47 / 105
46.いるはずのない人物
しおりを挟む
ある日の放課後、私は浮き足立っていた。
なぜならやっと、外出禁止がとけたからである。
ずっと家と学校の往復で、ちょっとうんざりしていた。
やっと寄り道ができるわ。色々見て回ろうと、トマスに言って街中でおろしてもらう。
次の休みにはフェレール邸に招待されているから、何か土産でも買ったほうが良いかしら。
物色しつつ、そんなことを思っていると、声がかかった。
「あれ、カレン?」
声の主のほうを振り向く。
「エーリック?」
「カレンも寄り道?」
「ええ、そうよ。エーリックも?」
ゲームでは、ヒロインが街に寄ると道草中の攻略対象者に会えたりした。だから、こうして会うのも別段変ではない。
「うん。最新の武具とかあったら見たいなと思ってさ」
「ふふ。エーリックらしい」
私が笑うと、エーリックが頭を掻いた。
「そういうカレンは何見てるの? アクセサリー?」
私の横にあった髪飾りやネックレス、指輪に目をとめる。高級店と比べ、天台に並べられたそれらは庶民にも買いやすい値段だ。
「やっぱり女の子だね。俺が選んであげようか」
「い、いいわ。たまたまここにいたの」
また恋人同士だと誤解されたら恥ずかしい。慌てたけど、エーリックは気にしなかった。
私の髪に髪飾りを当て始める。
「こっち? うーん、でもこっちも似合うな」
イケメンに私と髪飾りをじっくり見比べられて、顔が赤くなる。いいって言ってるのに!
「よし、決めた。これにしよ」
エーリックが選んだのは、オレンジ色の石を中央に埋め込んだ髪飾りだった。銀の台座と、周りに散らばる透明な石がきらきらと光っている。
「おじさん、これちょうだい」
エーリックが財布をだし、払ってくれる。
「お金なら自分で出すわ」
「いいから。俺が勝手に選んだんだし。――ほらつけてあげる」
エーリックが私の後ろに周り、髪の毛を手に取る。
「――カレンの髪の毛って、やっぱり柔らかいね」
ちょっと引っ張るエーリックの指先がくすぐったい。
「初めて会ったとき、貴族の令嬢なのに、簡単に切るって言って驚いたんだ。こんな綺麗な髪の毛なのにって」
すみません。エセ令嬢なんです。
「あの時、思ったんだ。ああ、この子は自分のことより真っ先に人のことを優先する子なんだなって」
髪飾りをパチリととめる音がする。
「あの時から、君は俺のと__つになったんだ」
最後のほうの小さく呟かれた声は、周りの騒がしい空気に紛れてしまった。
「ほら、できた。うん、よく似合ってるよ。カレンは黒髪だから、こういう色が似合うよ」
「あ、ありがとう」
私は照れながら、礼を言う。さっきの言葉はなんて言ったのかしら。でも、なんか独り言だったような気もするし、あまり突っ込まないほうが良いかしら。
「せっかくだから、一緒に見て回らない?」
「うん、いいわよ」
その後はふたりで、露店を見て回った。
マルシェのほうに足を向けたときだった。
「あれ?」
エーリックが何かに目をとめたみたいに立ち止まる。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと待って――。俺の勘違いかも」
エーリックが首を傾げる。でも、そのあと目についたものを再び確かめるために、振り返った。
私も一緒に振り返る。エーリックの視線の先にいたのは緑色の髪の人。
さっきまで眼の前を歩いていただろう人物は今は後ろ姿を見せている。
どこかで見たことのある髪型だった。
エーリックが首を捻る。
「……なんだか、似てる――」
男を見つめて、目を離さないまま、ぼそりと独りごちる。
「ちょっと待っててくれる? 声かけてくるだけだから」
「あ、エーリック!」
エーリックが駆け出したので、私も慌ててあとを追う。
エーリックの背中越しにある緑色の髪を見て走りながら、なぜ自分も見覚えがあるのか、考える。
エーリックが追いついた。男が肩を掴まれ、振り返った。顔を見た瞬間、思い出した。
「ハーロルト・マクフェイル!!」
私が頭の中で閃いた名を、エーリックが同時に声に出していた。
エーリックの親友だわ! どうして? 登場するのは一年以上先じゃないの?!
私が驚愕で目を見開いていると、ハーロルトが肩を振り払った。
「人違いだ」
「なっ! お前だろう! ――生きて、たのか……」
エーリックが呆然とつぶやくと、ハーロルトが冷めた目線を寄越す。
「そんな男は知らん」
立ち去ろうとするのを、エーリックが肩を掴んで引き止める。
「知らないはずないだろ。お前はハーロだよ。なんで嘘つくんだよ。俺のこと、忘れたのか? 俺、お前の親友の――」
ハーロルトが舌打ちをする。
「人違いだ。離せっ!!」
エーリックを振り払うと、走り出す。
「ハーロ!!」
ハーロルトはいくつもの角を曲がり、細い道に入り込んでいってしまう。エーリックも追いかけたけど、人混みに邪魔されて最後には見失ってしまった。
「……あいつ、絶対ハーロだった」
はあはあと息を吐き、膝に手をつく。
「どうしてあいつが――? 何でここにいるんだよ……」
やるせない思いを押さえつけるように、目元を手のひらで覆う。
「生きてたら、なんで、――なんで俺に会いに来なかったんだよ……」
エーリックの呟きは、薄暗い路地裏に消えた。
返事を返す者はいなかった。
なぜならやっと、外出禁止がとけたからである。
ずっと家と学校の往復で、ちょっとうんざりしていた。
やっと寄り道ができるわ。色々見て回ろうと、トマスに言って街中でおろしてもらう。
次の休みにはフェレール邸に招待されているから、何か土産でも買ったほうが良いかしら。
物色しつつ、そんなことを思っていると、声がかかった。
「あれ、カレン?」
声の主のほうを振り向く。
「エーリック?」
「カレンも寄り道?」
「ええ、そうよ。エーリックも?」
ゲームでは、ヒロインが街に寄ると道草中の攻略対象者に会えたりした。だから、こうして会うのも別段変ではない。
「うん。最新の武具とかあったら見たいなと思ってさ」
「ふふ。エーリックらしい」
私が笑うと、エーリックが頭を掻いた。
「そういうカレンは何見てるの? アクセサリー?」
私の横にあった髪飾りやネックレス、指輪に目をとめる。高級店と比べ、天台に並べられたそれらは庶民にも買いやすい値段だ。
「やっぱり女の子だね。俺が選んであげようか」
「い、いいわ。たまたまここにいたの」
また恋人同士だと誤解されたら恥ずかしい。慌てたけど、エーリックは気にしなかった。
私の髪に髪飾りを当て始める。
「こっち? うーん、でもこっちも似合うな」
イケメンに私と髪飾りをじっくり見比べられて、顔が赤くなる。いいって言ってるのに!
「よし、決めた。これにしよ」
エーリックが選んだのは、オレンジ色の石を中央に埋め込んだ髪飾りだった。銀の台座と、周りに散らばる透明な石がきらきらと光っている。
「おじさん、これちょうだい」
エーリックが財布をだし、払ってくれる。
「お金なら自分で出すわ」
「いいから。俺が勝手に選んだんだし。――ほらつけてあげる」
エーリックが私の後ろに周り、髪の毛を手に取る。
「――カレンの髪の毛って、やっぱり柔らかいね」
ちょっと引っ張るエーリックの指先がくすぐったい。
「初めて会ったとき、貴族の令嬢なのに、簡単に切るって言って驚いたんだ。こんな綺麗な髪の毛なのにって」
すみません。エセ令嬢なんです。
「あの時、思ったんだ。ああ、この子は自分のことより真っ先に人のことを優先する子なんだなって」
髪飾りをパチリととめる音がする。
「あの時から、君は俺のと__つになったんだ」
最後のほうの小さく呟かれた声は、周りの騒がしい空気に紛れてしまった。
「ほら、できた。うん、よく似合ってるよ。カレンは黒髪だから、こういう色が似合うよ」
「あ、ありがとう」
私は照れながら、礼を言う。さっきの言葉はなんて言ったのかしら。でも、なんか独り言だったような気もするし、あまり突っ込まないほうが良いかしら。
「せっかくだから、一緒に見て回らない?」
「うん、いいわよ」
その後はふたりで、露店を見て回った。
マルシェのほうに足を向けたときだった。
「あれ?」
エーリックが何かに目をとめたみたいに立ち止まる。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと待って――。俺の勘違いかも」
エーリックが首を傾げる。でも、そのあと目についたものを再び確かめるために、振り返った。
私も一緒に振り返る。エーリックの視線の先にいたのは緑色の髪の人。
さっきまで眼の前を歩いていただろう人物は今は後ろ姿を見せている。
どこかで見たことのある髪型だった。
エーリックが首を捻る。
「……なんだか、似てる――」
男を見つめて、目を離さないまま、ぼそりと独りごちる。
「ちょっと待っててくれる? 声かけてくるだけだから」
「あ、エーリック!」
エーリックが駆け出したので、私も慌ててあとを追う。
エーリックの背中越しにある緑色の髪を見て走りながら、なぜ自分も見覚えがあるのか、考える。
エーリックが追いついた。男が肩を掴まれ、振り返った。顔を見た瞬間、思い出した。
「ハーロルト・マクフェイル!!」
私が頭の中で閃いた名を、エーリックが同時に声に出していた。
エーリックの親友だわ! どうして? 登場するのは一年以上先じゃないの?!
私が驚愕で目を見開いていると、ハーロルトが肩を振り払った。
「人違いだ」
「なっ! お前だろう! ――生きて、たのか……」
エーリックが呆然とつぶやくと、ハーロルトが冷めた目線を寄越す。
「そんな男は知らん」
立ち去ろうとするのを、エーリックが肩を掴んで引き止める。
「知らないはずないだろ。お前はハーロだよ。なんで嘘つくんだよ。俺のこと、忘れたのか? 俺、お前の親友の――」
ハーロルトが舌打ちをする。
「人違いだ。離せっ!!」
エーリックを振り払うと、走り出す。
「ハーロ!!」
ハーロルトはいくつもの角を曲がり、細い道に入り込んでいってしまう。エーリックも追いかけたけど、人混みに邪魔されて最後には見失ってしまった。
「……あいつ、絶対ハーロだった」
はあはあと息を吐き、膝に手をつく。
「どうしてあいつが――? 何でここにいるんだよ……」
やるせない思いを押さえつけるように、目元を手のひらで覆う。
「生きてたら、なんで、――なんで俺に会いに来なかったんだよ……」
エーリックの呟きは、薄暗い路地裏に消えた。
返事を返す者はいなかった。
2
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~
幸路ことは
恋愛
多くの乙女ゲームで悪役令嬢を演じたプロの悪役令嬢は、エリーナとして新しいゲームの世界で目覚める。しかし、今回は悪役令嬢に必須のつり目も縦巻きロールもなく、シナリオも分からない。それでも立派な悪役令嬢を演じるべく突き進んだ。
そして、学園に入学しヒロインを探すが、なぜか攻略対象と思われるキャラが集まってくる。さらに、前世の記憶がある少女にエリーナがヒロインだと告げられ、隠しキャラを出して欲しいとお願いされた……。
これは、ロマンス小説とプリンが大好きなエリーナが、悪役令嬢のプライドを胸に、少しずつ自分の気持ちを知り恋をしていく物語。なろう完結済み Copyright(C)2019 幸路ことは
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる