100年目の魔女

夜宮 咲

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「優人くんおはよう!」

「…おはよう」


厄介なことになった。

あれから香織はよく僕に声をかけてくる

ようになった。仲良くしてくれるし、香

織は優しいし、とにかくいい奴だと思う

。声をかけてくれるのは嬉しいことなん

だけど、香織と接する時間が増えたこと

で春近からの鋭い視線も増した気がする

。つまり、状況が悪化したということだ

。香織は悪くないけど、僕の疲労は溜ま

るばかり。



「好きなんじゃないの?」


いつも通り、僕は魔女様の家でお菓子を

食べていた。


「あぁ、春近がね」

「いや、そうじゃなくてさ、その女の子が」

「え、香織も春近のことが好きってこと?」

「ちっがーーう!!その香織って子が坊やのこと好きなんじゃないのって話しーーっ」


魔女様は両腕を上げて大声で言った。


「坊やって鈍感なの?」

「えぇ…香織は僕が春近に目をつけられてるから気にかけてくれてるだけだと思うよ」

「ふ~ん、へぇ~~~」

「…何ですか、その顔」


魔女様はニヤニヤしながら僕を見ていた

。たぶん、からかわれている。


「それで?坊やは好きな人いないのぉ?魔女様気になるなぁ~っ」

「魔女様、今日はテンション高いですね」

「坊や、女性は恋が好きなのだよ」

「僕はまだ、恋愛とかよく分からないよ…」


友達の好きと恋愛の好き。

どちらも同じ"好き"という言葉なのに、

意味は違う。僕にはまだ難しい。


「魔女様は、誰かを好きになったことはありますか?」

「私?」

「魔女様綺麗だからモテそう」

「えっ、綺麗!?きゃ~っ」


魔女様は嬉しそうに喜んだ。

時々、魔女様の仕草が子どもっぽく見え

ることがある。それがちょっと可愛いと

思ってしまう。


「うーん、好きな人はできたことあるんだけどね」

「恋人?」

「恋人にはなれなかったなぁ~」

「どうして?」

「告白できなかったんだよね~。結局、片思いのまま」


そう話す魔女様の表情はどこか悲しそう

だった。でも、僕は何も聞かなかった。

悲しいことを追求するのはよくないと思

ったから。気まずい空気にならないよう

に「へぇ~」と相槌をうちながらコーヒ

ーゼリーをスプーンですくって口に運ん

だ。この日のコーヒーゼリーはいつもよ

り苦味を感じた。

僕もいつか恋をするのかな。

僕はどんな人を好きになるのだろう。

しいていうなら、

こうやって、その日あったことを話しな

がら一緒にお菓子を食べてくれる子がい

いなぁ。

僕はふと、僕に恋人ができても魔女様は

会ってくれるのかな、と思ってしまった

。魔女様は、どんな顔をするのだろう。

悲しい顔はしてほしくないなぁ。
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みんなの感想(1件)

2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

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2021.08.19 夜宮 咲

ありがとうございます!

「十番目の愛」も投稿しているので、
こちらもお暇な時に読んでいただけたら嬉しいです…( ˘ω˘ )

解除

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