財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

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4話(美優《ステーシア視点》)

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 私が目覚めてから、周りは私のことをとても優しく労わってくださる。
 それにしてもここは何処なのかしら?   確かなことは私は今、別の世界にいるということ。
 つまり前の世界では私は既に亡くなっているということ?   何も分からないままこちらの世界での生活が始まっている。

 確かにこちらでの生活は快適で、前にいた世界とは比べ物にもならないが、ただ一つだけ気掛かりがある。それは私の侍女だったアンのことだ。
 彼女は貧しい男爵家の三女でお父様が亡くなった後も私の側に寄り添ってくれていた。
 本来なら実家の男爵家に戻ることだってできたのに『今のお嬢様を一人には出来ません』と言い、残ってくれた。そして継母に頼み込んでただのメイドとして引き続き雇って欲しいと申し出てくれた。そんなアンに対して継母はお給金を半分にしてしまった。それなのに私のために残ってくれたアンは今頃どうなっているのか、きちんと実家に戻れたのだろうか? それだけが気掛かりだった。
 そんなことを考えていたら突然声をかけられた。

「美優、高熱のせいで記憶が失われてしまったのね可哀想に」

 私のお母様らしき方だった。

 その後、私は色々な検査を受けさせられている最中だ。
 それにしてもこの世界はあまりにも驚くことが多すぎて頭が全く追いつかない。検査だからと、こんな狭い箱のような物に入れられて、中では大きな音がしている。

『いったいこれは何をしているのかしら?』

 今の私の周りには、前の世界に居た悪意のある人は見当たらないので安心はしているのだけれど、それにしてもこの検査というものはいつまで続くのかしら?   そしてそんな中、ふと思った。今、私のこの魂が宿っているこの身体の持ち主は既に亡くなってしまっているのかしら?   と。そしてきっともう、私は元の世界に戻ることはできないのかもしれない、だからこちらの生活に順応していかなくてはいけないと思っていた。そんな時一人の男性から声がかかった。

「はい、これで検査は全て終了です。お疲れ様でした」

 ようやく全ての検査を終えた私にお母様らしき方は優しく話しかけてくださった。

「美優、完全な検査の結果は後日だと言われたけれど、先生はたぶん大丈夫そうだと言ってくれてるわ」

 安心したように微笑んでくれた。私は心の中で『この身体の持ち主だった美優さんという方は誰からも本当に愛されていた方なのね』と羨ましく思った。

 そして皆から愛されている人の身体で、これから私の第二の人生が始まる。こんなにも愛されている美優さんとはいったいどんな方だったのかしら?   私は高熱を出したせいで記憶を無くしていると思われているので本人と隔たりがあったとしてもそこは高熱のせいで記憶がないで通せばなんとかなるはず。
 ただ、一切の人間関係も家庭環境も分からないのは不安ではあった。
 そしてそんな考え事をしている間にお母様らしき方が話しかけてきた。

「さあ、美優そろそろ帰りましょうか。お父様も今日は早く戻られるそうよ」

 私はお母様と一緒に、付き添ってくださっている男性を従えて部屋をあとにした。

 そして、下へ降りると黒い大きな車が出口の前で待っていて、先程の方が車のドアを開けてくださった。私はその車を見て驚いたが気づかれないように努めた。
 私のいた世界の車とはあまりにも違い過ぎて、声さえ出なかった。

 私のいた世界は丁度、ガソリン自動車が開発された直後で車は走っていたが、まだ大半の貴族は馬車を利用していた。
 それに車を持っている人は貴族の中でもかなりの高位貴族くらいだった。
 勿論私も車に乗るのは初めてだった。何もかもが珍しい物ばかりで圧倒されていると、前の席に座っている、この車を運転なさっている方が声をかけてきた。

「奥様、エアコンの温度は大丈夫でしょうか?」

 するとお母様らしき方は何でもないように答える。

「わたくしは丁度いいわ。美優、貴女は大丈夫?   暑くはなくて?」

 私も聞かれ、慌てて答えました。

「だ、大丈夫です」

 私は『すごいわ、この車の中は温度調節まで出来るのね。それにこの車の速さは前の世界とは比べ物にもならないわ』と驚いていた。

 そしてふと思った。私は何故か此方の国の言葉が話せるし、理解も出来る。それに彼方此方で見かける文字も全て読める。前に居た世界とは明らかに違う世界なのにと不思議に思っていた。でもきっとこれは、元のこの身体の持ち主の記憶が残っているからなのかもしれないと、納得するしかなかった。

《その能力は神様の償いだとはまだ知らない美優こと元ステーシアだった》
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