暴言と浮気を繰り返す婚約者

ヴァンドール

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15話

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 婚約破棄が公になり、暫く経った頃。

 噂というものは、思ったよりも早く、しかし確実に広がる。

 スタンリー伯爵家との婚約が、正式に解消された。
 理由は、先方の過失によるもの。
 エクセラル子爵家には、一切の非はなし。

 それが伝わると同時に、屋敷に届く釣書の数が、目に見えて増え始めた。
 最初は一日に一通、二通。
 それが今では……。

「縁談?」

 私は、机の上に積まれた釣書を前に、思わず言葉を失った。

「そうだ」

 お兄様は、どこか遠い目をしている。

「未婚の貴族家から、正式な申し込みだ。家格も年齢も、実に幅広い」

「幅広い? のですか」

 兄が顎に指を当てる。

「どう考えても、節操がない。あまりにも早すぎる」

 ぽつりと零した言葉に、隣のランガー様が小さく咳払いをした。

「婚約が解消されたことで、自由になったと判断されたのでしょう。それに、何よりルシアン嬢は美しい。それが理由でしょう」

 聞いている私が照れるようなことも、淡々と説明している。

「特に、今回の件で貴女に、全く非がなかったことが、評価を上げています」

 私は、思わず苦笑する。

「噂が広まるのは怖かったけれど、まさかこんな形になるとは予想外です」

「世間とは、そういうものだ」

 お兄様は、釣書の束を整えながら言った。

「価値が下がるどころか、上がったと見る者も多い」

 そして、ふと視線をランガー様に向けた。

「なあ、ランガー殿」

「何でしょう」

「正直な話だ」

 兄はコホンと咳払いをした。

「これだけ申し込みが来ているんだ、君が名乗りを上げても良いのではないのか?」

 一瞬、空気が止まった気がした。
 私は、思わず目を見開く。

「お兄様?」

 ランガー様は、明らかに動揺した様子で、視線が泳いでいた。

「ロ、ロイド殿、冗談が過ぎます」

「冗談ではない」

 お兄様の声は、珍しく真剣だった。

「君は、妹のことをよく理解しているし、危険から守れる力もある。その上、信用もある」

「それと、縁談は別です」

 ランガー様は、きっぱりと否定した。

「私のような男では、釣り合いません」

 その言葉に、私は思わず息を殺す。

「見てくれも良くない。社交も得意ではない。融通も利かない」

 淡々と、しかしどこか自嘲的に続けた。

「そんな男が、ルシアン嬢の隣に立つなど、申し訳なさすぎる」

 お兄様は、思わず眉を寄せた。

「君はいつだって、自己評価が低すぎる」

「事実です」

 キッパリと返した。

 私は、二人のやり取りを聞きながら、胸の奥に、言葉にならない感情が芽生えるのを感じていた。

 ここまで迷いなく、はっきりと言い切るランガー様には、もしかしたら他に、お慕いしている方がいらっしゃる? そんな疑問が湧いてきて、その瞬間、私の心はチクリと痛んだ。
 この痛みは何を意味するの?

 思考は、そこで途切れた。
 まだ、答えを出す時ではない。だけどただ一つ、確かなことがある。

 私は、もう誰かに急かされて決めることはしない。
 この先は、自分で選ぶ。そう、心の中で静かに誓いながら、私は、積まれた釣書から、そっと視線を逸らした。
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