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33話(伝わらぬ思い)
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その後、わたくしは先日の舞踏会のあと、注文を受けた貴族の方たちのためのゴムシートの手配に追われていた。
そしてそれからまたしばらくしてから殿下から先触れがあり、王宮に出向いた。すると殿下が困ったお顔をされていた。
「実は相談なのだが、私の姪のルミーナのことなんだが」
と説明が始まった。何でもルミーナ様には元々お顔に小さなシミがあり、最近ではそのシミが大きくなってしまい、本人がそれを気にして全く表に出なくなってしまわれたそうだ。
なるほど。それで前回の舞踏会にいらっしゃらなかったのかと納得した。それで殿下はわたくしに、そのシミを気にならなくできないかとの相談だった。
わたくしは前の世界にいた時のコンシーラーのようなものがあればいいのかしらと思い、殿下にお願いをした。
「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「何か考えはあるのか?」
「できるかは分かりませんが、やれるだけやってみます」
そしてわたくしは早々、コンシーラー作りに取り掛かろうと思い、お暇しようとした。すると殿下は呆れたお顔で仰った。
「何、もう帰ってしまうのか?」
「はい、すぐにでも取り掛かろうと思いまして」
何故かしら? なんだか寂しそうに一言。
「そうか」
と、だけ仰った。そのお姿がなぜか前の世界でわたくしが子供の頃に飼っていた子犬と重なり、思わず言ってしまった。
「またすぐに参りますので、そんなお顔なさらないでください」
思わず、これは少し不敬かしらと思ったが、殿下は意外にも笑顔になってくれた。
「そうか、またすぐに来てくれるのだな」
わたくしはまたしても、そのお姿が可愛らしく感じてしまった。そんな殿下に後ろ髪を引かれる思いで、この日は王宮を後にした。
それからわたくしは図書館に行って、前の世界にいた時の知識を活かしながら、コンシーラーの素材になりそうな物を探した。
そして色々調べていくうちに、ワセリンは、肌への刺激が少なく、軟膏や保湿クリームとして広く使われていて、安定性が高く油分として非常に適していた。
そして、ココアバターや蜜蝋(ミツロウ)、これらは油分を固める役割を果たす。ココアバターは保湿力が高く、蜜蝋はワセリンやオイルと混ぜることで、わたくしの前にいた世界にあったスティックコンシーラーのような固さに調整できる。
それから肌の色に合わせて色を調整するための粉末は、酸化亜鉛、当時は鉛白の代わりに使われ始めていた。
鉛白は鉛に毒性があり使用が禁止された物だ。酸化亜鉛は安全性の高い白い粉だ。
肌に塗る白粉(おしろい)として広く使われるようになった。
それに黄土や赤土、天然の土壌から採れる顔料で、主成分は酸化鉄だ。これを白い粉に混ぜることで、黄色や赤みを帯びた肌色を作り出すことができる。それに天然色素の黄色のウコンや、赤色のカルミンも手に入る。これだけあればコンシーラーは作れるはずだと思い、カンパニーに行き、皆に素材の手配をお願いした。
それからは皆さんの協力のお陰で、思っていたよりもかなり早く殿下に届けることができた。
そして殿下に呼ばれていたルミーナ様は、わたくしを見るととても不機嫌になられた。
「なぜ貴女がここにいるのよ」
すると殿下はルミーナ様を宥めた。
「彼女は君のために来てくれたんだ」
そう言って説明をされた。それから程なく、何とか納得なさったルミーナ様はわたくしの前にいらした。
「本当になんとかなるのかしら?」
疑いの眼差しで見てきたが、わたくしは自信満々の顔を見せた。
「お任せください。ではこちらへ」
そう言ってからコンシーラーを塗り、それから白粉を叩く作業を二度繰り返すと、ほとんど目立たなくなった。
そのお顔を鏡で確認したルミーナ様はとても驚かれた。
「これは現実かしら?」
感激なさっているのが見て取れた。その様子を満足そうに見ている殿下に彼女は満面の笑みを向けた。
「伯父様、ありがとうございます」
「これを作ったのは、ここにいるステーシア嬢だよ」
すると彼女は仕方なく、それでも嬉しそうに言った。
「感謝するわよ。ありがとう」
「少しでもルミーナ様のお役に立てて良かったです」
すると彼女は今までとは全く違う表情を向けてきた。それはどことなく親近感を感じるものだった。
「今度また、社交界でお会いしましょう」
わたくしも親近感を込めて返した。
「はい、楽しみにしています」
その後は殿下に誘われ二人でお茶をしていると殿下は嬉しそうに言う。
「今日は本当にありがとう。ルミーナのあの明るい表情を、随分と久しぶりに見れたよ」
「いいえ、大したことはいたしておりません」
「そんなことはないはずだ。こんな短期間で作ってくれたんだ」
そう言って、労ってくださった。そんな殿下をわたくしは好ましく思った。
『殿下はこんなお優しい一面もお持ちなのだわ』
と心が温かくなった。
こうしてこの件も無事終了となり、わたくしは当然のことながら、このコンシーラーも商品化したのは言うまでもなかった。
そういえば、このところのわたくしの新商品は全て殿下絡みだわ。と思い、つまりそれは殿下のおかげということになる。
わたくしは殿下に感謝しながら、また次なるアイデアに向かって頑張らなければと思っていた。
ーーーー
ステーシア嬢が帰ってから、私はとにかく感心していた。どんなことにもまっすぐ向き合い、そして結果を出す。あの向上心はどこから来るものなのか? 常に前向きで冷静な姿に、憧れさえ感じている。こんなにも彼女に惹かれているのに、相変わらず彼女は私のことなど眼中になさそうだ。
会えば会うほど惹かれていく自分を押さえるだけでも大変なのに、これからどうすれば彼女を振り向かせることができるのか? 考えても何も思いつかない。ただ会う回数を増やすだけでは駄目なことくらい、最近では気がついているのだが。どうしたものか。恋とは、人を幼くも臆病にもするものなのだと実感していた。
『私も既に、いい大人なんだがな。恋とは本当に厄介なものだ』
思わずひとりごとが出ていた。
そしてそれからまたしばらくしてから殿下から先触れがあり、王宮に出向いた。すると殿下が困ったお顔をされていた。
「実は相談なのだが、私の姪のルミーナのことなんだが」
と説明が始まった。何でもルミーナ様には元々お顔に小さなシミがあり、最近ではそのシミが大きくなってしまい、本人がそれを気にして全く表に出なくなってしまわれたそうだ。
なるほど。それで前回の舞踏会にいらっしゃらなかったのかと納得した。それで殿下はわたくしに、そのシミを気にならなくできないかとの相談だった。
わたくしは前の世界にいた時のコンシーラーのようなものがあればいいのかしらと思い、殿下にお願いをした。
「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「何か考えはあるのか?」
「できるかは分かりませんが、やれるだけやってみます」
そしてわたくしは早々、コンシーラー作りに取り掛かろうと思い、お暇しようとした。すると殿下は呆れたお顔で仰った。
「何、もう帰ってしまうのか?」
「はい、すぐにでも取り掛かろうと思いまして」
何故かしら? なんだか寂しそうに一言。
「そうか」
と、だけ仰った。そのお姿がなぜか前の世界でわたくしが子供の頃に飼っていた子犬と重なり、思わず言ってしまった。
「またすぐに参りますので、そんなお顔なさらないでください」
思わず、これは少し不敬かしらと思ったが、殿下は意外にも笑顔になってくれた。
「そうか、またすぐに来てくれるのだな」
わたくしはまたしても、そのお姿が可愛らしく感じてしまった。そんな殿下に後ろ髪を引かれる思いで、この日は王宮を後にした。
それからわたくしは図書館に行って、前の世界にいた時の知識を活かしながら、コンシーラーの素材になりそうな物を探した。
そして色々調べていくうちに、ワセリンは、肌への刺激が少なく、軟膏や保湿クリームとして広く使われていて、安定性が高く油分として非常に適していた。
そして、ココアバターや蜜蝋(ミツロウ)、これらは油分を固める役割を果たす。ココアバターは保湿力が高く、蜜蝋はワセリンやオイルと混ぜることで、わたくしの前にいた世界にあったスティックコンシーラーのような固さに調整できる。
それから肌の色に合わせて色を調整するための粉末は、酸化亜鉛、当時は鉛白の代わりに使われ始めていた。
鉛白は鉛に毒性があり使用が禁止された物だ。酸化亜鉛は安全性の高い白い粉だ。
肌に塗る白粉(おしろい)として広く使われるようになった。
それに黄土や赤土、天然の土壌から採れる顔料で、主成分は酸化鉄だ。これを白い粉に混ぜることで、黄色や赤みを帯びた肌色を作り出すことができる。それに天然色素の黄色のウコンや、赤色のカルミンも手に入る。これだけあればコンシーラーは作れるはずだと思い、カンパニーに行き、皆に素材の手配をお願いした。
それからは皆さんの協力のお陰で、思っていたよりもかなり早く殿下に届けることができた。
そして殿下に呼ばれていたルミーナ様は、わたくしを見るととても不機嫌になられた。
「なぜ貴女がここにいるのよ」
すると殿下はルミーナ様を宥めた。
「彼女は君のために来てくれたんだ」
そう言って説明をされた。それから程なく、何とか納得なさったルミーナ様はわたくしの前にいらした。
「本当になんとかなるのかしら?」
疑いの眼差しで見てきたが、わたくしは自信満々の顔を見せた。
「お任せください。ではこちらへ」
そう言ってからコンシーラーを塗り、それから白粉を叩く作業を二度繰り返すと、ほとんど目立たなくなった。
そのお顔を鏡で確認したルミーナ様はとても驚かれた。
「これは現実かしら?」
感激なさっているのが見て取れた。その様子を満足そうに見ている殿下に彼女は満面の笑みを向けた。
「伯父様、ありがとうございます」
「これを作ったのは、ここにいるステーシア嬢だよ」
すると彼女は仕方なく、それでも嬉しそうに言った。
「感謝するわよ。ありがとう」
「少しでもルミーナ様のお役に立てて良かったです」
すると彼女は今までとは全く違う表情を向けてきた。それはどことなく親近感を感じるものだった。
「今度また、社交界でお会いしましょう」
わたくしも親近感を込めて返した。
「はい、楽しみにしています」
その後は殿下に誘われ二人でお茶をしていると殿下は嬉しそうに言う。
「今日は本当にありがとう。ルミーナのあの明るい表情を、随分と久しぶりに見れたよ」
「いいえ、大したことはいたしておりません」
「そんなことはないはずだ。こんな短期間で作ってくれたんだ」
そう言って、労ってくださった。そんな殿下をわたくしは好ましく思った。
『殿下はこんなお優しい一面もお持ちなのだわ』
と心が温かくなった。
こうしてこの件も無事終了となり、わたくしは当然のことながら、このコンシーラーも商品化したのは言うまでもなかった。
そういえば、このところのわたくしの新商品は全て殿下絡みだわ。と思い、つまりそれは殿下のおかげということになる。
わたくしは殿下に感謝しながら、また次なるアイデアに向かって頑張らなければと思っていた。
ーーーー
ステーシア嬢が帰ってから、私はとにかく感心していた。どんなことにもまっすぐ向き合い、そして結果を出す。あの向上心はどこから来るものなのか? 常に前向きで冷静な姿に、憧れさえ感じている。こんなにも彼女に惹かれているのに、相変わらず彼女は私のことなど眼中になさそうだ。
会えば会うほど惹かれていく自分を押さえるだけでも大変なのに、これからどうすれば彼女を振り向かせることができるのか? 考えても何も思いつかない。ただ会う回数を増やすだけでは駄目なことくらい、最近では気がついているのだが。どうしたものか。恋とは、人を幼くも臆病にもするものなのだと実感していた。
『私も既に、いい大人なんだがな。恋とは本当に厄介なものだ』
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