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ポリコレポリス魔法学校入学④
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この魔法学校はとても巨大だ。教室棟だけでも二つあり、実習棟は六棟以上ある。また、そこへ続く通路も沢山分岐しており、研究棟に行くだけでも、何度も実習棟を通らなくてはならない。
十数分ほどかかってようやくアデ先生の研究室にたどり着く。しかし、ノックの返事もなく、どうやら留守のようだった。
出掛ける前、寂しくなったらいつでも会いに来てと言っていたはずなのだが、今は偶然にも席を外しているらしい。
と、思っていたらアデ先生が慌てた様子で帰ってきた。
「あれ? アーシャちゃん? もしかして寂しくなっちゃったの?」
「いや、この子の面倒を見てもらおうと思っていてな。この子は召喚獣なのだが、私の授業を担当していたアレクサンダー先生も持て余していて仕方なく私が預かっているのだ」
「へえー。人型の召喚獣なんて珍しい。獣しか生まれないはずなんだけどね」
アデ先生がマーラの髪の毛をくしゃくしゃに弄ると、マーラも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「しかし、アデ先生。随分と慌ている様子だな。何か大変なことか?」
「ああとね。ちょっと職員会議があったの」
「どんな内容だ?」
「うーん、それは言えないかなー?」
「私の前で隠し事は一切なしだ。分かっているな?」
「はい……」
私の脅迫に、アデ先生は渋々頷く。
どうにもアデ先生が言うには、この学校内には七不思議というものがあるらしく、その対応に追われているようだ。
「七不思議? こんな大学みたいなところでもあるのだな」
「幽霊が出るっていうわけじゃないんだけどね。毎年、生徒が行方不明になってるのよ」
「行方不明? 大ごとじゃないかそれは? なぜ、いつまでも学校を続けているんだ?」
「そうしたら学校が潰れてしまうの。上はそれを阻止したくてずっと黙っているの。警察も呼んで前から調査はしているんだけど、全く手掛かりが掴めなくて困っててね。大体が学校外での行方不明ということで片づけられてしまうの」
「それだけのことを、なぜ、私に黙っていた? 大方私を行方不明者の一人にしたかったようだな?」
「ごめんなさい。これでもアーシャちゃんにだけは伝えとこうと思っていたの。行方不明になるといっても、深夜の2時まで学校にいるような子たちだから、アーシャちゃんにはまだ関係ないと思って。それに、見張りがいるときは行方不明者がでないからまだ安全だと思っていたの」
研究室に入ると、私はアデ先生よりも先に椅子に座る。
「安全だろうという考えは常に致命的だ。エラーというものは意図していないところで起きる。これからは、たぶん、おそらく、といったもので安全を判断しないようにしろ。そうした意識ができていないから、毎年行方不明者が出るのだ。分かったな?」
「はい……」
私が指示したわけでもないのに、アデ先生は自ら床に膝をついて話を聞いている。従順な態度に私は少しだけ気分を良くする。
「正直なところ、従順な君の態度はとても好きだ。1日くらいならデートを許してやろう」
「本当ですか!?」
「ああ本当だ。だが、世の中には飴と鞭という言葉があってだな。警察からきた情報は全て私に流せ。分かったな?」
「え……、えっとお……」
「返事は?」
「はい……」
「よろしい。では、前払いとして付き合ってやる。空いている日はあるか?」
「あっ、そのっ、空いてるのは土曜日ね!」
「分かった。その日は一日なんだって付き合ってやる。ところで、マーラなんだが――」
私がいない間、マーラはアデ先生の研究室で預かってもらうことになった。手を出さないように強く言いつけたから大丈夫だとは思うが、もし、手を出していたら、少々痛めつけてやると約束もしておいた。
アデ先生は、痛めつけられると聞くとたいへん興奮した様子だったが、まあ、どうだろうな。
学校側が行方不明者を出していてもなお、運営をしていると知って、私の内心は苛立っていた。
よく言えば正義感ではあるが、私の場合、ただの反抗心だ。
何も説明されず、理不尽に殺されるだけの人生など、クソ以外の何物でもないと私は思う。
前世の私は顔が悪い分、人から気に入られようとして気を回し続けていた。それでも、報われたことも認められたこともなかったよ。
世界は残酷だからな。
さて、私の見立てでは、この七不思議というものには犯人がいる。学校の内部であるという面、人目の付きにくい深夜という時間帯。そして、見張りが入るとその日は必ず行方不明者がでないという点。おそらく、犯人は学校の関係者ではないだろうか?
監視者を判別するような高度な術式が組まれているとなると、私の手を出せる範囲ではないが、大がかり過ぎてそれはないだろう。私には他と違った知識がある。何かしらの糸口は掴めるはずだ。
行方不明者のリストを作り、状況を参照して共通点を探し出すと、やはり、この世界の警察もずさんなことがわかった。
調査の殆どが聞き込みも一切なく打ち切られていた。
学校側が大ごとにしたくなかったのかもしれないが、これは最低な癒着だな。
正義であるべき警察が正義を捨てるなど、私の腹が煮えくり返っている。こんなずさんな捜査など、行方不明になった生徒も、その家族も可哀そうだ。
今まで女性の権利ばかりに熱中してきたが、今日を持ってしてもうひとつの将来を決めた。
私は警察官を目指すと。そして、この腐りきった世界を完全に作り変えると決めたのだ。
十数分ほどかかってようやくアデ先生の研究室にたどり着く。しかし、ノックの返事もなく、どうやら留守のようだった。
出掛ける前、寂しくなったらいつでも会いに来てと言っていたはずなのだが、今は偶然にも席を外しているらしい。
と、思っていたらアデ先生が慌てた様子で帰ってきた。
「あれ? アーシャちゃん? もしかして寂しくなっちゃったの?」
「いや、この子の面倒を見てもらおうと思っていてな。この子は召喚獣なのだが、私の授業を担当していたアレクサンダー先生も持て余していて仕方なく私が預かっているのだ」
「へえー。人型の召喚獣なんて珍しい。獣しか生まれないはずなんだけどね」
アデ先生がマーラの髪の毛をくしゃくしゃに弄ると、マーラも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「しかし、アデ先生。随分と慌ている様子だな。何か大変なことか?」
「ああとね。ちょっと職員会議があったの」
「どんな内容だ?」
「うーん、それは言えないかなー?」
「私の前で隠し事は一切なしだ。分かっているな?」
「はい……」
私の脅迫に、アデ先生は渋々頷く。
どうにもアデ先生が言うには、この学校内には七不思議というものがあるらしく、その対応に追われているようだ。
「七不思議? こんな大学みたいなところでもあるのだな」
「幽霊が出るっていうわけじゃないんだけどね。毎年、生徒が行方不明になってるのよ」
「行方不明? 大ごとじゃないかそれは? なぜ、いつまでも学校を続けているんだ?」
「そうしたら学校が潰れてしまうの。上はそれを阻止したくてずっと黙っているの。警察も呼んで前から調査はしているんだけど、全く手掛かりが掴めなくて困っててね。大体が学校外での行方不明ということで片づけられてしまうの」
「それだけのことを、なぜ、私に黙っていた? 大方私を行方不明者の一人にしたかったようだな?」
「ごめんなさい。これでもアーシャちゃんにだけは伝えとこうと思っていたの。行方不明になるといっても、深夜の2時まで学校にいるような子たちだから、アーシャちゃんにはまだ関係ないと思って。それに、見張りがいるときは行方不明者がでないからまだ安全だと思っていたの」
研究室に入ると、私はアデ先生よりも先に椅子に座る。
「安全だろうという考えは常に致命的だ。エラーというものは意図していないところで起きる。これからは、たぶん、おそらく、といったもので安全を判断しないようにしろ。そうした意識ができていないから、毎年行方不明者が出るのだ。分かったな?」
「はい……」
私が指示したわけでもないのに、アデ先生は自ら床に膝をついて話を聞いている。従順な態度に私は少しだけ気分を良くする。
「正直なところ、従順な君の態度はとても好きだ。1日くらいならデートを許してやろう」
「本当ですか!?」
「ああ本当だ。だが、世の中には飴と鞭という言葉があってだな。警察からきた情報は全て私に流せ。分かったな?」
「え……、えっとお……」
「返事は?」
「はい……」
「よろしい。では、前払いとして付き合ってやる。空いている日はあるか?」
「あっ、そのっ、空いてるのは土曜日ね!」
「分かった。その日は一日なんだって付き合ってやる。ところで、マーラなんだが――」
私がいない間、マーラはアデ先生の研究室で預かってもらうことになった。手を出さないように強く言いつけたから大丈夫だとは思うが、もし、手を出していたら、少々痛めつけてやると約束もしておいた。
アデ先生は、痛めつけられると聞くとたいへん興奮した様子だったが、まあ、どうだろうな。
学校側が行方不明者を出していてもなお、運営をしていると知って、私の内心は苛立っていた。
よく言えば正義感ではあるが、私の場合、ただの反抗心だ。
何も説明されず、理不尽に殺されるだけの人生など、クソ以外の何物でもないと私は思う。
前世の私は顔が悪い分、人から気に入られようとして気を回し続けていた。それでも、報われたことも認められたこともなかったよ。
世界は残酷だからな。
さて、私の見立てでは、この七不思議というものには犯人がいる。学校の内部であるという面、人目の付きにくい深夜という時間帯。そして、見張りが入るとその日は必ず行方不明者がでないという点。おそらく、犯人は学校の関係者ではないだろうか?
監視者を判別するような高度な術式が組まれているとなると、私の手を出せる範囲ではないが、大がかり過ぎてそれはないだろう。私には他と違った知識がある。何かしらの糸口は掴めるはずだ。
行方不明者のリストを作り、状況を参照して共通点を探し出すと、やはり、この世界の警察もずさんなことがわかった。
調査の殆どが聞き込みも一切なく打ち切られていた。
学校側が大ごとにしたくなかったのかもしれないが、これは最低な癒着だな。
正義であるべき警察が正義を捨てるなど、私の腹が煮えくり返っている。こんなずさんな捜査など、行方不明になった生徒も、その家族も可哀そうだ。
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