欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第六章「副隊長編」

ウィルの決断

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「何で!?嘘だろ!?」

俺は信じられないと言った顔でウィルを見ていた。
ウィルも申し訳なさそうな顔をしている。

大事な話があるから、昼休み初めに会ったあの小屋に来てくれとウィルに言われて来てみれば、衝撃的な事を言われた。
何か俺達の始まりの場所で、こんな事をウィルに言われるなんて思ってなかった。

「何で!?何で相談してくれなかったんだよ!?」

「ごめん。止められたら決心が揺らぎそうで……。」

「何で!?何か嫌だったか!?」

「嫌じゃないよ。どちらかと言うと逆なんだ。だから決めた。」

「そんな……。」

俺はショックで固まっていた。
何で!?何で!?何か嫌だった!?
え?やっぱり、この間、無茶苦茶に抱いたのがいけなかった!?
でもその後はあんな無茶な抱き方はしてないじゃん……。

「ウィル~。もう絶対、酷いことしないから~。お願い~。考え直してよ~。」

「……酷いことって……サーク、お前!!何考えてるんだ!!そんな話はしてない!!」

俺の言う「酷いこと」が何か察したウィルが顔を赤くして怒った。
でも俺はそれどころではない。

「なら何が嫌なの!?何が駄目だった!?」

「だから!!嫌でもないし!!駄目な事もない!!」

「なら何で~!?」

何か幸せの絶頂から突き落とされた気分だ。
泣きたい。

話はこうだ。
ウィルが俺の家を出て、独身寮に入る事を決めてしまった。
何の相談もなく、もう手続きをしてしまったのだ。

「サーク……。この前の騒ぎもある。お前に迷惑はかけられない。」

この前の騒ぎとは、ウィルのファンが押し掛けてきた事だ。
どうやら家も特定されているらしく、待ち伏せ等もあるらしい。
一応身分の高い方々なので、おかしな事はされていないらしいが、ウィルはエスカレートする事を恐れたようだ。
今のウィルは平民で、彼らは貴族だ。
やんわりとお断りしても、立場的には無理強いされたら黙って受け入れるしかない。
確かに襲われてもヴィオールがいるから平気だろうが、相手が相手だ。
怪我でもさせてしまったら大事になる。
独身寮に住んでしまえば、敷地内から出なくて済むので、ある意味安全だと考えたようだ。

「だからって……。何か他にもあっただろ?俺と暮らすの、嫌だった?」

「……嫌じゃない。お前、思ったより全然寮に帰らなくて、こっちで一緒にいることが多くて……。何かその……完全に同棲みたいだろ、今……。嫌なんじゃない。むしろ……その……良かった……。良すぎたんだ。だから決めた。」

「え?どういう事??」

「何か、幸せで!これ以上、一緒にいられない!!俺たち、まだ、その……結婚した訳じゃないんだし……。」

「ならすぐに結婚しようよ!」

「馬鹿か!!そう言う事じゃない!!このままだと、お前に溺れそうで怖いから嫌なんだ!!」

ウィルは真っ赤になっていた。
何だよ、それは??
むしろ歓迎、ドンと来いって感じなんだけど??

「何で?溺れてよ、このまま。」

「嫌だ。」

「何で?」

「……好きになりすぎて、死ぬ。」

「死なれるのは困るけど……。」

「け、結婚、する気なんだろ、俺と。」

「もちろん。」

「なら……ずっと一緒にいる事になるんだよな?」

「そうだよ?」

「……なら、今は……少し時間をくれ。まだ、お前とずっと一緒に暮らせるほど、俺の心臓は強くない。」

ウィルは手で顔を覆ってそう言った。
プシューという音がしそうなほど赤くなっている。
……可愛い。

ウィルの言いたいことは何となくわかった。
わかったら、何かよくわかんないけど凄く恥ずかしいような嬉しいような想いがした。
それがむず痒くて俺は頭を掻いた。

「うん……。わかった……。」

「ありがとう、サーク。……ごめんな?」

「ただし、1ついい?」

「なんだ?」

「俺がウィルと暮らすために家を買ったら、その時は覚悟を決めて俺と住んで。」

俺の言葉にウィルは目を丸くした。
いきなりの思い付きで言った訳じゃない。
俺はじっとウィルを見つめた。

「え!?本気か!?」

「本気。」

ウィルが俺の家に住むようになって、家の中にウィルのものが少しずつ混ざってきたのを見た時、漠然とそれを考えはじめていた。
今の中途半端な同棲とも呼んでいいのかわからない状態ではなく、きちんと一緒に暮らす事を考えた時、俺は家を買おうと思った。
気は早かったかもしれないが、それに向けてきちんとお金を貯めようとしていたところだった。
俺の言葉と真剣さに、ウィルは何も言えなくなって、真っ赤なままあわあわしていた。
そしてその後、また手で顔を覆って項垂れた。

「まだ心の準備が出来てないって言ってるだろ……。」

「俺もお金の準備は出来てないから、それまでにウィルは心の準備をして。いい?」

「………わかった。」

ウィルはそう言った。
そして少し間をおいて、覚悟が決まった様に顔を上げると俺に抱きついた。
ウィルの返事がそれなのだと思った。
だから俺もそれに応え、ぎゅっと抱き締める。
ウィルは腕の中で、恥ずかしそうに目を伏せていた。

「あんまりこれ以上、お前を好きにさせないでくれ……。幸せで頭がおかしくなりそうだ……。」

「なってよ。俺はウィルに関しては、かなり自分が狂ってる自覚があるよ?」

「うん。サーク、たまに怖いよ。」

「え!?ごめん!!気を付ける!!」

怖いと言われ、少し慌てる。
そんな俺をウィルがくすくす笑った。
いつもと違う色の目が、じっと俺を見つめる。

「いいよ。全部受け止める。どんなサークも、俺は愛してる。」

「ウィル……。」

本当、敵わない。
可愛くて男前な俺の恋人。
俺になんかもったいないくらいだ。
何でウィルは俺の事、好きになってくれたんだろう?
幸せなのと不安なのが混ざって、俺はウィルを抱きしめた。
ウィルは宥めるように背中を撫でてくれる。

「なぁ、サーク?」

「何?」

「……いたずらして?」

ウィルが目を細めくすっと笑う。
俺はすぐにその可愛い顔に口付けた。

「ここでそれを言うの?ウィル?」

「ここだから言うんだよ。だって、ここで俺達……。」

俺はそれ以上ウィルに喋らせなかった。
啄んだ唇は柔らかくて気持ちがいい。
ウィルが誘うように口を開くから、そのまま奥まで深く味わう。
ウィルが艶っぽく吐息を漏らした。

「……今日は何をお買い求めですか?お客様?」

俺達は、そんな出会い方をした。
俺は少し笑ってそう尋ねた。
ウィルもおかしそうに笑った。

「あなたを下さい。全部。全部俺に下さい。」

微笑むウィルは幸せそうだった。
そんなのとっくに全部ウィルのものなのに。
俺は答えるかわりに、ウィルを抱き上げ、近くの箱の上にそっと押し倒した。
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