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奴隷商人と皇太子
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金属音がコロシアムに響く。
錆びついた双方の刃は何度も重なり合う。錆びてはいるが、まだ相手を傷つけられる切れ味は残っていた。
空杜は手に残る感覚に懐かしさを覚え、自然と表情が緩む。
「何、笑ってんだよ?」
「別に。ただ、剣を握るのが久しぶりだったから、ついね」
その微笑みに、ハンクの力が増す。
「まだ、俺を嘲笑うのか!」
空杜は力を流し、後ろへ一歩下がる。
「いや、そんなつもりはない。ただ、本当のことを言っただけだ」
ニッコリと微笑むだけで、相手は挑発に乗る。
「お前、まじで覚えてろよ? 後でめちゃくちゃにしてやる」
舌なめずりまでしてみっともない。そんなことで恐怖を感じると思うのか。まるで子どもが強がっているかのようで、思わず笑いをこらえる。
「そんなに、俺のことが好きなんですか?」
「嫌いに決まってんだろ? まあ、その仮面の下は気になるけどな」
再び剣が火花を散らす。
しかし、この人、本当にやる気あるのか。さっきから喋ってばかりで、相手に合わせるのも面倒になる。
「早く、屈辱的で許しを乞う姿が見たいぜ」
「なら、まずは見本を見せるのが礼儀でしょう?」
「はあ?」
空杜は剣を返すと、そのままハンクの剣を下に払った。地面に崩れ落ち、驚いた顔で見上げるハンク。空杜は剣を見せつけるように離す。
「どういうつもりだ…」
「剣の腕は十分見せた。次は体術を披露しようと思ってね」
ハンクは立ち上がり、剣の先を向けてくる。
「これは剣術試合だぞ? ふざけてるのか!」
「真面目だ。それに今は決闘に変わったから、剣術じゃなくてもいいはずだ」
「っ、奴隷のくせに…」
馬鹿にするハンクに、空杜は冷静に足を引っ掛けてわざと転ばせる。観客は歓声を上げた。
「私は奴隷じゃありません」
「貴族以外、みんな奴隷に決まってんだろうが!」
ああ、やっちゃった。でも、狙い通りだ。
辺りを見渡すと、ブーイングがハンクに集中する。観客の大半は市井の人々だ。ハンクは狼狽え、必死に表情を引き締める。怒りが滲むが、冷静を装うしかない。やっと策略に気づいたらしい。遅いけどな。
「俺を騙りやがったな…」
「さあ、何のことですか?」
殺意を宿した瞳で斬りかかるハンク。その攻撃を空杜は読んでいるかのようにかわす。さらに足を引っ掛け、わざと転ばせる。観客席から歓声が湧き上がる。ハンクの視線は宙を泳ぎ、焦燥が露わになる。冷たい視線と怒号が飛び交い、権威を振りかざすことはもはや不可能だ。
ハンクは国民に嫌われていた。入場時の緊張が、すべて自分に向けられた視線で裏付けられる。無茶な命令を民衆に押し付けた結果だ。しかし、愛情に飢えた生育歴を思うと、空杜は密かに同情を覚える。
…もう、いい。
空杜は背後に回り、手刀で首を軽く打ち、倒れないよう支えつつ肩に担ぐ。観客のざわめきが一瞬で凍り、試合は唐突に終わった。
観客席のざわめきと、ハンクの焦り。すべてが鮮明に残る中、空杜は次の行動を冷静に思案する。
皇族に頭を下げ、慎重に舞台を降りる。慌てて駆け寄ってきた騎士にハンクを渡すと、そのまま出口で面を外した。
——
「空杜!」
慌てて腕を引かれ、振り返ると息を切らした玲於たちが立っていた。そして、突然抱きつかれる。
「えっ?! ちょっ、玲於!」
「何してんだよ! 武器持った相手に素手で闘うなんて!」
「武器って、あの錆びた剣だぞ?」
「うるさい! これからはそんな無茶はやめろ!」
無茶じゃないのに…。玲於に怒られ、少し、いや、かなりへこむ。
「分かったよ。気を付ける。離れてくれ」
玲於の背中を二度叩くと、渋々身体が離れる。背後の二人は驚きの表情を浮かべるが、一人は落ち着いたまま佇んでいた。
「まさか…本当に勝つとは思わなかった。しかも体術で勝つなんて…」
「まじで信じられねぇ。誰から習ったんだ?」
全員が空杜に視線を集中させる。
「誰って、昔から家に来てた…あっ…」
慌てて口を塞ぐと、不思議そうに見つめられる。今さら隠すのも無理だ。諦めるしかない。
「両親に会いに来てた…騎士の兄さん、敵国の…」
その言葉で空気が変わる。さらにセスが名前を口にし、場の雰囲気は一気に重くなる。
「それって、イーサン・ラドリエン?」
「誰それ?」
「敵国の皇帝」
「いやいや、そんな偉い奴が俺ん家に来るわけないだろ!」
両手を振って必死に否定するが、セスの表情は変わらない。
「だって動きがあいつと似てた」
「そりゃ敵国の動きだからな。それに、俺の家に来た騎士は1人を除いて身分低そうな奴ばかりだった。身分の高い奴とは話したこともない」
俺に武術を教えてくれた騎士は、敵国の割には偉ぶらず、親切で優しい人物だった。
「まあ、気になるけど、とりあえず行こう」
「どこに?」
「皇帝陛下と皇后陛下がお呼びだ」
ウィルの言葉に空杜は固まる。
え、こんなすぐに会うのか? まだ心の準備できてないのに…。
拒否できず、彼らの後に続く。急遽、ログナート帝国で最も権力を持つ人物に会うことになったのだ。
——
部屋に入ると、突然誰かに抱きつかれた。
「えっ?!」
倒れそうになり、慌てて女性を支える。皇族を示す金色の装飾が施された服を身にまとっていた。
「やっと、この姿で会えたわ!」
顔を上げた彼女を見て、空杜は目を見開く。
「メイドさん?!」
声を上げると、彼女は嬉しそうに微笑む。まるで、ドッキリが成功したことを喜ぶ子どものようだった。
錆びついた双方の刃は何度も重なり合う。錆びてはいるが、まだ相手を傷つけられる切れ味は残っていた。
空杜は手に残る感覚に懐かしさを覚え、自然と表情が緩む。
「何、笑ってんだよ?」
「別に。ただ、剣を握るのが久しぶりだったから、ついね」
その微笑みに、ハンクの力が増す。
「まだ、俺を嘲笑うのか!」
空杜は力を流し、後ろへ一歩下がる。
「いや、そんなつもりはない。ただ、本当のことを言っただけだ」
ニッコリと微笑むだけで、相手は挑発に乗る。
「お前、まじで覚えてろよ? 後でめちゃくちゃにしてやる」
舌なめずりまでしてみっともない。そんなことで恐怖を感じると思うのか。まるで子どもが強がっているかのようで、思わず笑いをこらえる。
「そんなに、俺のことが好きなんですか?」
「嫌いに決まってんだろ? まあ、その仮面の下は気になるけどな」
再び剣が火花を散らす。
しかし、この人、本当にやる気あるのか。さっきから喋ってばかりで、相手に合わせるのも面倒になる。
「早く、屈辱的で許しを乞う姿が見たいぜ」
「なら、まずは見本を見せるのが礼儀でしょう?」
「はあ?」
空杜は剣を返すと、そのままハンクの剣を下に払った。地面に崩れ落ち、驚いた顔で見上げるハンク。空杜は剣を見せつけるように離す。
「どういうつもりだ…」
「剣の腕は十分見せた。次は体術を披露しようと思ってね」
ハンクは立ち上がり、剣の先を向けてくる。
「これは剣術試合だぞ? ふざけてるのか!」
「真面目だ。それに今は決闘に変わったから、剣術じゃなくてもいいはずだ」
「っ、奴隷のくせに…」
馬鹿にするハンクに、空杜は冷静に足を引っ掛けてわざと転ばせる。観客は歓声を上げた。
「私は奴隷じゃありません」
「貴族以外、みんな奴隷に決まってんだろうが!」
ああ、やっちゃった。でも、狙い通りだ。
辺りを見渡すと、ブーイングがハンクに集中する。観客の大半は市井の人々だ。ハンクは狼狽え、必死に表情を引き締める。怒りが滲むが、冷静を装うしかない。やっと策略に気づいたらしい。遅いけどな。
「俺を騙りやがったな…」
「さあ、何のことですか?」
殺意を宿した瞳で斬りかかるハンク。その攻撃を空杜は読んでいるかのようにかわす。さらに足を引っ掛け、わざと転ばせる。観客席から歓声が湧き上がる。ハンクの視線は宙を泳ぎ、焦燥が露わになる。冷たい視線と怒号が飛び交い、権威を振りかざすことはもはや不可能だ。
ハンクは国民に嫌われていた。入場時の緊張が、すべて自分に向けられた視線で裏付けられる。無茶な命令を民衆に押し付けた結果だ。しかし、愛情に飢えた生育歴を思うと、空杜は密かに同情を覚える。
…もう、いい。
空杜は背後に回り、手刀で首を軽く打ち、倒れないよう支えつつ肩に担ぐ。観客のざわめきが一瞬で凍り、試合は唐突に終わった。
観客席のざわめきと、ハンクの焦り。すべてが鮮明に残る中、空杜は次の行動を冷静に思案する。
皇族に頭を下げ、慎重に舞台を降りる。慌てて駆け寄ってきた騎士にハンクを渡すと、そのまま出口で面を外した。
——
「空杜!」
慌てて腕を引かれ、振り返ると息を切らした玲於たちが立っていた。そして、突然抱きつかれる。
「えっ?! ちょっ、玲於!」
「何してんだよ! 武器持った相手に素手で闘うなんて!」
「武器って、あの錆びた剣だぞ?」
「うるさい! これからはそんな無茶はやめろ!」
無茶じゃないのに…。玲於に怒られ、少し、いや、かなりへこむ。
「分かったよ。気を付ける。離れてくれ」
玲於の背中を二度叩くと、渋々身体が離れる。背後の二人は驚きの表情を浮かべるが、一人は落ち着いたまま佇んでいた。
「まさか…本当に勝つとは思わなかった。しかも体術で勝つなんて…」
「まじで信じられねぇ。誰から習ったんだ?」
全員が空杜に視線を集中させる。
「誰って、昔から家に来てた…あっ…」
慌てて口を塞ぐと、不思議そうに見つめられる。今さら隠すのも無理だ。諦めるしかない。
「両親に会いに来てた…騎士の兄さん、敵国の…」
その言葉で空気が変わる。さらにセスが名前を口にし、場の雰囲気は一気に重くなる。
「それって、イーサン・ラドリエン?」
「誰それ?」
「敵国の皇帝」
「いやいや、そんな偉い奴が俺ん家に来るわけないだろ!」
両手を振って必死に否定するが、セスの表情は変わらない。
「だって動きがあいつと似てた」
「そりゃ敵国の動きだからな。それに、俺の家に来た騎士は1人を除いて身分低そうな奴ばかりだった。身分の高い奴とは話したこともない」
俺に武術を教えてくれた騎士は、敵国の割には偉ぶらず、親切で優しい人物だった。
「まあ、気になるけど、とりあえず行こう」
「どこに?」
「皇帝陛下と皇后陛下がお呼びだ」
ウィルの言葉に空杜は固まる。
え、こんなすぐに会うのか? まだ心の準備できてないのに…。
拒否できず、彼らの後に続く。急遽、ログナート帝国で最も権力を持つ人物に会うことになったのだ。
——
部屋に入ると、突然誰かに抱きつかれた。
「えっ?!」
倒れそうになり、慌てて女性を支える。皇族を示す金色の装飾が施された服を身にまとっていた。
「やっと、この姿で会えたわ!」
顔を上げた彼女を見て、空杜は目を見開く。
「メイドさん?!」
声を上げると、彼女は嬉しそうに微笑む。まるで、ドッキリが成功したことを喜ぶ子どものようだった。
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