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第八章③「帰国裁判」
いい大人のグチグチに付き合う
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「だからね、サーク君~。私も凄く難しい立場だったんだよ~。」
「あ、はい。そこは理解しております。はい。」
「わかってくれるか~っ!!」
目の前でグラス片手にジョシュア国王が泣いている。
この人も泣き上戸か……。
面倒くせえ……。
俺は笑顔を引きつらせながら、乾いた笑いをしていた。
ていうか、何で俺、こんな時間に王様とサシで飲んでるんだ??
俺は夜遅くに王様に呼び出された。
内々で話がしたいと言われ、何か大事な話かと覚悟して来てみればこの有様である。
何なの?俺?愚痴聞き係か?!
訳がわからなくなりながら、もう酔うしかないと俺は慣れないワインをグッと喉に流し込んだ。
……美味いな、これ。
さすがは王家のワインだと、どうでもいい事に感心していた。
目が覚めてから、俺は慌ただしく日々を過ごした。
スケジュール調整はガスパーが皆やってくれるし、こんな事を話す事になるからとか、ここはこう言っとけとか教えてくれるので、めまぐるしい会議の洪水にも耐えられた。
本当、ガスパー様様だ。
とは言え、ほぼ全ての会議に二人で参加しているせいで、本当にガスパーが俺の片腕の一人と周りに認識されてしまった。
俺自身目まぐるしすぎてガスパーがいてくれないと回せないのでもう仕方がない。
これではもう否定のしようがない。
ラティーマーの神童を従える男とコソコソ言われているのだが、それがどうした?!(開き直り)
何か文句があるなら直接はっきり言えっての。
だが、そんな事は今の王宮ではできないのもわかる。
何しろずっと大きな顔をしていた古参の貴族が一斉に捉えられたのだ。
その立役者にされてしまった俺に表立って何かつまらない事を言ってこれる奴なんてほぼいない。
何しろ俺は、第三王子の命を救い平民から騎士になり、表立っては言えない功績を数々残し准男爵となり、あの馬上の貴公子に竜の精霊を贈って婚約し、片腕にヤバい噂の絶えないレオンハルドと同じ演舞の使い手を持ち(同じ完全継承者なのはまだバレてない)、さらにラティーマーの神童を従え国家的危機を救った男、と言われているのだ。
長い、肩書にしては長すぎる。
ガスパーの名前に文句つけてる場合じゃない。
確かにどれも嘘という事はないのだが、本当と言う事でもない部分もある。
しかも俺は寝ている間に勝手に総大将にされただけで、別に今回の事を指揮していた訳じゃない。
皆が皆、やるべき事を自分の意志でやった結果に過ぎないのに、目が覚めたら俺が皆を引っ張って行った事になっていた。
絶対、皆、面倒くさいから俺に押し付けたんだ。
マダムなんていい例だ。
俺が領土をもらうかもって話になったら、いけしゃあしゃあと「ならフライハイト地域をサークに与えな」って言ったんだ。
領土自体断りたかった俺はぎょっとした。
だってマダムの鶴の一声に、ジョシュア国王を含め逆らえる人はいないのだ。
マダムの考えなんて目に見えてる。
絶対、俺が領主になったら都合がいいからだ。
調子に乗ってボーンさんまで「ならトート遺跡も含んでくれ」とか言っちゃってさ。
ちょうどフレッチャー公爵がいなくなるからその辺はガラ空きだし、俺が断る間もなくそれがほぼ内定してしまった。
とは言え、公爵が治めていたような優良な土地だ。
王宮都市からも目と鼻の先だし、パッと出の庶民上りがもらっていい場所じゃない。
だから俺がもらう事が内定したのは、今までフレッチャー公爵が治めていた領土の端っこのごく一部、ギルドやトート遺跡のあるフライハイト北東部、つまり元の領地で一番王宮都市から離れたほんの一部のみとなった。
王宮都市側は今回の功績を鑑みて、大部分をライオネル殿下がもらうらしい。
第三王子だから、いずれは公爵になったりする可能性もあるからだと思う。
何しろ公爵家が処分されたからな、今回。
今までは分家は控えられていて、王にならなかった王子達は王族のまま高い役職につくか、分家の養子になってその家を継ぐか、出家するかしかなかった。
だが今回の件で公爵家がなくなるので、ライオネル殿下にもその可能性が出てきたと言う訳だ。
それがいい事なのか悪い事なのかはわからないけど、殿下としては色々な道を選択できる幅が広がったと思えば、良かったんじゃないかなと思う。
親南派の貴族たちは事情をよく調べてから爵位及び領地の剥奪、もしくは降格して領土縮小の上、過疎地域に変えられる事になる。
家ぐるみで親南派だった所は当然剥奪となってしまうけど、地方貴族で何も知らなかった家族の場合、いくら家の責任だからと言っていきなり剥奪してしまうのは酷だと言う事で、そういう風に処分するらしい。
だから今回、全体的に貴族の領土が入れ替わる事になった。
ギルの実家はかなり変わるらしくて、決まったらしばらく休みが欲しいと言っていた。
元々近かったガスパーとかサムの家は、広がったり少しズレるくらいで問題無いらしい。
ライルの実家も大幅に変わるらしいのだが、サムの方に養子に来てるからあまり関係ないんだとか。
いや、手伝いに行ってあげてください。
ライルのお父さんにはさんざん色々しちゃってるんで。
ただ移動が終わって空いた今回の没収領土分の余りの多くは、とりあえず王家が所有するらしい。
今後、色々起きそうだから、褒美として与えられるように取っておくつもりなんだろうとガスパーが言っていた。
そして問題の俺の爵位なのだが……。
何か今、男爵と子爵で揉めているらしい……。
子爵って……やめて……。
俺は准男爵のままでいたい……。
爵位がないと何かと都合が悪かったから欲しかっただけで、別に出世したい訳でも貴族になりたい訳でもないんだよ、俺は……。
だが実は今回シルクにも爵位を与えると言う話があって俺は悩んでいる。
もらうとしたら准男爵なのだが、あいつが欲しがるかと言えばいらないと言われると思う。
でもギルとの今後を考えると、名ばかり爵位の准男爵くらいなら持っていても良いのではないかと思っている。
今のままだと嫌な話、シルクは公の場でギルの正式なパートナーとして見てもらえない。
パートナーになれない訳ではないが、貴族社会は異国からの移民で平民のシルクを正式なパートナーとは考えない。
お気に入りの踊り子を連れてきたと見るのだ。
だから二人が今後どうするかはわからないけれど、名前だけの爵位ならとりあえず持っていてもいいと思うのだ。
捨てる事はできるけれど、得るのはそのチャンスがあるときだけなのだから。
でもシルクが爵位を得るのなら、主である俺はその上を持たなくてはならない。
領土持ちの准男爵になるのだからそれでもいいかとも思うが、やはり俺の爵位は従者であるシルクに影響を与える。
本人が准男爵で主の俺が男爵を持っていれば、周囲はシルクをギルの正式なパートナーとして誤解なくきちんと認識してくれるだろう。
それからウィルの身分回復の話もある。
今回のゴタゴタとウィルの功績を使って、男爵か准男爵に回復させる。
それに意味があるのかと言われると難しいのだが、俺はウィルがいずれ竜の谷とのパイプ役になるんじゃないかと考えている。
まぁ俺と結婚すれば俺の爵位がウィルにもつくのだが、やはり本人の出身家に爵位があるのとないのでは違いが出てくる。
もしもいつかウィルが竜の谷とのパイプ役になった時、実家の関係者としてこちらに来る方法が一番しっくり来るし嘘の身分を作るより安全なので、きちんと身分が確立されているかどうかは竜の谷からの信頼性に繋がる。
だから身分を復活させてから俺と結婚した方が、そうなった時の強みになると思うのだ。
そうなると、やはり俺の方は最低でも男爵になっていた方がいい。
一段階高いだけで協力できる部分が多くなるから。
でも子爵は……胃が痛くなりそうだから勘弁して欲しい……。
あまり爵位を上げたくないのは、東の国のハクマ家の事もある。
ハクマ家はここで言う所の侯爵と伯爵の間みたいな所の家だった。
俺がこっちであまり爵位を上げると変に絡まれそうな気がして嫌なのだ。
名前を変えたから大丈夫だとは思うが、どこかで何かを聞きつけてあの親族たちが押しかけてくるとも知れない。
ハクマの家は、おじさんとおばさんはいい人なのだが、問題は儀兄だったニ人と親戚の連中だ。
多分まだ家督争いしてるんだろうな、カイとダンは。
それが本人たちの意思なのかわからない。
双子だけにどっちが兄だ弟だと言ってもないようなものだから、幼い時からあの親戚たちがカイとダンを抱え込み二手に別れて争っている。
思い出しただけで吐き気がする。
それを思うと、ここの兄弟の問題なんて可愛いものじゃないか?
憎み合ってるんじゃない。
愛し合っているんだから……。
「わかるだろ?!兄弟なんだよ!実の兄弟なんだよ?!」
「アハハ、そうですね~。」
王様がぐじぐじ言っている。
わかるよ?!王様だもんね?!
跡継ぎの跡継ぎが、気になるもんね?!
「でも……良くないですか?とりあえず?家督争いで憎み合って、殺し合いになるよりは~。」
「そうだけど……そうだけどね?!」
「兄弟間の恋愛は難しい問題ですけど、一応、法律上は同性の場合は認められてますしね~。」
「わかってるよ?!それは?!でもさっ!!」
王様が酔って半泣きで机をドンドン叩いている。
そう、今回の問題を大きくした原因の一つ、第二王子ランスロット殿下の西の国の王女との婚約。
そしてそこからの呪いの問題。
王が手出しを鈍ったのは、王太子である第一王子ガブリエル殿下と第二王子ランスロット殿下の恋の問題があったからだ。
まぁな~。
どうりでいい年した王子が3人もいるのに、婚約の話が出ない訳だよな~。
上の二人は兄弟で恋をしていて、下の弟は南国の危ない男にストーカーされてんだもん。
ヤバくない?!この国?!
王太子と第二王子の二人は、小さい頃からお互いを愛していたが、立場を理解していたので表立ってそれを示す事はなかったらしい。
けれど想いは強く、ガブリエル王太子はどの婚約話にもうんと言わなかったし、ランスロット殿下は叶わない恋を抱えてそのまま教会に出家しようとしていた訳で。
なんか泣かせる展開というか何というか……。
そこに西の国から第二王子と王女との婚約話が持ち上がって、将来は王となる兄ガブリエル王太子の行く末を案じたランスロット殿下はとりあえずお見合いをする事を受け入れ、兄に諦めて貰おうとしたらしい。
しかしそこには西の国ないし南の国の罠があった。
南の国と結託した西の国は、中央王国を内部から侵略する駒としてランスロット第二王子を使う為、呪いを植え付けて意のままに操ろうとした。
呪いによって洗脳されたランスロット殿下には殆ど自覚がなく、キーとなる言葉『ランスロット殿下、全ては貴方の為に』を聞くと洗脳された人格が現れ行動を起こす様にされていたらしい。
この辺の呪いと洗脳の因果関係や仕組みはよくわからず、今、魔法師中心の王宮医療チームとフレデリカさんを中心とした魔術本部メンバーが、解読と治療を行っている。
だが王様的にはそれは問題ではないらしい。
(いや大きな問題だからね?)
なら何が王様を悩ませているかといえば……。
今回のこの事をきっかけに、ガブリエル王太子とランスロット殿下がお互いの気持ちを否定するのをやめてしまった事だ。
長年想い合いながら相手の立場の為にそれを避けていた二人だったが、危機に直面したことでたくさん後悔し、自分の気持ちに素直になって向き合う事にしたのだ。
そりゃ当然……当然の結果になる訳で……。
今、二人は初々しくもラブラブの恋人同士になったらしい。
「私だって可愛い息子たちを応援してやりたい!だが!我らは王族なのだ!悲しいが!相手を好きなだけでは結ばれる事ができないのだっ!!」
王様がピーピー泣いている。
俺はもう繕うのが面倒くさくなって、態度悪く肘をついてエイヒレをガジガジ噛んだ。
兄弟間の恋愛や結婚は難しい問題だ。
なぜ問題かと言うと、突き詰めれば遺伝子的な問題が起こるからだ。
それが解消できない為、同性の場合のみ婚姻が認められている。
だから同性である王太子と第二王子の場合、法律的にはなんの問題もない。
だが、そこは王族。
跡取りである王太子が同性婚をする場合、特例で第二王太子妃を持てるが、その場合、嫌な話、保険として別の兄弟が子供を設ける事が推奨されている。
つまり第二王子か第三王子が異性と結婚し、子供を持っておく事が暗黙のルール。
だが王太子の恋の相手は第二王子自身なのだ。
これは王様も弱る訳だ。
「そりゃ、うちにはもう一人息子がいるよ?!でも……リオは君に惚れているし……そもそもあの子は……。」
そこまで言って、王様は口篭った。
どうして黙ってしまったかは、何となく予想がつく。
俺は深くため息をついた。
「……そろそろちゃんと教えてもらえません?ライオネル殿下の事。大体の事はもうわかってるんで。」
俺の言葉に、ジョシュア国王は机に突っ伏して動かなくなった。
寝ている訳ではない。
悩んでいるのだ。
何か悩み多き王様だな~。
俺は半ば酔っ払っていて、王様のつむじをグリグリ指で突いた。
「あ、はい。そこは理解しております。はい。」
「わかってくれるか~っ!!」
目の前でグラス片手にジョシュア国王が泣いている。
この人も泣き上戸か……。
面倒くせえ……。
俺は笑顔を引きつらせながら、乾いた笑いをしていた。
ていうか、何で俺、こんな時間に王様とサシで飲んでるんだ??
俺は夜遅くに王様に呼び出された。
内々で話がしたいと言われ、何か大事な話かと覚悟して来てみればこの有様である。
何なの?俺?愚痴聞き係か?!
訳がわからなくなりながら、もう酔うしかないと俺は慣れないワインをグッと喉に流し込んだ。
……美味いな、これ。
さすがは王家のワインだと、どうでもいい事に感心していた。
目が覚めてから、俺は慌ただしく日々を過ごした。
スケジュール調整はガスパーが皆やってくれるし、こんな事を話す事になるからとか、ここはこう言っとけとか教えてくれるので、めまぐるしい会議の洪水にも耐えられた。
本当、ガスパー様様だ。
とは言え、ほぼ全ての会議に二人で参加しているせいで、本当にガスパーが俺の片腕の一人と周りに認識されてしまった。
俺自身目まぐるしすぎてガスパーがいてくれないと回せないのでもう仕方がない。
これではもう否定のしようがない。
ラティーマーの神童を従える男とコソコソ言われているのだが、それがどうした?!(開き直り)
何か文句があるなら直接はっきり言えっての。
だが、そんな事は今の王宮ではできないのもわかる。
何しろずっと大きな顔をしていた古参の貴族が一斉に捉えられたのだ。
その立役者にされてしまった俺に表立って何かつまらない事を言ってこれる奴なんてほぼいない。
何しろ俺は、第三王子の命を救い平民から騎士になり、表立っては言えない功績を数々残し准男爵となり、あの馬上の貴公子に竜の精霊を贈って婚約し、片腕にヤバい噂の絶えないレオンハルドと同じ演舞の使い手を持ち(同じ完全継承者なのはまだバレてない)、さらにラティーマーの神童を従え国家的危機を救った男、と言われているのだ。
長い、肩書にしては長すぎる。
ガスパーの名前に文句つけてる場合じゃない。
確かにどれも嘘という事はないのだが、本当と言う事でもない部分もある。
しかも俺は寝ている間に勝手に総大将にされただけで、別に今回の事を指揮していた訳じゃない。
皆が皆、やるべき事を自分の意志でやった結果に過ぎないのに、目が覚めたら俺が皆を引っ張って行った事になっていた。
絶対、皆、面倒くさいから俺に押し付けたんだ。
マダムなんていい例だ。
俺が領土をもらうかもって話になったら、いけしゃあしゃあと「ならフライハイト地域をサークに与えな」って言ったんだ。
領土自体断りたかった俺はぎょっとした。
だってマダムの鶴の一声に、ジョシュア国王を含め逆らえる人はいないのだ。
マダムの考えなんて目に見えてる。
絶対、俺が領主になったら都合がいいからだ。
調子に乗ってボーンさんまで「ならトート遺跡も含んでくれ」とか言っちゃってさ。
ちょうどフレッチャー公爵がいなくなるからその辺はガラ空きだし、俺が断る間もなくそれがほぼ内定してしまった。
とは言え、公爵が治めていたような優良な土地だ。
王宮都市からも目と鼻の先だし、パッと出の庶民上りがもらっていい場所じゃない。
だから俺がもらう事が内定したのは、今までフレッチャー公爵が治めていた領土の端っこのごく一部、ギルドやトート遺跡のあるフライハイト北東部、つまり元の領地で一番王宮都市から離れたほんの一部のみとなった。
王宮都市側は今回の功績を鑑みて、大部分をライオネル殿下がもらうらしい。
第三王子だから、いずれは公爵になったりする可能性もあるからだと思う。
何しろ公爵家が処分されたからな、今回。
今までは分家は控えられていて、王にならなかった王子達は王族のまま高い役職につくか、分家の養子になってその家を継ぐか、出家するかしかなかった。
だが今回の件で公爵家がなくなるので、ライオネル殿下にもその可能性が出てきたと言う訳だ。
それがいい事なのか悪い事なのかはわからないけど、殿下としては色々な道を選択できる幅が広がったと思えば、良かったんじゃないかなと思う。
親南派の貴族たちは事情をよく調べてから爵位及び領地の剥奪、もしくは降格して領土縮小の上、過疎地域に変えられる事になる。
家ぐるみで親南派だった所は当然剥奪となってしまうけど、地方貴族で何も知らなかった家族の場合、いくら家の責任だからと言っていきなり剥奪してしまうのは酷だと言う事で、そういう風に処分するらしい。
だから今回、全体的に貴族の領土が入れ替わる事になった。
ギルの実家はかなり変わるらしくて、決まったらしばらく休みが欲しいと言っていた。
元々近かったガスパーとかサムの家は、広がったり少しズレるくらいで問題無いらしい。
ライルの実家も大幅に変わるらしいのだが、サムの方に養子に来てるからあまり関係ないんだとか。
いや、手伝いに行ってあげてください。
ライルのお父さんにはさんざん色々しちゃってるんで。
ただ移動が終わって空いた今回の没収領土分の余りの多くは、とりあえず王家が所有するらしい。
今後、色々起きそうだから、褒美として与えられるように取っておくつもりなんだろうとガスパーが言っていた。
そして問題の俺の爵位なのだが……。
何か今、男爵と子爵で揉めているらしい……。
子爵って……やめて……。
俺は准男爵のままでいたい……。
爵位がないと何かと都合が悪かったから欲しかっただけで、別に出世したい訳でも貴族になりたい訳でもないんだよ、俺は……。
だが実は今回シルクにも爵位を与えると言う話があって俺は悩んでいる。
もらうとしたら准男爵なのだが、あいつが欲しがるかと言えばいらないと言われると思う。
でもギルとの今後を考えると、名ばかり爵位の准男爵くらいなら持っていても良いのではないかと思っている。
今のままだと嫌な話、シルクは公の場でギルの正式なパートナーとして見てもらえない。
パートナーになれない訳ではないが、貴族社会は異国からの移民で平民のシルクを正式なパートナーとは考えない。
お気に入りの踊り子を連れてきたと見るのだ。
だから二人が今後どうするかはわからないけれど、名前だけの爵位ならとりあえず持っていてもいいと思うのだ。
捨てる事はできるけれど、得るのはそのチャンスがあるときだけなのだから。
でもシルクが爵位を得るのなら、主である俺はその上を持たなくてはならない。
領土持ちの准男爵になるのだからそれでもいいかとも思うが、やはり俺の爵位は従者であるシルクに影響を与える。
本人が准男爵で主の俺が男爵を持っていれば、周囲はシルクをギルの正式なパートナーとして誤解なくきちんと認識してくれるだろう。
それからウィルの身分回復の話もある。
今回のゴタゴタとウィルの功績を使って、男爵か准男爵に回復させる。
それに意味があるのかと言われると難しいのだが、俺はウィルがいずれ竜の谷とのパイプ役になるんじゃないかと考えている。
まぁ俺と結婚すれば俺の爵位がウィルにもつくのだが、やはり本人の出身家に爵位があるのとないのでは違いが出てくる。
もしもいつかウィルが竜の谷とのパイプ役になった時、実家の関係者としてこちらに来る方法が一番しっくり来るし嘘の身分を作るより安全なので、きちんと身分が確立されているかどうかは竜の谷からの信頼性に繋がる。
だから身分を復活させてから俺と結婚した方が、そうなった時の強みになると思うのだ。
そうなると、やはり俺の方は最低でも男爵になっていた方がいい。
一段階高いだけで協力できる部分が多くなるから。
でも子爵は……胃が痛くなりそうだから勘弁して欲しい……。
あまり爵位を上げたくないのは、東の国のハクマ家の事もある。
ハクマ家はここで言う所の侯爵と伯爵の間みたいな所の家だった。
俺がこっちであまり爵位を上げると変に絡まれそうな気がして嫌なのだ。
名前を変えたから大丈夫だとは思うが、どこかで何かを聞きつけてあの親族たちが押しかけてくるとも知れない。
ハクマの家は、おじさんとおばさんはいい人なのだが、問題は儀兄だったニ人と親戚の連中だ。
多分まだ家督争いしてるんだろうな、カイとダンは。
それが本人たちの意思なのかわからない。
双子だけにどっちが兄だ弟だと言ってもないようなものだから、幼い時からあの親戚たちがカイとダンを抱え込み二手に別れて争っている。
思い出しただけで吐き気がする。
それを思うと、ここの兄弟の問題なんて可愛いものじゃないか?
憎み合ってるんじゃない。
愛し合っているんだから……。
「わかるだろ?!兄弟なんだよ!実の兄弟なんだよ?!」
「アハハ、そうですね~。」
王様がぐじぐじ言っている。
わかるよ?!王様だもんね?!
跡継ぎの跡継ぎが、気になるもんね?!
「でも……良くないですか?とりあえず?家督争いで憎み合って、殺し合いになるよりは~。」
「そうだけど……そうだけどね?!」
「兄弟間の恋愛は難しい問題ですけど、一応、法律上は同性の場合は認められてますしね~。」
「わかってるよ?!それは?!でもさっ!!」
王様が酔って半泣きで机をドンドン叩いている。
そう、今回の問題を大きくした原因の一つ、第二王子ランスロット殿下の西の国の王女との婚約。
そしてそこからの呪いの問題。
王が手出しを鈍ったのは、王太子である第一王子ガブリエル殿下と第二王子ランスロット殿下の恋の問題があったからだ。
まぁな~。
どうりでいい年した王子が3人もいるのに、婚約の話が出ない訳だよな~。
上の二人は兄弟で恋をしていて、下の弟は南国の危ない男にストーカーされてんだもん。
ヤバくない?!この国?!
王太子と第二王子の二人は、小さい頃からお互いを愛していたが、立場を理解していたので表立ってそれを示す事はなかったらしい。
けれど想いは強く、ガブリエル王太子はどの婚約話にもうんと言わなかったし、ランスロット殿下は叶わない恋を抱えてそのまま教会に出家しようとしていた訳で。
なんか泣かせる展開というか何というか……。
そこに西の国から第二王子と王女との婚約話が持ち上がって、将来は王となる兄ガブリエル王太子の行く末を案じたランスロット殿下はとりあえずお見合いをする事を受け入れ、兄に諦めて貰おうとしたらしい。
しかしそこには西の国ないし南の国の罠があった。
南の国と結託した西の国は、中央王国を内部から侵略する駒としてランスロット第二王子を使う為、呪いを植え付けて意のままに操ろうとした。
呪いによって洗脳されたランスロット殿下には殆ど自覚がなく、キーとなる言葉『ランスロット殿下、全ては貴方の為に』を聞くと洗脳された人格が現れ行動を起こす様にされていたらしい。
この辺の呪いと洗脳の因果関係や仕組みはよくわからず、今、魔法師中心の王宮医療チームとフレデリカさんを中心とした魔術本部メンバーが、解読と治療を行っている。
だが王様的にはそれは問題ではないらしい。
(いや大きな問題だからね?)
なら何が王様を悩ませているかといえば……。
今回のこの事をきっかけに、ガブリエル王太子とランスロット殿下がお互いの気持ちを否定するのをやめてしまった事だ。
長年想い合いながら相手の立場の為にそれを避けていた二人だったが、危機に直面したことでたくさん後悔し、自分の気持ちに素直になって向き合う事にしたのだ。
そりゃ当然……当然の結果になる訳で……。
今、二人は初々しくもラブラブの恋人同士になったらしい。
「私だって可愛い息子たちを応援してやりたい!だが!我らは王族なのだ!悲しいが!相手を好きなだけでは結ばれる事ができないのだっ!!」
王様がピーピー泣いている。
俺はもう繕うのが面倒くさくなって、態度悪く肘をついてエイヒレをガジガジ噛んだ。
兄弟間の恋愛や結婚は難しい問題だ。
なぜ問題かと言うと、突き詰めれば遺伝子的な問題が起こるからだ。
それが解消できない為、同性の場合のみ婚姻が認められている。
だから同性である王太子と第二王子の場合、法律的にはなんの問題もない。
だが、そこは王族。
跡取りである王太子が同性婚をする場合、特例で第二王太子妃を持てるが、その場合、嫌な話、保険として別の兄弟が子供を設ける事が推奨されている。
つまり第二王子か第三王子が異性と結婚し、子供を持っておく事が暗黙のルール。
だが王太子の恋の相手は第二王子自身なのだ。
これは王様も弱る訳だ。
「そりゃ、うちにはもう一人息子がいるよ?!でも……リオは君に惚れているし……そもそもあの子は……。」
そこまで言って、王様は口篭った。
どうして黙ってしまったかは、何となく予想がつく。
俺は深くため息をついた。
「……そろそろちゃんと教えてもらえません?ライオネル殿下の事。大体の事はもうわかってるんで。」
俺の言葉に、ジョシュア国王は机に突っ伏して動かなくなった。
寝ている訳ではない。
悩んでいるのだ。
何か悩み多き王様だな~。
俺は半ば酔っ払っていて、王様のつむじをグリグリ指で突いた。
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そんな関係のあたしたち。
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「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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