《完結》財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

文字の大きさ
33 / 47

33話(伝わらぬ思い)

しおりを挟む
 その後、わたくしは先日の舞踏会のあと、注文を受けた貴族の方たちのためのゴムシートの手配に追われていた。
 そしてそれからまたしばらくしてから殿下から先触れがあり、王宮に出向いた。すると殿下が困ったお顔をされていた。

「実は相談なのだが、私の姪のルミーナのことなんだが」

 と説明が始まった。何でもルミーナ様には元々お顔に小さなシミがあり、最近ではそのシミが大きくなってしまい、本人がそれを気にして全く表に出なくなってしまわれたそうだ。

 なるほど。それで前回の舞踏会にいらっしゃらなかったのかと納得した。それで殿下はわたくしに、そのシミを気にならなくできないかとの相談だった。
 わたくしは前の世界にいた時のコンシーラーのようなものがあればいいのかしらと思い、殿下にお願いをした。

「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
 
「何か考えはあるのか?」
 
「できるかは分かりませんが、やれるだけやってみます」

 そしてわたくしは早々、コンシーラー作りに取り掛かろうと思い、お暇しようとした。すると殿下は呆れたお顔で仰った。
 
「何、もう帰ってしまうのか?」
 
「はい、すぐにでも取り掛かろうと思いまして」

 何故かしら? なんだか寂しそうに一言。

「そうか」

 と、だけ仰った。そのお姿がなぜか前の世界でわたくしが子供の頃に飼っていた子犬と重なり、思わず言ってしまった。

「またすぐに参りますので、そんなお顔なさらないでください」 

 思わず、これは少し不敬かしらと思ったが、殿下は意外にも笑顔になってくれた。

「そうか、またすぐに来てくれるのだな」

 わたくしはまたしても、そのお姿が可愛らしく感じてしまった。そんな殿下に後ろ髪を引かれる思いで、この日は王宮を後にした。


 それからわたくしは図書館に行って、前の世界にいた時の知識を活かしながら、コンシーラーの素材になりそうな物を探した。
 そして色々調べていくうちに、ワセリンは、肌への刺激が少なく、軟膏や保湿クリームとして広く使われていて、安定性が高く油分として非常に適していた。
 そして、ココアバターや蜜蝋(ミツロウ)、これらは油分を固める役割を果たす。ココアバターは保湿力が高く、蜜蝋はワセリンやオイルと混ぜることで、わたくしの前にいた世界にあったスティックコンシーラーのような固さに調整できる。
 それから肌の色に合わせて色を調整するための粉末は、酸化亜鉛、当時は鉛白の代わりに使われ始めていた。
 鉛白は鉛に毒性があり使用が禁止された物だ。酸化亜鉛は安全性の高い白い粉だ。
 肌に塗る白粉(おしろい)として広く使われるようになった。
 それに黄土や赤土、天然の土壌から採れる顔料で、主成分は酸化鉄だ。これを白い粉に混ぜることで、黄色や赤みを帯びた肌色を作り出すことができる。それに天然色素の黄色のウコンや、赤色のカルミンも手に入る。これだけあればコンシーラーは作れるはずだと思い、カンパニーに行き、皆に素材の手配をお願いした。

 それからは皆さんの協力のお陰で、思っていたよりもかなり早く殿下に届けることができた。

 そして殿下に呼ばれていたルミーナ様は、わたくしを見るととても不機嫌になられた。

「なぜ貴女がここにいるのよ」

 すると殿下はルミーナ様を宥めた。

「彼女は君のために来てくれたんだ」

 そう言って説明をされた。それから程なく、何とか納得なさったルミーナ様はわたくしの前にいらした。

「本当になんとかなるのかしら?」 

 疑いの眼差しで見てきたが、わたくしは自信満々の顔を見せた。

「お任せください。ではこちらへ」

 そう言ってからコンシーラーを塗り、それから白粉を叩く作業を二度繰り返すと、ほとんど目立たなくなった。
 そのお顔を鏡で確認したルミーナ様はとても驚かれた。

「これは現実かしら?」

 感激なさっているのが見て取れた。その様子を満足そうに見ている殿下に彼女は満面の笑みを向けた。

「伯父様、ありがとうございます」
 
「これを作ったのは、ここにいるステーシア嬢だよ」

 すると彼女は仕方なく、それでも嬉しそうに言った。

「感謝するわよ。ありがとう」

「少しでもルミーナ様のお役に立てて良かったです」

 すると彼女は今までとは全く違う表情を向けてきた。それはどことなく親近感を感じるものだった。

「今度また、社交界でお会いしましょう」

 わたくしも親近感を込めて返した。
 
「はい、楽しみにしています」

 
 その後は殿下に誘われ二人でお茶をしていると殿下は嬉しそうに言う。

「今日は本当にありがとう。ルミーナのあの明るい表情を、随分と久しぶりに見れたよ」

「いいえ、大したことはいたしておりません」
 
「そんなことはないはずだ。こんな短期間で作ってくれたんだ」

 そう言って、労ってくださった。そんな殿下をわたくしは好ましく思った。

『殿下はこんなお優しい一面もお持ちなのだわ』
 と心が温かくなった。
 こうしてこの件も無事終了となり、わたくしは当然のことながら、このコンシーラーも商品化したのは言うまでもなかった。

 そういえば、このところのわたくしの新商品は全て殿下絡みだわ。と思い、つまりそれは殿下のおかげということになる。 
 わたくしは殿下に感謝しながら、また次なるアイデアに向かって頑張らなければと思っていた。

ーーーー

 ステーシア嬢が帰ってから、私はとにかく感心していた。どんなことにもまっすぐ向き合い、そして結果を出す。あの向上心はどこから来るものなのか? 常に前向きで冷静な姿に、憧れさえ感じている。こんなにも彼女に惹かれているのに、相変わらず彼女は私のことなど眼中になさそうだ。

 会えば会うほど惹かれていく自分を押さえるだけでも大変なのに、これからどうすれば彼女を振り向かせることができるのか? 考えても何も思いつかない。ただ会う回数を増やすだけでは駄目なことくらい、最近では気がついているのだが。どうしたものか。恋とは、人を幼くも臆病にもするものなのだと実感していた。

 『私も既に、いい大人なんだがな。恋とは本当に厄介なものだ』
 思わずひとりごとが出ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...