「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

ねぎ(塩ダレ)

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第二章「別宮編」

糧と代償

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子供の頃、床に血で絵を描いて遊んだ。

そうすると、面白いことが起こるのだ。


それが、全ての始まり。








俺の異様なスタイルに、全員が言葉を失っていた。

関係ない。
目の前の事に集中する。

俺は地を蹴って、隊長に向かって行った。

距離を取ろうとしたって仕方がない。
だったら押すまでだ。

「!!」

隊長の振り下ろした剣を腕から出たシールドで防ぐ。
間髪入れず、逆の手で衝撃波を打ち出す。

刀で防がれるなら、刀の下から放てばいい。
杖がない分、自分の動きと魔術が滑らかに合わさり、その分、スピードに乗ることができた。

衝撃波を避けるために、隊長が後ろに飛んだ。
そこに風の矢を無数に打ち出す。
攻撃力を強化したって防がれる。
弱くていいから数で勝負だ。
隊長は俺の見た事のない戦闘方法に、少しの戸惑いを見せていた。

だがそんな事は俺には関係ない。

ぶわっと、俺の腕の血のラインから炎が上がる。
俺はそれをそのまま隊長に投げつけた。

防がれるのなんか百も承知だ。
さっきまでの戦いでそんな事はわかりきってんだよ。
俺は炎を切った隊長の目の前に詰め寄る。

「……っ?!」

少し緊張の走った隊長の顔にニヤッと笑う。
そして身体強化して渾身の力でぶん殴る。

しかし隊長もさることながら、自分のダメージを弱め、なおかつ俺への攻撃として足で思い切り蹴っ飛ばしてきた。
互いにぶっ飛び、互いに自分の腹を押さえる。


「……………………。」

「……………………。」


あ、ヤバい。
脳内麻薬が出てきた。

ちょっと楽しい。

隊長もそうなのか、今まで無表情だったのが、微かに笑みを浮かべている。

「……俺に攻撃を当てたヤツは、5年ぶりだ。」

「それは光栄です。」

間髪入れず、隊長が動く。
向かって来た剣をシールドで受ける。

隊長は早い。
特に剣は早い。
目で刃を追ったって駄目だ。
どうせ俺には見えない。

目でみるな。
聴け。

刃が空気を切る微かな音に集中する。

向かって来る刃をガードしながらくるりと回し、そのままシールドで押さえ込んだ。
足を払おうとしたが、今度は隊長がくるりと身を翻した。
刃を下に押さえたまま氷の礫の雨を降らす。

どうする?!
さすがの闘気の使い手でも、刀が使えなければ弾けまい。
避ける為には一度、刀を引いて逃げるしかないぞ?!

しかし隊長は刀を引かず、力任せに俺にタックルしてきた。
思い切り頭突きを食らう。

……え?

俺はキョトンとした。
だって隊長って、お貴族様だよね??

いや、俺は外壁警備で魔術兵やってたから慣れてるけどさ?!
隊長って、こういう泥臭い戦い方する訳?!
そりゃ実際の戦闘になれば何でもありなんだけどさ?!

俺は頭を押さえて、一歩引いた。
その隙を逃さず、隊長がガンガン打ち込んでくる。

ガードするのは面倒くさい。
自分の動きが止まるから。
だったら相手を止めればいい。

……飛べ。

俺は念じた。
俺の両腕から翼のように炎が生まれ、2匹の炎蛇となった。

「……っ?!」

会場が息を呑むのがわかった。
そりゃな、こんな魔術、見た事ないだろうからなぁ。

炎蛇はそのまま隊長にまとわりつく。
隊長は初めて見たであろうそれに警戒し、距離を取って炎蛇を切って行く。






「……嘘でしょ……何なの……あの子の魔術は……!?」

「血で使う、と言うものでしょう。」

「レオンさん……。」

「ロナンド様、あなたもご存じでしょう。魔術は古来、血の契約であり、血で使うものだったと。」

「でも今そんな技術はないわ。精霊と人が共に生きた古の技術よ……。とっくに失われたものじゃない……。」

「その辺りは私はわかりかねますが、しかしどうして、我々はそれをこの目で見ています。」

「………。」

「魔術をの使い方はどうあれ、見守りましょう。サーク様が、あのギル様に決死のご覚悟で立ち向かわれているのですから。」

「……そうね。その通りだわ……。」

「ただ、少し心配ですな……。力が強すぎる。私には魔術の事はわかりかねますが……どう見ても今のサーク様には荷が重すぎる使い方に見えます……。何事もなければ良いのですが……。」









だんだん、意識が飛び始めた。

魔力が枯渇してるんだ。

この使い方だと、魔力以外のものも……。



悔しいな。

互角で戦えてたと思ったのに。

勝負がつけられなかった。



目の前に迫った隊長に、ありったけの力で風の剣を放った。
隊長がその刃を真っ二つにする。

あ~もう駄目だ。
隊長に殺される。(笑)

隊長の刃が迫ってくるのが見える。
死ぬ間際って、ものがスローに見えるって言うけど本当なんだな。

俺を射殺すような隊長の目が、何故かだんだん、驚くように見開かれて行く。

何だ?
隊長は何にそんなに驚いてるんだ?

世界がぐにゃぐにゃする。
地面が柔らかくなって立っていられない。

隊長が何故か、大事な剣を投げ捨てたのが見えた。
手がこっちに延びてくる。

えええ~、絞め殺されるより、切ってくださいよ~隊長~。
意地悪だな~。

そんな事を思いながら、俺はぐにゃぐにゃの世界に落ちて行った。







「……サークっ!!」


ギルは急に糸が切れたように崩れ落ちていくサークを、間一髪、抱き止めた。
体からは完全に力が抜け、血の気のない顔をしている。

「サーク!おい!しっかりしろ!!」

呼び掛けるが反応がない。
慌てて脈を見るが、非常に弱々しい。

これはどういう事だ?!

ギルはサークを抱き上げた。
その体は、妙に軽いような気がした。

あれだけの強さを見せたサーク。

なのに突然、仮死状態のようになってしまった。
体は妙に冷たくなっている。
ギルは焦った。
どうしてだか酷く胸騒ぎがした。

「……ロナンド様!!一緒に来てください!!サークがおかしい!!」

そう叫び、負担が掛からないよう注意しながら抱き抱えながら医務室に走る。
ロナンドとレオンハルドは顔を見合せるとその後を追った。

辺りは騒然となった。

皆が何事かとざわめく中、ライルが泣きそうな顔でサークの荷物を抱え、遅れて彼らの後を追いかけて行った。
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