欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

思いがけない接触

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俺が裏方などのあいさつ回りをして手伝いなどをしながらちょっとした立ち話をした後、買い出ししようとメインラウンジに向かったら従業員に止められた。
俺がシルキーの付き人である事は半ばバレているので、買い出しで買い物をするとその店が大騒ぎになるのだそうだ。
なので今後は出前をとるか、従業員に頼むかして、目立つ所で買い物するなと言われた。

……なんだかな??
俺の方の行動にも制限がかかってくると、少し面倒くさい。

と言うか、冗談抜きでシルキーが売れすぎて、まずい事になってきた。
ここまで来ると、南の王族の耳にも噂が入りかねない。
少し考えた方がいいかもしれない。

メインラウンジに出られずどうしようかとフラフラ歩いていると、いつの間にかゲストラウンジの方に来てしまった。
自分の来る所ではないなと思い、踵を返そうとしたら、突然誰かに呼び止められる。

「おい、お前。」

何かと思って振り向くと、いきなりドサッと袋を渡された。
びっくりして相手を見ると何とゴードン。
俺とは初対面のはずなので何を渡されたかわからず固まっていると、ギロリと睨まれた。

「……礼も言えないのかお前?付き人の癖に!」

「え?!いや、申し訳ありません。これはいったい……?!」

「お前、シルキーの付き人だろ?さっきメインラウンジに出るのを止められてんのをたまたま見たんだよ。……わかったか?!」

いや、全くわかりません。
しかし、受け取った袋からは良い匂いがしていたので、それが何かはわかった。

「ええと……もしかして、代わりに買ってきて下さったのでしょうか??」

話の流れから多分そうなのだろう。
だが、何で??と言うのが本音だった。

「たまたま見かけたんだよ。それだけだ。意味なんかない。」

「ええと……ありがとうございます??おいくらでしたか??」

どう対応すべきか読めず、俺はそう言った。
そしたらまたギロリと睨まれる。

「お前な?!俺がその程度のはした金を貧乏人から請求すると思うのか?!馬鹿にしやかって!」

「す、すみません。ありがとうございます?!」

何なんだ??いったい??
有り難いんだか有難くないんだか……。
そう思いながらペコペコ頭を下げる。
それに満足したのか、ゴードンは何も言わずに去って行こうとした。

「あ!あの!ゴードンさんですよね?!」

俺が思わず声をかけると彼は立ち止まり、そしてズカズカと怒ったように足音を立てて戻ってきた。
その顔が怖い。

「……何で知ってる?!」

「え?!ええっ?!」

「良いか?!シルキーには絶対言うなっ!!いいな?!」

「ええっ?!」

「返事は『はい』だろうがっ!馬鹿な付き人だなっ!!それでよくシルキーの付き人が務まってんな?!お前?!」

何なんだ、この人?!
口が悪いな?!態度悪いな?!
おまけに威圧的だし?!

……でも。

何だかんだ、俺はこの手のタイプには免疫があるのだ。
副隊長室で毎日の様に馬鹿だ脳筋だと罵られたからなっ!!

だからこのタイプが罵ってくる時のいくつかのパターンの中で、今がどのパターンなのかもわかる。
ちなみに今は、照れ隠しや分が悪いことを隠そうとして威圧してきているパターンだ。

そう考えると可愛いな、この人。
俺はいつもの癖で、つい反射的にちょっとやり返してしまった。

「いつもありがとうございます。ゴードンさん。わかりました。こちらも匿名と言う事で有難くシルキーにお渡しさせて頂きます。」

そう言って深々と頭を下げると、途端に動揺の色が見えた。
俺はとどめとばかりにニッコリと微笑む。

「毎日帰りがけに頂くお花のメッセージをシルキーはとても楽しみにしております。たまには口で伝えてあげて下さいね。」

俺の言葉にゴードンは全く表現のしようのない顔をした。

あ、ヤバイ。
ガスパーのノリでうっかりやってしまった。

あのガーベラのミニブーケ以降、同じような小さな花束が毎日ステージ終わりに届いた。
控室に置いてあったり、帰り支度中に届いたり、前のようにドアマンが慌てて馬車に持ってきたり。

大きな派手な花束に混じるその小さなブーケはかえって目を引いた。
シルキーはいつもそれを手にとり、くすりと笑って「今日は○○だって」と言うのだ。

まぁ、普通、こんながさつな感じのゴードンが花言葉で毎日メッセージを寄越すとは考えないよな。
本人もバレてるとは思っていなかったのか、完全に思考が停止している。

う~ん?どうしよう??
互いに対応に困り、固まる。
ゴードンが大きなため息をついた。

「……シルキーがそう言ったのか?」

「はい。」

「そうかよ……。」

ゴードンは怒ったような顔で少し顔を赤らめ、口元を手で覆っていた。

ウンウン。
嬉しいんですね?

手に取るようにそれがわかり、俺は微笑ましくて思わず笑ってしまった。

「……それ、俺じゃねぇよ。」

「はい。承知しております。」

「本当に俺じゃねぇからっ!!」

「はい。承知しました。」

「だからっ!俺じゃねぇっ!!」

何なんだ、この人。
かなり凄まれて威圧されてるんだが、ガスパーに慣れすぎて感覚が麻痺した俺は全く怖く思えず、むしろあまりの可愛さににやけそうになるのを必死に堪えている。
怒鳴っても蛙の面に水の如くニコニコしている俺を見て、ゴードンはとうとう諦めた。
そして盛大にため息をつくと言った。

「……シルキーは、何て?」

「特には。ただいつも嬉しそうですよ。」

「……その、嫌がったり、未練がましいとかは……?」

「仰ってませんね?たまに口で言えばいいのにとは仰いますけど。」

「ふ~ん……。」

顔を顰め、黙る。

う~ん、喜んでる喜んでる。
あ~、ライルがガスパーをからかうのって、こういう感じなんだな~、確かにこれはやっちゃうな~、何か中毒性があるわ~。

俺はそんな事を思いながら、ニコニコしていた。

「そう言えば、ゴードンさんは花言葉にお詳しいですよね??」

「だから俺じゃねぇから。」

「良ければ教えて頂きたいのですが、婚約者に改めてプロポーズする時は、どんな花が良いですか?」

俺がふとそんな事を聞くと、これまたどう表現したら良いかわからない顔をした。
そして襟首を掴まんばかりの勢いで詰め寄られる。

「お前っ?!まさかっ?!」

「あ、シルキーさんではないですよ?シルキーさんにその手の感情は一切ありません。」

「……そうなのか??」

「はい。今は旅をしていますが、残してきた婚約者に帰ったら改めてプロポーズしたいと思っていまして……。」

「そうか……。」

ゴードンはそう言ってしばらく考えていた。

何だ、何気にいい人だなゴードン。
俺的にはエズラ氏よりゴードンの方が好きだなぁ。

エズラ氏はいい人だし品もあるけど、どこか影があるというか謎があるというか、妙に掴みどころがはっきりしないし。
俺がそんな事を考えていると、ゴードンが口を開いた。

「2度目のプロポーズって事は、結婚したいって事よりも、家庭を作りたい的な感じだよな??」

「そうですね。婚約はしてるんですけど、ずっと一緒に暮らしたいと伝えたいと言うか……。」

「そうだな……アンタの感じから考えて、時期にもよるがいちごの鉢植えとか良いかもな。花言葉的には「尊敬と愛」「幸福な家庭」とかだよ。一緒に育てて実りを見ようとか言ってよ。花束ならあんたはバラよりチューリップとかの方が自然だと思うぞ?」

「……それって、遠回しにバラは似合わないと言われてますか?」

「どう見ても似合わないだろ?あんた。」

まぁ、似合いませんが??
少しムッとした顔をすると、ニヤッと笑われた。
俺にやり返す事が出来て嬉しかったらしい。

それから少しの間、俺はゴードンと軽く立ち話を続けた。
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