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第八章②「敵地潜入」
ある街のギルドにて
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次のギルドのある街についたのは夕方だった。
レオンハルドさんとシルクが宿を取りに行き、イグナスは何故か俺についてきた。
ギルドを見てみたいとの事だった。
ギルドはそれがある町ごとに特色があり、特に小さな街のギルドはギルドマスターごとにその色がある事などを説明した。
ちなみにシルクはギャーギャー言いながらレオンハルドさんに拉致られて行った。
何だろう?またレオンハルドさん的にシルクは何かやらかしたのだろうか??
謎のカイナの民と言う事もあり、あの師弟関係は物凄く謎である。
「私もギルドに登録できたりするのかな?」
歩きながらやんわりと笑ってイグナスは言った。
その顔をちらりと見る。
とても自然で上品な表情をしているが、何と言うんだろう?
俺から言わせてもらえば偽物っぽい。
いや違うな?やっぱり希薄だ、希薄という言葉が一番合ってると思う。
イグナスはそこにいるのに、自分というものが薄いのだ。
容積に対して密度がないというか。
一人の人間という器の中に、ほんの少しだけの本人がまばらに分散して存在している感じなのだ。
イグナスを何となく苦手に感じるのは、そのアンバランスさが不安定で見慣れないもので、掴み所がなくて不安を覚えるからだ。
シルクはイヴァンに似ていると言ったが、俺的にはライオネル殿下に似ている。
王子が1つの器に対して2つ以上のものが無理やり詰まっていて不安定なのに対して、イグナスは逆にスカスカなせいで希薄で不安定に見えるんだけど。
「どうかな?イグナスは何か得意な戦闘方法とかあるのか?」
「戦闘方法か……。ないね。かろうじて弓でうさぎが狩れるくらいかな?やはり戦えないとギルドには登録できないのかい?」
「戦闘が得意でない者でも特化した技術で登録したりもするけど?踊り子もそうだし、占い師とかテイマーとか。何で?ギルドに入りたいのか?」
「ああ。だって私には何らかの食べていく方法が必要だろ?ギルドの登録があれば、どの分野の仕事でも役に立ちそうな気がしてね。」
なるほど。
確かにどの仕事でも、持っていればいざという時に助かる事は多い。
街で商売をしていても、何かあって街を離れなければならなくなった時でも、ギルドに所属していれば移動中も拠り所があるし、別の町でも再スタートしやすい。
イグナスはどうやら、誰かに頼って生きていくのではなく自分の生活は自分でやって行こうと考えているようだ。
「う~ん。俺はイグナスの事は何も知らないからあれだけど、イグナスなら経済の事とかわかっているし、人との駆け引きもできるから、何かの商人とかが向いてるんじゃないか?商人ならギルドに登録できるし、物によってはギルド商業許可書ももらえるし。……後は、むしろギルド職員になった方が早そうだな。」
「ギルド職員?」
「ああ。ギルドは色んな人が来るし、正直変わり者で癖の強い人間が多い。でもシルクに聞いた感じだと、VIPルームにいた富豪たちも癖が強くて変わり者だったみたいだし、そこで角を立てずに彼らの相手をしていたんなら、ギルドで受付業務とかも上手くこなせそうだと思ってさ。」
「へぇ、それは面白そうだね。」
「でも俺のイグナスのイメージだと、ギルドとかより貴族向けのサロンとかやってそうなイメージだけど。」
「ん~?確かにそれもできなくはないけど、お金持ちの相手はもうお腹いっぱいだよ。できればもう少し肩の力を抜いて生きていきたいんだ。」
そう言ってイグナスは肩をすくめた。
俺はちらりとイグナスを見て、不思議に思った。
「今はいるんだよな~??」
「何がだい?」
「いや、こっちの話。」
イグナスはこうやって話していると、存在がしっかりする事がある。
それはたいてい、自分の意志と意見と言動が全て一致した時だ。
自分がある、そんな感じ。
自分の意志で、自分の意見を、自分の言葉で表現している時、彼はそこにいる。
何か当たり前のようだけど、イグナスにとってそれは当たり前じゃない。
イグナスは常に、周りに溶け込むように、周りが求めるように、そして角が立たないように、そこにいても不自然ではないように、そこにまるでいるけれどいないように振る舞っている。
自分というものを極端に押さえ込んでいるのだ。
今まで生きてくる為にはその必要があったからだろうし、また、辛い体験を思い出さないようにする為に、彼は自分を押し込めていないものとしてしまったのだろう。
全てを諦め、それを受け入れ、ただそこに当たり障りなく存在している人。
それがイグナスのように感じる。
でもこうして話していると、彼自身はまだ完全に消えたわけじゃないとわかる。
「何か、いきなり訳のわからない事になったけどさ。ある意味良かったのかもな。」
俺の言葉にイグナスは不思議そうな顔をした。
「何がだい?」
「イグナスの人生は、まだまだここからって事だよ。過去は変えられないけど、良くも悪くも、何の柵もない土地に来たんだし、やりたい事をやっていいんじゃないか?冒険者でも商人でもギルド職員でも何でもさ。俺は金持ちじゃないから手助けできる事は限られてるけど、できる事なら手伝うしさ。」
イグナスは目を丸くした後、少し苦しげに笑った。
それはおそらく、彼の背負っている何か、一生、彼が背負い続けて向き合っていかなければならない何かの重さを思い出したんだろう。
「いいのかな?それで……。」
「良いか悪いかは誰にもわからないよ。やってみないとそれすらわからないし。とりあえずやってみてから考えればいいんじゃないか?間違ってたら戻ってやり直せばいいんだし。あんま難しく考えなくていいんじゃないか??」
イグナスが俺を見た。
彼はそこにいた。
「そうだね。間違っていたらやり直せばいい。……その時も、私に力を貸してくれるかい?」
すぐに答えられそうな質問なのに、俺は言葉に詰まった。
不思議な感覚。
考えなしに答えてはいけない気がした。
「……わからない。その時、俺がどこにいるかわからないし。できないかもしれない約束は俺にはできない。」
俺の口からはそんな言葉が漏れた。
それは確かにその通りなのだが、それがイグナスに対して正しい答えなのかはわからなかった。
イグナスは笑った。
「……やっぱり、君とはいい友達になれる気がするよ、サーク。」
そしていつものそのセリフだ。
一体何が彼にそう思わせるのか、全く理解できない。
俺は困って頭を掻いた。
「俺にはさっぱり、それが何でなのかわからないよ。イグナス。」
彼の言う「友達」とはいったい何なのだろう?
どういう相手をそう呼ぶのだろう?
「そう言えばシルクが自分は友達と言ってもらえてないって、拗ねてたぞ。」
「ふふふ、それは難しいな。シルキーに対しては私も複雑なんだよ、わかるだろ?」
「まあな~。でもあいつ恋人がいるから、程々にな。」
「恋人もそうだろうけれど、君との絆にはやはりとても太刀打ちできないしね。羨ましいよ。」
「う~ん??確かに絆は深いけど、ただの主従関係なんだけどな??シルクとは??」
「それでも羨ましいよ。」
イグナスがどこにどう、羨ましさを感じているのか今ひとつよくわからない。
イグナスは謎めいている。
とにかくよくわからない男だと俺は思った。
その街のギルドは、何だかアットホームな仕事斡旋所みたいな感じだった。
明るい感じでポップなポスターなんかも貼ってあって、手続きの案内がイラストと文章で書かれて貼ってあったり、「ギルドのススメ!」や「登録してみよう!」や「登録できる職業~職業別クエスト例とオススメ職業~今日からあなたもギルドの仲間!」とかいうパンフレットが置いてあって、ちょっとびっくりした。
イグナスは興味深くそのポスターを眺めて、パンフレットを手に取っていた。
俺はイグナスがそうしているうちに、ギルドカウンターにマダムからの返事が来ているか訪ねる。
「アズマ様……あ!フライハイトのギルドの方ですね?ギルドマスターからこちらが届いています。」
そう言って渡されたのは手紙と通信媒体だった。
通信媒体??
何でこんなものが??
と言うか、何でこんな貴重な物持っているんだ??マダムは??
そしてこれを俺にどうしろって言うんだ??
通信媒体とは、離れた場所の人間と直接あって話すように連絡を取る事ができる魔法結晶だ。
かなり高度な技術と元となる魔石、そして魔力がいる。
ちなみに1回限りの代物だ。
作るコストと難しさに対して一度で壊れるという実用性のなさから、殆ど作られる事はない。
王族たちが緊急用に代々受け継いでいるくらいだ。
俺は恐る恐る、それが入っている箱から魔法結晶を取り出した。
「あ……あ~~、なるほど……。」
俺はそれを魔力探査する事で、それが何故、マダムの手にあったか知った。
それには微かにボーンさんの魔力が残っていた。
流石は物作りの達人ドワーフ。
そして流石は寡黙なるエアーデ。
そのニつが揃ってのこの通信媒体だ。
ボーンさんだからできる技だなと思いつつ、流石のボーンさんもこれを作らされたんじゃ寝込んだだろうなと、酷く気の毒に思った。
レオンハルドさんとシルクが宿を取りに行き、イグナスは何故か俺についてきた。
ギルドを見てみたいとの事だった。
ギルドはそれがある町ごとに特色があり、特に小さな街のギルドはギルドマスターごとにその色がある事などを説明した。
ちなみにシルクはギャーギャー言いながらレオンハルドさんに拉致られて行った。
何だろう?またレオンハルドさん的にシルクは何かやらかしたのだろうか??
謎のカイナの民と言う事もあり、あの師弟関係は物凄く謎である。
「私もギルドに登録できたりするのかな?」
歩きながらやんわりと笑ってイグナスは言った。
その顔をちらりと見る。
とても自然で上品な表情をしているが、何と言うんだろう?
俺から言わせてもらえば偽物っぽい。
いや違うな?やっぱり希薄だ、希薄という言葉が一番合ってると思う。
イグナスはそこにいるのに、自分というものが薄いのだ。
容積に対して密度がないというか。
一人の人間という器の中に、ほんの少しだけの本人がまばらに分散して存在している感じなのだ。
イグナスを何となく苦手に感じるのは、そのアンバランスさが不安定で見慣れないもので、掴み所がなくて不安を覚えるからだ。
シルクはイヴァンに似ていると言ったが、俺的にはライオネル殿下に似ている。
王子が1つの器に対して2つ以上のものが無理やり詰まっていて不安定なのに対して、イグナスは逆にスカスカなせいで希薄で不安定に見えるんだけど。
「どうかな?イグナスは何か得意な戦闘方法とかあるのか?」
「戦闘方法か……。ないね。かろうじて弓でうさぎが狩れるくらいかな?やはり戦えないとギルドには登録できないのかい?」
「戦闘が得意でない者でも特化した技術で登録したりもするけど?踊り子もそうだし、占い師とかテイマーとか。何で?ギルドに入りたいのか?」
「ああ。だって私には何らかの食べていく方法が必要だろ?ギルドの登録があれば、どの分野の仕事でも役に立ちそうな気がしてね。」
なるほど。
確かにどの仕事でも、持っていればいざという時に助かる事は多い。
街で商売をしていても、何かあって街を離れなければならなくなった時でも、ギルドに所属していれば移動中も拠り所があるし、別の町でも再スタートしやすい。
イグナスはどうやら、誰かに頼って生きていくのではなく自分の生活は自分でやって行こうと考えているようだ。
「う~ん。俺はイグナスの事は何も知らないからあれだけど、イグナスなら経済の事とかわかっているし、人との駆け引きもできるから、何かの商人とかが向いてるんじゃないか?商人ならギルドに登録できるし、物によってはギルド商業許可書ももらえるし。……後は、むしろギルド職員になった方が早そうだな。」
「ギルド職員?」
「ああ。ギルドは色んな人が来るし、正直変わり者で癖の強い人間が多い。でもシルクに聞いた感じだと、VIPルームにいた富豪たちも癖が強くて変わり者だったみたいだし、そこで角を立てずに彼らの相手をしていたんなら、ギルドで受付業務とかも上手くこなせそうだと思ってさ。」
「へぇ、それは面白そうだね。」
「でも俺のイグナスのイメージだと、ギルドとかより貴族向けのサロンとかやってそうなイメージだけど。」
「ん~?確かにそれもできなくはないけど、お金持ちの相手はもうお腹いっぱいだよ。できればもう少し肩の力を抜いて生きていきたいんだ。」
そう言ってイグナスは肩をすくめた。
俺はちらりとイグナスを見て、不思議に思った。
「今はいるんだよな~??」
「何がだい?」
「いや、こっちの話。」
イグナスはこうやって話していると、存在がしっかりする事がある。
それはたいてい、自分の意志と意見と言動が全て一致した時だ。
自分がある、そんな感じ。
自分の意志で、自分の意見を、自分の言葉で表現している時、彼はそこにいる。
何か当たり前のようだけど、イグナスにとってそれは当たり前じゃない。
イグナスは常に、周りに溶け込むように、周りが求めるように、そして角が立たないように、そこにいても不自然ではないように、そこにまるでいるけれどいないように振る舞っている。
自分というものを極端に押さえ込んでいるのだ。
今まで生きてくる為にはその必要があったからだろうし、また、辛い体験を思い出さないようにする為に、彼は自分を押し込めていないものとしてしまったのだろう。
全てを諦め、それを受け入れ、ただそこに当たり障りなく存在している人。
それがイグナスのように感じる。
でもこうして話していると、彼自身はまだ完全に消えたわけじゃないとわかる。
「何か、いきなり訳のわからない事になったけどさ。ある意味良かったのかもな。」
俺の言葉にイグナスは不思議そうな顔をした。
「何がだい?」
「イグナスの人生は、まだまだここからって事だよ。過去は変えられないけど、良くも悪くも、何の柵もない土地に来たんだし、やりたい事をやっていいんじゃないか?冒険者でも商人でもギルド職員でも何でもさ。俺は金持ちじゃないから手助けできる事は限られてるけど、できる事なら手伝うしさ。」
イグナスは目を丸くした後、少し苦しげに笑った。
それはおそらく、彼の背負っている何か、一生、彼が背負い続けて向き合っていかなければならない何かの重さを思い出したんだろう。
「いいのかな?それで……。」
「良いか悪いかは誰にもわからないよ。やってみないとそれすらわからないし。とりあえずやってみてから考えればいいんじゃないか?間違ってたら戻ってやり直せばいいんだし。あんま難しく考えなくていいんじゃないか??」
イグナスが俺を見た。
彼はそこにいた。
「そうだね。間違っていたらやり直せばいい。……その時も、私に力を貸してくれるかい?」
すぐに答えられそうな質問なのに、俺は言葉に詰まった。
不思議な感覚。
考えなしに答えてはいけない気がした。
「……わからない。その時、俺がどこにいるかわからないし。できないかもしれない約束は俺にはできない。」
俺の口からはそんな言葉が漏れた。
それは確かにその通りなのだが、それがイグナスに対して正しい答えなのかはわからなかった。
イグナスは笑った。
「……やっぱり、君とはいい友達になれる気がするよ、サーク。」
そしていつものそのセリフだ。
一体何が彼にそう思わせるのか、全く理解できない。
俺は困って頭を掻いた。
「俺にはさっぱり、それが何でなのかわからないよ。イグナス。」
彼の言う「友達」とはいったい何なのだろう?
どういう相手をそう呼ぶのだろう?
「そう言えばシルクが自分は友達と言ってもらえてないって、拗ねてたぞ。」
「ふふふ、それは難しいな。シルキーに対しては私も複雑なんだよ、わかるだろ?」
「まあな~。でもあいつ恋人がいるから、程々にな。」
「恋人もそうだろうけれど、君との絆にはやはりとても太刀打ちできないしね。羨ましいよ。」
「う~ん??確かに絆は深いけど、ただの主従関係なんだけどな??シルクとは??」
「それでも羨ましいよ。」
イグナスがどこにどう、羨ましさを感じているのか今ひとつよくわからない。
イグナスは謎めいている。
とにかくよくわからない男だと俺は思った。
その街のギルドは、何だかアットホームな仕事斡旋所みたいな感じだった。
明るい感じでポップなポスターなんかも貼ってあって、手続きの案内がイラストと文章で書かれて貼ってあったり、「ギルドのススメ!」や「登録してみよう!」や「登録できる職業~職業別クエスト例とオススメ職業~今日からあなたもギルドの仲間!」とかいうパンフレットが置いてあって、ちょっとびっくりした。
イグナスは興味深くそのポスターを眺めて、パンフレットを手に取っていた。
俺はイグナスがそうしているうちに、ギルドカウンターにマダムからの返事が来ているか訪ねる。
「アズマ様……あ!フライハイトのギルドの方ですね?ギルドマスターからこちらが届いています。」
そう言って渡されたのは手紙と通信媒体だった。
通信媒体??
何でこんなものが??
と言うか、何でこんな貴重な物持っているんだ??マダムは??
そしてこれを俺にどうしろって言うんだ??
通信媒体とは、離れた場所の人間と直接あって話すように連絡を取る事ができる魔法結晶だ。
かなり高度な技術と元となる魔石、そして魔力がいる。
ちなみに1回限りの代物だ。
作るコストと難しさに対して一度で壊れるという実用性のなさから、殆ど作られる事はない。
王族たちが緊急用に代々受け継いでいるくらいだ。
俺は恐る恐る、それが入っている箱から魔法結晶を取り出した。
「あ……あ~~、なるほど……。」
俺はそれを魔力探査する事で、それが何故、マダムの手にあったか知った。
それには微かにボーンさんの魔力が残っていた。
流石は物作りの達人ドワーフ。
そして流石は寡黙なるエアーデ。
そのニつが揃ってのこの通信媒体だ。
ボーンさんだからできる技だなと思いつつ、流石のボーンさんもこれを作らされたんじゃ寝込んだだろうなと、酷く気の毒に思った。
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