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11話(旅立ち)
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いよいよ留学へと向かう日がやってきた。短期間ではあったが、私なりに猛勉強をしてこちらの世界の常識を学んだ。
それでも今、目の前にしている飛行機に乗るのはかなりの勇気が必要だった。
『こんな鉄の塊が空を飛ぶだなんて前の世界では考えられない』
しかしこれに乗らなければ目的地には行くことができない。勇気を出して乗るしかない。
私は見送りに来てくれている両親に別れを告げ、いよいよ搭乗口に向かった。すると後ろの方から声が聞こえた。
「美優! 待って、ごめん道が混んでて。でもなんとか間に合って良かった」
一人の男性が駆け寄って来た。きっと彼が大和さんだろう。
本当は大和さんも一緒に同じ大学に留学をするはずだったが、彼と一緒に暮らしているお婆様が先日倒れられたので、お婆様の容態が落ち着いてからということになった。
正直私はそれを聞いた時にお婆様には悪いが、少しホッとしていた。この狭い空間で、いくら記憶をなくしているのを知っていても、どんな接し方をすれば良いのか緊張していたからだ。
大和さんは済まなそうに言う。
「必ず後から向かうから向こうで待っていて」
「はい、お婆様が早く良くなるといいですね」
私はそつなく返した。
こうしてなんとかこの鉄の塊でできた飛行機に乗り、旅立った。
そして時間が経つこと半日以上、やっと目的地の空港へと降り立った。
空港へはお兄様が迎えに来てくれているはずだが、向こうが見つけてくれるのを待った。
私は写真で確認はしていたが、実際に会ったことがないので探し出す自信はなかった。だけどすぐに声を掛けられた。
「美優! 久しぶり。身体は大丈夫か? 疲れてないか?」
そして私はその声の主にお礼を言った。
「お兄様! ありがとうございます」
お兄様は写真で見るよりずっと素敵な大人の男性だった。『それはそうよね。私より五歳も年上なのだから十分大人だわ』と心の中で思った。
お兄様は私を見て、少し驚いた表情をなさったが、それを隠すような態度が伝わった。きっとお父様やお母様から、美優が目覚めてから別人のようになったと聞いているのだと思った。お兄様はそれを隠すように話してくれる。
「さあ、美優、車は向こうだ」
そう言って、私を案内してくれた。
そしてやはり大きな目立つ車が待っていた。私達はその車でまずはお兄様の自宅へと向かった。
私は大学が始まれば、その大学の寮に入ることになっているが、それまではお兄様のところで過ごすことになっているという。
お兄様はとても優しく気を遣ってくれるが、どこかぎこちなさも感じた。
それもそうよね、私だって逆の立場だったらどう接していいか分からないもの。だって外見は同じで中身は違うのだから。
もっともお兄様の場合は中身は同じ人間だと思っているのだけど。
そんなことを考えていたら、お兄様の住まいに着いていた。
ここは何階建てかしら? そう思うほど高い建物で、お兄様はそこの最上階に住んでいるという。
私は中に通されると、そこにはお兄様の身の回りのお世話をしているというお母様くらいのお年の、現地の方が挨拶をしてくださった。
「初めまして、私はこちらでお世話になっているマーサーと言います」
私は現地の言葉で話しかけられたので、ならば私もと現地の言葉で返した。
「しばらくお世話になります。妹の美優です」
するとお兄様が感心したように褒めてくださる。
「美優、発音も完璧だな」
私はこちらの国の言葉を勉強しようと本を開いたが、なぜか全て読めるし書けるし話せたので、特に言葉の勉強はしなかったがお兄様は私が猛勉強をしたと思っているようだった。
でもおかしいわ、それだと私が納得していたことが否定されてしまうわ。
だって元のこの身体の持ち主の記憶で言葉が分かると納得していたのに、彼女はその時はまだこちらの言葉は話せなかったということ? お兄様の反応を見る限り、そうよね。だとすると何故? 私は訳が分からなかった。それなのに何も知らないお兄様は褒めている。
「さすが美優だ!」
私はあまり考えても無意味なのでやめておいた。
ーーーー
お兄様はこちらの国にもあるお父様の会社の支店を任されている。今日は私のために休みを取ってくださり、明日からはお仕事でお忙しいそうだ。
これから私達はお夕食を取るために外出することになっている。
「今日は疲れているだろうから、同じ建物の中にあるレストランを予約したんだ」
そう言って案内してくださった。
そしてそこに着くと、お兄様のお友達だという方達も偶然来ていて挨拶をしてくださった。
その方達は現地の方々なので、こちらの言葉で挨拶を返すと皆一様に私の発音が完璧だと褒めてくださり、隣にいるお兄様はなぜか自慢気だった。私はそんなお兄様をとても可愛らしく感じた。
そして図に乗ったお兄様は店の中央にあるグランドピアノを指差して驚くことを言う。
「美優、久しぶりなんだ、いつもの曲を弾いて聴かせてくれないか?」
焦った私は聞き返した。
「お兄様、いつもの曲とは? まだ記憶が戻っていないのでいつもの曲かはわかりませんが、なんでも宜しければ弾かせてもらいます」
思わず答えてしまった。私は前の世界にいた時に子供の頃からピアノを習っていたが、その頃の曲でも大丈夫かしら? と思いながらピアノに向かった。
そして楽譜がなくても弾ける曲を弾き始めた。すると周りは急に静まり返り、皆ピアノの演奏に耳を傾けていた。
そして弾き終わると拍手喝采が起こった。私は一礼をして席へと戻ると、お兄様が驚いていた。
「美優、いつの間にこんな曲も弾くようになったんだ?」
「ごめんなさい、記憶が曖昧でわからないのです」
「いいや、責めてるんじゃない。素晴らしい演奏だった」
思わず『美優さんって、どんな曲を弾いていらしたのかしら?』と気になった。
「さあ、美優冷めないうちに頂こう、全部美優の好物ばかりだぞ」
そう言って、お兄様は私の椅子を引いて下さった。
「ありがとうございます」
私はとりあえず席に着いた。
そして目の前のお料理はどれも初めて見る物ばかりだったが表情に出さないように頂いた。
「お兄様、とても美味しいです」
「良かったら私の分もお食べ」
「いくら何でも、そんなには食べられません」
「前の美優だったらこれくらいあっという間に平らげていたぞ」
思わず出た言葉に『しまった』というお顔をなさったお兄様。
「大丈夫です。気にしてませんから」
私はそんなお兄様に笑顔を向けた。
やはりこの方もお優しい方なのだと安心した。
それでも今、目の前にしている飛行機に乗るのはかなりの勇気が必要だった。
『こんな鉄の塊が空を飛ぶだなんて前の世界では考えられない』
しかしこれに乗らなければ目的地には行くことができない。勇気を出して乗るしかない。
私は見送りに来てくれている両親に別れを告げ、いよいよ搭乗口に向かった。すると後ろの方から声が聞こえた。
「美優! 待って、ごめん道が混んでて。でもなんとか間に合って良かった」
一人の男性が駆け寄って来た。きっと彼が大和さんだろう。
本当は大和さんも一緒に同じ大学に留学をするはずだったが、彼と一緒に暮らしているお婆様が先日倒れられたので、お婆様の容態が落ち着いてからということになった。
正直私はそれを聞いた時にお婆様には悪いが、少しホッとしていた。この狭い空間で、いくら記憶をなくしているのを知っていても、どんな接し方をすれば良いのか緊張していたからだ。
大和さんは済まなそうに言う。
「必ず後から向かうから向こうで待っていて」
「はい、お婆様が早く良くなるといいですね」
私はそつなく返した。
こうしてなんとかこの鉄の塊でできた飛行機に乗り、旅立った。
そして時間が経つこと半日以上、やっと目的地の空港へと降り立った。
空港へはお兄様が迎えに来てくれているはずだが、向こうが見つけてくれるのを待った。
私は写真で確認はしていたが、実際に会ったことがないので探し出す自信はなかった。だけどすぐに声を掛けられた。
「美優! 久しぶり。身体は大丈夫か? 疲れてないか?」
そして私はその声の主にお礼を言った。
「お兄様! ありがとうございます」
お兄様は写真で見るよりずっと素敵な大人の男性だった。『それはそうよね。私より五歳も年上なのだから十分大人だわ』と心の中で思った。
お兄様は私を見て、少し驚いた表情をなさったが、それを隠すような態度が伝わった。きっとお父様やお母様から、美優が目覚めてから別人のようになったと聞いているのだと思った。お兄様はそれを隠すように話してくれる。
「さあ、美優、車は向こうだ」
そう言って、私を案内してくれた。
そしてやはり大きな目立つ車が待っていた。私達はその車でまずはお兄様の自宅へと向かった。
私は大学が始まれば、その大学の寮に入ることになっているが、それまではお兄様のところで過ごすことになっているという。
お兄様はとても優しく気を遣ってくれるが、どこかぎこちなさも感じた。
それもそうよね、私だって逆の立場だったらどう接していいか分からないもの。だって外見は同じで中身は違うのだから。
もっともお兄様の場合は中身は同じ人間だと思っているのだけど。
そんなことを考えていたら、お兄様の住まいに着いていた。
ここは何階建てかしら? そう思うほど高い建物で、お兄様はそこの最上階に住んでいるという。
私は中に通されると、そこにはお兄様の身の回りのお世話をしているというお母様くらいのお年の、現地の方が挨拶をしてくださった。
「初めまして、私はこちらでお世話になっているマーサーと言います」
私は現地の言葉で話しかけられたので、ならば私もと現地の言葉で返した。
「しばらくお世話になります。妹の美優です」
するとお兄様が感心したように褒めてくださる。
「美優、発音も完璧だな」
私はこちらの国の言葉を勉強しようと本を開いたが、なぜか全て読めるし書けるし話せたので、特に言葉の勉強はしなかったがお兄様は私が猛勉強をしたと思っているようだった。
でもおかしいわ、それだと私が納得していたことが否定されてしまうわ。
だって元のこの身体の持ち主の記憶で言葉が分かると納得していたのに、彼女はその時はまだこちらの言葉は話せなかったということ? お兄様の反応を見る限り、そうよね。だとすると何故? 私は訳が分からなかった。それなのに何も知らないお兄様は褒めている。
「さすが美優だ!」
私はあまり考えても無意味なのでやめておいた。
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お兄様はこちらの国にもあるお父様の会社の支店を任されている。今日は私のために休みを取ってくださり、明日からはお仕事でお忙しいそうだ。
これから私達はお夕食を取るために外出することになっている。
「今日は疲れているだろうから、同じ建物の中にあるレストランを予約したんだ」
そう言って案内してくださった。
そしてそこに着くと、お兄様のお友達だという方達も偶然来ていて挨拶をしてくださった。
その方達は現地の方々なので、こちらの言葉で挨拶を返すと皆一様に私の発音が完璧だと褒めてくださり、隣にいるお兄様はなぜか自慢気だった。私はそんなお兄様をとても可愛らしく感じた。
そして図に乗ったお兄様は店の中央にあるグランドピアノを指差して驚くことを言う。
「美優、久しぶりなんだ、いつもの曲を弾いて聴かせてくれないか?」
焦った私は聞き返した。
「お兄様、いつもの曲とは? まだ記憶が戻っていないのでいつもの曲かはわかりませんが、なんでも宜しければ弾かせてもらいます」
思わず答えてしまった。私は前の世界にいた時に子供の頃からピアノを習っていたが、その頃の曲でも大丈夫かしら? と思いながらピアノに向かった。
そして楽譜がなくても弾ける曲を弾き始めた。すると周りは急に静まり返り、皆ピアノの演奏に耳を傾けていた。
そして弾き終わると拍手喝采が起こった。私は一礼をして席へと戻ると、お兄様が驚いていた。
「美優、いつの間にこんな曲も弾くようになったんだ?」
「ごめんなさい、記憶が曖昧でわからないのです」
「いいや、責めてるんじゃない。素晴らしい演奏だった」
思わず『美優さんって、どんな曲を弾いていらしたのかしら?』と気になった。
「さあ、美優冷めないうちに頂こう、全部美優の好物ばかりだぞ」
そう言って、お兄様は私の椅子を引いて下さった。
「ありがとうございます」
私はとりあえず席に着いた。
そして目の前のお料理はどれも初めて見る物ばかりだったが表情に出さないように頂いた。
「お兄様、とても美味しいです」
「良かったら私の分もお食べ」
「いくら何でも、そんなには食べられません」
「前の美優だったらこれくらいあっという間に平らげていたぞ」
思わず出た言葉に『しまった』というお顔をなさったお兄様。
「大丈夫です。気にしてませんから」
私はそんなお兄様に笑顔を向けた。
やはりこの方もお優しい方なのだと安心した。
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