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"一"という誇り(1)
しおりを挟む「一は賢いな」
昔、幼い僕にお父様が言ってくれた。
鏡月の屋敷に迎え入れられたばかりの頃
、まだここに僕以外の養子がいなかった
頃、あの頃のお父様は僕のことを"一"と
呼んでくれていた。満点のテストを見せ
ると頭を撫でてくれた。頭を撫でてくれ
る時の表情に笑みはなく、何を考えてい
るのかよく分からない無の表情だったが
、その手から優しさは伝わった。僕はそ
れが嬉しかった。
その後、お父様はまた別の養子を迎え入
れた。知らない子が何人も屋敷に来た。
新しい子に嫌悪感を抱くことはなかった
。勉強して、いい点をとる。そうすれば
お父様は褒めてくれる。
だが、養子が増えるにつれお父様が僕を
名前で呼ぶことは少なくなり、いつの間
にか全く呼ばれなくなった。難関校に合
格しても学力で一番を取り続けても弁護
士になっても意味がなかった。あの頃の
ように名前を呼んでくれなかったし、あ
の手で頭を撫でてくれることもなかった
。ただ、当然だろうというような目で僕
を見ただけだった。
だから、お父様があの子の名前を呼んだ
時、僕は何とも言えない感情になった。
「お兄様」
よく晴れた日の午後。
庭園にあるベンチに座っていた僕のとこ
ろに近づいてくる人影。
あぁ、あの子だ。
初めて彼女を見た時、他とは違う容姿に
驚いた。きっと、他の子も同じように彼
女のオーラに惹きつけられただろう。異
国人のような美しい容姿はまるで生きた
人形のようだ。
そんな彼女をお父様は特別に扱うかのよ
うに他の子には絶対にしないこと、名前
を呼んだのだ。僕は幼い頃は名前で呼ば
れていたから、その事で彼女に対して妬
みのような感情を持つことはなかったが
、僕の後に来た子たちはそうではなかっ
た。一度も呼ばれたことがない子たちか
らすると、来たばかりの彼女がいきなり
お父様から名前を呼ばれることが悔しか
ったのかもしれない。それに、彼女は冷
たいところがあったため余計に印象が悪
かった。
僕は直接彼女に何かを言ったり、除け者
にするといったことはしなかった。
まわりの空気に合わせあくまでも長男と
して振る舞った。
感情を押し殺したんだ。
よく分からない、この感情を。
「お一人ですか?」
逆光で彼女の顔が眩しく見える。
「……あぁ、少し休んでいたんだ」
「よければ一緒にお茶でもしませんか?守屋にお願いしてお菓子も用意してもらいましょうか」
「僕を誘うなんて珍しいなぁ」
僕の側に彼女 ー 十和は立っていた。
「お兄様とお話したいと思って」
十和の顔には笑みが浮かんでいる。
美しい、でもどこか怪しい笑み。
なぜそう感じるのか、その答えは自分で
よく分かっている。
「……いいよ。僕も一度、君と話しをしたいと思ってたんだ」
きっとお互い考えていることは同じ。
決着をつけるんだ。
今から始まるゲームで、僕は答えを引き
出す。
僕はベンチから立ち上がり、十和と共に
守屋のもとへ行った。
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