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第二章「別宮編」

人間の奥底 ☆

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部屋はしん、と静まり返っていた。
どこかで虫やねずみが這い回る微かな音が響くだけ。

俺は沈黙したまま、動かなかった。

だいぶ時間が経ち、ガスパー達がひそひそいい始める。
俺は少し振り替えって視線を送った。

黙ってろ。

何も口出ししない約束だ。
俺の本気の視線に驚いたのか、彼らはおとなしくし従った。


「……ん…っ。」


静寂の中に、ひどく微かな吐息が響く。
静かでなければ聞き漏らしてしまう音だ。
ガスパー達は、やっと変化を見せた状況に安堵と疑問を感じているようだった。
俺が何をしているのかわからないんだろう。

だが、

「……っ!!」

男の方は、俺が何をしているのか、理解したようだった。
キッとした眼で、俺を睨んだ。
それだけの精神力があれば、体力が下がっていても問題ないだろう。

「……ん、……ク…ッ……!」

ぎゅっと目を瞑り、奥歯を噛む。 

良かった、問題ない反応だ。
脳波その他諸々の測定器がないから、どんな状態なのか分かりにくかったんだ。
とりあえず、心配していた体の反応も悪くなさそうだ。
数値データが見られないから、若干、不安だったが、どうにかなりそうで安心した。

「……気分はどうですか?」

「!!」

男はハッと目を開き、苦々しく睨んできた。
うん、いい反応だ。
強気な方が被験者は長持ちするものだ。
俺はにっこり笑った。

「それでは尋問を始めますが、何か言いたいことはありますか?」

「……死ね……っ!」

おやまあ、これはびっくり。
俺は芝居がかった仕草をして見せる。

「申し訳ありません。先日、一度死にまして友人を泣かしたばかりなので、死ぬのはちょっと。」

思い出したら、ちょっとおかしくなって笑ってしまった。
それを嘲りと捉えたのか、男の睨みが鋭くなった。
違うんだけどなぁ。
俺は頭を掻いた。

男は絶対に喋らないとばかりに、固く口を結んていた。

胸の往復から見て、息も深くなってる。
肌の色もだいぶ血色がいい。
反応は悪くないから少し強めてみよう。
俺は無造作に装置を動かした。

「っ!あ…っ!!」

男が小さく声を上げ、ガタンと椅子を揺らす。
強めすぎたかな?
少し戻そう。

ここに来てガスパーの仲間の中で、勘のいい奴が気づき始めたようだ。
見ていられないとばかりに1人、部屋を出ていった。

何だよ、ここからがいいところなのにもったいない。
そんな事を思いながら俺は尋問を続ける。

「……何か言いたいことはありますか?」

俺はもう一度、男に確認する。
男はカッと目元を赤らめ、俺を睨んだ。
あんまりやると、まともに喋れなくなるから、早めに話して欲しいんだけど。
まあ、仕方がない。

「……ん…っ!!」

また少し強めると、男の口から声が漏れた。
さすがにもうガスパー達もわかってはいるようだが、身動き出来ないようだ。

それにしてもこの人、頑張るな~。
猿轡とかしてる訳じゃないのに、全然、声を出さないよ。
実験に協力してくれるおじさんとか、これぐらいだと、すでに声なんか我慢できないのに。

数値データが見られれば、我慢しててもどれぐらい高ぶってるかわかるんだけど、今日はそれが出来ない。
魔力探査ではすでに結構キテいるはずなんだけどな~。
普通の人より、強めにしないと駄目かな?

「やっ……!!あ、ぁ……っ!!」

びくんと痙攣して男が口を開いた。
いい感じだ。
これで少し様子を見るか。

男は声は堪えているものの、もう口は閉じてはいられないようだった。
上を向き、はっはっと短い呼吸を繰り返している。
体は汗ばんできたようで、髪が顔に張り付いていた。

「……何か言いたいことはありますか?」

馬鹿の一つ覚えのようにこう言っているけれど、仕方がない。
尋問しろとは言われたが、何を聞けとは言われていないのだから。

つまり俺は、何を聞かなきゃいけないか知らない。

でもまあ、散々ガスパー達に尋問されているんだ。
何を話さないといけないかは、男が一番知ったいるだろう。
俺の質問に、男はただ首を激しくふった。

「そろそろ話した方がいいですよ?」

「……い、やだ……っ!」

「う~ん、私は構わないのですが、段々呂律が回らなくなって、喋りづらくなりますし……。」

男が肩で息をしながらも俺を睨んだ。

いいけど……。
俺はいいけどさ~。

う~んと考えてから、俺は真っ直ぐに男の瞳を見返した。


「あなた、戻れなくなりますよ?」


だいたいこれ以上やっちゃって失神とかさせると、研究室の実験だと被験者リピーターになるんだよな~。
味わった事のない世界を見たとか言って。

ガタンと音がして振り向くと、また1人、部屋を出ていったようだった。
今、思ったけどこれ、ガスパー達、見てる方のデータも欲しいな……。
こういうのを見てどんな興奮状態になるのかとか、興味がある。
完全に固まってるし、手で口を押さえてたりするのに、ガン見してる。
何で測定器がないんだよ~。
男に顔を戻すと、真っ赤な顔で小刻みに震えていた。

「……何か言いたいことはありますか?」

ゆっくり話しかけるが、男は何も言わなかった。

頑張るな、本当。
仕方ない。


「あっ!!…ああああぁ…っ!!」


さすがにもう、声を押さえる余裕はないようだ。
体を仰け反らせ、もがいている。

「あっ!……や、やだ……!!頼むから……っ!!」

「話しますか?」

男はそれでも、横に首をふった。
凄い精神力だな??
その辺のチンピラレベルじゃないぞ?この人??
いったい、どういう罪人なんだろう??


「あぁっ!…あああぁっ!!」


男はもう、声を上げることに羞恥がないようだ。
多分、我慢するにはかなりキツイ快楽に襲われているはずだ。
早く話して、快楽に素直になれば楽になるのに……。


「ダメっ……ぁ……あぁ……い、やだぁぁ……っ!!」


ロープをほどきたいんだろう。
必死に体をくねらせている。
正直、逆にえらいことになってる感がある。
う~ん、どうしたもんだろ?
これ以上やっちゃっていいのかな?
かたん、と小さめの音がして振り向くと、1人がその場に座り込んでいた。

……本当、面白いな?

尋問として快楽を与えられそれに耐えてる方もいいデータが取れそうなのだが、それを見ている側の反応もかなり興味深い。
彼らは見てはならないものを、まるで悪魔崇拝でも見てしまったかのような顔をしているにも関わらず、それでも目をそらさないでいる。
その面白い反応に、俺は興味を持った。
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