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第二章「別宮編」

副隊長の恋愛事情

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「サーク、ギルにストーキングされてるって本当?」

久しぶりに会った副隊長は、ぶっ倒れた事の心配をしてくれた後、複雑な表情で言った。

まぁ、あの後は隊長が俺に張り付いて、殆どこっちにいたから、副隊長がこっちに戻る暇がなかったからな。

流石に王宮に行かなすぎるのも問題になったようで……。
今日は別宮に副隊長が来て隊長はいない。
王子が不在でも別宮の管理や警備等に関わる業務はあるし、騎士達の監督及び鍛練を見るため、出来るだけどちらかが別宮に戻るようにしているそうだ。

「あ、あれ、やっぱりストーキングだったんですか?何か拘られてるな~と意味不明で怖かったんですけど、隊長の通常運転があれなんだと思ってました。」

副隊長にそう言われ、俺はあっけらかんと言った。
変に執着されてるなぁとは思ったけど、俺がぶっ倒れた原因になった事に責任を感じ心配しての行動なんだと思っていたのだが、やっぱりストーキングだったらしい。
そういった俺に、副隊長は飽きれたようにため息をつく。

「まぁ、ある意味、通常運転ね。生粋のストーカーの。」

「ワォ~。マジですか~。怖~。」

「だって、子供の頃の殿下への対応にそっくりだもん。間違いないわ。とはいえ、あんたはまだ、殿下に対しての粘着より酷くないけどさ~。」

「え??これでも十分、引くんですけど、殿下に対してはもっと酷かったんですか??」

「まぁね~。あれは執着通り越して、異常粘着だったもん。」

「詳しいんですね?」

「まぁ、子供の頃からギルとは、家柄的にも良きライバルだったからね。」

副隊長は仕事の手を休めて笑った。
俺は要らなくなった書類をまとめると、ぽんぽんと杖で叩いて機密保持の為の魔術をかける。
それが終わったものをゴミ扱いの箱に詰めていく。

「へ~?とはいえ、俺の事、殺す気満々だったのに、どうしちゃったんですか?隊長は?」

「あいつ思い込み激しいから!ぶっ倒れたサーク見て、なんて壊れそうで華奢な人間なんだ!?保護しなければ!!ってなったみたい。説明しても聞かないし有り得なくない!?」

深々とつかれるため息。
副隊長は頭にきているのか呆れているのかわからない。
おそらくどっちもなのだろう。

「質問です。副隊長。」

「何でしょう?サーク君。」

「壊れそうで華奢な人間とは誰の事でしょうか?」

「君の事です。サーク君。」

「ははは。華奢か~。俺、生まれて初めて言われました~。」

「いや、あんたはちょっと細いけど骨太だし、普通にがっしりしてるわよ。」

デスクに頬杖をついて、副隊長が俺を見る。
まぁそうだよな。
俺は大柄とは言えないが、別に小さい訳でもない。
良くも悪くも標準型だ。
騎士としてはちょっと筋肉のつきが甘いが、魔術師の枠で言えばがっしりしていると思う。

「となるとう~ん。思い込みですね!」

「ええ、あの馬鹿の思い込みです。そして違うといくら言っても、完全に思い込んでるからこっちの話なんか聞いちゃいない。」

「あ~、聞かないですよね~。あの人。」

思わず顔を見合わせ、あはははっと笑い合う。
そして次にはお互い頭を抱える。

「……マジですか!?」

「マジです。」

いやもう、何なの?あの人??
俺を殺す気だったのも、こっちの話なんか聞かないで、殿下が俺を気に入っているってだけで勝手にスイッチ入ってたんだし。
思考回路が斜め上を行き過ぎてないか?!
ちったあ、周りの声に耳を傾けろよ?!

「て言うか!それじゃ隊長、ただの変な人じゃないですか!!怖いよ!!」

「色々拗らせてんのよ、あいつは!!」

「殿下への恋心を拗らせてるとは聞いてましたが、あの方が拗らせてるのは、人間的感情の全てですよね?!」

「言えてる。」

「拗らせすぎて、誤操作起こしてますよ?!」

「あはは!!でも殺そうとされるのも怖いけど、ストーカーの標的にされるのもヤバいわよね~。」

「他人事みたいに言わないでくれますか?!」

「他人事じゃん。」

「酷っ!!というか!隊長の殿下への愛はその程度だったんですか!?」

「う~ん。深すぎてネジ曲がったせいで、変な方向に行ってんのよ。殿下がサークの事、私の騎士、私の騎士って言うから猛烈に凹んでた所に、新たに保護しなければならない華奢なのが現れたから、誤作動起こして揺れちゃたみたい。」

「いやでも……。それが殿下が「私の騎士」って言った「絶対殺す」って殺気向けてた相手っておかしくないですか!?」

「馬鹿ね。あいつに常識が通用すると思う!?」

「……しませんね。」

俺は素直に思った事を答えた。
とはいえ、副隊長と俺に隊長は酷い言われようだ。
ここにいないから平気でそんな事言っちゃうんだけど、仮にも隊長という立場なのに、ここまでけちょんけちょんに言われる人も珍しい。

「まぁ、あんたは恋愛対象と言うより、保護対象?シスコンにとっての妹?みたいな感じだけどさ?それでも気をつけなさいよ?サーク。あんた本当。立場的に殿下は王族だからたとえどんな間違いが起きても手が出せなかったけど、部下のあんたなら、いざとなれば手籠に出来るんだからね!あいつは!!」

「手篭めって……。」

何気に真剣にそう言われ俺は顔を引き攣らす。
確かに隊長はかなりの変人みたいだけどさ?
いくら何でも、一部隊の隊長。

「いやいや、いくらなんでもそれは~。俺、勃ちませんし。」

「あんたの勃つ勃たないは関係ないでしょ?極論、突っ込めればいいんだから。」

サラリと言われた言葉に、俺は悲鳴を上げる。

「マジですか!?相手の性的事情を無視するなんて!それじゃある意味レイプじゃないですか!!」

「だから気をつけなさいよって言ってんのよ。あいつは長年、殿下への想いを拗らせてる分、ずっと発散されてないんだから!!」

何その、迷惑極まりない積年の想いは??
だいたいなんでそれを俺が受け止めにゃならんのだ?

「そんなものを押し付けられるなんて真っ平ごめんですよ!うわぁ……こんな事なら、師匠と魔術本部に行くって言えば良かった!!」

この時点ではまだ何も起きていないのだが、隊長、既に犯罪者扱いである。
特に恨みはない。

「そう言えば、いつから行くの?本部?」

「ん~師匠が帰って来てから決めるんですけど、期間は1週間滞在の予定です。」

「凄いよね~。魔術本部ってさ~、場所すら明かされてないんだよ?」

「え!?そうなんですか!?」

思わぬ事を聞き、素で驚く。
公にはされていないのは知っていたが、本当に極秘だとまでは思っていなかった。
けれどそれは王宮関係者の中では常識のようで、副隊長はあっけらかんとしている。

「そうだよ?王族ですら、場所はおろか、招かれなければ入れない場所よ?」

「へ~??俺、普通に学校もしくはデカイ図書館みたいなのを想像してました……。そんなヤバいところだとは……。」

「うん。だからロナンド様はあんたを連れて行きたかったのよ。そうしたら絶対、誰にも手出しの仕様がなくて、政治使用とかされる心配がないから。」

「……師匠はそこまで考えてくれてたんですね。」

「ロナンド様はいい人よ?……色々、ヤバいけど。」

「ええ。色々ヤバいですが、師匠はとてもいい人です。」

誉めているのかけなしているのか……。
隊長に続き、師匠にも言いたい放題である。
俺と副隊長は、阿吽の呼吸で顔を見合わせる。

「……ねぇ、サーク?」

「何でしょう?」

「思ったんだけど……。」

「はい。」

「私たちって気が合うわよね?」

「そうですね、ごく最近会ったとは思えないですね。」

なかなかに息ぴったりな、俺と副隊長。
ざっくばらんな部分がほぼほぼ同じなのだろう。
話のテンポといい、気が合うというのは確かだと思う。
そんな俺の顔を見て、副隊長はニヤッと笑った。

「……私と結婚しない?」

「う~ん?勃ちませんけど、それでも良ければ。」

「勃たないのは……う~ん。まぁいいや。だからと言って私に突っ込むものもないけど、それでも良ければ。」

「突っ込まないで下さい。」

「駄目か。」

「駄目ですね。」

「でも、いざとなったら私が養ってあげるし。」

「やだ!副隊長!男前っ!!」

「おうよ!さぁ!サーク!黙って嫁に来なっ!!」

ノリノリでそんな馬鹿話をしていると、入り口の方でバサバサバサッと音がした。
顔を向けると、ライルさんが持ってきた本や書類を落っことして立っている。
ちょっと前から俺は気づいてたんだけどね。

「……そんなっ!!副隊長がサークと結婚だなんて……っ!!」

真っ青になってワナワナと震えるライルさん。
副隊長は冗談を言っていたのでキョトンとしている。
俺は素知らぬフリをして黙っていた。

「……酷いです!副隊長っ!!」

「え?どうしたの?ライル??」

「俺がずっと側で支えて来たのに!サークを選ぶんですか!?」

「えっ?ええっ!?何?!」

「俺は……俺は……っ!!この部隊に配属になる前から!ずっと副隊長をお慕いしてきたのに……っ!!」

わなわなと震えながら訴えるライルさんに、副隊長は目を白黒させている。
面白いなぁと思って黙って見守った。

「えっ!?ええっ?!ライル、あんたなに言ってるの!?」

「何じゃないです!!どうしてサークなんですか!!」

「えええぇぇぇ?!」

半泣きになり始めたライルさん。
話が見えなくて挙動不審になる副隊長。
俺はちょっと吹き出してしまった。

「副隊長、気づいてなかったんですか?俺はとっくに気づいてましたよ?」

「何に?!」

「ライルさんが副隊長Loveな事。」

「へっ?!……嘘!嘘!嘘!ちょっと待って!?」

突然の展開に、ボンッと赤面し副隊長はあわあわしだす。
俺はそれをおかしそうに見つめ、ライルさんは泣き声を上げる。

「副隊長の馬鹿~っ!!うわ~んっ!!」

「ちょっと?!ライル?!」

「おかしいな~??結構、あからさまだったんですけどね?ライルさん。副隊長の手伝いを他の人にやらせなかったり、副隊長に誰か言い寄ったりしないように目を光らせてたり……。」

「ええええっ!?私がモテなかったのって!ライルのせい!?」

「好きな人には誰も近づけたくないでしょ?」

「好きな人?!私が?!ライルの?!」

「酷いよ!副隊長~!!こんなに好きなのに~!!馬鹿ぁ~!!」

「待って待って待って待って!?」

駄々っ子のようにぐずるライルさんに、副隊長は完全にパニックになっている。
俺としては面白くて仕方がない。

「……さて、と。」

「サーク?!」

「じゃ、後は頑張って下さい。俺はきっかけは作りましたから。」

「ちょっと!?サーク!!この状態でどっか行かないで!!」

「あはは。ここで邪魔するほど野暮じゃないですよ。……では、後は二人でごゆっくり~。」

パニクって俺を引き止めようとする副隊長を無視し、俺は副隊長執務室を後にした。
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