欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

件の魔術師

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正直言おう。
俺はパーマーに呆れていた。

何故なら、兵士が俺を見かけてあの時足止めをした魔術師ではないかと疑って話を持っていったのなら、俺はその足止めをした魔術師と言う事になる。
糞バカみたいに強くて冷酷な双剣の踊り手と2人で、王太子の命で出てきた武装した軍とやり合って押し返した魔術師な訳だ。

それを何でこの程度の部隊の兵で捕らえられると思うんだ??

まぁ、慌てて準備が間に合わなくてかき集めて来たんだろうけどさ~。
魔術師を主体に魔術封じを施した上でこの人数ならわかる。
だが連れてきている魔術師は、自分を守らせている2人だけだ。

しかも魔術師2人は、俺の魔術からパーマーたちを守るのが精一杯である。
それでどうやってこの人数で俺を捉えようと思ったのだろう??

え?南の軍人て馬鹿なのか??

いくら魔術が使える人数が世の中に多くなく、軍隊は一般兵メインだからと言って、魔術師を知らなすぎないか?甘く見すぎてないか??
確かに魔術師は普通は非力なものだけど、その分、魔術があるんだぞ??
力だけで考えたら、この人数で簡単に捕まえられるだろうけどさ、魔術を使うんだぞ??隙でもつかなければ無理だろう??
それを堂々と正面突入って、馬鹿なの?!

しかもそれは一般的な魔術師の話だ。
あの足止めをした魔術師を見たなら、兵士はわかっていたはずだ。

俺が普通じゃない事を。

魔術も血の魔術もあるから一般的な魔術師よりも強力だし、何より俺、ガンガンにぶん殴ったり投げ飛ばしたりしてたんだからな。
多分そう報告は受けているはずなのに、そうは言っても所詮は魔術師と高をくくったんだろうな~。

それとも何か?カジノの客とかを人質として使おうと思ったのか??自国の民なのに??他国の俺を捕まえる為に?
あまりに端的で甘すぎる襲撃に、俺はこれが陽動か何かで、別の罠があるのかと勘ぐってしまいそうになった。

「俺は運がいい。王太子のお探しの魔術師がこんなに近くにいたんだからな。」

ニヤニヤ笑ってパーマーは言う。
いや、そのセリフは俺を捕まえてからにしてね?
と言うか連れてきた兵士、全員今、地べたに押し付けられてるんだけど、どうやって俺を捕まえるつもりなんだ??
全くわからない。

「この状況でどうやってお前を捉えるつもりなのだと思っているのか??」

俺の考えを読んだように、パーマーは言った。
余裕そうな表情だ。

やはりこれは陽動で何か手を打ってあるのか……。

俺は少し顔を顰めた。
何をしようと言うのか?
残念だが全くわからなかった。
パーマーは笑った。

「お前は凄い魔術師のようだが、大事なものを人質に取られては、手も足も出ないだろう??ん??」

大事なものって何だ?!
まさか中央王国まで行って誰か拐ってきたのか?!

少しだけ緊張が走った。
だが俺はパーマーの言葉に愕然とした。


「すぐにここにお前の踊り子を連れてきてやるっ!!乱暴にされたくなければおとなしくするんだなっ!!」


……え??


俺は固まってしまった。
え?このジジイ、何て言った??
俺の踊り子を連れてくる??

え??
ギャグだよね??それ??

俺はハッと我に返って叫んだ。
大変な事になった。

「あんた!シルキーを捕まえようとしてるのか?!」

「ああ。もうとっくに捕まって泣いているんじゃないか??」

「何人?!何人兵士を送った?!」

「そんなに心配しなくてもいい。大勢で押しかけても怖がらせるだけだ。見張りなども含めて20人程度だよ。」

「20人?!たった20人?!……良かった~~。」

俺はほっと胸を撫で下ろした。
思わず床に座り込むところだった。

いや、本当に良かった。

20人程度ならすぐに制圧できるから、シルクもバカみたいに殺したりはしないだろう。
シルクを捕らえに行ったなんて言うから、血の気が引いたじゃないか……。

「……は?!たった20人だと……?!」

俺の言葉とあからさまにホッとしているのを見て、パーマーは怪訝そうに言った。

まぁ、うん。
仕方ないから教えてやろう。

「パーマーさんだっけ??あんた、俺が足止めをした話を聞いているなら、その場にもう一人いたのは聞いてないのか??」

その言葉にパーマーは眉を顰めた。
どうやら聞いてはいたが、頭には入っていなかったようだ。
俺の問いに、代わりにオークレーが答えた。

「聞いている。褐色の双剣の剣士と聞いている。」

「ああ、そうだ。ちなみに髪の色は??」

「……あまりの強さで恐怖の方が大きかったのか、はっきりと覚えているものは少ないが、白だと聞いている。」

俺はニヤリと笑った。
パーマーがぎょっとしてオークレーを振り返ったからだ。

褐色の肌で白い髪。
オークレーはどうやら話題の踊り子を知らないらしい。

「オークレーっ!そんな話は聞いていないぞっ!!」

「え?!部下が報告した時にお話したはずです!?」

「いいや!聞いていない!聞いていないぞっ!!何故!そんな重要な事を黙っていたっ?!」

「パーマー大佐っ?!」

どうやら大金星を挙げられそうな報告に有頂天になって、きちんと最後まで話を聞いていなかったのだろう。
本当、ポンコツ上司を持つと大変だよな。

とは言え、シルクが兵士を再起不能までとっちめていないかは心配だ。
発情期の事や傍観者の件で情緒不安定な上、すぐイライラするからな。
早いところ合流した方が良さそうだ。

そう思った俺は手を平行に何かを斬るように素早く動かした。
その瞬間、今まで立っていたパーマーとオークレー、そして2人の魔術師がガクッと膝をついた。
そのまま頭上に上げた手を振り下ろす。
ベチャッと4人が兵士たちと同様に床にへばりついた。

「くっ!クソっ!!なんの真似だっ?!」

「なんの真似も何も、そちらの魔術師の抵抗魔術をぶった斬って、重力魔術をかけただけですが??」

「クソっ!!クソっ!!俺を誰だと思ってるんだっ!!こんな事をしてただではおかんぞっ?!」

パーマーは床にへばりついたまま、ジタバタと文句を言った。
う~ん、全く怖くない。

「何言ってるんです?パーマーさん??俺はその、褐色の肌で白い髪の双剣の剣士と2人で、武装した国軍を退けた魔術師ですよ??この程度の人数、造作もなく殺せますが、カジノにはお世話になりましたからね?その入り口をみっともない老人とそのアホな部下の血で汚したくはないんですよ?こうやって押さえ込んで動けなくしただけなんですから、むしろ感謝してもらいたいですね。」

俺はそう言って少し近づき、パーマーを見下ろした。
苦しいのか悔しいのか、唾液が泡だってジタバタしながら、俺を睨み上げている。

「まぁ、あなたの場合、俺が何もしなくても報いを受ける事になるでしょうから、しばらくそこでおとなしくしていてくれればいいです。」

「クソっ!クソっ!!」

「さて、私はもう行きます。連れがあなたの部下を惨殺してしまっているといけないので……。王宮魔術師が来て解いてくれればいいですけど、解いてくれなくても明日の朝には動けるようになりますから安心して下さい。さようなら。」

俺はにっこり笑いかけると、足早にシルクの元に向かった。










シルクは何かを感知した。

悪意だ。
悪意と殺気がこっちに来る。

こんな意気込んでたらすぐにバレるのに、何で兵士などはそれを隠そうとはしないんだろう??
シルクはどの修行でも、最終的にみっちり教えこまれたのは殺気をどう抑え込んで闘うかだった。

殺気を放てば感づかれる。

動きを読まれる事だってある。
だから徹底して、殺気を殺しながら相手を殺せるくらいになるように教えこまれたのだ。

それが当たり前なのかと思っていたのに、世の中の戦闘方法はそうでなかったのでびっくりした。
う~ん、村の事を思い出すのはいいけど、修行の事はあまり思い出したくないな……。

厳しかった冷酷な鬼の様な自分の師匠を思い出し、シルクはブルリと身を震わせた。
修行は好きだが、演舞継承の為の修行だけはもう二度と味わいたくない。

シルクは何となく状況を把握して、控室にあった荷物を全部持った。
そしてドアを開けた瞬間、奥の方から悲鳴とドカドカと押し入ってくる足音が聞こえた。

足音から言って十数人程度。
気配はもっとあるので、見張りなどに立っているのだろう。

何かえらく少ないな、と思う。
足音はこちらに近づいて来て、悲鳴と暴れまくる音が聞こえていた。

何か乱雑なんだよな~ここの兵士って。

ここのところ、中央王国の無駄に気品と規律に従った小綺麗な部隊しか見ていなかったのでさらにそう思えた。

「いたぞ!!」

そう声が聞こえ指を指される。

え??
俺を捉えようとしてるの??

この程度の兵士で??
この人数で??

「マジか……。」

半ば呆れてしまった。
これぐらいならどうってことないな、殺すと主が怒るから、とりあえずこれ以上被害が出ないように気絶させるか。

そう思った時だった。
兵士たちが急に後ろを見て慌てだした。
そしてこっちに逃げてくる。

逃げてくる?!

何かと思ったら棒やら何やらを持った身なりのいい男たちが、兵士たちを襲っている。
思わずあっけに取られていると、逃げていた兵士をその男たちの一人が追ってきて、シルクの目の前でぶっ叩いた。

「シルキー!無事か?!」

「ゴードンさんっ!!」

そう、押し入ってきた兵士たちを乱暴にタコ殴りにしているのは、ゴードンとその仲間たちだった。
ゴードンはシルキーが無事なのを確かめると、ほっとした顔をした。

「ここは俺達に任せて、さっさと逃げろっ!!」

「でも……っ!!」

正直に言うと、自分がやった方が早い。

それに彼らはこの国の民だ。
多少金持ちだが、軍隊に歯向かった事で何事もなくいられるかわかったものじゃない。
シルクは顔を顰めた。

「平気だって。俺達が暴れて揉め事を起こすなんて、いつもの事だからよ。」

シルキーが何を心配しているのかわかったのか、ゴードンはニッと笑って言った。
そしてポンっとシルキーの頭を撫でた。

「行くんだろ?アイツとまた別の国に。ジプシーだもんな、お前。」

「うん……。」

「なら!さっさと行きなっ!!元気でなっ!!」

奥から見張りなどをしていたらしい兵士が駆けつけて来るが、ゴードンの仲間たちがそれを迎え撃つ。
ゴードンは加勢しようとシルクに背を向け、ちょうど起き上がってきた兵士をまた殴りつて気絶させた。

確かにこれが最後だろう。

シルクは少しだけ気を許して、スッとさり際のゴードンに近づいた。
そしてチュッと頬にキスをする。

途端、ゴードンは真っ赤になって固まった。
たまたま見ていた仲間がヒューヒュー言っている。

「ありがと、ゴードンさん。いつかまた縁があったら会いましょうね?」

最後ならこれ位のサービスは許されるだろう。
シルクはそう言って微笑んだ後、その場を去って行った。
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