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しおりを挟むそして、デビュタント当日。
その日早めに仕事を終わらせた私は邸に帰るとタキシードに着替え、レヴィンズ家に向かった。
外はもう夕闇が迫っている。
到着すると馴染みのメイドが表れ、玄関に通してくれた。
少しだけ待っていると、エレン嬢が階段上から現れた。
その姿を見た瞬間、目を奪われた。
名もなき花だと思っていた小さな蕾が、実は誰をも魅了する花だったと知った時の気持ちに近いだろうか。
銀色の輝きに包まれた彼女は眩くて、それでいて純真な可憐さを纏っていた。
目が放せないまま、彼女がゆっくりと降りてくる。
ドレスが揺れるたび、青銀色で施された花々が繊細に揺らめいた。
「美しい……」
声に出したのは本当に無意識だった。
私の脳裏に、かつてある令嬢に対して言った言葉が不意に蘇る。
『美しいものを見たら、自然と『美しい』という言葉が出てくるものだ。そのように自分から言うのは美しさを損ねるものだから言わないほうが良い』
まさか本当に実感することになろうとは。
驚きとともに、降りてくるエレン嬢に手を伸ばした。
「とてもよく似合っている。――誕生日、おめでとう」
彼女が花の妖精のように微笑んだ。
「ありがとうございます」
彼女しか視界に入らなくなれば、 私の髪と瞳の色を纏っていることが途端に意識された。
仕立て屋に色を尋ねられた時は、たまたま思い浮かびあがった偶然から、私の色にしたに過ぎなかった。
巷で一般的に言われている、恋人や婚約者にドレスを贈ることの意味を知らないわけではなかった。
『あなたと常に一緒にいたい』、『あなたを包みこんで抱きしめたい』等の意味合いが込められている。
対外面では『このひとと私は相思相愛』、『私のものだから、手を出すな』と牽制する意味合いもある。
それまでは、そんなことをわざわざ誇張する必要があるのか疑問だったが、今こうして実際、私の髪と瞳の色のドレスを着たエレン嬢を目にしたら、馬鹿にできなくなった。
心が非常に満たされる。
伊達に恋人同士の愛情表現として、長年続いている手法だけはあったのだ。
私の色のドレスを頼んだ時はそのような主意などなかったが、もしかしたら無意識に頭が働いたのかもしれない。
私の色を着せようと思ったこと自体、これまでの私にはなかったことなのだから。
彼女の頭で、デイジーの花が揺れるのを目にし、一層笑みを深める。
可憐な彼女に、清楚なその花はとても似合っていた。
「さあ、行こうか」
「はい」
そして、私達は家の前に止めた馬車に乗り込むと、夜会の会場へと向かった。
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