20 / 57
第二章「別宮編」
袋のネズミ
しおりを挟む
「……と、言う訳で、あれもただのトリックです。」
「なんだ~そうなんだ~!」
あの後、頭を無理矢理フル稼働させた俺は、さっきのシールドも身を守る為に魔術を前々から自分にかけてあった物だと説明した。
所々、無理があったが、魔術師ではないライルさんは素直に信じてくれた。
すみません!ライルさん!!
俺はあなたの純朴さにつけ込んで嘘つきました!!
何も疑いもせず、自分を信じてくれているだけに、罪悪感が半端ない。
もぐもぐと幸せそうに昼飯を食べているこの先輩を、罪滅ぼしに今後は必ず守ろうと心に誓う。
「そう言えば、サークが名前でいいんだよな?」
「はい、そうです。どうしてですか?」
「あった時サークですって言ったから、わかってたよ?副隊長にはハクマ・サークって名乗ったから、ああ、姓が先にくる人なんだなって思ってたら、ガスパーにはサーク・ハクマって名乗ったじゃん?」
「ああ、副隊長には礼を尽くして国に登録されている正式名称でご挨拶したんです。でも彼の場合、姓が先にくる名前があることの理解があるかわからなかったので、わかりやすく教えてあげました。」
「あはは!サークって腹黒いのか!?面白れぇ~!」
「……腹黒いは、ちょっとショックです。」
「ごめん、ごめん!!」
ライルさんはそう言うと俺の頭をぽんぽん撫でた。
何か撫でる対象(犬)から撫でられてる気分で、少し変な感じだった。
「ライル!ちょっとこっちに来てくれ!」
昼休憩が終わり倉庫の整理と掃除をしていると、ライルさんが他の人に呼ばれた。
貴族のお坊ちゃま達はあまり熱心に働かない。
ティータイムだ何だとすぐ休憩しだす。
だからライルさんのように真面目に働く人は、あちこちから物を頼まれるのだ。
「は~い!今、行きます~!」
そう答えると申し訳なさそうな顔で俺を見た。
そんなに気にしなくてもいいのに、本当、いい人だよなぁ~。
「ごめん!すぐ戻るから、続きやっててくれ!」
「大丈夫ですよ、行ってきて下さい。」
頼まれた側なのに、ライルさんは俺に何度もゴメンな?というポーズをしながら早足で去っていく。
そんな姿に少し苦笑してしまう。
ライルさんが行った後、俺は一人で黙々と作業を続けた。
どれくらいしただろうか?
ある程度の時間が経った時、突然、バンッと倉庫のドアが閉まった。
埃もあるので開けっ放しにしていたので、少し驚く。
顔を向けると数人がそこにいた。
先頭にはさっきの男、ガスパーがいた。
「よぉ平民。」
「何かご用ですか?」
「倉庫掃除か、平民にはお似合いだな!」
「ありがとうございます。」
返事はしつつ、俺は相手にせずに手を動かし続けた。
それが勘に触ったらしく、ガスパーは整理の為に積んであった本の山をひっくり返す。
「あ~、悪いな?引っかけた。」
「お気になさらず。大丈夫ですよ、後で直します。」
「……てめえ!!」
俺が意に返しませんという平然とした態度を貫くと、ガスパーはあからさまに苛立った顔をした。
何なんだこいつは?
かまってちゃんか?
とはいえ本を倒すぐらいならいいが、何か壊されたら面倒臭い。
俺は仕方なく彼に向き合った。
「……それで?大の男が数人で新人を倉庫に閉じ込めて、何がしたいんです?」
「ちょっとデカイ顔してるからな?色々教えてやろうかと思ったんだよ。」
「へ~。こういう時の定番ですと、暴行かレイプですけど、どっちですか?」
特に慌てる事もなく普通に言い返すと、彼の後ろのメンバーは少し狼狽えた。
こんな脅しにいちいちまともに反応してビビってたら、ちょっと裏に入った下町や外壁警備でなんかやっていけない。
人の事を平民、平民言う割に、貴族のお坊ちゃま達は何もわかっちゃいない。
「……殿下の警備部隊だと聞いていましたが……。やることは裏町の傭兵崩れと変わらないですね。」
「はっ!?お前、そんな所にいたのかよ!?」
「いたというと語弊がありますけど、外壁警備の仕事をしていればそれなりにそっちの揉め事にも駆り出されますし、下町だってちょっと裏に入ればそういうものと隣り合わせですから。別にやいのやいの騒ぎ立てる程の事でもないですよ。」
「ケッ!これだからどこのモンとも知れない臭セェ平民は嫌なんだよ!!」
「……確かに私は平民から奇跡的に騎士になりましたよ。そこは否定しません。しかしなれたという事は、私の身元調査はかなりされています。それをされた上で議会の承認を得、騎士になりました。私をどう思おうと勝手ですが、汚れを嫌う貴族社会に与するにあたり、汚点があって平民から騎士になれると思うんですか?」
サラリと言ってのける。
ガスパーは苛立ったように顔を顰めた。
でもそんな顔をしようと、俺の言っている事は単なる事実だ。
だからこそ気に入らないとも言うのだろう。
「……こいつ!!」
「はっきり言って、生まれだけで騎士である人よりは、俺の方がよっぽど綺麗でまっさらな自信はありますけどね。」
「いい加減にしろよ!?」
苦々しく睨まれるが、こんなもの怖くもなんともない。
裏の物陰の闇には、苛立っているからと理由もなくイチャモンつけて人を襲うような輩だっているのだ。
人生勝ち組のぬるま湯で育ったお坊ちゃまに凄まれたって、蛙の面に水みたいなもんだ。
「……で?どうするんです?俺を暴行するんですか?レイプするんですか?ちなみにそれがバレた場合、あなた方の汚点になりますけど、大丈夫ですか?」
どうせ何の考えもなしにここに来たのだろう。
平民の新人なんか、脅せばいいと思ったんだろうな。
後先考えず突っ走るにしたって、もう少し頭を使って欲しいものだ。
俺の言葉に不味くないか?という雰囲気が、彼らから漂い始める。
いい大人なんたから、少しは考えて動けよ。
この程度の言い返しで狼狽えるくらいなら、おとなしくいい子のお坊っちゃんしてればいいのに。
はねっ返って突っ張ってるのが格好いいと思ってるのかもしれないがな?
裏通りのマジモン見てきた俺から言わせれば、お前らのはねっ返っりなんて、お子様どころか赤ちゃんだぞ??
俺は大きくため息をついた。
それなりの給料が出てるんだ。
これ以上、お貴族様のお遊びになんか付き合ってられない。
「……すみませんが仕事の途中です。用が済んだなら、出ていってもらえますか?」
俺はそう言うと、作業を再開した。
黙々と作業を続ける。
どうするよ?ヤバいよ、とひそひそ言っているが、俺の知ったことじゃない。
だが状況が悪くても、彼には退くことが出来ないようだ。
プライドだけはお貴族様として一人前なようだ。
「……用があればいいんだよな?」
その中で、端から引く気すらないガスパーが言った。
後ろの連中は、どうしていいのかわからずまごついている。
諦めが悪いな……。
人生、退く時に退かないと痛い目を見るぞ?
とはいえ、良くも悪くも自分の筋を曲げずに貫く根性は認めたい。
俺はため息をつくと、もう一度、彼と向き合った。
「……それで?用は何ですか?」
「お前に仕事をさせてやる。」
「今、ライル先輩に頼まれた仕事をしているんで、後にしてもらえますか?」
「うるせぇな!こっちが先だ!!」
彼は短気なのか、そう言って棚をダンッと叩いた。
物を壊されてはたまらない。
ここにあるものを弁償させられて給料が減ったら、何の為に我慢して外壁警備からこっちに来たのかわからなくなる。
「……わかりました。聞くだけ聞きますよ。何の仕事ですか?」
「拷問だよ。」
「……は?」
「今、何をしても口を割らない奴がいて皆、困ってんだ。各部署から早く情報を聞き出すか、でなければ身柄を渡せと催促が来てる。だが聞き出せなかったと身柄を他に引き渡したら、第三別宮警護部隊の面目丸潰れだ。……お前、やってみろよ、平民の新人。」
それは拷問ではなく、尋問だ。
でもまあ、この様子では、拷問してるんだろうけど。
「それをやって、私に何か得があるんですか?」
「なんだよ、怖えぇのかよ?」
「いや怖くはないですが。」
「ならやれ。もし出来たら、金輪際、お前に関わらないにと約束してやる。」
そう言われて、少し考える。
出来なくは、ないな。
「その条件に、ライル先輩も入れてくれるなら、引き受けますよ。」
「いいだろう。」
ガスパーはニヤリと笑った。
自分が出来ないことを出来るわけがないと思っているようだ。
そんな彼に、俺は言った。
「確認ですけど、それは口を割らせば、どんな方法でもいいんですよね?」
「なんだ~そうなんだ~!」
あの後、頭を無理矢理フル稼働させた俺は、さっきのシールドも身を守る為に魔術を前々から自分にかけてあった物だと説明した。
所々、無理があったが、魔術師ではないライルさんは素直に信じてくれた。
すみません!ライルさん!!
俺はあなたの純朴さにつけ込んで嘘つきました!!
何も疑いもせず、自分を信じてくれているだけに、罪悪感が半端ない。
もぐもぐと幸せそうに昼飯を食べているこの先輩を、罪滅ぼしに今後は必ず守ろうと心に誓う。
「そう言えば、サークが名前でいいんだよな?」
「はい、そうです。どうしてですか?」
「あった時サークですって言ったから、わかってたよ?副隊長にはハクマ・サークって名乗ったから、ああ、姓が先にくる人なんだなって思ってたら、ガスパーにはサーク・ハクマって名乗ったじゃん?」
「ああ、副隊長には礼を尽くして国に登録されている正式名称でご挨拶したんです。でも彼の場合、姓が先にくる名前があることの理解があるかわからなかったので、わかりやすく教えてあげました。」
「あはは!サークって腹黒いのか!?面白れぇ~!」
「……腹黒いは、ちょっとショックです。」
「ごめん、ごめん!!」
ライルさんはそう言うと俺の頭をぽんぽん撫でた。
何か撫でる対象(犬)から撫でられてる気分で、少し変な感じだった。
「ライル!ちょっとこっちに来てくれ!」
昼休憩が終わり倉庫の整理と掃除をしていると、ライルさんが他の人に呼ばれた。
貴族のお坊ちゃま達はあまり熱心に働かない。
ティータイムだ何だとすぐ休憩しだす。
だからライルさんのように真面目に働く人は、あちこちから物を頼まれるのだ。
「は~い!今、行きます~!」
そう答えると申し訳なさそうな顔で俺を見た。
そんなに気にしなくてもいいのに、本当、いい人だよなぁ~。
「ごめん!すぐ戻るから、続きやっててくれ!」
「大丈夫ですよ、行ってきて下さい。」
頼まれた側なのに、ライルさんは俺に何度もゴメンな?というポーズをしながら早足で去っていく。
そんな姿に少し苦笑してしまう。
ライルさんが行った後、俺は一人で黙々と作業を続けた。
どれくらいしただろうか?
ある程度の時間が経った時、突然、バンッと倉庫のドアが閉まった。
埃もあるので開けっ放しにしていたので、少し驚く。
顔を向けると数人がそこにいた。
先頭にはさっきの男、ガスパーがいた。
「よぉ平民。」
「何かご用ですか?」
「倉庫掃除か、平民にはお似合いだな!」
「ありがとうございます。」
返事はしつつ、俺は相手にせずに手を動かし続けた。
それが勘に触ったらしく、ガスパーは整理の為に積んであった本の山をひっくり返す。
「あ~、悪いな?引っかけた。」
「お気になさらず。大丈夫ですよ、後で直します。」
「……てめえ!!」
俺が意に返しませんという平然とした態度を貫くと、ガスパーはあからさまに苛立った顔をした。
何なんだこいつは?
かまってちゃんか?
とはいえ本を倒すぐらいならいいが、何か壊されたら面倒臭い。
俺は仕方なく彼に向き合った。
「……それで?大の男が数人で新人を倉庫に閉じ込めて、何がしたいんです?」
「ちょっとデカイ顔してるからな?色々教えてやろうかと思ったんだよ。」
「へ~。こういう時の定番ですと、暴行かレイプですけど、どっちですか?」
特に慌てる事もなく普通に言い返すと、彼の後ろのメンバーは少し狼狽えた。
こんな脅しにいちいちまともに反応してビビってたら、ちょっと裏に入った下町や外壁警備でなんかやっていけない。
人の事を平民、平民言う割に、貴族のお坊ちゃま達は何もわかっちゃいない。
「……殿下の警備部隊だと聞いていましたが……。やることは裏町の傭兵崩れと変わらないですね。」
「はっ!?お前、そんな所にいたのかよ!?」
「いたというと語弊がありますけど、外壁警備の仕事をしていればそれなりにそっちの揉め事にも駆り出されますし、下町だってちょっと裏に入ればそういうものと隣り合わせですから。別にやいのやいの騒ぎ立てる程の事でもないですよ。」
「ケッ!これだからどこのモンとも知れない臭セェ平民は嫌なんだよ!!」
「……確かに私は平民から奇跡的に騎士になりましたよ。そこは否定しません。しかしなれたという事は、私の身元調査はかなりされています。それをされた上で議会の承認を得、騎士になりました。私をどう思おうと勝手ですが、汚れを嫌う貴族社会に与するにあたり、汚点があって平民から騎士になれると思うんですか?」
サラリと言ってのける。
ガスパーは苛立ったように顔を顰めた。
でもそんな顔をしようと、俺の言っている事は単なる事実だ。
だからこそ気に入らないとも言うのだろう。
「……こいつ!!」
「はっきり言って、生まれだけで騎士である人よりは、俺の方がよっぽど綺麗でまっさらな自信はありますけどね。」
「いい加減にしろよ!?」
苦々しく睨まれるが、こんなもの怖くもなんともない。
裏の物陰の闇には、苛立っているからと理由もなくイチャモンつけて人を襲うような輩だっているのだ。
人生勝ち組のぬるま湯で育ったお坊ちゃまに凄まれたって、蛙の面に水みたいなもんだ。
「……で?どうするんです?俺を暴行するんですか?レイプするんですか?ちなみにそれがバレた場合、あなた方の汚点になりますけど、大丈夫ですか?」
どうせ何の考えもなしにここに来たのだろう。
平民の新人なんか、脅せばいいと思ったんだろうな。
後先考えず突っ走るにしたって、もう少し頭を使って欲しいものだ。
俺の言葉に不味くないか?という雰囲気が、彼らから漂い始める。
いい大人なんたから、少しは考えて動けよ。
この程度の言い返しで狼狽えるくらいなら、おとなしくいい子のお坊っちゃんしてればいいのに。
はねっ返って突っ張ってるのが格好いいと思ってるのかもしれないがな?
裏通りのマジモン見てきた俺から言わせれば、お前らのはねっ返っりなんて、お子様どころか赤ちゃんだぞ??
俺は大きくため息をついた。
それなりの給料が出てるんだ。
これ以上、お貴族様のお遊びになんか付き合ってられない。
「……すみませんが仕事の途中です。用が済んだなら、出ていってもらえますか?」
俺はそう言うと、作業を再開した。
黙々と作業を続ける。
どうするよ?ヤバいよ、とひそひそ言っているが、俺の知ったことじゃない。
だが状況が悪くても、彼には退くことが出来ないようだ。
プライドだけはお貴族様として一人前なようだ。
「……用があればいいんだよな?」
その中で、端から引く気すらないガスパーが言った。
後ろの連中は、どうしていいのかわからずまごついている。
諦めが悪いな……。
人生、退く時に退かないと痛い目を見るぞ?
とはいえ、良くも悪くも自分の筋を曲げずに貫く根性は認めたい。
俺はため息をつくと、もう一度、彼と向き合った。
「……それで?用は何ですか?」
「お前に仕事をさせてやる。」
「今、ライル先輩に頼まれた仕事をしているんで、後にしてもらえますか?」
「うるせぇな!こっちが先だ!!」
彼は短気なのか、そう言って棚をダンッと叩いた。
物を壊されてはたまらない。
ここにあるものを弁償させられて給料が減ったら、何の為に我慢して外壁警備からこっちに来たのかわからなくなる。
「……わかりました。聞くだけ聞きますよ。何の仕事ですか?」
「拷問だよ。」
「……は?」
「今、何をしても口を割らない奴がいて皆、困ってんだ。各部署から早く情報を聞き出すか、でなければ身柄を渡せと催促が来てる。だが聞き出せなかったと身柄を他に引き渡したら、第三別宮警護部隊の面目丸潰れだ。……お前、やってみろよ、平民の新人。」
それは拷問ではなく、尋問だ。
でもまあ、この様子では、拷問してるんだろうけど。
「それをやって、私に何か得があるんですか?」
「なんだよ、怖えぇのかよ?」
「いや怖くはないですが。」
「ならやれ。もし出来たら、金輪際、お前に関わらないにと約束してやる。」
そう言われて、少し考える。
出来なくは、ないな。
「その条件に、ライル先輩も入れてくれるなら、引き受けますよ。」
「いいだろう。」
ガスパーはニヤリと笑った。
自分が出来ないことを出来るわけがないと思っているようだ。
そんな彼に、俺は言った。
「確認ですけど、それは口を割らせば、どんな方法でもいいんですよね?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
34
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる