欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

地下での聖戦

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主はトルティーヤを買いに行った。
最後に食べたいと自分がワガママを言ったからだ。

主がいると思われるカジノのメインラウンジの方からは、かなりの人数の嫌な気配がある。
遠くから悲鳴も聞こえているので、おそらくもう軍が突入したのだろう。

だとしたらこのまま、メインラウンジに向かっていいのだろうか?

流石に軍が押し入ってきたのなら、主は魔術を使うだろう。
自分の主は、密偵として潜入してるからと言って、逃げ惑う人に紛れて身を隠すような事はしない。

多分、正面から迎え撃っただろう。

まぁこの程度の人数では、主を捉える事など出来ないだろうし上手くやるだろう。
問題は魔術を使う事によって正体が知られる事だ。
そうなるとどうするのが一番いいのか?

「痛っ!!」

そんな事を考えていると、いきなり頭に何か小石の様なものがぶつけられた。
殺気はなかったし敵意があっての事ではないそれに、ムッとしてそちらに顔を向ける。

誰かがこっそり呼び止めるためにやったと思ったのだ。
何か知らせるにしたってこんな方法を取らなくてもいいじゃないかっ!と思う。

だが、次の瞬間、シルクはピクリとも動けなくなった。

突然、全身の毛がゾワッと逆立つ。
シルクでさえ身を凍られるほどの何かがあった。
何かに気づいたのに、それに反応して体を動かす事ができない。


「……見取り図を使え、愚か者。」


凍りついて振り向く事もできない中、ボソリと耳元で声が聞こえた。

その瞬間、弾かれたように体が動く。
もう何とかではなく、思考が頭に達するよりも早く体が反応したのだ。

ガッと相手に殴りかかったが、その腕は空を切る。
シルクが拳を放った時にはもう、その相手はいなかった。
いちおうあたりを見渡すが、影も形もない。

全身に冷たい汗が噴き出している。
シルクは自分を落ち着けるために、ふぅ…と息を吐いた。

殺気も敵意も感じる事はできなかった。
そういったものを出さずに動けるよう、鍛えられた者だ。

「……クッソっ!!」

シルクは奥歯を噛んだ。

悔しくて仕方がない。

悔しくて仕方がないが、確かにその通りだ。
自分はこの後、主が無事に撤退できるよう、退路の確保を始めるべきなのだから……。












サークはひとまず控室の方に行ってみようと思った。

皆避難したのか、人はまばらでたまにスタッフがバタバタしているのを遠目に見かけるくらいだ。
カジノの自前警備隊もちらほら見えるし、少しぐらい軍の残党がいても大丈夫だろう。

そんな事を思って小走りに進んで行くと、いきなり脇から手が出てきて俺を暗がりに引き込んだ。
反射的に反撃したらあっさり受け流され、相手は早口に言った。

「主!俺っ!!」

「何だ、シルクか。」

シルクは少し難しい顔で頷いた。
どうやらもう状況はわかっているようで、荷物を全部持っている。
俺は礼を言って自分のカバンを受け取った。

「主、地下水路は兵がいる。別に倒せない数じゃないけど、あまり接触したくないなら、俺が昨日使ったVIP用の裏口から行った方がいいと思う。」

「お、さすがシルク。退路確認してくれたのか。助かるよ。ありがとな。」

俺はそう褒めたが、シルクは浮かない顔だ。
いつもなら「でしょ~?!褒めて褒めて~!」とか言ってくるのに??
調子が悪いのかな??

「シルク、体調悪いのか??大丈夫か??」

「え?!大丈夫だよ?ごめん、ちょっと考え事してて……。」

「考え事??」

「何でもないよ!個人的な事だから!」

「ふ~ん?それよりお前、兵士が来ただろ?!殺してないよな??」

「殺してないよ?だってゴードンさん達が俺の事、守ってくれて逃してくれたから。」

「へ?!大丈夫なのか?!それ?!」

「う~ん。わかんないけど、自分たちが揉め事を起こすのはいつもの事だから平気って。俺もそこまでしてもらったのに、しゃしゃり出ても悪いから、おとなしく逃げてきた。」

「そうか……。」

ゴードン、自分には何の得もないし、むしろ軍に逆らったのだからまずいことになりかねないのにな。
ちょっとその男気は胸熱だよな。

庇ったのが可愛い踊り子ではなくて、実際は死神に近い踊り手なんだけど。
シルクは思い出したのか、ふふふ~と笑っている。

「お礼にほっぺにチューしてあげてきた!」

「お前な……。」

シルクにとったら、ほっぺにチューぐらいは軽い挨拶なんだろうな~。
ゴードンの心中を慮るよ……。

俺は苦笑いするしかなかった。







シルクの助言を受けて、俺達はVIP用裏口に通じる地下水路に出でた。

パーマーは逃げた時の事を考えて、地下水路にも兵士を少し配置したようだが、流石にこの通路は知らなかったらしい。
兵士は影も形も見えなかった。
このまま礼拝堂から地上に出て、逃走すればいいだろうと言う事で話はまとまる。

無事に礼拝堂にたどり着き、見回りに注意しながら上に上がっていこうと思ったその時、突如として目の前に人影が現れた。

真っ黒い衣装に見を包み、顔も黒い布で覆っている。
開いているのは目の部分だけだが、暗がりでその目すらも見えはしない。

シルクが苛立たしげにチッと舌打ちする。
その人物は、何故か大きなズタ袋を肩に担ぎながら、まるで俺達を待っていたかのようにそこにいた。


「主っ!!下がっててっ!!」


シルクがそう叫んだ。
ドンッと突き飛ばされ、俺は後退った。
シルクの顔のすれすれを投げナイフが掠めていく。

「シルクっ!!」

「手を出さないでっ!!これは俺の問題だからっ!!」

シルクはそう叫んでその人影に向かって行く。

いったいどういう事だろうか?!
シルクははじめから全開のスピードと攻撃性で、相手に飛びかかるように殴りかかった。
しかし相手は重そうな大きな袋を担いでいるにも関わらず、するりするりとそれをかわしていく。

おいおい、嘘だろ?!
あのシルクが本気で向かっていっているのに、遊ばれてるぞっ?!

シルクはとにかく相手にイライラしている。

「その程度か、嘆かわしい。」

「うるさいっ!色々事情があるんだっ!!」

シルクがトップスピードに乗せてフェイントを噛ましながら、懇親の蹴りを打ち出した。
シルクはバネみたいな男だ。
だから速度に乗ったこの蹴りは相当なものだ。

しかし、相手はヒョイッと軽く身をかわすと、大きく距離を取り、担いでいた大きなズタ袋を丁寧に床の隅に置いた。
僅かにできた時間を使い、シルクは俺を振り返って叫ぶ。

「主っ!!何か剣ちょうだいっ!!」

シルクの顔は、今まで見た事がないほど必死だった。

シルクが剣を欲しがるとは余程の事だ。
呆気に取られていた俺は弾かれたように慌てて、無限バックからトート遺跡で見つけて売らずにおいたシャムシールを取り出し投げた。

シルクがそれを掴む。
だが鞘から抜くよりも早く人影が襲った。


「~~っ!!」


間一髪、シルクはすぐに反応して鞘のまま相手の攻撃を受けた。
それは当然の事ながら先程の男で、その手には首刈り釜の様なものが握られている。

シルクのシャムシールよりもずっと湾曲した、円形刀、ショーテルだ。

そしてシャムシールは片刃の刀だが、ショーテルはものによっては両刃だ。
彼の持っている物は両刃らしく、シルクの首を引っ掛けて切り裂こうとした。

「シルクっ!!」

「手を出さないでっ!!」

流石にまずいと思い、俺は魔術を使おうとした。
正直、この2人の間に俺が入っても、かえってシルクの邪魔にしかならない。

しかし離れた場所から魔術でなら手助けが可能だ。
だがシルクは頑なに手を出すなと言う。

そもそも相手は誰なのか?!
そして何故、突然、殺し合いを始めたのか?!

シルクはそれが誰なのかわかっているようだった。

シャムシールの鞘を投げ捨て、シルクは相手に切りかかる。
相手は片手でショーテルを操りそれを受けると、逆の手でシルクに殴りかかった。
シルクはそれを踊るように体を反らせてステップを踏み、それを避る。
そこに畳み掛けるように蹴りが飛ぶが、シルクはそれも飛び跳ねて避けた。
しかしそこにショーテルで切り込まれる。
シルクは力で押され少しバランスを崩したが、シャムシールでそれを受けた。

これが普通の刀だったならそれで問題はない。
しかし相手が使っているのはショーテルなのだ。
ショーテルが刀と思えないほど湾曲しているのには訳がある。
湾曲している事を利用して、攻撃を防ごうと受けた刀や盾越しに、相手を突き刺せると言うものだ。
シルクはそれをわかっていて攻撃を受けたので、腕を伸ばし体はしゃがむようにしたので大丈夫だったが、普通の兵士なら特性を知らずに傷を負っただろう。

俺は言葉が出なくて、じっとそれを見ていた。
あまりの凄さに、目を逸らすこともできないのだ。

シルクは相手の刀の形状を利用して、逆にシャムシールに引っ掛けて奪い取ろうとする。

しかし相手も素早い。
そして体術の技術も半端ではない。

速さと柔軟性を使って手首を回し、シャムシールから刀を外し、難なく抜き去る。
ついでとばかりに蹴りを入れ、それを避けたシルクに逆手で殴りかかる。

唖然とした。
もう、言葉が出なかった。

あまりにレベルの高すぎるその殺し合いは、まるで崇高な祈りの様にさえ見えた。
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