暴言と浮気を繰り返す婚約者

ヴァンドール

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12話

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 数週間後。
 スタンリー伯爵が王都へ向かうという知らせは、屋敷中を騒然とさせた。

 領地を離れる理由は明かされなかった。
 しかし、王都にいる息子のもとへ向かう。それだけで、使用人たちは察していた。

(ピエール様、やはり何か、やらかしたと)

 王都の伯爵邸。

 ピエールは、父を迎えるため、応接室に立っていた。
 扉が開く。

 現れたのは、着替えもそこそこの、怒りを滲ませた顔のスタンリー伯爵だった。
 

 その顔を見た瞬間、ピエールの背筋に冷たいものが走った。

「父上」

 返事はない。

 父である伯爵は無言のままテーブルへ近づき、手にしていた書簡を、音が立つほど叩きつけた。

「これが、私がここへ来た理由だ」

 それは怒りを通り越したような声だった。

「ロイド・エクセラルが調査した報告書。それを父親であるエクセラル子爵に送り、正式な抗議として寄越してきた」

 ピエールの瞳が、微かに泳ぐ。

「ロ、ロイド殿が?」

「とぼけるな」

 父の声が、鋭くなる。

「王都での出来事を、彼はすべて記していた。妹がどのように扱われたか。お前が、どこの令嬢を連れて舞踏会に参加したか」

 父は一通の手紙を取り上げた。

「それだけではない。これを見ろ。お前が、ルシアン嬢の兄、ロイド・エクセラルの融資先に圧力をかけ、取引を見送らせようとした件。それに関わる貴族たちに流した嘘」

 ピエールの顔色が、変わった。

「正当な理由もなく、圧力をかけて妨害したとある」

「それはただのデマです」

「デマで済むと思うか!」

 ついに父の声が室内に響いた。

「更にだ」

 父は別の書簡を突きつける。

「王都の複数の貴族の間で、ルシアン嬢に関する事実ではない噂が流された。その出所が、スタンリー伯爵家と繋がっていると調べがついた」

 ピエールの顔が青ざめていく。

「婚約者を追い詰めるために、噂を流し、兄の仕事を妨害する」

 父親の視線が冷たく刺さる。

「呆れたものだ。ここまで卑劣とはな。これがお前のやり方か!」


 ピエールは何も言えなかった。

「ロイド・エクセラルはな」

 父は怒りを抑えながら言った。

「妹を守るために動いた。事実を集め、父に報告し、正式な形で我が家へ抗議を入れた」

 テーブルに置かれた書簡の束が、すべてを物語っている。

「相手は子爵家とはいえ、金融と人脈に強い家だ。しかも、正当性はこちらにない」

 伯爵は、一歩、息子に近づいた。

「だから私は、領地を離れてまで王都に来た。お前の過ちを、当主として裁くためにだ」

 ピエールは、目を伏せた。

「お前のしたことは論外だ! 貴族として、人として、恥を知れ!」

 伯爵は、遂に怒りを爆発させた。

「結婚の話は、凍結する」

「父上! それだけは!」

「何を今更! 私が結婚を先延ばしにするなと迫っているなどと、誰が言った! これ以上、嘘を重ねるな!」

 父はきっぱりと言い切った。

「ルシアン嬢とエクセラル子爵家には、正式な謝罪をしに行く。私とお前とでだ」

 伯爵の声には、疲労が滲んでいた。

「信頼を回復できるかどうかは分からん。だが、やらねばならん」

 息子に言い聞かせる。

「分かったな、ピエール」

「はい」

 下を向いたまま、何とか声を絞り出す。

 父は、それ以上何も言わず、出て行った。
 扉が閉まった後もずっと、ピエールは、一人、立ち尽くしていた。

 脳裏に浮かぶのは、はっきりと拒絶の言葉を告げた、あの姿。

 そして、それを守るために動いた兄の存在。

(全てバレている。俺はどうすればいいのか)

 握りしめた拳が、震える。

 自分でも、取り返しのつかないところまで来てしまったのだと、ようやく理解した。
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