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しおりを挟む翌日の昼過ぎ。
フェリシアン様はいつも通りに現れた。
「フェリシアン様、こんにちは」
「ああ。――今日から歩行の練習をするが、大丈夫だろうか?」
「はい」
今日は朝からその心積もりで過ごしていた。
「今日はよろしくおねがいします」
「ああ。――その前に。これを君に持ってきたんだ」
フェリシアン様が小さな包箱を私の顔の前にぶら下げた。綺麗な紐で十字に包まれ、結んだ紐の先をフェリシアン様の指先が掴んでいる。手のひらで包めそうなほど小振りで見た目もとても可愛らしかった
「これは――?」
小箱を両の手のひらで受けとめる。
「お菓子だ。若い女性が好みそうなものを選んだつもりだ。……君の口にも合うといいんだが――」
フェリシアン様にはしては珍しく歯切れの悪い言い方だった。
「毎日、花ではつまらなかっただろう。……配慮が足りなかった」
「つまらないだなんて、そんな」
私はすぐさま否定した。
「お花も嬉しかったです」
本心からの言葉だった。ずっと大好きだったひとから花を毎日贈られるなんて、なんて贅沢なんだろうと思っていた。
それに寝台を離れられない私にとっては、花は外の世界との繋がりを感じさせてくれるものだった。
「お花のおかげで随分慰められました。――お菓子もわざわざありがとうございます。有り難く頂きます」
「大したことはしていない。あまり気にしないでくれ」
フェリシアン様が瞳を緩ませた。
「さあ、歩行の練習をしようか」
「はい」
「私の腕に捕まって」
寝台に腰掛けた私に向かって、フェリシアン様が曲げた腕を差し出してくる。
私は驚いて、目を広げた。
まあ、エスコートされるなんて初めてだわ。
エスコートが必要な舞踏会にも夜会にも参加できない年齢の私。まだ一度もそんな扱いをされたことはなかった。
それも大好きなフェリシアン様からなんて。
彼から淑女扱いされたことに、嬉しさと気恥ずかしさが身を走った。
いえ、でもこれはエスコートじゃないかもしれない。
彼はただひとりで歩けない私を支えようとしているだけ。
勘違いをしてはいけない。
そう思っても、胸の高鳴りを抑えられないまま、彼の腕に手を通した。
「辛くなったら、すぐ言ってくれ」
「はい」
私は彼の腕を支えに歩き出した。
震える足を一歩一歩前に出す。
転びそうになる度、フェリシアン様はもう片方の腕も差し出して、支えてくれた。
私たちは部屋を出て、庭に着いた。
数メートル先にはもう生け垣があるような小さな庭。
「とりあえず庭を歩こう」
「はい」
そうして、私のリハビリの日々が始まった。
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