《完結》財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

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38話(アレン・マークという男)

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 わたくしは出来上がったデザイン画を持って、アレン・マーク氏の所有しているビルの中にある事務所を訪ねた。
『それにしても大きな建物ね。どれほど手広くやっているのかしら』
 と思っていると、ちょうど彼が建物から出てきた。

「これはステーシア様、わざわざご足労おかけして申し訳ない」
 
「いいえ、早くお渡ししなければと思っていたのでお気になさらず」
 
「先触れをいただければ僕が直接取りに伺いましたのに」

 わたくしは急に思い出した。『そういえば今度彼と会う時は殿下に先触れを出して知らせる約束だったのにごめんなさい』と心の中で謝った。

 でもこれは偶然だから不可抗力よね。まさか忙しい彼がいるとは思わなかったもの、と自分で自分に言い訳をした。

「とんでもありません。お忙しい方に取りにきていただくなんて」
 
「忙しいのはお互い様ですよ。寧ろ貴女の方がお忙しいのでは?」
 わたくしは苦笑しながら答えた。

「いえいえそんなことはありません」
 
 そして持ってきたデザイン画を彼にお渡しすると、その場で中身を確認された。
 それを見て彼は感心した。

「素晴らしい。思っていた以上の出来です。
すぐにこれを縫製に出します。そして仕上がったら是非、これを貴女に身につけてもらいたい」
 
「何故わたくしが?」
 
「勿論、一番の宣伝になるからです」
 
「その際は是非、僕にエスコートさせてください」

 そう言われ、わたくしは殿下のことがすぐに頭に浮かんだ。

「すいません、それは出来かねます」
 
「何故ですか? 貴女に対して変な下心などありません。本当に宣伝のためで、これはお互いの利益に繋がります」

 そう言ってから続けて
 
「ちょうど来月、僕の知り合いの伯爵家で舞踏会が開かれますので、そこで是非お披露目させていただきたい」

 わたくしは迷っていた。彼の言っていることは分かるけれど、それは殿下との約束を違えることになる。どうしましょう、でもお断りするのも悪いし、かといって殿下のことを考えると……。
 お披露目だけしてすぐ帰るなら、伯爵家の舞踏会なのだから殿下が参加なさるわけではないし、きっと大丈夫よね。そうよ、すぐ帰れば問題ないわ。そう思ったわたくしは答えてしまった。

「分かりました。それではお披露目だけでしたら参加させて頂きます」
 
「よかった、ありがとうございます。当日はうちの女性スタッフが、ステーシア様のお支度を手伝わせていただきますのでお屋敷に向かわせます」

「いいえ、支度はわたくしの侍女がおりますので結構ですわ」
 
「いえ、彼女は美容のプロフェッショナルですので、メイクは勿論、髪型も全て完璧に仕上げますのでお任せください」

 と押し切られてしまった。

 その後一月近く経って、ついに社交界当日を迎えた。
 朝早くからアレン・マーク氏のスタッフが来て、わたくしを完璧にすべく気合を入れてメイクや髪型を整えてくれている。側ではアンが、勉強とばかりに彼女のすることを感心しながらじっと見つめている。そして仕上がったわたくしを鏡の前へと誘導した。

「いかがですか? とてもお似合いだと思いますが」

 スタッフの方に言われ、鏡を見るとまるで別人のように仕上がったわたくしがいた。だけどわたくしは前の世界でのメイクを知っていたので、彼女にわたくしの作ったコンシーラーを見せた。すると彼女は不思議そうに尋ねた。

「ステーシア様はお顔にシミひとつありませんので必要ないのでは?」
 
「いいえ、これはこういう使い方もできるのよ」

 そう言って彼女に見せた。それは鼻筋に沿ってコンシーラーを塗ってから、その上に白粉を指の腹で叩くようにのせ、鼻の両脇に、影を作るように少し濃いめの色の粉をはたく。こうすることで、鼻筋が通って高く見えることを伝えた。すると彼女はとても驚いている。

「すごいです!本当に高い鼻が更に高く見えます」
 
「是非この方法、私も真似ても宜しいでしょうか?」
 
「勿論よ。是非皆さんに広めて、わたくしの会社から出しているこのコンシーラーの宣伝も宜しくね」

 彼女にお願いをした。

「お任せください。我が社の社長にも伝えて、しっかり宣伝させていただきます」

 そう言って興奮しているのが伝わってきた。
 こうしてわたくしは完璧に仕上がってから階下におり、伯父様や伯母様、そしてお兄様にも見ていただくと、三人ともとても驚いた表情で、特に伯母様は感嘆の声を上げた。

「ステーシア、とても素敵よ! 今まで見た中で今日の貴女が一番輝いているわ」

 伯父様とお兄様は呆気に取られているのがわかり、わたくしはまるで悪戯が成功した子供のようにニンマリと笑っていた。

 それから少ししてから、アレン・マーク氏が侯爵邸へと馬車で迎えに来た。そしてわたくしを見ると、とても驚いて先程の三人と同じような表情でわたくしを見ていた。
 そしてそんな彼にスタッフの女性が駆け寄った。

「社長、見てくださいステーシア様のお鼻を」

 そう言ってから、先程わたくしが彼女に説明したことをそのまま興奮しながら伝えている。それを聞き終えたマーク氏は驚きながら話す。

「こんな使い方があるとは、是非我が社でも宣伝させて欲しい」

 と言ってから

「本当に素晴らしく綺麗だ。こんな素敵な女性をエスコートできるなんて嬉しいかぎりです」
 と言ってくださった。
 そしてわたくしたちは皆に見送られ、本日の舞踏会へと出発した。


 アレン・マークは企んでいた。
『たかが伯爵令嬢の一人くらい、僕にかかればすぐに落とせる』と。
 そしてそんな日が来た時のために高い金を払って貴族位を手に入れたのだから。

 彼女は彼にとっては(金の卵)だった。類稀なる才能の持ち主で金儲けのためのアイデアを次々に生み出してくれる。
 必ずこの手に落としてみせると意気込んでいた。

 そんな彼は何も知らない。王弟殿下でさえどうすることもできない女性だということを。
 彼女は普通の女性とはまったく違う。彼が思うほどあまくはない。
 
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