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俺は外で木の実を集めて、ヒスイさんは魚を取りに行った時の出来事だ。
「ついて来ないで!」
必死に叫びながら走っても、余裕そうに隣には狼の獣人がついて来る。ヒスイさんと出会った時に助けた人だ。
「もー、やだ!」
泣きそうになりながらも走っていると、狼人は不思議そうに首を傾げる。
「何でだよ!俺と一緒に暮らそう!」
「無理だってば!俺はヒスイさんと一緒に住んでるの!」
「ヒスイ?誰かは知らんが、そんな者より、痛ッ!」
痛みを叫ぶ声に横を向こうとしたが、それよりも早く身体が地面から浮く。間抜けな声が漏れながらも慌てて、暴れようとしたが香ってきた匂いによって大人しくなる。
「ヒスイさんっ!」
「ルカ、大丈夫か?」
両手を伸ばして首に抱き付くと、優しく背中を撫でられる。それが嬉しくて、また手に力を込めてしまう。
「オマエ、ふざけるなよ。」
これまで聞いたことない低い声に身体がピクリと震える。耳元で優しく「大丈夫だよ」と言われて少し力が抜けるが、何だが怖い雰囲気が出ている気がする。
ヒスイさんが前を向くとまた、背後から「ヒッ!」と獣が鳴く声がする。
「ルカに何のようだ?」
「いや、あの、その……っ…」
「何で付き纏っていたのか聞いてる。」
「はい!俺の家族にしたくて話かけていました!」
その瞬間、ヒスイさんの肩が一瞬震える。どうしたのだろうかと疑問に思って顔を上げようとしたが、頭にまわってきた手によって抑止される。
「へえー、オレと恋人である関係を知っててやるんだ。それに、話しかけるっていうのはお互いが話す気持ちがあって行われるものだけどね。嫌がる相手を追いかけ回すのは、ただの嫌がらせだよ。」
どこか棘のある言い方に目をパチクリさせてしまう。いつも優しいヒスイさんが言ってるのだと思うと、なんだか不思議だった。
「いえ、知りませんでした!申し訳ございません。」
くぐもった声が聞こえてチラリと背後を見ると頭をこれでもかというほど地面に下げている狼人が見える。それでも、機嫌が一向に直りそうにないヒスイさんを見て、なんだか狼人がかわいそう思えてきた。
「ヒスイさん、帰りたい。」
縋るように頼むと、ヒスイさんは溜め息を吐いて俺を抱え直してくれる。
「…分かった。帰ろうか。」
柔らかい笑みを見せてくれたので、満面の笑みで返すとおでこにキスを落とされた。そして、身体を反転させると自宅がある方に足を進める。
俺の視線の先に狼人が見えるようになる。彼は俺たちがこの場を立ち去ろうとしても顔を上げず、ずっと頭を下げていた。それは俺が彼の姿が見えなくなる最後の瞬間までそのままだった。
自宅に到着するとヒスイさんは俺をベッドの上に下ろした。ありがとうとお礼を言おうとした瞬間、ヒスイさんは俺の左手を掴んできた。
「これ…」
「ああ、狼人に触れたところだ。」
突然、目の前に現れた狼人に手を掴まれ、それにびっくりして慌てて振り払って逃げた。その時に触られたところが赤くなっている。
「アイツ…っごめん、助けるの遅くなって。」
「違うよ!俺が逃げるのが遅いからだよ!」
「獣人にルカが勝てるはずがないだろう…」
その言葉が少し胸に突き刺さる。確かにそうだが、ヒスイさんには言って欲しくなかったし、謝って欲しくなかった。
「ごめん、おれの言い方が悪かったな。」
俺の表情が曇ったからだろうか、ヒスイさんはまた謝る。俺は首を横に振って否定したが言葉は発しなかった。
「…っ…」
手首を引き寄せられて、ヒスイさんの舌が這う。それが少しくすぐったくて手を引こうとすると、またヒスイさんの方に引っ張られる。咎めるような視線を向けられたので大人しくしていると、一通り舐められてから舌が離れる。
赤く染まっていたところは治っており、元の白い肌に戻っていた。軽症ならヒスイさんの唾液でも治るようだ。
「ありがとうございます。」
「うん、でも敬語はやめて。」
「ありがとう。」
「うん、どう致しまして。」
ようやく、機嫌が戻ったようで俺はほっとした。やっぱり、ヒスイさんの柔らかい雰囲気の方が好きだと思った。
「やっぱり、ヒスイさんが1番好き。」
自然と口に出た言葉だった。ヒスイさんは驚いたように目を見開くと、次の瞬間恥ずかしそうな口元を隠す。照れているのだと分かると、嬉しくて口からは「好き」という言葉がまた出てくる。
でも、俺が優位に立ち続けることが出来るはずもなく、またヒスイさんに言葉負けしてしまうのだった。
「ついて来ないで!」
必死に叫びながら走っても、余裕そうに隣には狼の獣人がついて来る。ヒスイさんと出会った時に助けた人だ。
「もー、やだ!」
泣きそうになりながらも走っていると、狼人は不思議そうに首を傾げる。
「何でだよ!俺と一緒に暮らそう!」
「無理だってば!俺はヒスイさんと一緒に住んでるの!」
「ヒスイ?誰かは知らんが、そんな者より、痛ッ!」
痛みを叫ぶ声に横を向こうとしたが、それよりも早く身体が地面から浮く。間抜けな声が漏れながらも慌てて、暴れようとしたが香ってきた匂いによって大人しくなる。
「ヒスイさんっ!」
「ルカ、大丈夫か?」
両手を伸ばして首に抱き付くと、優しく背中を撫でられる。それが嬉しくて、また手に力を込めてしまう。
「オマエ、ふざけるなよ。」
これまで聞いたことない低い声に身体がピクリと震える。耳元で優しく「大丈夫だよ」と言われて少し力が抜けるが、何だが怖い雰囲気が出ている気がする。
ヒスイさんが前を向くとまた、背後から「ヒッ!」と獣が鳴く声がする。
「ルカに何のようだ?」
「いや、あの、その……っ…」
「何で付き纏っていたのか聞いてる。」
「はい!俺の家族にしたくて話かけていました!」
その瞬間、ヒスイさんの肩が一瞬震える。どうしたのだろうかと疑問に思って顔を上げようとしたが、頭にまわってきた手によって抑止される。
「へえー、オレと恋人である関係を知っててやるんだ。それに、話しかけるっていうのはお互いが話す気持ちがあって行われるものだけどね。嫌がる相手を追いかけ回すのは、ただの嫌がらせだよ。」
どこか棘のある言い方に目をパチクリさせてしまう。いつも優しいヒスイさんが言ってるのだと思うと、なんだか不思議だった。
「いえ、知りませんでした!申し訳ございません。」
くぐもった声が聞こえてチラリと背後を見ると頭をこれでもかというほど地面に下げている狼人が見える。それでも、機嫌が一向に直りそうにないヒスイさんを見て、なんだか狼人がかわいそう思えてきた。
「ヒスイさん、帰りたい。」
縋るように頼むと、ヒスイさんは溜め息を吐いて俺を抱え直してくれる。
「…分かった。帰ろうか。」
柔らかい笑みを見せてくれたので、満面の笑みで返すとおでこにキスを落とされた。そして、身体を反転させると自宅がある方に足を進める。
俺の視線の先に狼人が見えるようになる。彼は俺たちがこの場を立ち去ろうとしても顔を上げず、ずっと頭を下げていた。それは俺が彼の姿が見えなくなる最後の瞬間までそのままだった。
自宅に到着するとヒスイさんは俺をベッドの上に下ろした。ありがとうとお礼を言おうとした瞬間、ヒスイさんは俺の左手を掴んできた。
「これ…」
「ああ、狼人に触れたところだ。」
突然、目の前に現れた狼人に手を掴まれ、それにびっくりして慌てて振り払って逃げた。その時に触られたところが赤くなっている。
「アイツ…っごめん、助けるの遅くなって。」
「違うよ!俺が逃げるのが遅いからだよ!」
「獣人にルカが勝てるはずがないだろう…」
その言葉が少し胸に突き刺さる。確かにそうだが、ヒスイさんには言って欲しくなかったし、謝って欲しくなかった。
「ごめん、おれの言い方が悪かったな。」
俺の表情が曇ったからだろうか、ヒスイさんはまた謝る。俺は首を横に振って否定したが言葉は発しなかった。
「…っ…」
手首を引き寄せられて、ヒスイさんの舌が這う。それが少しくすぐったくて手を引こうとすると、またヒスイさんの方に引っ張られる。咎めるような視線を向けられたので大人しくしていると、一通り舐められてから舌が離れる。
赤く染まっていたところは治っており、元の白い肌に戻っていた。軽症ならヒスイさんの唾液でも治るようだ。
「ありがとうございます。」
「うん、でも敬語はやめて。」
「ありがとう。」
「うん、どう致しまして。」
ようやく、機嫌が戻ったようで俺はほっとした。やっぱり、ヒスイさんの柔らかい雰囲気の方が好きだと思った。
「やっぱり、ヒスイさんが1番好き。」
自然と口に出た言葉だった。ヒスイさんは驚いたように目を見開くと、次の瞬間恥ずかしそうな口元を隠す。照れているのだと分かると、嬉しくて口からは「好き」という言葉がまた出てくる。
でも、俺が優位に立ち続けることが出来るはずもなく、またヒスイさんに言葉負けしてしまうのだった。
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