが顔を上げる。

俺は魔力を練った。
そして滲み出た血を全て集め、赤い花の結晶を作った。

その光景にリアナの目が大きく見開かれる。

血の魔術の結晶体の赤い花。
俺はその花をリアナの髪に指した。
小さな魔術師に敬意を込めて。

「ありがとな、リアナ。」

頭をぽんぽんと撫でる。
俺はそう言って、横を通りすぎた。
静寂だけが残った。

小屋を後にした俺はもう振り向かなかった。
魔力を全身に行き渡らせ、呪いのある場所まで走りだす。




「お姉ちゃん……。」

「見た?ラニ?」

「うん。」

「これ……血の魔術よ……。」


リアナは髪から結晶を外した。
あり得ないものを見たとリアナは思った。
人間でそれが使える者は谷ですらもう伝説の中で、遥か昔のおとぎ話だ。

どうしてそういうものが使えるのかさえ誰も覚えていない。
ただ血の魔術の原理は、血そのものに力があるか、魔術の対価となるほどの価値があると言う事は知っていた。
竜の血や肉を人が欲するのはそのせいだ。
それを対価に大きな力を得る。

つまり、サークの血には竜の血などと同等の価値か力がある。

その事に二人は気づいた。
絶望の中に僅かな希望が見えた。

「行こう!ラニ!!」

「うん!!」

ふたりは手をつないでサークの後を追った。

ひょっとしたらひょっとするかもしれない。
そう思った。









サークが呪いの元に来ると、それがどれだけ恐ろしいものか思い知らされた。

これだけの結界が何重にも重ねられているのに、常にそれを壊しているのだ。
結界はどんどんかけられていき、内側から呪いがそれを壊す。

そして、それだけ厳重に封じられているというのにこの禍々しさは何なのか?
正直、前に立っただけで吐きそうだ。

頭がガンガンする。
頭痛の理由は憎しみだ。

さっきはちょっと触れただけだったので、ただ頭痛がすると思ったが、今はそれが言葉であり感情として頭に響く。

殺してやる
引き裂いてやる
同じ目に合わせてやる
許さない

痛い
苦しい
何でこんなことをするんだ?
何でこんな目に合わないといけないの?
つらい
助けて

助けて!!


人間なんて大嫌いだっ!!


怒りと憎しみと恐怖と痛み。

それが延々と繰り返される。

体が重い。
ここだけ重力が違うのではないかというくらい重い。

これだけの結界が何重にも重ねられているのに、外側にいるというのに、これだけの影響を受けている。

吐くものはないが、吐きそうだ。
国1つを簡単に滅ぼせるとは、本当だったなと思う。
それを壊すなど、大きく出たものだ、自分も。

でもやるしかない。
たとえ全て壊せなくても、ウィルの負担は減らせるはずだ。

俺は小刀で両手を突き刺した。
そして血の流れる手を地面に翳した。

結界に触れては駄目だ。
結界にもしもの事があれば、竜の谷が滅んでしまう。

だからこのまま、結界の中の血の呪いにコンタクトをとらなければならない。
その方法は、さっきのリアナの言葉で可能だとわかっていた。

繋がってないから大丈夫。

つまり、逆に言えば結界を壊さずに繋がれるのだ。

俺は魔力探査を行った。
それが結界内に届いたとき、俺の魔力は弾かれ、俺が伸ばしたその道を禍々しいものが凄い勢いで遡ってきた。



「!!!!」



一瞬で自分の身が呪いで覆われた。
身体中が骨が、ギシギシと痛む。
重力がさらに重くなり、圧し潰されそうだ。
呼吸の仕方がわからなくなり、浅くはっはっと息をする。
このままだと酸欠になりそうだ。

俺は集中した。
魔力を全身に巡らせ、呪いの侵入に抵抗した。
息が少しできるようになったので、呼吸を整える。
自分の中の魔力を練り、行き渡らせ、それを繰り返す。

やがて呪いと繋がったまま、何とか均衡をとれるようになってきた。

ここまでは成功した。
だがこれでは血の呪いを壊すことは出来ない。


頭の中にはずっと声が響く。


殺してやる
引き裂いてやる
同じ目に合わせてやる
許さない

痛い
苦しい
何でこんなことをするんだ?
何でこんな目に合わないといけないの?
つらい
助けて

助けて!!


人間なんて大嫌いだっ!!


少しでも気を抜けば、飲み込まれてしまう。
ここからが勝負だ。


「……さぁ、どっちが喰われるか、勝負だ。」


俺は顔だけ上げて、結界内の血の呪いと向き合った。
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