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第一章「外壁警備編」
災いの鋒
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早く終わらないかなぁ。
そう思いながらとぼとぼと歩く。
警備最後尾の本当に一番後ろを俺はやる気なくついていった。
一番後ろというのは色々なものが見える。
前列のリグがチラチラ振り返って王子を盗み見て、その行動に隊長の頭から湯気がわいているのが見える。
思ったより平和だな。
少し安心した。
キラッキラッの王子様は、太陽を反射して輝いていた。
日陰に生息するものとしては、遠くからでも十分な脅威だ。
あんなのの近くにいたら、5秒で死ねる自信がある。
彼のまわりに溢れる生き生きとした現実は、ここから見ていても息苦しい。
華々しい称賛と敬意と、足元に色濃く蠢く欲望と。
気持ち悪い。
口の中に酸っぱさが込み上げた。
人の欲情を研究しているのに何であれがダメかというと、まぜこぜだからだ。
憧れや称賛などのキラキラした澄んだ匂いに、どろどろと腐食した様々な欲望の臭いが混ざっている。
臭いものだけなら、それはそれで何てことない。
ある意味、慣れれば好ましくさえある。
だが混ざったら駄目だ。
普通の人間、社会も、当然、様々な人の思惑が絡んでいて、まぜこぜだ。
だが権力者の持つ狂信的な羨望とドロドロとした欲望の強さ、それらのまぜこぜ具合といったら半端ではない。
ああいうものとは関わらずに生きていくに越したことはない。
口に広がった苦味を飲み込みながら、俺はそう思った。
あまり見ていて気分の良いものではないので外壁の外側に目を向ける。
俺が割り当てられている外壁部は、街道などがない暇な場所だ。
外は森が広がっている。
出入り口がない訳ではないが、この辺の出入り口を使うのは警備兵と森に狩猟や採取に行く者と、冒険に夢見る探求者たちくらいだ。
寝不足と疲労で万全でない体調にも、木々の緑は薬になる。
ゆっくりと深呼吸をした。
もうしばらくすれば、警備も終わるだろう。
俺はぼんやりと深々と広がる森を見つめていた。
「……?!」
定まらない視点で全体を眺めていた一瞬、視界のどこかに「何か」を見た。
それが何か確認するよりも早く、俺は反射的に杖を掴んで空に掲げた。
頭上に危険を知らせる花火がうち上がる。
「シールド展開!!」
自分でも驚く程のでかい声で叫んだ。
それと同時に後方護衛を守るよう、無意識にシールドを張る。
どうするか考えるより先に動く体に、自分は腐ってても兵士なんだなと頭の片隅で思った。
俺の叫びに一呼吸遅れ、矢と魔術が降り注いだ。
午前中点検強化しておいた城壁シールドがその殆どを防いでいたが、いくつかは貫通してきて、咄嗟に張った俺のシールドに振動を与えた。
「リグ!跳べ!!」
「何で俺なんですか~!!」
俺の指示にリグは文句を言ったが、言った時には既に跳んでいた。
何だかんだで良くできた仕事のできる後輩だ。
この状況を受け、リグも俺が指示する前に体が自然に動いたのだろう。
視界の片隅で、王子が歩兵と護衛の騎士と魔術師に守られながら退避していく。
「俺も降ります!」
森を睨んだ俺の背後に班長の気配を感じ、そう告げて振り向かないまま跳ぼうとする。
しかしその肩が捕まれた。
「俺が行く!お前の方が目が聴く!指示を出せ!!」
隊長はそう言うと、俺を残して素早く外壁を跳んだ。
視界の下部に、外壁出入り口から歩兵や騎馬兵が出てきている。
反らさずに睨みつける森から、ドーンと大きな音がした。
先陣を切ったリグが敵と接触したのだろう。
挨拶代わりと俺に位置を知らせるため、でかいのをブチ込んだようだ。
森の一か所、木々が犇めき噴煙と怒号が上がっている。
「2時の方角!!距離!5!!」
俺は下に位置を教えながら、煙の上がっている場所に杖を向けた。
考えてる暇なんかない。
敵が何人いるかは知らないが、リグは一人だ。
風の矢が無数にそこめがけて飛び出していく。
こんなもの当たったって死なないが、この際、攻撃能力なんてどうでも良いのだ。
班長がリグと合流するまで、向こうの動きを鈍らせ時間が稼げれば良い。
「!!うざいっ!!」
しかし向こうも反撃とばかりに俺に向けて火の矢を飛ばしてきた。
魔術師なのか魔術兵なのかはわからないが、向こうにも魔術を使える者がそれなりにいる。
しかも森の中で火の魔術を平然と放つなんて……。
もしも森に火がついたら、自分たちの身や撤退も危うくなるというのに、なりふり構わずこちらの攻撃を弱め、あわよくば壁内を燃やしてやろうという魂胆のようだ。
頭に来た。
全くなんて日だと思う。
俺の平和で怠惰な仕事場をメチャクチャにし、余計な仕事ばかり増やしやがって!!
これでは帰れないだろうが!!
もういい!
やってやろうじゃないか!
杖を掴んでいるのとは反対の手で、俺は公式を展開し魔方陣を組んだ。
「攻撃しながら防げないと思ったら!大間違いなんだからなぁ!!」
組んだ魔方陣を目の前で稼働させる。
フォンという独特の囁きをこぼして、魔術が発動した。
弱った外壁シールドを越えてきた火の矢が、俺の張ったシールドに防がれてバチバチと音を立てる。
「…………っ。」
思わず偉そうなことを言って勢いに任せたが、正直キツい。
外壁シールドの強化にも魔力を使ったから、2つの魔術に魔力を吸い上げられ、自分がどこまで持つかと不安になる。
感情に任せてやらなきゃ良かった。
パーンと森の方から、花火が上がった。
リグと班長が合流した合図だ。
良かった。
下っぱの分際で調子に乗りすぎた。
俺はすぐさま攻撃を止め、防御シールドに全振りする。
ひとつに集中できれば、大したことはない。
あちらさんも兵士たちが追いついたらしく、もう攻撃してくる余裕はないようだ。
炎の矢も飛んでくる事がなくなり、シールドを解く。
そしてほっと一息ついて下を見た。
ちょうど真下に外壁の通用出入り口があり、歩兵班の人達があわただしく出入りしていた。
それを眺めながら、自分の仕事は終わったな~と俺は外壁に座り込んだ。
そう思いながらとぼとぼと歩く。
警備最後尾の本当に一番後ろを俺はやる気なくついていった。
一番後ろというのは色々なものが見える。
前列のリグがチラチラ振り返って王子を盗み見て、その行動に隊長の頭から湯気がわいているのが見える。
思ったより平和だな。
少し安心した。
キラッキラッの王子様は、太陽を反射して輝いていた。
日陰に生息するものとしては、遠くからでも十分な脅威だ。
あんなのの近くにいたら、5秒で死ねる自信がある。
彼のまわりに溢れる生き生きとした現実は、ここから見ていても息苦しい。
華々しい称賛と敬意と、足元に色濃く蠢く欲望と。
気持ち悪い。
口の中に酸っぱさが込み上げた。
人の欲情を研究しているのに何であれがダメかというと、まぜこぜだからだ。
憧れや称賛などのキラキラした澄んだ匂いに、どろどろと腐食した様々な欲望の臭いが混ざっている。
臭いものだけなら、それはそれで何てことない。
ある意味、慣れれば好ましくさえある。
だが混ざったら駄目だ。
普通の人間、社会も、当然、様々な人の思惑が絡んでいて、まぜこぜだ。
だが権力者の持つ狂信的な羨望とドロドロとした欲望の強さ、それらのまぜこぜ具合といったら半端ではない。
ああいうものとは関わらずに生きていくに越したことはない。
口に広がった苦味を飲み込みながら、俺はそう思った。
あまり見ていて気分の良いものではないので外壁の外側に目を向ける。
俺が割り当てられている外壁部は、街道などがない暇な場所だ。
外は森が広がっている。
出入り口がない訳ではないが、この辺の出入り口を使うのは警備兵と森に狩猟や採取に行く者と、冒険に夢見る探求者たちくらいだ。
寝不足と疲労で万全でない体調にも、木々の緑は薬になる。
ゆっくりと深呼吸をした。
もうしばらくすれば、警備も終わるだろう。
俺はぼんやりと深々と広がる森を見つめていた。
「……?!」
定まらない視点で全体を眺めていた一瞬、視界のどこかに「何か」を見た。
それが何か確認するよりも早く、俺は反射的に杖を掴んで空に掲げた。
頭上に危険を知らせる花火がうち上がる。
「シールド展開!!」
自分でも驚く程のでかい声で叫んだ。
それと同時に後方護衛を守るよう、無意識にシールドを張る。
どうするか考えるより先に動く体に、自分は腐ってても兵士なんだなと頭の片隅で思った。
俺の叫びに一呼吸遅れ、矢と魔術が降り注いだ。
午前中点検強化しておいた城壁シールドがその殆どを防いでいたが、いくつかは貫通してきて、咄嗟に張った俺のシールドに振動を与えた。
「リグ!跳べ!!」
「何で俺なんですか~!!」
俺の指示にリグは文句を言ったが、言った時には既に跳んでいた。
何だかんだで良くできた仕事のできる後輩だ。
この状況を受け、リグも俺が指示する前に体が自然に動いたのだろう。
視界の片隅で、王子が歩兵と護衛の騎士と魔術師に守られながら退避していく。
「俺も降ります!」
森を睨んだ俺の背後に班長の気配を感じ、そう告げて振り向かないまま跳ぼうとする。
しかしその肩が捕まれた。
「俺が行く!お前の方が目が聴く!指示を出せ!!」
隊長はそう言うと、俺を残して素早く外壁を跳んだ。
視界の下部に、外壁出入り口から歩兵や騎馬兵が出てきている。
反らさずに睨みつける森から、ドーンと大きな音がした。
先陣を切ったリグが敵と接触したのだろう。
挨拶代わりと俺に位置を知らせるため、でかいのをブチ込んだようだ。
森の一か所、木々が犇めき噴煙と怒号が上がっている。
「2時の方角!!距離!5!!」
俺は下に位置を教えながら、煙の上がっている場所に杖を向けた。
考えてる暇なんかない。
敵が何人いるかは知らないが、リグは一人だ。
風の矢が無数にそこめがけて飛び出していく。
こんなもの当たったって死なないが、この際、攻撃能力なんてどうでも良いのだ。
班長がリグと合流するまで、向こうの動きを鈍らせ時間が稼げれば良い。
「!!うざいっ!!」
しかし向こうも反撃とばかりに俺に向けて火の矢を飛ばしてきた。
魔術師なのか魔術兵なのかはわからないが、向こうにも魔術を使える者がそれなりにいる。
しかも森の中で火の魔術を平然と放つなんて……。
もしも森に火がついたら、自分たちの身や撤退も危うくなるというのに、なりふり構わずこちらの攻撃を弱め、あわよくば壁内を燃やしてやろうという魂胆のようだ。
頭に来た。
全くなんて日だと思う。
俺の平和で怠惰な仕事場をメチャクチャにし、余計な仕事ばかり増やしやがって!!
これでは帰れないだろうが!!
もういい!
やってやろうじゃないか!
杖を掴んでいるのとは反対の手で、俺は公式を展開し魔方陣を組んだ。
「攻撃しながら防げないと思ったら!大間違いなんだからなぁ!!」
組んだ魔方陣を目の前で稼働させる。
フォンという独特の囁きをこぼして、魔術が発動した。
弱った外壁シールドを越えてきた火の矢が、俺の張ったシールドに防がれてバチバチと音を立てる。
「…………っ。」
思わず偉そうなことを言って勢いに任せたが、正直キツい。
外壁シールドの強化にも魔力を使ったから、2つの魔術に魔力を吸い上げられ、自分がどこまで持つかと不安になる。
感情に任せてやらなきゃ良かった。
パーンと森の方から、花火が上がった。
リグと班長が合流した合図だ。
良かった。
下っぱの分際で調子に乗りすぎた。
俺はすぐさま攻撃を止め、防御シールドに全振りする。
ひとつに集中できれば、大したことはない。
あちらさんも兵士たちが追いついたらしく、もう攻撃してくる余裕はないようだ。
炎の矢も飛んでくる事がなくなり、シールドを解く。
そしてほっと一息ついて下を見た。
ちょうど真下に外壁の通用出入り口があり、歩兵班の人達があわただしく出入りしていた。
それを眺めながら、自分の仕事は終わったな~と俺は外壁に座り込んだ。
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