俺は、嫌われるために悪役になります

葉空

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結論から言うと入学式の答辞は無事終えることが出来た。まあ、舞台に上がった瞬間、周囲からの歓声が煩くて一時中断になるレベルだったが…。やはり、自分の容姿だけは人の目を惹くらしい。まあ、すぐに飽きてしまう顔だと経験から確認済みだ。

でも、ちょっとしたアクシデントのお陰で緊張の糸も解れたように思う。それに、なんだかんだで両親から初めて応援の言葉を聞けたことは力になったようだった。やはり、血の繋がりは濃いのだと実感した瞬間だった。

答辞を終え遅れて教室に行こうとすると出口には両親が立っていた。両親は俺と視線が合うと口を開いては閉じてしまった。その様子から俺の答辞は至らない点があったのだろうと予想することが出来た。

1人の教師に連れられて3人で廊下を歩いていると、教室の中からこちらに視線を向けてくる大勢のものたちの姿が目に入る。同級生からその両親、そして教師までもが廊下を見ている。

俺は視線を前に戻すと、凛々しい二つの背中を見た。この街では伯爵の称号を持つのは我がクラークソン家だけだった。そのため、注目を浴びるのは仕方がないだろうと思う。

教師が一つの教室の前に止まると、ドアを開いて中に入るように促す。それに従うように足を進めると扉を潜った瞬間、騒がしかった教室が静寂となった。

嫌な視線を受けて顔を下に向けたくなった。だが、我が家の家紋に傷をつけないためにも堂々とした足取りで歩みを進めた。自分の席に着くと、周囲はようやくを団欒を始め出した。

教卓で担任が挨拶をすると、その後は学校生活について軽く説明が行われた。そして、最後に質疑応答が行われてこの場は解散となった。

やっと、終わった…。そう思い少し視線を下げると、辺りが少し暗くなったような気がした。

「え…」

視線を左右に彷徨わせるとポケットに花を入れ、同じ制服に身を包んだ同級生が四方を取り囲んでいたのだ。

「…何?」

戸惑いながらもそう口にすると、周囲は一気に騒がしくなる。一度に話しかけられても聞き取ることが出来ないため、正面にいる青年から話すように求めた。

「今日は素晴らしい答辞をありがとうございます。お疲れ様でした。クラークソン様にお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」

「こちらこそ、そう言ってくれてありがとう。お願いとは?」

「その、クラークソン様が付けている胸のバラを私に頂けないでしょうか?」

バラ?ポケットに入った花に触れてみるとそれですと言うように首を縦に振る。そして、それにつられるように周囲も私もと言ってくる。

何故、これが欲しいのか分からなくて首を傾げる。でも、よく見てみると自分だけバラの色が違っているようだった。

周りは赤色の花を胸にさしているが自分は新入生代表ともあり珍しい青色であった。確かに、この世で最も貴重な色を持つバラなのだから欲しくなる気持ちは分かる。

まあ、自分はあまり興味がないため差し出しそうかと考えた瞬間、それを拒む声が聞こえてきた。

「ダメだよ。」

声が聞こえてきた方に視線を向けると、その場所だけ道を開けるかのように人が退けていく。そして、目の前に立った青年を見て、アルフは目を疑った。

「…イニス。」

突然の再会に言葉が出てこなかった。その様子にイニスは微笑むとアルフの髪を優しく撫でてきた。

「アルフ、ダメだよ。俺にくれないと。」

「いや、それも許さない。その花は我が家のものだ。」

聞き慣れた声が聞こえたので視線を後ろに向けるとそこには父親が立っていた。

「…お父様?」

いつの間に戻ってきたのだろうか。両親は教師に呼ばれて教室から離れていたはずだった。

「お母様も呼んで。」

お父様の後ろから顔を覗かせる母親に目を瞬かせる。

「お母様?」

そう口にすると母親は顔を逸らしてしまった。

…そんな顔をするなら、言わなければ良かったのに。少し寂しく思いつつも仕方がないと割り切ることにした。

「…お久しぶりですね、クラークソン伯爵夫妻様。」

「ああ。イニスも大きくなったのだな。」

「ありがとうございます。伯爵夫妻様のアルフへの溺愛ぷりもお変わりなく安心致しました。」

その言葉に眉間に皺を寄せるとイニスは不思議そうに首を傾げる。

だって、これは嫌味だろ。俺が両親や使用人たちから好かれていないのに…。それなのに今度は耳を疑う言葉が聞こえてくる。

「ああ、アルフは可愛くて仕方がないからな。私たちでさえ近寄ることを緊張してしまう。」

「そうね。もう、毎日この子の愛おしさが増すばかりだわ。」

ん"?思わず身体を後ろに向けると2人はキョトンと目を瞬かせている。嘘を言っているようには思えないが、それなら今までの態度は何だったのだろうかと思う。

でも、その答えもすぐに分かった。

「アルフ、そんなに見つめないで。…私たち、まだあなたへの耐性が出来てないの。気を抜くと抱き締めて離れたくなくなっちゃうのよ。」

「へ…?」

これは何とも衝撃な事実だった。まさかの嫌いじゃなくて好きすぎての反応だとは思いもしなかったのだ。
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