127 / 143
127. 西田君の秘密のおねがい①
今日はせっかくの日曜日だというのに学校に来ている。センター模試なのだ。しかも最後のセンター模試。もう次は本番しかない。
僕は初めて第一志望に△△大学工学部機械工学科と書き込んだ。その時、ちらと佐藤君の背中を盗み見た。彼も同じ志望校を書いたはずだ。こんなことが本当にあるのだろうかと未だに思う。だってここから見えるきっちりと制服を着こんだ君の姿は、何一つ変らず僕から遠いものに見えるのだもの。
初夏からの目まぐるしい出来事の数々が駆けていく。僕はついそれに囚われそうになりながらも、深呼吸をしてなんとか現実に踏みとどまった。口の開いた筆箱から先端がツンツンに尖った鉛筆が覗いている。それが僕をたしなめるように思えた。
試験中はただただ問題を解くしかない。時間に余裕があるわけもないから悩む時間さえ惜しくて、どうしても分からない問題は当てずっぽうに三番を塗りつぶした。数学教師が四択なら三番が正解の確立が高いと言っていたのは本当だろうか。
科目と科目の間の短い休み時間は、参考書を見る者、雑談に興じる者、突っ伏してしまう者、だいたいこの三種類の人間に分かれるらしい。
僕は疲れてしまって突っ伏した。佐藤君が伊藤君と話す声が聞こえる。僕も佐藤君と、佐藤君の友達との輪の中に入れたら楽しいだろうか。少しだけそんなことを考えてしまう。でも、やっぱり今の僕には無理そうだ。
うつ伏せて暗闇の中にいるからどうしようもないことを考えてしまうのだ。参考書でも見ようと体を起こした。ふと青木さんが目に入る。彼女も突っ伏していた。快活な彼女でも周りをシャットアウトしたいときがあるのだろうか。
こうして周りを見ると、それぞれにそれぞれの行動があり考えがあるのだと思う。そんな当たり前のことさえ、僕は敢えて見ないようにしてきた気がする。みんながみんな鋳造品のように同じ奴らと決めつけて僕自身を苦しめていたのは僕だったのか。
試験官が休憩の終わりを告げた。今日は後何度これを繰り返せば家に帰れるのだろうと考えると少しばかりうんざりする。しかし、大切な試験だ。
集中すれば時間は早く過ぎると主張する人がいる。確かにそうだろう。今、最後の科目が終わった。とっぷりと日は暮れ夜になっていた。しかし大変な疲労感に、やはり長い時間だったのだと思わせられる。へとへとだ、早く帰ってご飯が食べたい。
下駄箱で運動靴に履き替え校舎を出た。多くの生徒は校門へと歩いていく。今日は終了時刻が遅いから、校門付近には我が子を迎えに来たと思われる車が列をなしていた。
僕は一人とぼとぼと駐輪場へと向かう。こっちへ来る生徒はまばらにしかいない。寂しくもあるが、心落ち着く静かさに思考がぼやけていく。僕はただ歩いていた。
そこへ突然、後ろから声をかける者がある。
「西田ーー!」
紛れもなく佐藤君の声だった。僕はびっくりして後ろを振り返った。
佐藤君の走ってくる姿があった。
「佐藤君!」
「はぁ、はぁ……やっと追いついた。」
そう言う佐藤君は僕ににこりと笑いかけながらも、苦しそうに息は荒い。その様子が情事を思い起こさせ、体の芯に火が点る。否が応でも下腹部を意識する。
僕はなんでもないように尋ねた。
「佐藤君、お母さんは?」
「一緒に帰りたくて、今日は断った。」
まず、どうしてと思った。喜びよりも先にそれが来てしまう。車で楽するより僕を選ぶ価値なんてあるのだろうかという不安。混じり気のない好意にさえ場合によっては欲情する自分への嫌悪感。
「ねえ、西田は腹減らない?俺はぺこぺこ。コンビニ寄ってなんか食おうぜ。」
でもきっとそんなことはどうでもよくて、きっと考えすぎなんだ。にこにことしゃべり続ける佐藤君の姿が僕にそう思わせてくれた。
僕は初めて第一志望に△△大学工学部機械工学科と書き込んだ。その時、ちらと佐藤君の背中を盗み見た。彼も同じ志望校を書いたはずだ。こんなことが本当にあるのだろうかと未だに思う。だってここから見えるきっちりと制服を着こんだ君の姿は、何一つ変らず僕から遠いものに見えるのだもの。
初夏からの目まぐるしい出来事の数々が駆けていく。僕はついそれに囚われそうになりながらも、深呼吸をしてなんとか現実に踏みとどまった。口の開いた筆箱から先端がツンツンに尖った鉛筆が覗いている。それが僕をたしなめるように思えた。
試験中はただただ問題を解くしかない。時間に余裕があるわけもないから悩む時間さえ惜しくて、どうしても分からない問題は当てずっぽうに三番を塗りつぶした。数学教師が四択なら三番が正解の確立が高いと言っていたのは本当だろうか。
科目と科目の間の短い休み時間は、参考書を見る者、雑談に興じる者、突っ伏してしまう者、だいたいこの三種類の人間に分かれるらしい。
僕は疲れてしまって突っ伏した。佐藤君が伊藤君と話す声が聞こえる。僕も佐藤君と、佐藤君の友達との輪の中に入れたら楽しいだろうか。少しだけそんなことを考えてしまう。でも、やっぱり今の僕には無理そうだ。
うつ伏せて暗闇の中にいるからどうしようもないことを考えてしまうのだ。参考書でも見ようと体を起こした。ふと青木さんが目に入る。彼女も突っ伏していた。快活な彼女でも周りをシャットアウトしたいときがあるのだろうか。
こうして周りを見ると、それぞれにそれぞれの行動があり考えがあるのだと思う。そんな当たり前のことさえ、僕は敢えて見ないようにしてきた気がする。みんながみんな鋳造品のように同じ奴らと決めつけて僕自身を苦しめていたのは僕だったのか。
試験官が休憩の終わりを告げた。今日は後何度これを繰り返せば家に帰れるのだろうと考えると少しばかりうんざりする。しかし、大切な試験だ。
集中すれば時間は早く過ぎると主張する人がいる。確かにそうだろう。今、最後の科目が終わった。とっぷりと日は暮れ夜になっていた。しかし大変な疲労感に、やはり長い時間だったのだと思わせられる。へとへとだ、早く帰ってご飯が食べたい。
下駄箱で運動靴に履き替え校舎を出た。多くの生徒は校門へと歩いていく。今日は終了時刻が遅いから、校門付近には我が子を迎えに来たと思われる車が列をなしていた。
僕は一人とぼとぼと駐輪場へと向かう。こっちへ来る生徒はまばらにしかいない。寂しくもあるが、心落ち着く静かさに思考がぼやけていく。僕はただ歩いていた。
そこへ突然、後ろから声をかける者がある。
「西田ーー!」
紛れもなく佐藤君の声だった。僕はびっくりして後ろを振り返った。
佐藤君の走ってくる姿があった。
「佐藤君!」
「はぁ、はぁ……やっと追いついた。」
そう言う佐藤君は僕ににこりと笑いかけながらも、苦しそうに息は荒い。その様子が情事を思い起こさせ、体の芯に火が点る。否が応でも下腹部を意識する。
僕はなんでもないように尋ねた。
「佐藤君、お母さんは?」
「一緒に帰りたくて、今日は断った。」
まず、どうしてと思った。喜びよりも先にそれが来てしまう。車で楽するより僕を選ぶ価値なんてあるのだろうかという不安。混じり気のない好意にさえ場合によっては欲情する自分への嫌悪感。
「ねえ、西田は腹減らない?俺はぺこぺこ。コンビニ寄ってなんか食おうぜ。」
でもきっとそんなことはどうでもよくて、きっと考えすぎなんだ。にこにことしゃべり続ける佐藤君の姿が僕にそう思わせてくれた。
あなたにおすすめの小説
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
女子が苦手になったイケメン家庭教師の行き先は男子に向いた
henoru
BL
女子が苦手になったイケメン家庭教師の行き先は男子に向いた
子供の頃から勉強一筋で 気がつけば女性との接触が苦手になっていた
得意の勉強を 生かして 家庭教師のアルバイトを始める 性の吐口は-----
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー