「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第三章「砂漠の国編」

油断

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「おや、サーク。旅は済んだのかい?」

クローゼットからこちらに入った日。
資料館でシルクの魔術について調べていると、館長のロイさんが話しかけてきた。

「いえ、まだなんですけど、調べたい事があって。」

「なんだい?どんな事だい?」

「実は今、一緒に旅をしてる奴がいるんですけど、そいつが全く聞いたことのない魔術をかけられてるみたいで。」

「ふむ、詳しく話してご覧?」

俺はシルクの核のようなものが欠けていること、その為に彼が本来の能力が奪われた事、奪われた時かけられた魔術のようなものの事を話した。

「その子は何者だい?」

「関係あるかはわかりませんが、彼はカイナの民です。演舞を継承しています。」

その言葉に、ロイさんは眼鏡の中の目を見開いた。

「なんと!カイナの!しかも継承者かい!?」

「はい。ただ欠けているせいで本来の力が出せないようです。」

「これはこれは……。」

ロイさんは考え込むように黙ってしまった。
そしてにっこりと笑う。

「サーク、君は本当に面白い巡りを持っているね。」

「巡り……ですか?」

「この魔術の件、私たちに任せてみないか?何、心配は要らんよ。私たちはとても時間があるからね。サーク、君は、君のやるべき事をやっておいで?」

やるべき事が何かはわからなかったが、自分より知己が深い専門家に任せる方がよいことはわかっていた。
それにあまりシルクを放っておく訳にはいかない。

「ありがとうございます。よろしくお願い致します。」

俺はそう言って頭を下げた。







シルクがフラッシュバックから回復した後、俺が町を出ようと提案すると、シルクは断ってきた。

「今、逃げたくない。」

それがシルクの答えだった。
自分で思っているよりも、内なる自分は深く傷ついていて、それがちっとも癒えていないのを自覚したはずだ。
そう話しても、シルクは断ってきた。

「オーナー、俺の欠片、多分、あいつが持ってる。」

シルクは自分の片割れがそこにあることを強く感じたのだという。
欠片がどこにあるかわかったのは良いことだ。
だが、今すぐ取り返さなくてもいいはずだと言ってみたが、シルクは首を縦には振らない。

「あいつの性格は知ってる。今を逃したら、あいつは欠片を隠してしまう。俺に探させるために。」

どうやら決意は硬いようだ。
俺にできるのは、シルクが無理をした時に止め、安全を確保することだろう。

側にいて、フォローする。
側にいて、一緒に戦う。

そして側にいて、駄目な時は嫌がっても連れていくしかない。

そして宿に戻り、今後の為に休息を取らせる。
シルクは気持ちの上では闘志が上がっているが、精神面の奥深くや体力の方はそうはいかない。
とにかく寝る事で混乱した脳の整理も尽くし、体力も回復する。
そう言ってとにかく横にならせた。
寝付けないシルクに眠りの魔術を軽くかけた。
そして今、静かに寝息を立てている。

俺はベッドで眠るシルクを見つめる。

正直、俺自身、不安だ。
シルクの痛みは、俺とシンクロする。

そんな状態で俺自身、その時体が動くだろうか?
そんなことを考えてしまう。

シルクは俺よりずっと傷が深い。
なのにシルクは、俺よりずっと強い。

ただそれはあまりにも儚げで、諸刃の剣のようだ。

「壊れるなよ、シルク。頼むから……。」

俺はそう言って、眠るシルクの頭を撫でた。





シルクが目を覚ました時、サークはシルクのベッドの脇に座り、突っ伏して寝ていた。
それに胸がキュンと温かくなった。

(オーナー……俺が寝てる間、寝ないで起きててくれたんだね……。)

シルクは手を伸ばして、サークの髪に触れた。
本当は触れてはいけない人だ。
でも、今のシルクにはサークしかいなかった。

「オーナー……?起きないと、イタズラしちゃうよ?」

クスリと笑う。
少し固くて癖のある髪を指で絡める。

サークが自分に向けている感情をシルクは理解していた。

信頼だ。

まるで生まれた時から共に双璧を成してきた相棒のような、疑う言葉の意味さえ知らないような、純粋で絶対的な信頼だ。

何故、サークがそこまで自分を信頼しているのか、シルクには全くわからない。
多分それは、シルクがサークに向けている想いを、サークが理解出来ないのと同じだ。

ただ言えるのは、それがサークのシルクに対するある種の愛だと言うことだ。

恋人より先に出会ってたら、俺が恋人になれたのかな?と、そんなことを少し思う。

シルクもわかっていた。

自分の感情が、完全な恋ではないことを。
いや、恋心もなくはないが、今やその大部分は少し違う。

だからこそ、欠片を取り戻さなければならない。

なくても生きていける欠片だが、どうしても取り戻して、サークに想いを告げたい。
サークのシルクに対する愛情が信頼なら、シルクのサークに対する愛の形はもう決まっていた。
それを想い、胸の前で固く拳を握った。

所が突然、グウウウゥゥというおかしな音が響く。

シルクはきょとんとしてその音を聞いていた。
しかしそれが何か理解していたぷっと吹き出す。

「何だよ~。人が珍しく真面目に考えてるのに~。」

シルクは思わず笑ってしまった。
イビキかと思われたそれは、サークの腹の虫だった。
そう言えば、あれから何も食べていない。
シルクはただ愛おしげにサークの髪を撫でた。

「リリちゃん達のご飯、美味しかったな~。」

そう言ってシルクは微笑む。

窓の外を見る。
まだ、昼過ぎだ。

こんな明るい時間から、何か起こることはないだろうと思えた。
気をつければ、食事を買ってくるくらいできるだろうと。

自分の大切な人がお腹を空かせているのだ。
起きたら何かあったら喜ぶに違いない。

「……ちょっと行ってくるね、オーナー。」

シルクはそう呟いて、部屋を出て行った。





サークは寒さで目を覚ました。
砂漠は日が陰るととても冷え込む。

辺りは暗くなっていた。
ハッとした。

「……シルクっ!!」

ベッドを見ると姿がない。
さぁ、っと血の気が引いた。

いつ!?
いつからいない!?

サークは眠ってしまった自分に、堪えがたい憤りを覚えた。
ギリリ、と自分の額に爪を立てる。

ああ、なんて間抜けな役立たずだ……。

間抜けだな、サーク。
何が一緒に戦うだ。

ぬくぬく寝てやがって……。

自分が愚かしく憎くて仕方がない。
過ぎ去った時間の重さが処刑台のギロチンの歯の重さのように感じた。

だが、いるだろう場所はわかっているんだ。
挽回のチャンスをやろう。

てめえを殺すなら、やることをまず終わらせろ。

そう、自分に冷たく言い捨てる。
サークは服を脱ぎ捨て、その手にナイフを握った。
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