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第二章「別宮編」

処刑人

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トーナメントの日は、朝からてんてこ舞だった。
集計したり集計したり集計したり…。
もう1年は、集計とトーナメントの表は見たくない。

トーナメントは再試合も同時進行で、結局2日間を要した。
一時はどうなるかと思ったが、不真面目と陰口を叩かれる第三別宮警護部隊でありながらかなりの盛り上がりを見せ、決勝戦は白熱のうちに終わった。

「さて、皆さん~!2日間、お疲れ様でした~。この試合で、各自、自分の至らなかった点など見えてきたと思いま~す!悔しい思いもしたでしょう。あたしは、だからこれをやれ等は言いません。今後、鍛練を怠るなとも言いません。今日の日を胸に、どうするかを決めるのは、各自、1人1人皆さんの決心に委ねます。ただ、アドバイスが欲しい子は、気軽に相談してください~。あたしだけじゃなく、隊長、副隊長、上に立つものは、皆、あなた方の成長を助けたいといつも思っています。以上を隊長代理の挨拶とさせてもらいま~す!お疲れ様でした~!!」

練習場は大きな拍手で包まれた。
やれとは言わない。
無理に鍛錬を強制したりしない。
自分の中の悔しさは、自分でしか解消できない。
師匠の教育方針は、うちの部隊に合っていた。

なんだかんだ、試合前とは皆の顔つきが変わってきている。
師匠は笑顔で手を振って皆にに答えていた。

「最後に~!トーナメントに参加しなかった~サークちゃんと!もう一度勝負しようと思うんだけど、どうかしら?!」

試合で熱くなった会場は拍手と雄叫びに溢れた。

「やれ!サーク!!」

「お前だけサボってんじゃないぞ!!」

そんなヤジも混ざる。
いや、サボってないし。
誰がトーナメント集計作業してたと思ってんだよ!!
この全試合が滞りなく行われたのな俺の働き合ってだからな?!
しかも俺だって魔術の修行はしていた訳だし……。

だが会場はそんな事に耳を貸してはくれそうにない。
師匠ともはじめから約束していた訳だし……。

は~わかってたけど、やるしかないのか~。
俺は諦めて準備に取りかかった。

その時だった。


「申し訳ない、ロナンド様。その試合、私に譲ってもらえないでしょうか?」


突然響いた声。

それは決して大きな声ではなかったが、あれほど熱気溢れていた練習場が、一瞬で水を打ったように静まり返った。

俺は背筋がゾッとした。
瞬時に場を静めた存在感に覚えがあった。
バッと振り向くと、そこには黒い騎士が立っていた。

ギルバート・ドレ・グラント。
うちの隊長だ。

…………。

マジか?
マジなのか!?

うわぁ~!!処刑だ!!

公開処刑だ!!

いつかはこの日が来るとは覚悟していたが、今日なのか!?

リグ、班長、外壁警備の皆、拾った命でしたが、どうやらこれまでのようです。
近辺警護部隊の皆さん、短い付き合いでしたが、ありがとうございました。
今日が俺の命日になります!!
P.S 副隊長、約束通り骨は拾って下さい……。

俺は心の中で遺書を書いた。

「あら、ギルじゃない~。来てたの?」

「はい。部下が試合をすると言うので見せて頂いておりました。」

「早く出てくれば良かったのに~。」

「いえ、自分がいると、部下が緊張するかと思いましたので。」

「まぁ、そうよね~。鬼の黒騎士に見られてたら、そうなるわよね~。」

「……それで、試合はお譲り頂けますでしょうか?」

第三別宮警護部隊体調の言葉に、師匠は「ん~?」と少し考えていた。
でもすぐに、にぱっと笑った。

「いいわよ~。あたし一回戦ったし。別の人との戦いも見てみたいし。……サークちゃん、いいわよね?」

師匠はにこやかにそう言って俺にウインクした。

……何言ってんだ?!
バカ師匠、良い訳ないだろ!?

この人!
俺を殺す気満々なんですよ?!

第三王子が俺のこと贔屓するからって!!
別に好きで「私の騎士」とか言われてる訳じゃないっての!!
嫉妬すんのも大概にしてくれ!!
モテないのを俺のせいにして八つ当たりしないでくれ!!

だが師匠はにっこにこだ。
隊長も首や肩を解して殺るに漲っている。

………………。

俺を殺す気か?
ああ、殺す気なんだな!?

うわぁ~!!
こんな事なら角の肉屋のフライドチキン!馬鹿食いしとくんだった~!!
誰か墓前に備えてくれよ~!!

黒騎士隊長の無言の圧を感じる。

わかってますよ……。
新参者で平隊員の俺にNOと言う権利が無いことも……。


「承知致しました……。」


俺は最後の気力を振り払って、礼に服してそう答えた。
さよなら、美しき世界……。






「サ、サーク……大丈夫?」

仕度をするために少し時間をもらって脇に行くと、ライルさんが声をかけてくれた。
その顔は青い。

「……ライル先輩、骨は拾って下さい。後、墓前に下町の肉屋のフライドチキンを備えて下さい。」

「わ、わかった……。」

俺は少し時間をもらえたお陰で、ライルさんに遺言を託す事ができた。
ライルさんも、他に何と声をかけていいかわからないようだ。
俺もわからない。


「ハクマ・サーク!準備はいいかっ!」


処刑人が殺る気満々で、声を発した。
ライルさんが、若干涙目で手を握ってくれた。
ありがとう。
俺の別宮の癒し、犬系男子先輩。

立派に死んで参ります!

俺は死を覚悟して、闘技会場に向かった。






「……挨拶がまだだったな?」

「失礼致しました!先日配属になりました!魔術師、ハクマ・サークです!本日はよろしくお願いいたします!!」

「ギルバート・ドレ・グラント、ここの隊長だ。」

「存じ上げております!ご指導の程、よろしくお願いいたします!!」


ま、指導を今後、受けられる事はないだろうけど。
短い人生だった。
隊長は無言のまま刀を抜いた。

「真剣で構わないか?」

「……お受け致します。」

真剣……。

マジかよ、コイツ……。
うわ~この人、魔術師相手に本物の剣抜いてきたよ……。
本気で俺を殺す気だよ……。

俺は心の中で号泣するしかなかった。
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