欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第六章「副隊長編」

召喚と混乱

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「申してみよ。」

言葉を発した俺に全員が注目していた。
わざわざ出てきてくれたロイさんの顔を潰すわけにはいかない。
俺はカードを切ることを決めた。

「私は竜の血の呪いを探して旅をしました。まず始めにつかんだのは、冒険者ギルドで得た情報です。少し前に北の方で竜を見たとの噂がたち、いくつかのパーティーがそこに向かったが見つける事が出来なかったとの話でした。これは噂話程度ではありますが、問い合わせれば確認がとれるかと思います。」

「ほう、それで?」

「いくつかの町を回る過程で、私は協力者と偶然出会う事ができ、私は竜の血の呪いが隠された異空間に入る事ができました。協力者に関しましては、何も明かさない事を条件に協力を得たのでお話しすることはできません。ただそれがどこかの場所ではなく異空間だった証明は、私の旅の軌跡を追えばわかると思います。私は北東方面からその空間に入り、出てきたのは南の国との国境近くです。そして、竜の血の呪いの痕跡の小瓶を手に入れたのは西の砂漠の国です。私は協力者のお陰で竜の血の呪いの異空間に入る事ができましたが、誰が竜の血の呪いを生み出し、誰が異空間に閉じ込めたのかはわかりませんでした。」

「とはいえ、どうやって竜の血の呪いを解除したのだ?」

「はい。私の血と協力者の力です。ご存じの通り、私は血の魔術を使います。その力を呪いにぶつけて壊そうとしました。」

「なんと!それで壊せたのか!?」

「いいえ。ある程度は成功しましたが、一国を滅ぼすほどの呪いです。血を使っても当然ながら人間一人でどうにかできるものではありませんでした。」

「では、どうなったのだ!?」

「私は残った呪いを自分に取り込みました。どこか一国を滅ぼすより、私一人が呪われて終わるならそれでいいと思ったからです。その先は私の協力者がやってくれました。私は呪われていましたし、血の魔術を使い激しく消耗すると気を失い数日間は目覚めません。なので呪いを取り込み気を失ってからしばらくの時間、何がどうなったかわからないのです。私が次に目覚めた時には取り込んだ呪いが消え、全て終わっていました。半ば壊したものですが、あの呪いを取り込んだ私が今、こうしてここにいます。竜の血の呪いがこの世から消えたのは事実です。」

まぁかなり違うんだけどいいのだ。
全部本当の事を話す必要はない。
むしろ、本当の事の方が嘘臭くすらあるのだから。

俺の話にまた困惑した空気が場に流れる。
ロイさんの話の後だけに俺の話にも信憑性を感じはするが、何しろ突拍子もない内容だ。
頭ごなしに否定もできないが、信用するには真実味に欠ける作り話にしか聞こえない。

俺は少しの間を置き、告げた。
そうした方が次の言葉に重みが出るからだ。
この話を真実と確定できる物証はちゃんとこの手の中にあるのだから。

「……それで竜の血の呪いの証明になるかはわからないのですが、私は呪いを取り込んだ時、一緒に呪いとなった竜の魂も取り込んだのです。そしてそれは呪いが消えた後も魂として私の中にありました。」

「竜の魂がか!?」

「はい。なので私はその竜の魂を精霊にしました。その精霊はある人に守護としてつけてあるのですが、ご覧になりますか?」

全員がぽかんとしていた。
そりゃな~、いきなり竜の魂を精霊にしてあるから見せようかって言われても、何だかわからないよな。
今時、魔術師でも精霊とかあんまり見ないし作る方法も廃れてるし。
陛下は目をぱちくりさせながら言った。

「……精霊になった竜、を?」

「はい。ご覧になるのでしたら、ここに呼びます。如何致しますか?」

「………呼んでくれ。」

「承知致しました。ではこちらのバルコニーをお借りします。」

俺は立ち上がる。
シルクが細い猫目を真ん丸くしていてちょっと笑った。
窓を開け、バルコニーに出る。
彼のいた胸に手を当て魔力を込めた。
精霊にする前、俺の中でヴィオールがいたその場所には一種の繋がりが出来ていた。


(来い、ヴィオール……っ!!)


ウィルには事前に話しておいた。
恐らくヴィオールを呼ぶから、躊躇したら出してくれと。

胸の魔力に反応がある。
ヴィオールは俺の声に応えた。

(目立たないよう光のまま、急いでここに来てくれ!)

ヴィオールが近づいて来るのがわかる。
俺は中の陛下達を振り返り、笑顔で言った。


「……兵を呼んでおいた方が良いですよ?」

「何故だ?」

「彼は何もしませんが、ご不安に思うと思うので。」

「……不安?」

「ええ。……だって初めてですよね?竜をご覧になるのは?」


俺がにっこりと言うとはっと我に返り、誰が指示したのかバタバタと近衛兵たちが入ってくる。
それを見守っていると、感覚に何が引っ張られた。
こちらの準備も整ったようだ。
俺は空を見上げ、大きな声で叫んだ。


「ヴィオールっ!!元の大きさを示せっ!!」


すると頭上に大きな影が生まれた。
見上げた空には、ヴィオールが大きな翼を広げて真上を飛んでいた。


「こっちこっち!ここに降りてきて!!」


大きな影。
そして窓からバサバサと突風が吹き込む。
会議資料が紙吹雪のように中に舞い、軋む窓に部屋の中が騒然となっていた。

そんな混乱の中、ガシッと大きな足がバルコニーの手摺を掴む。
翼をゆっくりと畳んだ大きな巨体がそこに鎮座していた。

ただ実体化したヴィオールの体重に耐えられず、バルコニーが嫌な感じに軋みヒビが入る。
後でチクチク言われないよう、終わったら直さないとまずいなと苦笑いした。


「……悪かったな、呼び出して。」


俺は大きな姿のヴィオールに話しかけた。
ヴィオールは甘えるように俺に顔を擦りつける。
あ、圧が凄い……。
俺はそれを押しやりながら、中を振り返った。
皆、言葉も出ないようだ。
ヴィオールを前に完全に思考停止している。
近衛兵は腰を抜かしているし、部屋の隅で固まっている人もいた。


「……これが、呪いになった竜の魂を精霊にしたものです。」


にっこり俺はそう言った。
でも誰も何も言わない。

そりゃそうだ。
絵本の世界にだけいる、架空の生物だったはずの竜が目の前にいるのだ。
しかもこの大きさだ。
ウィルが言うにはヴィオールはまだ幼さの残る若い個体だから甘えたがりらしいのだが、そんな事は初めて竜を見た人間にはわからない。

ヴィオールが大きな口を開け、俺を頭から甘噛みする。
口に含んで舌ででろでろ舐めてくる。
竜って甘えるときこうやるんだな~と、慣れてきていた俺はあまり気にしなかった。
けれど端から見れば衝撃的な光景だ。
見ようによったら食われてるみたいだし。
中ではひっと悲鳴が上がり、軽くパニックが起きている。

「ヴィオール……やめなさい。皆がびっくりしてるだろ。」

俺はむんずとヴィオールの口を手で押し開く。
そして外に出ると、リアナがやっていたように鼻先を掻いてやった。
結構、力がいる作業だ。

「すいません。甘えてるだけなので、大丈夫です。」

そう言った矢先から、どーんとダイレクトぐりぐりアタックをくらい足元がよろける。
甘えてくるのは可愛いけど、やっぱり体格差があるし圧が凄い。

俺は中に目を向ける。
見ると話しどころでは無さそうだ。
兵士たちが右往左往している。
思ったよりパニックが酷い。

そこまで驚かなくてもな……?

別に攻撃してきている訳でもないし。
図体はデカイけど、可愛く甘えてるだけなんだけどな??
俺は頭を掻いた。


「すいません~!なんか混乱が凄いみたいなので、こいつ、もう帰しますね~!!」


まぁ、見せると言う目的は果たした。
俺がそう言うと青ざめた顔がうんうんと頷く。
予想以上に怖がらせてしまったみたいだった。
俺はヴィオールに向き合って、鼻をぽんぽん撫でる。

「来てもらったのに悪いな。もう帰っていいよ。ありがとな。」

俺がそう言うと、ヴィオールはぱあっと光の粒になって帰っていった。
これだけの為に呼び出したのは何か可哀想だったなと思う。
俺はボロボロになったバルコニーを魔術で直し、中に戻った。
歩いたら滴が垂れたので何だろうと思う。
よく見たらヴィオールの涎でベトベトだった。
どうしようか考えながら席に向かうと、ロイさんがおかしそうに笑って杖をふる。
そのお陰で俺についていた涎は綺麗になくなっていた。

「ありがとうございます。ロイさん。」

「いやいや、面白い演出で楽しめたからね?帰って皆に報告するのが楽しみだよ。」

シルクはぽかんとその場に立っていて、ギルは何故かいつも通り無表情にしていた。
俺は何事もなかったように席に座り、場が正常に戻るまでおとなしく待つことにした。
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