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第八章③「帰国裁判」
隔世の感
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俺が目覚めると世界は一変していた。
と言うか、目覚めたそこが王宮の来賓用別館の物凄くいい部屋だったものだから、俺ははじめ何が起きたのかわからなかった。
はっきり言って今回ばかりは死んだと思っていたので、ゴッツい金持ちの子供か何かに生まれ変わって、前世の記憶でも取り戻したのかと思った。
メイドさん達が世話しに来てくれるし。
本当、ウィルが風呂から出てくるまでは、何が現実なのか訳がわからなかった。
俺はあの後いつものように眠ってしまって、ずっと目覚めず、その間、王命で俺はこの王宮別館が貸し与えられて面倒を見てもらっていたらしい。
あの場で婚約者である事を大々的に話してあったウィルは、その間ずっと俺とこの部屋で過ごしたらしい。
何それ?眠ってたのがもったいない……。
今回の一件のその後は簡単に聞いたが、南と西の国との国境は一時的とはいえ正式に閉鎖されたそうだ。
第二王子派の多くは爵位を没収されて、貴族牢に収容、家族は各城の中に軟禁されて沙汰を待っている。
家族はどこまで知っていたかわからないから、もしも何も知らなかったならいいとばっちりだよな。
そして、第二王子にあれをつけたのはどうやら西の国のようだ。
第二王子本人がそう話したそうだ。
当然、第二王子と西の国の王女との婚約も破棄され、第二王子は精神的に参っていて療養中。
第一王子がつきっきりになっていると噂だが、う~ん、そこは詮索しないでおこう……。
そんな訳で我らが第三王子、ライオネル殿下が頑張っている。
ジョシュア国王も、今までは血縁の公爵が関わっていた事もあって中々動けずにいたが、全容がわかった今は全てを明るみに晒してそれ相応の処分を行う為に動いているそうだ。
今や国中がてんやわんやになっていると目覚めの知らせを聞いて駆けつけたシルクが教えてくれた。
ギルも今回の事を含め、部隊の事、ライオネル殿下の事で忙しいらしく隊長室に缶詰になっているらしい。
本当、少し寝ていた間にえらく話が進んでいる。
こういうのを東の国では昔話に例えて、ウラシマタロウ状態って言うんだけどさ、この国では何て言うんだろう??
まぁ、それは置いておいて。
俺は自分の状況の把握ができずに困っている。
「はい♡主♡パンにジャム塗ったよ♡」
「あ、うん……ありがとう……。」
「サーク?ちゃんと野菜も食べろよ?サンドイッチにしようか?」
「え?いや、大丈夫だから……。ありがとう……。」
朝食を取っている今も、どうしてこうなっているのかわからない。
俺は両脇をウィルとシルクに囲まれて、あれこれ世話を焼かれている。
いいと言ったけど、ウィルは丁寧に野菜とチーズたっぷりのサンドイッチを作ってくれていた。
そこにスッと紅茶が差し出される。
「あ……ありがとう、ゴザイマス……??」
「……別に。」
俺はそれを目を白黒させて見ていた。
そう、ウィルとシルクは100歩譲ってまだわかる。
わからないのはこいつだ。
5000歩どころか五億光年先に譲っても、理解できない。
「……とりあえず、食事が終わったら宮廷医療団の健康チェック。昼まで休憩。昼食はライオネル殿下と昼食会。その後、国王に挨拶、皇太子と第二王子に挨拶。その後は王宮的なもんは入ってないが、フライハイトのギルドマスターとの面会、大魔法師のエアーデさんと面会、後、体調と時間が良ければ、南の国の第二王子が会いたいってよ。……聞いてんのか?!脳筋?!」
ガスパーが眼鏡の下から俺をギロリと睨んだ。
聞いてるよ、聞いてるけどさ……??
何でガスパーまでいるの?!
ウィルもシルクもそれに特に疑問を感じていないらしい。
ねぇ、俺が目覚めたこの世界は、本当に目覚める前にいたのと同じ世界なのか?!
「……まだ本調子じゃねぇなら、調整つけるぞ??」
フリーズして何も言い返さない俺に、ガスパーがちょっと心配そうに顔を顰めた。
待って?!
どうしたの?!ガスパー?!
そんな顔した事なかったよね?!
固まっている俺をウィルが苦笑する。
シルクは何でもない事のように言った。
「違うよ、ガスパー。主はね~、ガスパーが世話焼いてくれてるから、びっくりしてるんだよ。」
「あ~、なるほどな……。」
「うん……全体的に、何でこうなってるの??ガスパーもだけど、シルクもウィルも、仕事は大丈夫なのか??」
三人は顔を見合わせ、ため息をついた。
「あのさ、主。いつもの事だけど、主、ずっと目覚めなかったんだよ?!俺は武術指導員である前に、主の従者なの!だから主の側にいるの!わかる?!」
「あ、うん……。」
「サーク。今回は呪いの影響もあったのか、10日以上目覚めなかったんだよ。聞いていたよりも長くて、流石に俺も焦ったよ……。」
「ごめん……。」
「俺の事だが、第三別宮警護部隊の代表でお前についてる。皆で心配だからとお前についてたら、仕事にならないだろうが?!ただでさえ、あの一件で今、国中でバタバタしてんだからよ……。」
「……そこはわかった……。わかったけど、それなら尚更、お前は仕事に戻った方が良くないか?!お前の政治手腕の見せどころじゃん?お前一人で3人分くらいの仕事は捗りそうだし。」
そう言われ、ガスパーは少しだけ言葉に詰まった。
わかりやすく顔を赤くして返答に困っている。
ウィルが笑った。
「サーク、ガスパーを殺す気なのか??お前の裁判の為に、寝ずに準備してくれてたんだぞ??それなのに、さらに3人分くらいの仕事をしろとか……。」
「鬼だね、主。」
「あっ!いやごめん!そんなつもりじゃ……っ!!」
つまり、今まで働きすぎたから軽めの仕事を任されてるのか……。
まぁこの状況じゃ、休めって言ってもこいつ休まなそうだからな?ギルがそう采配したんだろう。
「それに、ガスパーは王宮内の仕事もよく理解しているから、こっちと警護部隊の調整役もしてるんだよ。」
「あ、なるほどな。」
それは一番の適役だろう。
こいつはこのまま王宮の方に引き抜かれてもおかしくない人材だし、各所に顔を知ってもらうにもちょうどいい機会なのだろう。
俺が深く納得していると、シルクが意味深な顔で笑った。
「それだけじゃないんだけどねぇ~。」
うふふ、と笑って俺の頬を突いた。
シルクの渡してくれたジャムパンが頬に入っていたので、慌ててそれを飲み込む。
「え?!まだ何かあるのかよ?!」
「シルク、それは駄目だよ。」
「え~、いいじゃん。主って鈍感だから言わないと伝わらな……。」
「シルクっ!黙ってろっ!!」
シルクが何か言いかけたが、ガスパーが慌ててそれを怒って止めた。
何なんだよ、いったい……。
しかも何なの?!
三人で知らないうちにわかり合ってて?!
俺が目覚めるまでの間に、何があったんだよ?!
ウィルが苦笑しながら、作ったサンドイッチを渡してくれた。
俺はそれをモゴモゴ食べ始める。
毎度の事だが、長く寝た後は物凄く腹が減っている。
流石にはじめからフライドチキンが食べられるほど胃袋は活性化していないけど、少しすれば3人分ぐらい軽く食べられると思う。
「とりあえず、今日は目が覚めたばかりだから軽めの予定だけどよ。」
「これで軽めなのかよ?!俺、かなりお腹いっぱいなスケジュールだと思ったんだけど?!」
「アホか!脳筋!!あれだけの事の大元になってて、すんなり帰れると思うなよ!明日からはびっちり会議とか入るからな!!」
「嘘っ?!冗談だろ?!」
「嘘なわけねぇだろうが!!馬鹿!!多分お前、爵位が上がるぞ?!領土の話も出てるし。」
「何だよそれ?!冗談だろ?!」
「あのな!!国家的危機を救っといて!!何抜かしてやがる?!国としてそいつに何も与えないってのはできねぇんだよ!!」
「俺一人でやったんじゃないっ!!」
「だがお前が総大将だ。お前が寝ている間に全員がそう証言したんだよ。お前の為にやった、お前についていこうと思ったって。だから今回の功績を示す為にも、大々的にお前に褒賞が出るんだよ!!」
「勘弁してくれよっ!!」
「まぁ、てめぇにゃ持ちきれないものばかりだろうが、とにかくお前が一旦もらって、それを周りに振り分ければ良いんだよ。わかったか?!」
「振り分けるって……。」
「安心しろ、脳筋。俺が大体の案は作っといてやるから!!」
「ありがとう~ガスパー~。恩に切る~。」
「別に……恩に切られる様な事じゃねぇよ……俺の役割を果たしてるだけだしよ……。」
ガスパーは口元を押さえてモゴモゴ言った。
役割って何だよ??
「……あっ。」
それでちょっと思い出してしまった。
「あのさ~、ガスパー……。」
「何だよ??」
「あの時、勢いで変な事、言ってごめんな??」
「……は??」
俺は変にもじもじしてしまった。
いや、そうだよな?ガスパーは覚えてないかもしれないし……。
俺がそれをわざわざ蒸し返すのもな……。
「いや……覚えてないなら、良いんだよ……。」
うん、覚えてないならそれでいいや。
俺は残りのサンドイッチを口に押し込んだ。
そんな俺を、シルクがニマァ~と笑って、ウィルが困ったように笑う。
ガスパーがメガネを外して、大きくため息をついた。
「俺の事を、『私の参謀』って言った件か?」
サンドイッチを飲み込んで、紅茶を飲もうとしていた俺は派手にむせ返った。
紅茶が気管に入りかけたが、口の中に何もなくて良かった。
「主、汚~い。」
「いや?!だってっ!!……悪かったよ!ガスパーっ!!我々のって言おうとして……その……。」
「その件については、異見は認めない。公の場で一度言った事の責任は取ってもらうからな、サーク。」
「えっ?!嘘だろっ?!」
「何が嘘だ、馬鹿野郎。国王をはじめ、三王子揃っている場での発言だ。その場ですぐならまだしも、2週間近くたってる。今更、世論は変えられないぞ、馬鹿。」
フンッとガスパーは馬鹿にしたように俺を見下ろした。
ええっ?!ナニソレ?!マジで?!
俺は固まってしまった。
「だから言ったでしょ?主?一度口から出た言葉は取り消せないんだよ??俺が主の愛人なのと同じでさ~♪」
シルクが楽しそうにそう言って、俺の頬にキスをした。
俺は弾かれたようにウィルの方に寄って、ゴシゴシ頬を擦った。
ナニソレ?!まだあの話、生きてる訳?!
得意満面にシルクは笑っている。
真っ赤になって口をパクパクさせる俺を、ウィルが慰めるように撫でてくれる。
「とりあえず、すでに王宮内ではサークの事、蛇と豹を両脇に従える男って言われてるよ。」
「は??」
「正しくはこうだ。天駆ける竜を頂きに持ち、右手に武の豹、左手に知の蛇を従える男、だ。」
ナニソレ??
どういう事??
「俺、豹とか言われるの心外~。俺、こんな可愛いのに~。スナネコって言って欲しい~。」
「いや、お前が豹なのは否定しない。いろんな意味で豹だろうお前。間違いなく女豹だ、女豹。」
シルクのよくわからないツッコミに、ツッコミで返す。
お前がスナネコってスナネコに失礼だろうが。
可愛い方面に全振りしたとしても、サーバルキャットかカラカルだろう。
ぶーたれるシルクをほっといて俺は考えた。
つまり??
頂きの竜ってのはヴィオールの事でつまりはウィルなのか?
で、武の豹ってのがシルクか。
なるほど?武術指導員だし、演舞の踊り手だし、俺と残って南軍と戦った訳だし、そうなるわな?
で??
知の蛇??
「……ガスパーじゃんっ!!」
この国で蛇と言えば、ガスパーの家の人を指す隠語だ。
知というのはまぁ、家系的にも今回ガスパーが見せた能力からもわかりきっている称号だ。
それを従えてるって?!
俺が?!
「何だよそれっ?!別にガスパーを従えてなんかないだろ?!俺!!」
「だから~、一度口から出た言葉は、取り消せないんだって!主っ!!」
ニヤニヤ笑うシルク。
困ったように笑うウィル。
ツンツンしているガスパー。
「責任取れよ、サーク。」
「勘弁しろよ~!!」
そんな三人に囲まれて、俺は一人、頭を抱えて項垂れた。
と言うか、目覚めたそこが王宮の来賓用別館の物凄くいい部屋だったものだから、俺ははじめ何が起きたのかわからなかった。
はっきり言って今回ばかりは死んだと思っていたので、ゴッツい金持ちの子供か何かに生まれ変わって、前世の記憶でも取り戻したのかと思った。
メイドさん達が世話しに来てくれるし。
本当、ウィルが風呂から出てくるまでは、何が現実なのか訳がわからなかった。
俺はあの後いつものように眠ってしまって、ずっと目覚めず、その間、王命で俺はこの王宮別館が貸し与えられて面倒を見てもらっていたらしい。
あの場で婚約者である事を大々的に話してあったウィルは、その間ずっと俺とこの部屋で過ごしたらしい。
何それ?眠ってたのがもったいない……。
今回の一件のその後は簡単に聞いたが、南と西の国との国境は一時的とはいえ正式に閉鎖されたそうだ。
第二王子派の多くは爵位を没収されて、貴族牢に収容、家族は各城の中に軟禁されて沙汰を待っている。
家族はどこまで知っていたかわからないから、もしも何も知らなかったならいいとばっちりだよな。
そして、第二王子にあれをつけたのはどうやら西の国のようだ。
第二王子本人がそう話したそうだ。
当然、第二王子と西の国の王女との婚約も破棄され、第二王子は精神的に参っていて療養中。
第一王子がつきっきりになっていると噂だが、う~ん、そこは詮索しないでおこう……。
そんな訳で我らが第三王子、ライオネル殿下が頑張っている。
ジョシュア国王も、今までは血縁の公爵が関わっていた事もあって中々動けずにいたが、全容がわかった今は全てを明るみに晒してそれ相応の処分を行う為に動いているそうだ。
今や国中がてんやわんやになっていると目覚めの知らせを聞いて駆けつけたシルクが教えてくれた。
ギルも今回の事を含め、部隊の事、ライオネル殿下の事で忙しいらしく隊長室に缶詰になっているらしい。
本当、少し寝ていた間にえらく話が進んでいる。
こういうのを東の国では昔話に例えて、ウラシマタロウ状態って言うんだけどさ、この国では何て言うんだろう??
まぁ、それは置いておいて。
俺は自分の状況の把握ができずに困っている。
「はい♡主♡パンにジャム塗ったよ♡」
「あ、うん……ありがとう……。」
「サーク?ちゃんと野菜も食べろよ?サンドイッチにしようか?」
「え?いや、大丈夫だから……。ありがとう……。」
朝食を取っている今も、どうしてこうなっているのかわからない。
俺は両脇をウィルとシルクに囲まれて、あれこれ世話を焼かれている。
いいと言ったけど、ウィルは丁寧に野菜とチーズたっぷりのサンドイッチを作ってくれていた。
そこにスッと紅茶が差し出される。
「あ……ありがとう、ゴザイマス……??」
「……別に。」
俺はそれを目を白黒させて見ていた。
そう、ウィルとシルクは100歩譲ってまだわかる。
わからないのはこいつだ。
5000歩どころか五億光年先に譲っても、理解できない。
「……とりあえず、食事が終わったら宮廷医療団の健康チェック。昼まで休憩。昼食はライオネル殿下と昼食会。その後、国王に挨拶、皇太子と第二王子に挨拶。その後は王宮的なもんは入ってないが、フライハイトのギルドマスターとの面会、大魔法師のエアーデさんと面会、後、体調と時間が良ければ、南の国の第二王子が会いたいってよ。……聞いてんのか?!脳筋?!」
ガスパーが眼鏡の下から俺をギロリと睨んだ。
聞いてるよ、聞いてるけどさ……??
何でガスパーまでいるの?!
ウィルもシルクもそれに特に疑問を感じていないらしい。
ねぇ、俺が目覚めたこの世界は、本当に目覚める前にいたのと同じ世界なのか?!
「……まだ本調子じゃねぇなら、調整つけるぞ??」
フリーズして何も言い返さない俺に、ガスパーがちょっと心配そうに顔を顰めた。
待って?!
どうしたの?!ガスパー?!
そんな顔した事なかったよね?!
固まっている俺をウィルが苦笑する。
シルクは何でもない事のように言った。
「違うよ、ガスパー。主はね~、ガスパーが世話焼いてくれてるから、びっくりしてるんだよ。」
「あ~、なるほどな……。」
「うん……全体的に、何でこうなってるの??ガスパーもだけど、シルクもウィルも、仕事は大丈夫なのか??」
三人は顔を見合わせ、ため息をついた。
「あのさ、主。いつもの事だけど、主、ずっと目覚めなかったんだよ?!俺は武術指導員である前に、主の従者なの!だから主の側にいるの!わかる?!」
「あ、うん……。」
「サーク。今回は呪いの影響もあったのか、10日以上目覚めなかったんだよ。聞いていたよりも長くて、流石に俺も焦ったよ……。」
「ごめん……。」
「俺の事だが、第三別宮警護部隊の代表でお前についてる。皆で心配だからとお前についてたら、仕事にならないだろうが?!ただでさえ、あの一件で今、国中でバタバタしてんだからよ……。」
「……そこはわかった……。わかったけど、それなら尚更、お前は仕事に戻った方が良くないか?!お前の政治手腕の見せどころじゃん?お前一人で3人分くらいの仕事は捗りそうだし。」
そう言われ、ガスパーは少しだけ言葉に詰まった。
わかりやすく顔を赤くして返答に困っている。
ウィルが笑った。
「サーク、ガスパーを殺す気なのか??お前の裁判の為に、寝ずに準備してくれてたんだぞ??それなのに、さらに3人分くらいの仕事をしろとか……。」
「鬼だね、主。」
「あっ!いやごめん!そんなつもりじゃ……っ!!」
つまり、今まで働きすぎたから軽めの仕事を任されてるのか……。
まぁこの状況じゃ、休めって言ってもこいつ休まなそうだからな?ギルがそう采配したんだろう。
「それに、ガスパーは王宮内の仕事もよく理解しているから、こっちと警護部隊の調整役もしてるんだよ。」
「あ、なるほどな。」
それは一番の適役だろう。
こいつはこのまま王宮の方に引き抜かれてもおかしくない人材だし、各所に顔を知ってもらうにもちょうどいい機会なのだろう。
俺が深く納得していると、シルクが意味深な顔で笑った。
「それだけじゃないんだけどねぇ~。」
うふふ、と笑って俺の頬を突いた。
シルクの渡してくれたジャムパンが頬に入っていたので、慌ててそれを飲み込む。
「え?!まだ何かあるのかよ?!」
「シルク、それは駄目だよ。」
「え~、いいじゃん。主って鈍感だから言わないと伝わらな……。」
「シルクっ!黙ってろっ!!」
シルクが何か言いかけたが、ガスパーが慌ててそれを怒って止めた。
何なんだよ、いったい……。
しかも何なの?!
三人で知らないうちにわかり合ってて?!
俺が目覚めるまでの間に、何があったんだよ?!
ウィルが苦笑しながら、作ったサンドイッチを渡してくれた。
俺はそれをモゴモゴ食べ始める。
毎度の事だが、長く寝た後は物凄く腹が減っている。
流石にはじめからフライドチキンが食べられるほど胃袋は活性化していないけど、少しすれば3人分ぐらい軽く食べられると思う。
「とりあえず、今日は目が覚めたばかりだから軽めの予定だけどよ。」
「これで軽めなのかよ?!俺、かなりお腹いっぱいなスケジュールだと思ったんだけど?!」
「アホか!脳筋!!あれだけの事の大元になってて、すんなり帰れると思うなよ!明日からはびっちり会議とか入るからな!!」
「嘘っ?!冗談だろ?!」
「嘘なわけねぇだろうが!!馬鹿!!多分お前、爵位が上がるぞ?!領土の話も出てるし。」
「何だよそれ?!冗談だろ?!」
「あのな!!国家的危機を救っといて!!何抜かしてやがる?!国としてそいつに何も与えないってのはできねぇんだよ!!」
「俺一人でやったんじゃないっ!!」
「だがお前が総大将だ。お前が寝ている間に全員がそう証言したんだよ。お前の為にやった、お前についていこうと思ったって。だから今回の功績を示す為にも、大々的にお前に褒賞が出るんだよ!!」
「勘弁してくれよっ!!」
「まぁ、てめぇにゃ持ちきれないものばかりだろうが、とにかくお前が一旦もらって、それを周りに振り分ければ良いんだよ。わかったか?!」
「振り分けるって……。」
「安心しろ、脳筋。俺が大体の案は作っといてやるから!!」
「ありがとう~ガスパー~。恩に切る~。」
「別に……恩に切られる様な事じゃねぇよ……俺の役割を果たしてるだけだしよ……。」
ガスパーは口元を押さえてモゴモゴ言った。
役割って何だよ??
「……あっ。」
それでちょっと思い出してしまった。
「あのさ~、ガスパー……。」
「何だよ??」
「あの時、勢いで変な事、言ってごめんな??」
「……は??」
俺は変にもじもじしてしまった。
いや、そうだよな?ガスパーは覚えてないかもしれないし……。
俺がそれをわざわざ蒸し返すのもな……。
「いや……覚えてないなら、良いんだよ……。」
うん、覚えてないならそれでいいや。
俺は残りのサンドイッチを口に押し込んだ。
そんな俺を、シルクがニマァ~と笑って、ウィルが困ったように笑う。
ガスパーがメガネを外して、大きくため息をついた。
「俺の事を、『私の参謀』って言った件か?」
サンドイッチを飲み込んで、紅茶を飲もうとしていた俺は派手にむせ返った。
紅茶が気管に入りかけたが、口の中に何もなくて良かった。
「主、汚~い。」
「いや?!だってっ!!……悪かったよ!ガスパーっ!!我々のって言おうとして……その……。」
「その件については、異見は認めない。公の場で一度言った事の責任は取ってもらうからな、サーク。」
「えっ?!嘘だろっ?!」
「何が嘘だ、馬鹿野郎。国王をはじめ、三王子揃っている場での発言だ。その場ですぐならまだしも、2週間近くたってる。今更、世論は変えられないぞ、馬鹿。」
フンッとガスパーは馬鹿にしたように俺を見下ろした。
ええっ?!ナニソレ?!マジで?!
俺は固まってしまった。
「だから言ったでしょ?主?一度口から出た言葉は取り消せないんだよ??俺が主の愛人なのと同じでさ~♪」
シルクが楽しそうにそう言って、俺の頬にキスをした。
俺は弾かれたようにウィルの方に寄って、ゴシゴシ頬を擦った。
ナニソレ?!まだあの話、生きてる訳?!
得意満面にシルクは笑っている。
真っ赤になって口をパクパクさせる俺を、ウィルが慰めるように撫でてくれる。
「とりあえず、すでに王宮内ではサークの事、蛇と豹を両脇に従える男って言われてるよ。」
「は??」
「正しくはこうだ。天駆ける竜を頂きに持ち、右手に武の豹、左手に知の蛇を従える男、だ。」
ナニソレ??
どういう事??
「俺、豹とか言われるの心外~。俺、こんな可愛いのに~。スナネコって言って欲しい~。」
「いや、お前が豹なのは否定しない。いろんな意味で豹だろうお前。間違いなく女豹だ、女豹。」
シルクのよくわからないツッコミに、ツッコミで返す。
お前がスナネコってスナネコに失礼だろうが。
可愛い方面に全振りしたとしても、サーバルキャットかカラカルだろう。
ぶーたれるシルクをほっといて俺は考えた。
つまり??
頂きの竜ってのはヴィオールの事でつまりはウィルなのか?
で、武の豹ってのがシルクか。
なるほど?武術指導員だし、演舞の踊り手だし、俺と残って南軍と戦った訳だし、そうなるわな?
で??
知の蛇??
「……ガスパーじゃんっ!!」
この国で蛇と言えば、ガスパーの家の人を指す隠語だ。
知というのはまぁ、家系的にも今回ガスパーが見せた能力からもわかりきっている称号だ。
それを従えてるって?!
俺が?!
「何だよそれっ?!別にガスパーを従えてなんかないだろ?!俺!!」
「だから~、一度口から出た言葉は、取り消せないんだって!主っ!!」
ニヤニヤ笑うシルク。
困ったように笑うウィル。
ツンツンしているガスパー。
「責任取れよ、サーク。」
「勘弁しろよ~!!」
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