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第八章③「帰国裁判」
狂気のその先
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「随分と調べ上げたな、小僧ども……。ならばこの国にはもう、あまり未来が残されていない事もわかっておろう……。」
片手で顔を覆い、手の隙間から見せるフレッチャー公爵の目はすでに狂っていた。
笑う事を止めたにも関わらず、その顔は広角を上げたままこわばり付いている。
グレイさんがちらりと上を見た。
国王は後ろに下がっていて、前にはフレデリカさんとボーンさんが双璧のように立っている。
「どうするつもりです?フレッチャー公爵。今はまだ、私の罪に対する裁判中。事を急ぐ必要はないのでは?」
「何を言う?ここまでしておきながら、おとなしくこの裁判を終わらせろと?これが終われば我らの立場がどれほど危うくなると思っている?!このままでは終わらせられぬっ!!全く余計なことを!これだから政治を知らぬ若造は嫌いなのだっ!!」
「それは違う。ガスパーは全てわかっていた。その上であえて政治ではない方法でこの裁判を進めたのだ。あなたもわかっているはずだ。我々がこの裁判をする事で何を行おうとしているのか。」
「なるほど……端からそこまでするつもりで準備していたのか……。小汚い移民の平民と青臭い若造の集まりだと思って油断したわ……。まさかラティーマーの神童が健在だとは思わなかったわ……。」
「……お言葉ですが、フレッチャー公爵。これは私一人で成し得た事ではありません。グラント隊長をはじめとした皆が一丸となって得た結果です。そして何より、アズマ・サークの人徳の致す所。あなたは、敵にまわすべきでない男を敵としたのです。」
「……この、何の特徴もない男に……まさかここまで追い詰められるとは思わなかったわ……。」
ガスパーしか見ていなかったフレッチャー公爵がちらりと俺を見た。
そんなに俺って特徴がないのか……。
場違いだがちょっとショックだ。
フレッチャー公爵は上を見上げた。
第二王子を見、そして最上階のテラスを見た。
「残念だよ、ジョシュア。もう少し長生きさせてやりたかったんだがね……。」
フレッチャー公爵がそう言ってニタリと顔を歪ませた瞬間、突然、大きな爆発音があちこちから響いた。
そして悲鳴の上がる法廷内に、無数の兵士が乱入して来る。
兵士だけではない。
魔術師も何人か混ざっている。
俺はすぐ様、飛ばしておいた虫たちを要に結界を張って、傍聴席並びに陪審員席を守った。
魔術師が何かガスのようなものを発生させて人々に向けたが、そのお陰で誰も巻き込まれずに済む。
それでも場は混乱を極めた。
緊張とただならぬ緊迫感が溢れていた。
「……クーデターだっ!!」
傍聴席の誰かが叫んだ。
警備員達が何とか侵入を防いでいるが、審議場は取り囲まれている。
国王や王子たちのテラス席にはまだ兵は現れていないが、下から魔術師と弓兵が狙いを定めている。
法廷内は騒然となり、傍聴席では出口を塞がれた事で皆、立ち上がって中心に集まり始めた。
それを守るように潜んでいたギルを始めとする第三別宮警護部隊員たちが外側に立つ。
フードの者達は、壁際に均等にバラけていて、おとなしく手を上げて降伏を示していた。
「……エイモス叔父貴、どうしてもそうされるのですか?今ならまだ間に合います。どうか降伏なさってはくれまいか?」
フレデリカさんたちの後ろから、ジョシュア国王がフレッチャー公爵に呼びかける。
しかし正気を失ったようなフレッチャー公爵はそれに従ったりはしなかった。
「その言葉はそのまま返そう。降伏すればこの場で手荒な真似はせぬ。確かに裁判に対する準備は我々は甘かったであろう……。だが、これに関してはもう随分と長い時間をかけて準備してきたのだよ、ジョシュア。それが今日になってしまった事はとても残念に思うがね?だがここにお前も王子達も皆揃っている事を考えれば、かえって都合が良かったやもしれぬ……。」
外の方でも、クーデターは進んでいるのだろう。
大きな爆発音や争う声がここまで響いている。
「どうしてもやめて下さらないのですね?エイモス叔父貴……。」
「安心するがいい。お前を殺してもこの国を滅ぼしたりはせぬ。早目に代替わりをしてもらうだけだ。第二王子にな……。」
王子達がいる下段のテラス席にも、兵士が入ってきていた。
それぞれの警護部隊、並びにロイヤルガード達が守るべき対象を囲み、警戒している。
第二王子はクーデターの事は知らなかったのか、困惑した顔で状況を見ていた。
「……で?つまりこれは、国に対する反逆行為が行われてる真っ最中って事でいいのかい?ジョシュア??」
突然そこで、マダムが面倒臭そうに言った。
こんな状況なのに、全くブレないのは流石だなぁと思う。
「どうやらその様だよ、スカーレット。」
「ふ~ん。全く面倒くさいねぇ。」
いきなり割って入られ、フレッチャー公爵は苛立った様にマダムを睨む。
飛び出しそうな目玉がぎょろぎょろしていて気持ち悪い。
「……何だ、貴様は?!」
「何だとはご挨拶だね?フレッチャー公爵。自分の領土のギルドマスターの顔も知らないのかい??税金むしり取ってる癖にさ。」
「……ギルドマスターだと?!」
「あぁでもうちは今、所在地政府離脱権限を施行中だからね。あんたが知っていようが知っていまいが、こちとら独立国家同然なんだよ。そんな訳で、あたしらはこの国のあれやこれやに色々従う必要はない訳さ。だから好きにさせてもらう。」
「まさか貴様……?!」
「そのまさかさ。今回うちは、中央王国に喧嘩を売りに来たんだよ。適当な事をやってやがるから軽くシメてやろうと思ってね。全く、国王の癖に自国を危機に晒すなんて呆れて物も言えないよ。まぁだからギルドには所在地政府離脱権限があるのさ。王や貴族達の好き勝手で国を滅ぼさせない為にね。……野郎ども!やっちまいなっ!!」
マダムがそう叫ぶと同時に、手を前に振り、ゴーサインを出した。
その瞬間、フードを被っていた冒険者達が一斉に兵士たちに襲いかかる。
同時にフレデリカさんが杖を掲げて、外に向けて合図を放った。
パンパンと花火が上がる音がする。
わあぁぁと声が上がっているところをみると、外でも似たような事が起きているようだ。
冒険者たちは数は少なくとも、ひとりひとりの能力が高いし、臨機応変にチームで対応できる。
その上、法廷内に入れたのはマダム選りすぐりのメンバーだ。
いくら数がいようとも、兵士たちが敵う相手ではない。
それに、だ。
ギルやライル、ウィルやシルクに加えて、とてもにこにこ優雅に微笑みながら、レオンハルドさんが加勢している。
う~ん、やっぱり格好いい……。
片手で遊んでいるだけって感じがたまらん……。
冒険者の皆も、ちょいちょいっと片手間にバッタバッタと兵士をのしていくレオンハルドさんに目が点になっていた。
かたや魔術師達はどうやら西の国の雇われ魔術師のようで、その多くが杖ではなく指輪などの装飾品を用いて魔術を使っていた。
そうだよな~、魔術本部に属しているような正規登録魔術師はこのクーデターには参加しないもんな~。
俺はそう思いながら、冒険者の魔術師が彼らの指輪などを奪い取るのを魔術で補助した。
「そんな……っ?!」
フレッチャー公爵は憮然と立ち尽くしている。
状況があからさまに悪いのは、だれが見ても一目瞭然だ。
まさか長年かけて準備してきたのに、兵士をならず者と見下していた冒険者たちに倒されるとは思わなかったよなぁ……。
粗方、内部の兵士は彼らに取り押さえられてしまった。
上を見上げれば、王子達の所にいた者達は状況を見てロイヤルガード達に降伏して膝をついている。
まぁ無駄に騒いでも勝ち目はないし、降伏した方が後々、有利になるもんな。
「……残念でしたね、フレッチャー公爵。まさかギルドがあなたの前に立ちふさがるとは思いもしませんでしたよね?あなたは身分の低い者は、人間として数えていませんから。それが裏目に出たと言う訳です。」
よもや人間の風貌をしていないフレッチャー公爵に、俺はそう声をかけた。
貴族以外は数に数えていない。
だから俺の事も目に入らないでガスパーばかり見ていたし、有力貴族を抑えて兵士をある程度自由にできれば何の問題もないと思っていたのだろう。
「……ああ、外からの援軍や救助は期待されない方がいい。誰も貴方を助けには来ませんよ??」
「馬鹿な……っ?!」
「今日はニール総元帥が国軍を大々的に訓練しているって言う話、もしかして信じてましたか?」
「……まさか!」
「ええ、あれは皆さんを油断させる罠です。国軍の多くはこの街に残っていますし、朝方外に出たニール総元帥の一団も、訓練ではなくこの王宮都市を囲んで、この国から逃げようとする親南派の皆さんを捉える為に待ち構えているところです。そして、王宮内に残る連絡係等の貴族の皆さんも、この国の一番の毒蛇であるラティーマーに睨まれている頃だと思いますよ?」
「……そんな……馬鹿な……。」
「長い時間をかけてご準備されていた様ですが、こちらもこうすると決めた段階でこうなる事も視野に入れて動いていました。貴方は、ガスパーがラティーマーだとわかった段階で何も考えなかったのですか?彼の叔父が現宰相である事を考えれば、迂闊に動くのは危険だと思わなかったのですか?我々に煽られて正常な判断が出来なかったのだとしたら、それは私の参謀の作戦勝ちと言う事ですよ……。」
俺の言葉に、後ろにいたガスパーがピクッと震えた。
あ、ヤバイ。
今、うっかり「我々の」じゃなくて「私の」って言ったわ、俺。
俺は振り向かなかったけれど、たぶん、真っ赤になってるんじゃないかなと思う。
ごめん、ガスパー、変な事言ったわ……。
後で訂正するから許してくれ………。
今ここで訂正するのは流石に流れを壊すので言うに言えず、ちょっと俺も恥ずかしくなった。
しかしそんな俺の話にフレッチャー公爵はすでに反応を示さず、カクンとひざをついた。
瞬きもせず呆然と何かを見ている。
ミード伯爵は完全に自我が崩壊したかのように焦点の合わない目をし、メートランド子爵はガタガタと震えているだけだった。
やっと長かった裁判の終わりが、俺の逃亡劇の終わりが見え始めていた。
片手で顔を覆い、手の隙間から見せるフレッチャー公爵の目はすでに狂っていた。
笑う事を止めたにも関わらず、その顔は広角を上げたままこわばり付いている。
グレイさんがちらりと上を見た。
国王は後ろに下がっていて、前にはフレデリカさんとボーンさんが双璧のように立っている。
「どうするつもりです?フレッチャー公爵。今はまだ、私の罪に対する裁判中。事を急ぐ必要はないのでは?」
「何を言う?ここまでしておきながら、おとなしくこの裁判を終わらせろと?これが終われば我らの立場がどれほど危うくなると思っている?!このままでは終わらせられぬっ!!全く余計なことを!これだから政治を知らぬ若造は嫌いなのだっ!!」
「それは違う。ガスパーは全てわかっていた。その上であえて政治ではない方法でこの裁判を進めたのだ。あなたもわかっているはずだ。我々がこの裁判をする事で何を行おうとしているのか。」
「なるほど……端からそこまでするつもりで準備していたのか……。小汚い移民の平民と青臭い若造の集まりだと思って油断したわ……。まさかラティーマーの神童が健在だとは思わなかったわ……。」
「……お言葉ですが、フレッチャー公爵。これは私一人で成し得た事ではありません。グラント隊長をはじめとした皆が一丸となって得た結果です。そして何より、アズマ・サークの人徳の致す所。あなたは、敵にまわすべきでない男を敵としたのです。」
「……この、何の特徴もない男に……まさかここまで追い詰められるとは思わなかったわ……。」
ガスパーしか見ていなかったフレッチャー公爵がちらりと俺を見た。
そんなに俺って特徴がないのか……。
場違いだがちょっとショックだ。
フレッチャー公爵は上を見上げた。
第二王子を見、そして最上階のテラスを見た。
「残念だよ、ジョシュア。もう少し長生きさせてやりたかったんだがね……。」
フレッチャー公爵がそう言ってニタリと顔を歪ませた瞬間、突然、大きな爆発音があちこちから響いた。
そして悲鳴の上がる法廷内に、無数の兵士が乱入して来る。
兵士だけではない。
魔術師も何人か混ざっている。
俺はすぐ様、飛ばしておいた虫たちを要に結界を張って、傍聴席並びに陪審員席を守った。
魔術師が何かガスのようなものを発生させて人々に向けたが、そのお陰で誰も巻き込まれずに済む。
それでも場は混乱を極めた。
緊張とただならぬ緊迫感が溢れていた。
「……クーデターだっ!!」
傍聴席の誰かが叫んだ。
警備員達が何とか侵入を防いでいるが、審議場は取り囲まれている。
国王や王子たちのテラス席にはまだ兵は現れていないが、下から魔術師と弓兵が狙いを定めている。
法廷内は騒然となり、傍聴席では出口を塞がれた事で皆、立ち上がって中心に集まり始めた。
それを守るように潜んでいたギルを始めとする第三別宮警護部隊員たちが外側に立つ。
フードの者達は、壁際に均等にバラけていて、おとなしく手を上げて降伏を示していた。
「……エイモス叔父貴、どうしてもそうされるのですか?今ならまだ間に合います。どうか降伏なさってはくれまいか?」
フレデリカさんたちの後ろから、ジョシュア国王がフレッチャー公爵に呼びかける。
しかし正気を失ったようなフレッチャー公爵はそれに従ったりはしなかった。
「その言葉はそのまま返そう。降伏すればこの場で手荒な真似はせぬ。確かに裁判に対する準備は我々は甘かったであろう……。だが、これに関してはもう随分と長い時間をかけて準備してきたのだよ、ジョシュア。それが今日になってしまった事はとても残念に思うがね?だがここにお前も王子達も皆揃っている事を考えれば、かえって都合が良かったやもしれぬ……。」
外の方でも、クーデターは進んでいるのだろう。
大きな爆発音や争う声がここまで響いている。
「どうしてもやめて下さらないのですね?エイモス叔父貴……。」
「安心するがいい。お前を殺してもこの国を滅ぼしたりはせぬ。早目に代替わりをしてもらうだけだ。第二王子にな……。」
王子達がいる下段のテラス席にも、兵士が入ってきていた。
それぞれの警護部隊、並びにロイヤルガード達が守るべき対象を囲み、警戒している。
第二王子はクーデターの事は知らなかったのか、困惑した顔で状況を見ていた。
「……で?つまりこれは、国に対する反逆行為が行われてる真っ最中って事でいいのかい?ジョシュア??」
突然そこで、マダムが面倒臭そうに言った。
こんな状況なのに、全くブレないのは流石だなぁと思う。
「どうやらその様だよ、スカーレット。」
「ふ~ん。全く面倒くさいねぇ。」
いきなり割って入られ、フレッチャー公爵は苛立った様にマダムを睨む。
飛び出しそうな目玉がぎょろぎょろしていて気持ち悪い。
「……何だ、貴様は?!」
「何だとはご挨拶だね?フレッチャー公爵。自分の領土のギルドマスターの顔も知らないのかい??税金むしり取ってる癖にさ。」
「……ギルドマスターだと?!」
「あぁでもうちは今、所在地政府離脱権限を施行中だからね。あんたが知っていようが知っていまいが、こちとら独立国家同然なんだよ。そんな訳で、あたしらはこの国のあれやこれやに色々従う必要はない訳さ。だから好きにさせてもらう。」
「まさか貴様……?!」
「そのまさかさ。今回うちは、中央王国に喧嘩を売りに来たんだよ。適当な事をやってやがるから軽くシメてやろうと思ってね。全く、国王の癖に自国を危機に晒すなんて呆れて物も言えないよ。まぁだからギルドには所在地政府離脱権限があるのさ。王や貴族達の好き勝手で国を滅ぼさせない為にね。……野郎ども!やっちまいなっ!!」
マダムがそう叫ぶと同時に、手を前に振り、ゴーサインを出した。
その瞬間、フードを被っていた冒険者達が一斉に兵士たちに襲いかかる。
同時にフレデリカさんが杖を掲げて、外に向けて合図を放った。
パンパンと花火が上がる音がする。
わあぁぁと声が上がっているところをみると、外でも似たような事が起きているようだ。
冒険者たちは数は少なくとも、ひとりひとりの能力が高いし、臨機応変にチームで対応できる。
その上、法廷内に入れたのはマダム選りすぐりのメンバーだ。
いくら数がいようとも、兵士たちが敵う相手ではない。
それに、だ。
ギルやライル、ウィルやシルクに加えて、とてもにこにこ優雅に微笑みながら、レオンハルドさんが加勢している。
う~ん、やっぱり格好いい……。
片手で遊んでいるだけって感じがたまらん……。
冒険者の皆も、ちょいちょいっと片手間にバッタバッタと兵士をのしていくレオンハルドさんに目が点になっていた。
かたや魔術師達はどうやら西の国の雇われ魔術師のようで、その多くが杖ではなく指輪などの装飾品を用いて魔術を使っていた。
そうだよな~、魔術本部に属しているような正規登録魔術師はこのクーデターには参加しないもんな~。
俺はそう思いながら、冒険者の魔術師が彼らの指輪などを奪い取るのを魔術で補助した。
「そんな……っ?!」
フレッチャー公爵は憮然と立ち尽くしている。
状況があからさまに悪いのは、だれが見ても一目瞭然だ。
まさか長年かけて準備してきたのに、兵士をならず者と見下していた冒険者たちに倒されるとは思わなかったよなぁ……。
粗方、内部の兵士は彼らに取り押さえられてしまった。
上を見上げれば、王子達の所にいた者達は状況を見てロイヤルガード達に降伏して膝をついている。
まぁ無駄に騒いでも勝ち目はないし、降伏した方が後々、有利になるもんな。
「……残念でしたね、フレッチャー公爵。まさかギルドがあなたの前に立ちふさがるとは思いもしませんでしたよね?あなたは身分の低い者は、人間として数えていませんから。それが裏目に出たと言う訳です。」
よもや人間の風貌をしていないフレッチャー公爵に、俺はそう声をかけた。
貴族以外は数に数えていない。
だから俺の事も目に入らないでガスパーばかり見ていたし、有力貴族を抑えて兵士をある程度自由にできれば何の問題もないと思っていたのだろう。
「……ああ、外からの援軍や救助は期待されない方がいい。誰も貴方を助けには来ませんよ??」
「馬鹿な……っ?!」
「今日はニール総元帥が国軍を大々的に訓練しているって言う話、もしかして信じてましたか?」
「……まさか!」
「ええ、あれは皆さんを油断させる罠です。国軍の多くはこの街に残っていますし、朝方外に出たニール総元帥の一団も、訓練ではなくこの王宮都市を囲んで、この国から逃げようとする親南派の皆さんを捉える為に待ち構えているところです。そして、王宮内に残る連絡係等の貴族の皆さんも、この国の一番の毒蛇であるラティーマーに睨まれている頃だと思いますよ?」
「……そんな……馬鹿な……。」
「長い時間をかけてご準備されていた様ですが、こちらもこうすると決めた段階でこうなる事も視野に入れて動いていました。貴方は、ガスパーがラティーマーだとわかった段階で何も考えなかったのですか?彼の叔父が現宰相である事を考えれば、迂闊に動くのは危険だと思わなかったのですか?我々に煽られて正常な判断が出来なかったのだとしたら、それは私の参謀の作戦勝ちと言う事ですよ……。」
俺の言葉に、後ろにいたガスパーがピクッと震えた。
あ、ヤバイ。
今、うっかり「我々の」じゃなくて「私の」って言ったわ、俺。
俺は振り向かなかったけれど、たぶん、真っ赤になってるんじゃないかなと思う。
ごめん、ガスパー、変な事言ったわ……。
後で訂正するから許してくれ………。
今ここで訂正するのは流石に流れを壊すので言うに言えず、ちょっと俺も恥ずかしくなった。
しかしそんな俺の話にフレッチャー公爵はすでに反応を示さず、カクンとひざをついた。
瞬きもせず呆然と何かを見ている。
ミード伯爵は完全に自我が崩壊したかのように焦点の合わない目をし、メートランド子爵はガタガタと震えているだけだった。
やっと長かった裁判の終わりが、俺の逃亡劇の終わりが見え始めていた。
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