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第六章「副隊長編」
昼間から酒を飲む
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「待って下さいっ!!」
ロイさんの後を追っかけていたら、今度は俺が捕まった。
がっしり腕にしがみつかれ、硬直する。
まずい。
まずい人に捕まった。
「……ど、どうされましたか?我が主、ライオネル殿下…?」
俺はやっとの思いで口にした。
ロイさんが振り返ってこの状況に少し驚いていたが、やがてにこやかに頭を下げた。
「これはライオネル殿下、大変失礼致しました。では、サーク。私は別の用事を済ませて来るので、夜、別宮の正門で落ち合いましょう。では、失礼致します。」
固まって目を泳がす俺に対し、ただゆったりと微笑む。
え?放置ですか!?マジで!?
ロイさんはそう言うと、颯爽と歩いて行ってしまった。
これは……どうしろと!?
俺はそろりと王子を見た。
「あの……殿下、ひとまず離して頂いてもよろしいでしょうか……?」
「……逃げませんか?」
王子が少し怒ったような、拗ねたような顔で俺を見ている。
何で逃げると思われているんだろう?
確かに逃げたいのは山々ですが。
「逃げません。どうされたのですか?」
「あなたがちっとも、顔を見せないからです。私の騎士。」
ぎゅっと俺の腕を掴んだまま、王子が言った。
う~ん、俺は困ってしまった。
殿下と俺の関係って何なんだろ?
何か言われた訳じゃないけど、なんとなく想いを寄せられてるってのはわかる。
けど殿下だって、いくら俺が騎士になったって准男爵の爵位を得たって、基本的には平民の枠から出ていなのだから、王族の王子と一緒にいられないのはわかっているはずなのに。
告白を受けた訳じゃないけれど、すっぱりお断りすべきなのだろうか?
とはいえ王族相手ということもあり、どう対応すべきかいつも悩む。
「……ええと、私はまだ殿下直接の警護担当になっていませんので、こちらに来る機会がなかったもので……。」
「いつ?いつ直接警護の担当になるのですか?」
「そうですね……おそらく近々、そうなるのではないかと……。」
これはあの計画が動けば、実際、そうなるから嘘ではない。
うん、形だけとはいえ俺は婚約もしているんだし、今後、話をする機会が増えるのはこの件の返答をするいいタイミングなのかもしれない。
ただ、そこまでする必要があるのかよくわからなかった。
「本当ですか?」
「はい。」
嬉しそうな顔を見ると早く伝えた方がいいと思うが、王子的にはどこまで考えているのだろう?
恋愛的な感情なのか、ただの贔屓の騎士なのか、それによって対応が変わる訳で……。
「またどこかに行ってしまったりはしないんですね?」
「そう言う予定はないですが、世の中、何が起こるかわかりませんし。」
「サークは、どんどん遠くに行ってしまうので、寂しいです。私の騎士なのに。」
ただの憧れなのか、そういう意味合いがあるのか、王子の顔からはどうしても読めない。
王族という立場上、人に表情を読ませない訓練でも受けたのだろうか?
一見、素直に見える言葉と表情が、俺にはどこかちぐはぐして見えるのだ。
「ご安心下さい。しばらくは御身のお側にいることになると思います。お話しする機会も増えるでしょう。」
「わかりました。では待っています。」
王子は笑った。
でもなんとなくそれは二重にぶれていて、本心なのかよくわからない。
「サーク?」
「いえ、皆を待たせていますので、そろそろ行きますね?」
「私の事もあまり待たせないでくださいよ。」
「はい。では、失礼致します。」
俺は頭を下げて、その場を後にした。
離れて少し頭を整理したかった。
王子の気持ちに嘘があるとは思っていない。
とても素直でまっすぐな方だとは思う。
だが、そこも引っ掛かるのだ。
こんな蛇の巣で生きているのに、何でそんなに純真でいられるのか?
王子が嫌いな訳じゃない。
でも、出会った時から薄々感じていた。
俺はこの人が苦手だと。
その正体は多分この違和感なんだと思う。
そこにいるのに、それが本当かわからない違和感。
これはいったい何なんだろう?
答えはわからなかった。
「それってヤバくない?主?」
「うっせーな、わかってるよ……。」
俺が王宮の出口に向かうとロイさんの姿はなく、ギルとシルクだけが待っていた。
何だか頭がぐちゃぐちゃして、昼飯ついでに飲みたいと言うとギルは別に文句もつけなかった。
ありがたいが、上司としてそれでいいのか?お前?
バーのカウンターに並んで昼食をとりながら、俺はレモン水で割ってある酒をちびちびなめていた。
「何か主の口から飲みたいとか普通聞かないから、何かと思ったけど、ヤバいね、それは。マジでかなり。主、人たらしなのも大概にしろよ。信じらんない。」
なんとなくごちゃごちゃを話すと、シルクは呆れ返ったようにそう言った。
ギルの方は何も言わずに淡々と、軽めの酒を飲みながら聞き流しているようだ。
シルクに至っては、真っ昼間からストレートで飲んでいる。
量はさりげなくギルが調整をかけているので、任せておけばいいだろう。
「だってさ~。王族の王子だぞ?どこまで俺に本気だと思う?ペットか何かだと思ってるかもしれないだろ?」
「そうだとしてもちゃんと言うべき。婚約してるって。ウィルさんに対してだって、失礼じゃんっ!!」
「だよな~。」
シルクからまともな説教を受ける日が来るとは思わなかった。
俺にもよくわからないのだ。
何でこんなに、王子に対して違和感を感じて、そのせいで対応に困るのか。
「王子が嫌いな訳じゃないんだけどさ~。力になってくれるしいい人だよ?素直な人だとも思うんだけどさ~。何か違和感があって、何を考えてるのかわかんないんだよな~。そこにいるのに、それが偽物みたいな感覚って言うのかな?」
ぐたぐた言う俺にシルクは呆れ顔だ。
シルクから見たら、俺が優柔不断な態度をとってるように見えるよな。
「お前の感じている違和感は、多分、間違っていない。」
それまで黙っていたギルが口を開いた。
かたんとグラスを置いて、考えるように前を見ている。
俺とシルクは不思議そうにそれを眺めた。
「あの人にもある種の魔法がかかっている。いや、呪いと言うべきなのか……。」
「なにそれ!?本当に!?」
「ああ。だから俺はずっとそれに向き合うつもりでいた。だが、リオが想いを寄せたのは俺ではなくお前だった。」
ギルは少し不満そうに眉をしかめた。
子供の時から性格も人生観も恋愛観も歪めるほどストーキングしていた相手だ。
思うところがあるのは仕方がない。
それは悪いとは思うが、俺のせいではないはずだ。
「ええと……それは不可抗力で……。」
そうは思っても、なんとなく小声になる。
変な言い訳をしているみたいだ。
ギルは浅くため息をついて、ナッツを口に放り込んだ。
「別にいい。俺もそれがただのこだわりで、恋愛的な意味で本当にリオを心から愛していた訳じゃなかった事がわかったし、だからこそリオは俺を選ばなかったのだろう。」
「ギル、それは浮気宣言?」
それまで黙っていたシルクが、不機嫌そうにギルに顔を寄せる。
ギルは酔っていたのかナッツを口に咥えると、それを口移してシルクに食べさせた。
おいおい、昼間から何やってんだよ、このバカップル……。
目のやり場に困って、俺は顔を背けた。
「浮気じゃないだろう?過去の話だ。俺にはシルク、お前がいる。もうそれに向き合う事はない。」
ギルの態度と言葉にシルクは満足したらしく、ニヤッと笑うとおとなしく席に座り直した。
何だよ、見せつけやがって。
なんとなく腹立たしい。
「お前にシルクがいるって道理なら、俺もウィルがいるんですけど?」
「だとしてもリオの想いがお前に向いていて、そしてお前はその違和感に気づいている。いつかお前はそれに向き合う事になるだろう。」
ギルは相変わらず淡々と言った。
なんとなく話の内容はわかったし少しスッキリもした。
だが、ギルは肝心なところを話していない。
「それって……何なの?」
「……教えてやらん。」
ギルはそう言って、グラスをぐっと空けた。
そして我関せずと言う顔をする。
は!?何だこいつ!?
今さら王子が自分じゃなくて俺に想いを寄せた事の腹いせですか!?
今さら!?今さらですか!?
「酷くないか!?不可抗力って言ってんだろっ!!」
「うるさい。知らん。」
ギルは全く答えるつもりがないようだ。
おい、てめえ、一番重要な部分は教えない気か!?
ギャーギャー俺が喚くが、話は終わったとばかりに、ギルは真顔で串焼きを食べている。
ギルと俺の間に挟まれたシルクが、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。
「ま~、仕方なくない?主?出会う人出会う人、すぐにたらしこむ主が悪いんだよ。よくわかんないけど、たまにはちゃんとその責任とりなね?」
俺がいつ、人をたらしこんだって言うんだよ…。
すっかりギルの味方と化したシルクにそう言われ、俺は腑に落ちないまま、グラスを傾けるしかなかった。
ロイさんの後を追っかけていたら、今度は俺が捕まった。
がっしり腕にしがみつかれ、硬直する。
まずい。
まずい人に捕まった。
「……ど、どうされましたか?我が主、ライオネル殿下…?」
俺はやっとの思いで口にした。
ロイさんが振り返ってこの状況に少し驚いていたが、やがてにこやかに頭を下げた。
「これはライオネル殿下、大変失礼致しました。では、サーク。私は別の用事を済ませて来るので、夜、別宮の正門で落ち合いましょう。では、失礼致します。」
固まって目を泳がす俺に対し、ただゆったりと微笑む。
え?放置ですか!?マジで!?
ロイさんはそう言うと、颯爽と歩いて行ってしまった。
これは……どうしろと!?
俺はそろりと王子を見た。
「あの……殿下、ひとまず離して頂いてもよろしいでしょうか……?」
「……逃げませんか?」
王子が少し怒ったような、拗ねたような顔で俺を見ている。
何で逃げると思われているんだろう?
確かに逃げたいのは山々ですが。
「逃げません。どうされたのですか?」
「あなたがちっとも、顔を見せないからです。私の騎士。」
ぎゅっと俺の腕を掴んだまま、王子が言った。
う~ん、俺は困ってしまった。
殿下と俺の関係って何なんだろ?
何か言われた訳じゃないけど、なんとなく想いを寄せられてるってのはわかる。
けど殿下だって、いくら俺が騎士になったって准男爵の爵位を得たって、基本的には平民の枠から出ていなのだから、王族の王子と一緒にいられないのはわかっているはずなのに。
告白を受けた訳じゃないけれど、すっぱりお断りすべきなのだろうか?
とはいえ王族相手ということもあり、どう対応すべきかいつも悩む。
「……ええと、私はまだ殿下直接の警護担当になっていませんので、こちらに来る機会がなかったもので……。」
「いつ?いつ直接警護の担当になるのですか?」
「そうですね……おそらく近々、そうなるのではないかと……。」
これはあの計画が動けば、実際、そうなるから嘘ではない。
うん、形だけとはいえ俺は婚約もしているんだし、今後、話をする機会が増えるのはこの件の返答をするいいタイミングなのかもしれない。
ただ、そこまでする必要があるのかよくわからなかった。
「本当ですか?」
「はい。」
嬉しそうな顔を見ると早く伝えた方がいいと思うが、王子的にはどこまで考えているのだろう?
恋愛的な感情なのか、ただの贔屓の騎士なのか、それによって対応が変わる訳で……。
「またどこかに行ってしまったりはしないんですね?」
「そう言う予定はないですが、世の中、何が起こるかわかりませんし。」
「サークは、どんどん遠くに行ってしまうので、寂しいです。私の騎士なのに。」
ただの憧れなのか、そういう意味合いがあるのか、王子の顔からはどうしても読めない。
王族という立場上、人に表情を読ませない訓練でも受けたのだろうか?
一見、素直に見える言葉と表情が、俺にはどこかちぐはぐして見えるのだ。
「ご安心下さい。しばらくは御身のお側にいることになると思います。お話しする機会も増えるでしょう。」
「わかりました。では待っています。」
王子は笑った。
でもなんとなくそれは二重にぶれていて、本心なのかよくわからない。
「サーク?」
「いえ、皆を待たせていますので、そろそろ行きますね?」
「私の事もあまり待たせないでくださいよ。」
「はい。では、失礼致します。」
俺は頭を下げて、その場を後にした。
離れて少し頭を整理したかった。
王子の気持ちに嘘があるとは思っていない。
とても素直でまっすぐな方だとは思う。
だが、そこも引っ掛かるのだ。
こんな蛇の巣で生きているのに、何でそんなに純真でいられるのか?
王子が嫌いな訳じゃない。
でも、出会った時から薄々感じていた。
俺はこの人が苦手だと。
その正体は多分この違和感なんだと思う。
そこにいるのに、それが本当かわからない違和感。
これはいったい何なんだろう?
答えはわからなかった。
「それってヤバくない?主?」
「うっせーな、わかってるよ……。」
俺が王宮の出口に向かうとロイさんの姿はなく、ギルとシルクだけが待っていた。
何だか頭がぐちゃぐちゃして、昼飯ついでに飲みたいと言うとギルは別に文句もつけなかった。
ありがたいが、上司としてそれでいいのか?お前?
バーのカウンターに並んで昼食をとりながら、俺はレモン水で割ってある酒をちびちびなめていた。
「何か主の口から飲みたいとか普通聞かないから、何かと思ったけど、ヤバいね、それは。マジでかなり。主、人たらしなのも大概にしろよ。信じらんない。」
なんとなくごちゃごちゃを話すと、シルクは呆れ返ったようにそう言った。
ギルの方は何も言わずに淡々と、軽めの酒を飲みながら聞き流しているようだ。
シルクに至っては、真っ昼間からストレートで飲んでいる。
量はさりげなくギルが調整をかけているので、任せておけばいいだろう。
「だってさ~。王族の王子だぞ?どこまで俺に本気だと思う?ペットか何かだと思ってるかもしれないだろ?」
「そうだとしてもちゃんと言うべき。婚約してるって。ウィルさんに対してだって、失礼じゃんっ!!」
「だよな~。」
シルクからまともな説教を受ける日が来るとは思わなかった。
俺にもよくわからないのだ。
何でこんなに、王子に対して違和感を感じて、そのせいで対応に困るのか。
「王子が嫌いな訳じゃないんだけどさ~。力になってくれるしいい人だよ?素直な人だとも思うんだけどさ~。何か違和感があって、何を考えてるのかわかんないんだよな~。そこにいるのに、それが偽物みたいな感覚って言うのかな?」
ぐたぐた言う俺にシルクは呆れ顔だ。
シルクから見たら、俺が優柔不断な態度をとってるように見えるよな。
「お前の感じている違和感は、多分、間違っていない。」
それまで黙っていたギルが口を開いた。
かたんとグラスを置いて、考えるように前を見ている。
俺とシルクは不思議そうにそれを眺めた。
「あの人にもある種の魔法がかかっている。いや、呪いと言うべきなのか……。」
「なにそれ!?本当に!?」
「ああ。だから俺はずっとそれに向き合うつもりでいた。だが、リオが想いを寄せたのは俺ではなくお前だった。」
ギルは少し不満そうに眉をしかめた。
子供の時から性格も人生観も恋愛観も歪めるほどストーキングしていた相手だ。
思うところがあるのは仕方がない。
それは悪いとは思うが、俺のせいではないはずだ。
「ええと……それは不可抗力で……。」
そうは思っても、なんとなく小声になる。
変な言い訳をしているみたいだ。
ギルは浅くため息をついて、ナッツを口に放り込んだ。
「別にいい。俺もそれがただのこだわりで、恋愛的な意味で本当にリオを心から愛していた訳じゃなかった事がわかったし、だからこそリオは俺を選ばなかったのだろう。」
「ギル、それは浮気宣言?」
それまで黙っていたシルクが、不機嫌そうにギルに顔を寄せる。
ギルは酔っていたのかナッツを口に咥えると、それを口移してシルクに食べさせた。
おいおい、昼間から何やってんだよ、このバカップル……。
目のやり場に困って、俺は顔を背けた。
「浮気じゃないだろう?過去の話だ。俺にはシルク、お前がいる。もうそれに向き合う事はない。」
ギルの態度と言葉にシルクは満足したらしく、ニヤッと笑うとおとなしく席に座り直した。
何だよ、見せつけやがって。
なんとなく腹立たしい。
「お前にシルクがいるって道理なら、俺もウィルがいるんですけど?」
「だとしてもリオの想いがお前に向いていて、そしてお前はその違和感に気づいている。いつかお前はそれに向き合う事になるだろう。」
ギルは相変わらず淡々と言った。
なんとなく話の内容はわかったし少しスッキリもした。
だが、ギルは肝心なところを話していない。
「それって……何なの?」
「……教えてやらん。」
ギルはそう言って、グラスをぐっと空けた。
そして我関せずと言う顔をする。
は!?何だこいつ!?
今さら王子が自分じゃなくて俺に想いを寄せた事の腹いせですか!?
今さら!?今さらですか!?
「酷くないか!?不可抗力って言ってんだろっ!!」
「うるさい。知らん。」
ギルは全く答えるつもりがないようだ。
おい、てめえ、一番重要な部分は教えない気か!?
ギャーギャー俺が喚くが、話は終わったとばかりに、ギルは真顔で串焼きを食べている。
ギルと俺の間に挟まれたシルクが、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。
「ま~、仕方なくない?主?出会う人出会う人、すぐにたらしこむ主が悪いんだよ。よくわかんないけど、たまにはちゃんとその責任とりなね?」
俺がいつ、人をたらしこんだって言うんだよ…。
すっかりギルの味方と化したシルクにそう言われ、俺は腑に落ちないまま、グラスを傾けるしかなかった。
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