欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

主と従者と絆

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酷い目にあった……。
俺とシルクはげっそりした顔で項垂れた。

「主……。」

「何だよ……。」

「俺、究極の選択で船に乗るかヴィオールに乗るかって聞かれたら、ヴィオールに乗る……。」

シルクがそう言うのも無理はない。
俺は別にヴィオールに乗るのは平気だが、海の船には二度と乗りたくない。

レオンハルドさんが南の国を出るのに使ったのは陸路ではなくなんと海路だった。
協力者が各地の港に寄りながら西の国に行くのに同行させてもらったのだ。

一応、港にも兵は来ていたが、荷運びに化けていたらあっさり出港できてしまった。
海路は現在西の国にしか通じていないし、国境を越えれば東の国だってのにわざわざ遠回りをして海路を使うとは思わなかったのだろう。
警戒は手薄になっていたようだ。

それにまぁ、実際、荷運びと疑われないほど、きっちり荷持を運んだんだけどさ。
あんだけガンガン荷物運んでたら、まさか「探している魔術師」とは思わないよなぁ。
海の男達は日焼けして肌が黒いので、シルクもバンダナを巻いて髪を隠してしまえば、殆ど違和感がなかったし。

ちなみにイグナスはまだ素性がバレていないので、船主の知り合いのお坊ちゃんが交易の社会勉強で乗せてもらうという設定で、レオンハルドさんに至ってはその執事として乗った。
シルクは文句を言っていたが、俺は見慣れた憧れの執事さんスタイルを早々に拝む事ができ、大変眼福であった。

とは言え、船旅は大変だった。
東の国で船には乗り慣れていたから何て事ないと思っていたが、海は違う。

揺れる。
変な風に揺れる。
容赦なく揺れる。
ぐわんぐわんする。

俺とシルクは速攻、船酔いしてゲーゲー吐いた。
イグナスは富豪達の舟遊びに度々ついて行っていたので慣れていて、海が荒れた時多少気分が悪くなる事はあっても、俺とシルクの様に地獄を見る事はなかった。

レオンハルドさんは「どんな状況でも主を守れる様でなければ半人前どころか味噌っカスだ!どんな手段でも主を守る為に利用できなくてどうするっ?!」とシルクをドヤしていた。
当のシルクは白目になっていて、全く耳に入っていなかったけれども……。

回復を使ってはまた酔って、回復を使ってはまた酔っての繰り返しで本当に酷い目にあった。

数日後、やっと陸地に足をついた。
俺は知らなかったのだが、中央王国にも港があって、そこで降りたのだ。

正式には西の国の港なのだが、中央王国との堺付近にあるので、南の国から海路で中央王国に運ぶものはここで下ろすのだそうだ。

とにかく舟を降りれて良かったとホッとするも、何だかまだぐらぐら揺れている気がする。
陸に上がってもフラフラする俺とシルクをイグナスは苦笑し、レオンハルドさんは呆れていた。

そこからは歩きだ。

地面最高。
地震でも起きない限り揺れない安定感。
涙が出るほど安心感が半端ない。

まずは一番近い中央王国の街のギルドに寄り、俺はマダムに連絡を頼んだ。
一緒にノルにも手紙を書いて出した。

街につく頃にはふらつきは取れていたのだが、正直、船を降りたその日はそれが限界で、宿をとって休ませてもらった。
我ながら情けなかったが、こればっかりは仕方がない。

シルクは珍しくその日は肉を食べたがらなかった。
まぁ、肉でなくともあまり食べれる感じではお互いなかったのだけれども。

船酔いで抑制剤も吐いていたので心配したが、究極的に体調が悪くなると身体は回復が優先されるらしく、発情期は遅れているみたいだと言っていた。
栄養失調でも起こらなくなっていたし、発情期というものはどうやら健康な時にしか起こらないらしい。

考えてみれば生殖本能は種を残そうとするものなのだから、健康でなければ止まったり遅れたりするのだろう。
女性の月経に近いのかなとも思う。
体内のホルモンバランスのが関わっているなら、定期的にシルクのホルモンバランスの変化や体温を記録できれば何らかの解決の糸口が見つかるかもしれない。

とは言っても、ギルに会えればもうその心配はないのだけれど。
一応と思って、その日のシルクのデータは測らせてもらった。

次の日には流石に体調も戻り、俺達は王宮都市に向けて出発した。

本当、陸路はいい。
揺れないし、地面最高っ!

イグナスがついてこられるか心配だったのだが、元々は平民として南の内陸地に住んで畑なども手伝っていたので、足腰はそれなりにしっかりしていた。
とは言っても、演舞継承者2人とあちこち旅で歩き回ってる俺とでは全くスタミナが違うので、途中でロバを買って疲れたら乗ってもらう感じになった。

「そう言えば、演舞って踊りが一つじゃないんだな?」

俺はレオンハルドさんがイグナスの乗ったロバを引きながら歩く後ろでシルクに聞いた。
するとシルクはぽかんとして、俺の顔を覗きこんだ。

「一つじゃないって……主、何言ってるの??」

「へ??だってお前とレオンハルドさんの演舞、違ってたじゃないか??」

シルクはますます怪訝な顔をした。
そして言った。

「主、演舞って、何で演舞って言うか知ってる??」

今度は俺がぽかんとする番だった。
何で演舞って言うか??
どういう事だろう??

「踊ってる様に見えるからだろ??違うのか??」

「ん~、半分正解。演舞ってさ、その使い手ごとに違うんだよ、踊りが。違うと言うか、自分の踊りを完成させてこそ、使い手が名乗れるんだよ。自分の踊りがあるから、演舞は使い手じゃなくて踊り手って表現するんだ。」

「へっ?!そうなのか?!」

「うん。型とか技とかはあるよ?それを一個一個クリアして、最終的には自分の踊り、つまり自分だけのスタイルを獲得しなきゃ駄目なんだよ。全部の型、全部の技、自分の踊り、それが揃って初めて踊り手が名乗れる。そして踊りは自分の特性に合わせて作らないと結局は実践で使い物にならない。息をするように自分の演舞が使えなかったら意味ないもん。そう言うのを全部極めて、さらにその作り上げた演舞が最強と言える域まで来なければ、継承までは行かないんだよ。」

俺はびっくりしすぎてぽかんとしてしまった。
何かこういう物って、ある決まった型をそのまま継承されて行くものなんだと思っていた。
多分、型とか技とかはそのまま継承されているのだろうが、演舞そのものは常に違うスタイルで継承されているのだ。

「……何で??」

「ん~?一つは多分、個人個人、生まれ持った能力や得意な部分が違うからじゃない??例えば俺は速さがあるからそれを活かしての踊りを作ったけど、師父は俺より筋力が強いから俺よりは重い踊りをするだろ?俺が師父の演舞をそのまま継承したって強くはなれないよ。俺は見ての通り、生まれつき細っこかったからパワーを重視しても勝てないもん。だからその分、早く鋭く柔軟に動いて、確実に急所をつくように鍛錬したんだよ。」

なるほど、ととても感心した。
もしも同じものを伝えていくだけなら、同じ特性の人間しか引き継げなくなる。
とはいえ、さらっと速さで確実に急所をつくとか言っちゃうのは怖いんだけどさ。

「もう一つは、真似させない為って言われてた。見様見真似で演舞を盗ませない為だって。演舞はさ、それだけ危険な武術なんだよ。だから村も隠されていたんだし。演舞をなくさないように守っても来たけれど、それは世の中に広まって悪用されないように守ってもいたんだよ。」

「……そうか。」

俺はさらさらと村の話をしてくれるシルクを見て、少し嬉しかった。
今まで何となく演舞や村の事は聞いてはいけない事のようなところがあり、お互い無意識にタブー扱いしていた。
それを何かあっけらかんと話してくれた事が嬉しかった。

「ありがとな、教えてくれて。」

「何だよ、改まって。変なの~。」

シルクは少し照れているのか、軽い感じで誤魔化した。

色々あったし中々前に進めない事も多かったけど、それでもゆっくり、ジタバタもがきながら俺達のペースで成長している。
何となくそう思った。

カイナの民の主として、主を持ったカイナの民として、俺達は並んでゆっくり成長している。
はじめは友達感覚でしかなかったけれど、俺もシルクの主として少しは成長できただろうか?

「ゆっくりでいいさ、シルク。俺達には俺達のペースがあるんだ。焦らなくていい。確実に一歩一歩、進んでいけばいい。そうだろ?」

俺がそう言うと、シルクは一瞬、言葉を詰まらせて目元を赤らめた。
俺が何を言いたいのかわかったからだ。
シルクは黙ってしまって俯いた。

「………主の馬鹿。」

「はいはい。」

「本当、ずるい。」

「はいはい。」

「……でも大好き!」

「そこはお前……いつも通り『大嫌いだ~!』て言ってくれる?!調子狂うじゃんか!!」

顔を上げたシルクは、何か吹っ切れた様に笑っていた。
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