十番目の愛

夜宮 咲

文字の大きさ
51 / 84

罠にかかった猫

しおりを挟む
鏡月家。財閥界のトップに君臨する主人

が住むこの屋敷で私は使用人として働い

ている。ここへ来てから人がどんどん消

えてしまっている。私と共に働いていた

同期も何らかの理由でここを出て行って

しまった。物騒な出来事が起こるこの屋

敷だけど、私は決して辞めようとは思わ

なかった。ここにいれば部屋が用意され

ているし、食事も困らない。仕事は大変

だけど苦ではない。

ただここにいる人達は複雑な関係だとは

思う。旦那様には子どもがいるけれど、

全員養子。血の繋がりは全くない。

人間観察をしていると、一般家庭で見る

ようなあたたかさはない。

みんながみんな、どこかで相手を貶して

いる。

でも、私とあまり年が変わらないあの人

達がいい学校に通っていい物を持ち歩い

ている姿を見ていると羨ましくて仕方が

なかった。私は使用人だから好き勝手は

出来ない。休みも限られているから行き

たい場所へも行けないし、お洒落な服を

来て遊ぶことも出来ない。

毎日同じ服を着て同じ仕事を繰り返す。

こんな毎日だから当たり前のように過ご

している人が羨ましかった。

だから、これぐらいいいだろうと思っ

た。

七緒様が病院に移されることになった日

、衣類などを送るために荷物をまとめて

いた。七緒様の部屋には有名なブランド

品の物がたくさんあった。

以前、私は七緒様から化粧品を貰った。

可愛いリップ。私は素直に嬉しいと思っ

たが、あの時の七緒様の言い方に腹が立

った。私を地味呼ばわりするあの言い方

。地味なことぐらいわかっている。

でも、どうしてこの人にそこまで言われ

なきゃいけないのだろう、と思った。

荷物をまとめている最中にその事が頭の

中で蘇る。

あの人はもう人気者じゃないのだから、

こんな物必要ないよね。

私は七緒様の部屋を物色した。

高い香水、可愛い服、雑誌で見たことが

ある化粧品。

それらを手に取ってポケットに入れた。



「川村」


心臓が飛び跳ねた。

ドキドキしながら後ろを振り返ると、

そこには十和様の姿があった。

ドアを少し開けていたのが誤算だった。

十和様は私のことをジッと見つめてい

た。


「あ、あの、十和様……」

「それ、お姉様の荷物よね?私も手伝うわ」

「大丈夫ですっ!もう、詰め終わったので……」

「そう?じゃあ、下まで運ぶの手伝うわ。一人じゃ持てないでしょう?」


そう言って箱を持って一階へ降りる。

よかった、バレてなかった。

ほっとした私は十和様の後に続いて箱を

運び降ろした。


「すみません、手伝ってもらって」

「いいのよ」

「あのっお茶でも淹れましょうか!荷物重くて疲れちゃいましたよねっ」

「大丈夫よ」


十和様は私の肩に手を置いた。


「ねぇ、そのポケットに入れた物は何?」

「えっ………」


十和様は私のポケットに手を伸ばした。

そして、ポケットの中身を取り出すと、

クスッと笑って私に見せた。


「これ、お姉様の物よね。どうしてあなたのポケットから出てきたのかしら?」

「……ごめんなさいっ!!欲しいなって思っちゃって…それで、つい」

「謝らなくてもいいわ。これはあなたが貰っておけばいいのよ」

「え…?」

「あんなにたくさん持っていて、しかも使わないまま置いているんだもの。別に取っても気づかないわよ。それに、ここに戻ってくるのもいつになるのやらって感じでしょう?」


意外な返答で反応に困ってしまう。

まさか十和様の口からそんな言葉が出る

なんて…。

でも、十和様がそう言うならいいのかな

……。


「あの、一応このことは…その…」

「別に言わないわ」

「ありがとうございますっ…!」

「でも、ひとつお願いがあるの」

「お願い、ですか?」

「そう、安心して。簡単なことだから」


十和様は私に近づいて耳打ちで話す。


「……お願いできる?」

「私に出来るかはわかりませんが…私もお願いを聞いてもらっている立場なので」

「じゃあ、よろしくね」


そう言うと十和様は部屋へ戻って行っ

た。私は美しい後ろ姿を眺めながら、あ

の容姿が欲しいなぁと思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

処理中です...