欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
64 / 77
第六章「副隊長編」

天国と地獄

しおりを挟む
軽めに事を済ませると、俺は体を起こした。
箱の上で脱力して余韻に浸るウィルは、何とも言えない色気があった。

「大丈夫?」

「ん……。でも、あんまり後ろは煽らないで欲しかった……。」

「何で?気持ち良くなかった?」

ちゃんと中イキさせられたと思ったんだけど、やっぱり太いの入れないと満足できなかったかな?
俺が困った顔をすると、火照った顔でウィルが笑った。

「馬鹿。気持ち良かったから困ってるんだ。」

「どういう事??」

「……。あのさ、俺、午後も馬に乗るんだよ?」

俺は意味がわかって赤面してしまった。
うわ~、つか、そんなウィルを人前にさらすとか、俺、嫌なんだけど……。

「ごめん!魔術で回復かけるわ。少しはマシになると思う。」

「もう少し待って……。このままでいたい……。」

そう言って汗ばんだ顔で微笑むウィルは、艶っぽくてとても綺麗だ。
神様、何でこんな悩ましい人をこの世に生み出したんですか!?
俺、性欲ないけど、ウィルの色気は本当、精神衛生上、良くないよ……。
俺は汗で張り付いているウィルの髪をすいた。
そのまま優しく顔を撫でる。

「今夜、そっちに行ってもいい?」

「……どうしようかな?」

「だって!寮に入ったらそうもいかなくなるんだから!いいだろ?」

「考えておく。」

ウィルは悪戯っぽく笑った。
何か手玉にとられてるよな、俺。
ウィルは俺に溺れそうで怖いって言ったけど、俺の方はすでに溺れて骨抜きなんじゃないかと思った。













「何か、機嫌いいな?」

机に向かっていると、ガスパーが気味悪そうにそう言った。
もう何とでも言ってくれ。

「昼に美味しいもの食べて、少し運動したからさ~。」

「ふ~ん。まぁ、脳筋は体動かさないとパンクするからな。」

「いや、だから俺、脳筋じゃないから。」

ライルさんは今日はお休みだ。
結婚式までもうあまりないし、ガスパーもいるから、気にせず有給を取ってもらった。

「そう言えばガスパーはライルさんの結婚式、来るのか?」

「あ~、声はかけられたけど、行かねぇ。後々、面倒になるとお互いやり辛れぇし。まだ表立った付き合いには早ええからな~。」

どうやら御家関係の問題らしい。
なんでもガスパーの本家の誰かが内定していた職種にライルさんのお父さんがついてから、本家の手前、表向きは一歩置いているんだとか。
本当、貴族って面倒くさいな。

「ふ~ん。何か渡すもんとかあれば、持ってくぞ?」

「ん、頼むわ。」

ガスパーはそう言いながら、眼鏡を外した。
目頭を揉んでいる。

「お前、昼休みちゃんととったのか?」

「とったよ。」

嘘だな、だって書類の整理が終わってる。
何でそんな無理するんだよ?
そんでもって、何でそれを隠そうとするんだよ?
だからと言って、それを指摘するのもガスパーには逆効果だろう。

「ちょっと、ここに座れ。」

「は?」

「いいから座れ。」

俺はデスクチェアーから立ち上がり、無理矢理ガスパーを座らせた。

「おいっ!!」

「いいからおとなしくしてろ。副隊長代理命令だ。」

俺はハンドタオルを二枚、手桶で濡らした。
そして一枚をガスパーの目に、一枚を首もとに当てた。

「おい!?」

「少しおとなしくしてろって。」

俺は魔術で目元のタオルを冷やし、首と肩に当てたタオルを温めた。
ガスパーは俺が何をしているのかわかったらしく、力を抜いておとなしくなった。
だいぶ気の流れも固まってる。

「なぁ、大きい木を思い浮かべろ。」

「は?」

「いいから。木は根から水を吸うだろ?」

「はあ。」

「その水は、葉から蒸発するんだ。」

「だな?それがなんだ?」

「自分が木になって、根から水を吸って、葉から蒸発させてるつもりになれ。」

「なんだそれ??」

「いいから!!」

ガスパーは訳がわからなそうだったが、目元を冷やされ、首もとを温められてリラックスしてきていたのか、おとなしくそれを考えたようだ。
想像力が足りないのか、気に対する鍛練が足りないのか、サムのようにうまくいかない。
だが一応それなりに気の滞りが流れ始める。

「あ~、何か気持ちいいかも。」

「だろうな。お前、めちゃくちゃ気の流れが悪い。お前こそ、もっと体を動かした方がいいぞ?鍛練しろ、鍛練。一応、警護部隊の騎士だろ?」

「どうせやったって、そんな強くなれねぇし。」

「別に剣が強くならなくても、お前はお前の武器があるんだから関係ないだろ?」

俺がそう言うと、ガスパーは黙ってしまった。
しばらく無言のまま、それを続けた。
だいぶ気の流れも良くなる。
全く、休憩を潰してまで仕事すんなっての。

「楽になったか?」

「……ああ。」

「次、休憩とらないで仕事したら、全身マッサージしてやるから、覚悟しろ。」

「何、その脅し、笑うんだけど?」

「あ!?なら全身マッサージしてやろうか!?」

「やめろよ!!馬鹿野郎っ!!」

ガスパーは慌てて俺の手を押し退け、立ち上がった。
顔が真っ赤だ。
思ったより脅しが効いたようだ。
俺は上司ぶって偉そうにガスパーに言った。

「いいな?ちゃんと休憩をとること。」

「わかったよ……。」

なんだかあのガスパーが、しおらしくておかしかった。
そんな事をしていたら、部屋のドアがノックされる。
誰かと思ったら、イヴァンだった。
何の用だろう?
王宮での警護の打ち合わせって、今日じゃなかったよな?

「げっ!!」

何故かイヴァンを見たガスパーが、潰れたカエルみたいな声を上げた。
イヴァンの方はいつもの爽やかな笑顔だ。

「サークさん!お久しぶりです!ガスパーが補佐やってると聞いたので、からかいに来ました。」

おいおい、爽やかな笑顔で言う言葉じゃなくないか?
俺は苦笑した。
イヴァンは今日は別宮勤務らしい。
ギルが王宮の方に行っているから、久しぶりにこっちに来たようだ。
俺が副隊長代理になって、警護なんかの仕事の補佐はイヴァンがやってくれる事になっている。
だから今のところ、ギルかイヴァンのどちらかが王宮に勤務する形をとってる。
事務仕事の流れをやったので、来週辺りから王宮警護の仕事も始まるだろう。
イヴァンには色々と教えてもらう事になるな。

それにしても、だ。
なんだ?イヴァンとガスパーって、何か関係あるのか?
そう言えばいつかの飲み会の時、一緒にきてたよな??

「何?お前ら、知り合い??」

「ちげぇ!親同士が交流があっただけだ。」

「そうなんです。僕とガスパー、幼馴染みなんですよ。」

ほ~う。
幼馴染みとか、そう言うのぶっ込んでくるんだ。
俺は繁々とふたりを眺めた。

「あ、勘違いしないで下さい。ガスパーは僕の守備範囲外です。じゃなきゃこんな長々、幼馴染みじゃないですよ。」

「は!?俺だって、てめえみたいな張り子の偽善者面した奴は趣味じゃねえっ!!」

張り子の偽善者って、いい得て妙だな、ガスパー。
俺は少し笑ってしまった。
そう言われても、イヴァンはにこにこ笑っている。
そして意味ありげにガスパーに笑いかけた。

「でも、好きになる人は少し被る時あるよな?」

「は!?……お前!!まさかっ!!」

「大丈夫!大丈夫!ガスパーの意中の人、僕も多少いいなと思う所はあるけど、面白いから観察専門かな。」

ふ~ん。幼馴染みって何でも知ってるんだな。
つか、ガスパーってまともな友達もいたんだ。
変な仲間とつるんでるイメージが強かったから、何か意外だ。
それにしても……。

「え…!?ガスパーって好きな人、いんの!?」

「ええ。な?」

「お前!!黙れよっ!!」

「凄く無自覚な人で、多分、相手は気づいてないと思いますよ?」

「ええ?何だよそれ?可哀想じゃん?」

「黙れ!!イヴァンっ!!」

「ガスパー素直じゃないもんな?好きなヤツには素直になった方がいいぞ?」

俺の言葉にガスパーは真っ赤になって悔しそうに俯いた。
そしてイヴァンを睨み付けて、グーパンした。
イヴァンは軽く受け流して笑っていた。
ふたりとも、それまで見たことない感じでやりあってる。
何か幼馴染みって感じでいいな。
しみじみそんな事を思っていた俺に、イヴァンが意味ありげに言った。

「サークさんて、残酷ですよね~。」

「は!?何で俺が酷く言われるの!?」

「だって、シルクさんの事といい、他の人といい。僕はサークさんには惚れないようにします。」

「いや、惚れなくていいから。」

何だかよくわからない恋愛話?になってしまった。
ガスパーは可愛そうにソファーで項垂れてる。
こいつ、本当に爽やかな笑顔で、いい性格してるよな……。

「お前、それだけの為に来たのか?イヴァン?」

「あ、そうそう、忘れてました。僕、ウィルさんと同室になりそうなんで、お知らせに来たんですよ。」

そしてイヴァンの口から出た、爆弾発言。
俺は固まった。
は!?
ウィルの同室がイヴァン!?


「そんなの駄目に決まってるだろ~っ!!」


機嫌よく始まった午後は一転、最悪な午後に変わっていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...