欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章③「帰国裁判」

宴の終わりに

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ライオネル殿下と別れてから、俺はふらふら挨拶をしながら、隅っこの休憩スペースに入った。
そこから離れた場所でたまに見える、ウィルの格好良いダンスを見つめる。
ファンのご令嬢やご子息はうっとりとそのリードに合わせて踊っていた。

良いな~俺もウィルと踊りたい~。
リードされる側でもいいから踊りたいな~。

少しはダンスを習っておけば良かった。
ギルが教えてくれると言ったが、何か近くて真顔で怖かったので思わず断ってしまったけど、教えて貰えば良かった。

俺が踊れると言ったら……あれだけもんな~。

「サークさん??主役なのにこんなところでシミになって、どうしたんです??」

休憩スペースでぼんやりする俺にそんな声がかかった。
誰かと思えばイヴァンだった。
踊った後なのか、少し暑そうにしている。
うるさいな、放っとけよ。

「別に俺は主役じゃないだろ??」

「え?そうでしたっけ??」

「殴るぞ、お前。それより誰と踊ったんだよ??春は来そうか??」

「踊ったなら良いんですけどね~。相手は酔っぱらいの暴れん坊でしたよ。」

「……あ~、なるほどな。」

どうやら酔って不躾な行動をした者がいたようだ。
全く、仕事でもないのに人の良い奴だな、イヴァンは。
イヴァンは何でもないようにそう言って、側の椅子に座った。

「お疲れさん。」

俺は備えてあった水を汲んで渡してやった。
イヴァンはそれを受け取ると飲み干し、にっこり笑った。

「なら、踊ってくれますか?サークさん?」

「着物だから無理。つか、何でお前と踊らにゃならんのよ??」

「ん~?暇だから??」

「暇つぶしかよ!!」

俺はアホくさくなって、テーブルにあった焼き菓子を摘んだ。
イヴァンは喉が乾いていたようで、自分で水を汲んで飲んでいる。

「本当に踊らないんですか?ウィルさんとも?」

「あのな、知ってんだろ?俺、踊れないから。」

「東の国って踊らないんですか??」

「一応あるよ。でもこういうのじゃない。」

「どんな踊りですか??」

「盆踊りって言ってな、ん~、ちょっとお前、立て。」

「はぁ……?」

俺は不思議がるイヴァンを立たせて教え始めた。
とりあえず一通り覚えてるのはあれだけなんだけどさ。

「まずな、こう、掘って掘って……。」

「待って待って、何ですそれ?!」

俺が掘るようなジェスチャーをすると、訳がわからないといった顔でイヴァンが止めた。
何だよ、まだ始まってもないだろうが。

「良いから、良いから。だから、掘って掘って、また掘って、担いで担いて、後下がり。簡単だろ?ほれ、やってみろ。」

「今のを?!僕が?!」

「そうだよ。俺と踊りたいんだろ??」

「いや、別にサークさんと踊りたくないです。」

「うるさい。やれ。ほら!!掘って掘って……。」

俺はイヴァンに無理矢理盆踊りを教え始めた。
見様見真似で、イヴァンはやっている。
まぁ子供でもすぐできる踊りだからな、これは。

「押して、押して、開いて開いて、ちょちょんがちょん。繰り返して、掘って掘って~。」

何だかんだ、イヴァンは真面目だ。
教えていたらちゃんとやる。
言われなくても動きを覚えたら、急に声を上げて笑いだした。

「何なんですか?!これ?!ちょちょんがちょんって!!」

「だから盆踊りの一種だよ。タンコウブシって名前で、何かトンネルだかなんだかを掘削している状況らしい。掘って、土を担いで、荷馬車を押して~みたいな事らしい。」

「へぇ~、面白いですね!!」

「もう出来るよな?なら俺、歌うから合わせろ。」

「歌う?!」

「歌ってほどでもない。ほらやるぞ?ハイちょちょんがちょん!」

俺が手を叩くと、イヴァンが合わせてくる。
平気そうだったので、俺は構わず小声で歌いだした。

「月が~出たでた~月がぁ~出た~あ、よいよいっ♪」

その瞬間、ぶほっと見事に吹かれた。
そしてここが王様の開いたパーティーの会場であるにも関わらず、腹を抱えて笑いだした。

「待て待て待て待てっ!!何だよ!その歌っ!!」

あ~あ、笑いすぎて素に戻ってやがる。
せっかく教えてやったのに、イヴァンはヒーヒー笑っていて踊りどころじゃない。

「何?楽しそうだね?どうしたんだよ??」

いつの間にかライルがガスパーとやって来て、馬鹿笑いしているイヴァンを見てちょっと引いていた。

「うゎ……ネジ、外れてやがる……。やべぇな……。イヴァンが一度こうなると、中々戻んねぇぞ?!」

「イヴァン、どうしちゃったんだよ??」

「う~ん?東の国の踊りを教えろって言うから教えてたらこうなった。」

「何それ??」

「東の国の踊りって何だよ??」

そこで俺はまた二人にタンコウブシを教え始めた。
はじめは真剣に聞いていたが、ちょちょんがちょんで笑いだし、歌をつけるとライルとガスパーまで大笑いし始めた。
何だよ、お前ら、人の国の踊りに対して失礼だな。
とは言え、これで4人とも踊れる状態になった。

「な、何なんですか?!この面白すぎる踊りは?!」

「祭りで皆、輪になって踊るんだよ。楽しい気分にさせる為の踊りなんだから面白くても良いだろうが。」

「待ってサーク?!皆で輪になって躍るの?!これを?!」

「そうだぞ。櫓を組んだりして、その周りを輪で囲んで踊るんだよ。」

「何だよそれ……こわっ……儀式みてぇだな……。」

「まぁ、祭りって神様に感謝してやるもんだからな?ある種の儀式ではあるな??」

「ひ、東の国の神様って、ユニークですね!!これを見て喜ぶんですか?!」

「さぁ??喜んでるのかはわかんないけどさ??まぁ、やってみればわかるって。はい、散らばって~。進行方向はこっち~。」

俺はそう言って無理矢理4人で輪を作った。
まぁ4人だから輪というのは無理があるけどなんとなくで良いのだ、盆踊りなんて。

「はい!ちょちょんがちょん!!月が~♪出た出た~♪月がぁ~出たぁ~♪あ、よいよいっ♪」

他の三人は、爆死しながらもちゃんと踊っている。
広間の隅とはいえ、あまりに笑って楽しそうに変な事をやっているものだから、遠巻きに見ている人も出始めた。
ちょっと恥ずかしい。
でも何だかんだ、ライルもガスパーもイヴァンも楽しそうだから俺は続けた。

「あんま~り~♪煙突ぅ~がっ♪高いぃ~のでぇ~♪さぁぞぉやぁ~♪おっ月さんもぉ~♪煙たぁ~かろぉ~♪あらっよいよいっ♪すちゃらかちゃんちゃん♪すちゃらかちゃんちゃんっ♪」

一区切り終わった所で、三人は本当に大笑いして止まってしまった。
何だよ、まだまだ続くってのに。

「何なのこれ?!本当?!」

「ヤバイな。何か、何でお前が妙な性格してるか、これで理解できた気がする……。」

「何だよそれ?!ガスパー?!」

「いや、確かに僕も、ここにサークさんのルーツの全てを見た気がします……。」

「はぁ?!何か小馬鹿にされてる気がすんだけと?!」

ぎゃいぎゃい騒いでいると、いきなり頭を叩かれた。
驚いて振り返るとマダムが異国風のドレスで仁王立ちしている。
その後ろには、ボーンさんやレオンハルドさん、フレデリカさんという、かつての英雄四天王が立っていた。

「何、こんなところでタンコウブシなんぞ踊ってるんだい??」

「え?ええ?!マダム、タンコウブシを知ってるんですか??」

「あたしゃ冒険者の端くれだよ?しかもフライハイトにギルド構えてんだ。東の国の事ぐらいある程度知ってるさね。」

「へぇ~。」

何か意外だ。
そしてマダムは何故かライル達にちゃんと輪になるように支持し始めた。
どうやら輪に加わる気満々らしい。

「では私めも……。」

そして妙に嬉しそうにレオンハルドさんまで輪に入ってきた。

「へっ?!レオンハルドさん?!」

「おやおや、サーク様。私も演舞の踊り手ですよ?シルク程とは言いませんが、踊りにはそれなりに精通しております。」

え?何?この状況??
俺は何だかわからなくなってきた。
さっきまで笑い転げていた三人も、大御所の登場で笑うのをやめて、ちゃんと輪になっている。

「ほら!さっさとはじめなっ!!」

マダムにそう言われ、俺は慌てて輪に加わり歌い出す。
人数も増えたのでだいぶ盆踊りらしくなってきた。
そして俺が歌っていると、中々の演歌声が一緒に歌ってくれ始める。
誰かと思ったら、ボーンさんだった。
ちょっと酔っているのか顔がほんのり赤い。
今日は泣かないんだなぁ~。
歌は中々上手いのだが、小節が凄いというか癖が凄い。

「ボーンさん!何で唄えるんだよ?!」

俺は思わず笑ってしまった。
そのうちどこからか楽器を持った人が現れて、聞いた感じから音を合わせ始める。

待ってくれ、何なんだこれは?!

俺は踊りながらゲラゲラ笑ってしまった。
俺が笑うもんだから、ライル達も笑いだして何だか物凄く明るい感じになった。

「主~?!何なのこれ~??」

いつの間にか現れたシルクが、見てすぐ覚えたらしく輪に加わった。
しかもそのうち段々アレンジし始めて、輪の中央で勝手に踊り始めた。

知らないうちに人だかりが出来て、見様見真似で真似する人、知っていたのか輪に加わる人が出始める。
気づいたらイヴァンやライルが輪を外れて、周りの人に踊りを教えているし、ボーンさんはどこの誰とも知れない酔っ払ったおっさんと肩を組んで一緒に歌っているし、コーラス隊の人が耳で聞いて覚えて真似をし始めている。

あぁ、何だろう?
このごちゃごちゃした感じ。
懐かしい。

祭りの、あの何とも言えない雰囲気に似ていて、俺は凄く懐かしく嬉しく思った。
細かい決まりなんてなくて、ただ、皆で集まって輪になって踊るんだよ、盆踊りは。

「サーク。」

「ウィル!!」

いつの間にか、ウィルが横にいた。
なんとなくで合わせて踊ってくれるので、俺は踊りながら教えていった。

何か嬉しいな。
俺、ウィルと踊ってる。

盆踊りで思っていた踊りじゃないけど、ちゃんとウィルと踊ってる。
ウィルも俺の横でたまに間違えながら、楽しそうに笑っている。

ふと見ると、ギルがシルクに引っ張られて、ぎこちなくタンコウブシを踊っていた。
こんな簡単な踊りなのに、下手くそだな、あいつ。
何でも無表情にやってしまうギルが、少し顔を赤くしてギクシャク踊る姿は新鮮で、いつの間にか加わっていた部隊のメンバーが笑っていた。
それをムッと悔しそうに睨んでいて、本当におかしい。

「……え……っ?!」

何か俺がリードしなくても盆踊りの輪は続いていたので、ちょっと列を離れると、目立たない場所でレオンハルドさんがフレデリカさんに踊りを教えていた。
あのフレデリカさんが恥ずかしそうに教わっていて、俺は見てはいけないものを見た様な気がして慌ててしまった。

無意識に、マダムがどうしているか確認してしまう。
マダムはいつの間に来たのか、イグナスに踊りを教えていた。
ほっと胸を撫で下ろす。

「……ヒヤヒヤすんだろ?!おい!」

そう言われて振り向くと、ボーンさんだった。
俺はどんな顔をしていいのかわからず、黙って頷いた。

「誰から聞いた?!」

「誰からって言うか……何となく色んな人に聞いた事を纏めると……みたいな感じですね~。」

そう、俺は30年前の英雄達の面倒くさい恋愛事情を何となく知っていた。
どこからか話せば良いのかわからないが、とにかく、フレデリカさんはジョシュア国王が好きだった。
でもジョシュア国王はマダムにゾッコンで、そのマダムは決して口に出さなかったが、ホロウことレオンハルドさんを想っていた。

レオンハルドさんは当時は特に誰とも何もなかったのだが、村が滅んだ時に大荒れして、その時、どういういきさつかはわからないが、なんとフレデリカさんを主に選んだのだ。
そう、フレデリカさんが国王に貸しているもの、そしてフレデリカさんの剣と言うのは、レオンハルドさんの事なのだ。

それは酔っ払った王様がグチグチ泣きながら、かつてのマダムへの想いを語っている時に、ポロッとこぼして俺を青ざめさせた。

「でも……何でフレデリカさんは、今でもあんなにマダムに拘っているんですかね……。だって、レオンハルドさんの主になった訳でしょう??恋愛感情はなかったとしても、カイナの民にとって主は絶対的な存在ですから、ある意味フレデリカさんが勝ったって言ってもおかしくないじゃないですか??」

「甘いんだよ、サーク。乙女心ってのは複雑なんだよ……。フリッカは多分、今でもジョッシュを想ってやがる。だがジョッシュは今でもババアを愛している。あの馬鹿国王にとって、ババアは永遠に手に入らない永遠のマドンナなんだよ……。本当、夢見がちな頭で困るよな?!馬鹿国王は……。だからたとえ、ババアの想い人だったホロウの主になったって、拭えないもんがあんだよ。しかもババアはそうなっても微塵も悔しがったりしなかった。だから余計、フリッカの気持ちは複雑なんだよ……。」

「……どうして、マダムは平気だったんですか?その後も誰とも結婚しなかった程の相手なのでしょう??」

「知ってたからさ……。あいつは全てを知っていたのさ。ホロウの村が滅ぶ事も全てな……。だが何も言う事ができなかった。あいつのは占いじゃない。決められた道筋を見るのさ。それを変える事はできないし、変えようとすれば手痛いしっぺ返しが来る。だから何も言えなかった。……可哀想だろ?好きな男ができたら、そいつの未来に自分がいるか知りたくなるのは当然の事だ。そしてそれがあいつには可能だった。その結果、あいつは絶対に話せない重い運命を背負っちまった。だからあいつは視るのをやめた。二度とそれを背負わないようにな。」

俺はその時、俺を視てくれたマダムの覚悟を知った。

また、重い運命を背負うかもしれなかったのに、俺を見てくれたのだ。
マダムが全部話してくれているかはわからないけれど、本当に途中で俺の運命が見えなくなるならそれで良かったと思った。
マダムにそんな苦痛を背負わせてまで、俺は知りたい事なんて何もない。

未来なんてクソ喰らえだ。

いつかマダムが言った言葉。
誰よりも確実に未来を知ってしまうマダムのその言葉は重い。

「未来なんてクソ喰らえだっ!」

まるで俺の心をなぞる様に、ボーンさんが呟いた。
それに黙って頷いた。

今はこんなに穏やかで楽しい。
だが、それがこの先不変であるとは限らない。

だって、今回の事は始まりに過ぎないのだ。
ひとまず今回は何とかしたが、これで終わらない事は多くの人がわかっていた。

これから何が起こるか、どうなっていくのか、誰にもわからない。

「ボーンさん。」

「ああっ?!」

「……ウィルの事、お願いします……。」

「……ああ。できる限りの事はしてやる。あの宝石はてめぇの心臓の1つだ。奪われる訳には行かねぇからな……。その為には、本人が何でも出来ねぇといざって時にあぶねぇ……。」

「ありがとうございます。」

「別に。てめぇの為じゃねぇ。」

「そうですか……。」

「あぁ、そうだよ、馬鹿野郎。」

大広間の片隅で楽しげに繰り広げられる盆踊りの輪を見つめながら、俺はぼんやりとボーンさんの悪態を聞いていた。
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みんなの感想(1件)

オレンジハッピー
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2025.02.26 ねぎ(塩ダレ)

【オレンジハッピー様】
いつもありがとうございます!長らくお待たせしましてすみません!
八章。いつもと違って知能戦みたいなのを頑張ったのですが、最終的には拳で方をつけるのはこの話のお約束パターンです。(笑)そして無駄にハーレムエンドです。(笑)王様のつむじは押すためにあるのでぐりぐりします。(笑)
もう少しで移植も終わるので、頑張ります!
ご感想ありがとうございました!

解除

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