十番目の愛

夜宮 咲

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可哀想な十一番目(1)

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かつて十一歌のママとパパだった人達は、十一歌のことを「おかしい」と言った。

幼稚園で一番仲が良かった女の子が友達から誕生日プレゼントで貰ったぬいぐるみを十一歌に「可愛いでしょ」と見せてくれた。

十一歌はそのぬいぐるみをみんながお外で遊んでいる間にはさみで切り裂いた。

その様子を先生に見られてしまった。

先生は女の子を呼び出した。ボロボロになったぬいぐるみを見て女の子は泣いてしまった。先生は、十一歌に「どうしてこんな事をしたの?」「ちゃんと謝って」と言った。もちろん、ちゃんと謝ったよ?

でも、ぬいぐるみを切った理由を言ったら先生はすごく困った顔をしていた。

その日、先生はこの出来事をママとパパに言ったんだと思う。
お家に帰ると、ママはしゃがんで十一歌の手をそっと握った。
「お友達が悲しむことをしたらダメだよ」って、優しく言った。

ママにそう言われたから、十一歌はちゃんと守った。それから友達には優しく接するように気をつけた。

それから何事もなく十一歌は小学生になり、毎日元気よく学校に通っていた。

小学生になると、友達関係は以前より複雑になっていくようだった。とくに、女子は「あの子苦手なんだよね」などと言って、自分のグループから省く。若干いじめのような状態になる。

十一歌は友達が多い方だったと思う。いつも十一歌のまわりに誰かがいたし、クラスの中心って感じの立ち位置にいたんじゃないかな。

その頃、十一歌がいたグループの一人が同じグループにいる子の悪口を言っていた。すると、他の子達も同感し、次の日からその子を避けるようになった。

でも、十一歌はその子のことが好きだったから仲間はずれにしたくないなぁって思った。だから、放課後みんなが先に帰って行ったところを確認してから、十一歌はその子と一緒に帰った。

帰り道、みんなから避けられている、みんなから嫌われているんじゃないか、その子の口からぽつぽつと言葉がもれた。

十一歌はなるべく優しい言葉をかけた。

今にも泣き出しそうな顔でその子は小さな声でこう言った。


「消えちゃえばいいのに…」


精神的辛さからそんな言葉が出たんだと思う。確かに、はじめは避けたり、無視する程度だったのに、最近は物を何処かに隠したり、ゴミ箱に捨てたり、どんどん行動がエスカレートしているようだった。嫌がらせ、というよりはほぼいじめの状態。十一歌はその様子を側で見ていただけで、直接何かしたわけではない。でも、近くにいたからこそ、友達を守らなきゃいけない、と思った。


「わかった、何とかする」


次の日の朝、十一歌はみんなにいじめを辞めるよう説得した。

朝の教室はまだ生徒が少なく、あの子もまだ教室にいなかった。


「別に、いじめてるつもりないよね?」


最初に悪口を言い始めた子が他の子に聞いた。他の子達は頷いていたが、その表情は曇っていた。


「やり過ぎだと思うんだ。私はあの子のこと嫌いじゃないし、前みたいに仲良く遊びたいから、いじめを辞めてほしいの」

「ちょっとムカツイただけじゃん。それに、嫌がらせをいじめって言うのやめてよ。あたしが悪いやつみたいじゃん」

「悪いやつでしょ?あの子を傷つけた」

「みんなもやってたじゃん!あたしだけ悪者扱いしないでよ!!」


怒った相手は十一歌を両手で突き押した。十一歌はその場に尻もちをつくかたちで倒れた。相手は謝りもせず、教室から出ていった。その後を他の子達が困惑した様子で追った。十一歌もすぐ立ち上がり、その子の後を追った。

廊下を小走りし、突き当たりを曲がって階段を降りて行くその子を見つけた。
相手も十一歌に気づいたようで、十一歌を見て睨んだ。


「ついてこないでよ!」

「あの子に謝って!」

「うざいっ」


相手は他の子達に「行こっ!」と言って背を向け、再び階段を降りて行く。

十一歌はどうしても、相手に自分がやっている事は悪いことなんだよって、お友達を悲しませているんだって、分かってもらいたかった。

十一歌は階段を降りて行く相手を追いかけて肩に強く手を置いた。後ろから置かれた十一歌の手に驚き、相手は十一歌の方に振り向いたが、その時に足を踏み外してしまった。

相手はバタバタと転がり落ちた。

他の子達はバタリと倒れて動かない相手を見て悲鳴をあげた。

悲鳴が聞こえて駆けつけた先生たちが下で倒れている生徒を見て慌てて救急車を呼んだ。それから、その場にいた十一歌たちに何があったのか聞いた。すると、その場にいた子は十一歌のことを指差した。十一歌は階段から突き落とした悪い子にされたのだ。

どうして?

十一歌は違う、その子が友達をいじめるから止めようとした、謝ってもらいたかった。
十一歌は先生たちに必死に説明した。でも、先生たちは理解してくれなかった。


「まずはあなたがあの子に謝りなさい」


先生は怒っていた。十一歌に。

なんで?どうして?

十一歌は友達を悲しませる子を止めただけなのに。

その日、学校にママとパパが呼び出された。十一歌もママ達と一緒に先生からお説教された。ママ達は先生たちに何回も謝っていた。どうしてママ達が謝っているのか、どうして十一歌も謝らなきゃいけないのか、最後まで分からなかった。

お家に帰った後、ママとパパは十一歌を叱った。


「どうしてあんな事したの!」


ママの目には涙が浮かんでいた。パパはママの背中にそっと手を置き優しくなだめた。

十一歌はどうしてそうなったのか最初から説明した。先生たちは理解してくれなかったけど、ママとパパなら分かってくれると思った。


「…じゃあ、押したわけではないのね?」

「そうだよ。びっくりして、足がからまっちゃったの」

「でも、驚かせてしまったわけだから、こっちも悪いわ。やっぱり相手のご両親に謝りに行かないと」

「でも、あの子も悪い子だよ。あの子は友達をいじめてたのに、謝らない子なんだよ」

「そうね。でも、怪我をさせてしまったことと、その話しはまた別でしょう?」

「ママ、前に言ってた。友達を悲しませるようなことはしちゃダメだって」

「そうね、言ったわ」

「だから、あの子は悪い子でしょ?どうして私が謝るの?悪い事をしたのはあっちなのに」

「……私達は、悪い事をしてないって思っているの?」

「うん」


その時のママとパパの表情を覚えてる。

困惑しているような、動揺しているような、そんな感じの表情。

ママとパパは何も喋らなかった。

どうしたんだろう?と思った。

ママは両手で顔を覆った。そして、その場に崩れ落ちた。パパは「大丈夫か?」と心配そうにママの体を支えた。


「ママ、どうしたの?大丈夫?」


十一歌も心配になってそう言った。


「…おかしいわ、この子」


ママの口から出てきた言葉は重く、とても暗い声色だった。

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