祝福の居場所

もつる

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 マーシャのところに、一陣の風が吹いてきた。すこしだけ潮と土の香りがする。風は彼女が暮らす村の、オーツ麦畑の穂を揺らし、森の木々をすり抜けて、焼け跡までやって来たのだ。
 ふと、マーシャは立ち上がって風を感じる。若葉色の服の裾が揺れて、淡い赤毛がなびいた。
 彼女は心地よさに思わず微笑み、大きく息を吸い込む。わずかに胸を反らすと、背負った両手剣の重みが肩にかかって、顔がいっそう上を向いた。
 マーシャの空色の瞳が本村側に建つ風車小屋を見とめる。
 石造りの太い円塔の屋根で、緩やかな回転を続ける四枚羽根の風車は、村の守り神たちの一柱でもあった。
 すると、警鐘が鳴り響く。耳につく独特のリズムで、音は三回繰り返された。
 屋根に橙色の光が灯る。
 風車の羽根が、回転を速めた。

「やばっ」マーシャは言った。「お兄やん。<瘴気>出るよ」

 彼女はマスクを取り出す。
 装着していると、兄のジェラが隣に来た。

「けっこう速いね」
「だいぶ濃いみたい」マーシャは言う。「焼け跡に来たの初めてなのに、もう退散なんて」
「でも目的は果たした」

 ジェラはバッグを持ち上げてみせる。
 中に入っているのは山菜や野草のたぐいで、過去の大火事によって地質ごと変化したこの場所でも自生できる種だ。あまり数は多くないが、栄養価は高く美味で、保存性にも優れている。
 そうこうしていると、鈍色の霧が足元を曇らせてきた。

「さっさと帰ろ」

 マーシャはそう言って、足元のバッグを手に取る。
 そしてジェラと一緒に本村のほうへと急いだ。

  ◇

 アリテームは師匠キャリー・プレイトと共に、大草原を歩きに歩いてようやく件の村を視界に入れた。

「はあ……やっとここまで来ましたね……」
「ああ。お疲れさま。すこし休もう」

 キャリー・プレイトの言葉で、アリテームは荷物を置いた。黒い帆布に紅色のステッチをあしらった頑丈なザックだ。中には食糧や医薬品、着替えにロープ、折畳式鋸、点火器具、そして<スクロール>が入っている。その隣に、キャリー・プレイトのザックが降りた。こちらはブラウンの革製で、アリテームのものよりやや大きい狩猟用だった。
 二人はザックのハーネスに取り付けた円盤型の水筒を呷る。
 水を飲みながら、あらためて村を見た。
 こぢんまりとした村だが、森を挟んだ外周が黒ずんでいる。他にこれといった特徴は無い。海に面していて、田畑と思しき地帯と大小の建物が入り組んでいた。村の中央よりやや海よりの場所はより建物同士の距離が近い。
 村を囲むようにして建つ、いくつもの風車が勢いよく回転していた。

「瘴気が出てるみたいですね」アリテームは言った。
「ここからでは見えんな……」

 キャリー・プレイトは眼鏡を上げて望遠鏡を覗く。

「あれは……焼け跡か……?」
「だいぶ規模の大きい火事だったみたいですけど……」
「十年以上は経っているだろうな……」

 彼女は村の周囲を見回す。アリテームも師と同じ方を見た。
 黒い霧――瘴気が立ち込めているのは森林地帯だった。

「よりによってあの場所か……」望遠鏡を下げ、眼鏡をかけ直す。「マスクをつけるんだ」
「はい」

 アリテームは腰のポーチから防瘴気マスクを取り出し、鼻と口をカバーする。
 キャリー・プレイトもマスクを着けると、ザックの上に置いたライフルのスリングを引っ張った。
 キャリー・プレイトの銃はボルトアクション式の狩猟用ライフルで、銃口近くまで伸びる木の先台に銃剣がネジ止めされている。槍としても充分実用的な品だ。
 アリテームも杖を兼ねた短槍を持ち直し、再度出発の準備をした。

  ◇

 森の中は瘴気のせいで、まだ太陽が出ている時間帯にもかかわらず薄暗くなっていた。
 それだけであればまだいい。問題は怪物化した動植物だ。瘴気が立ち込めたことで更に活性化した怪物たちは、遠くで喉の潰れたようなうめき声や、かすれた呼気を響かせていた。まっとうな森の動物たちの、心和む生活音や鳥のさえずりは聞こえない。かれらはひとたび瘴気が出れば本能で危険を察知し、巣穴に引っ込むのである。
 草葉の擦れる音も変質していた。風に揺られて出るものではなく、怪物化した植物自体が威嚇目的で能動的に出しているのだ。藪を成すような雑草であれば、衣類や肌に特定のハーブから作った虫除けを塗っておけば向こうから忌避してくれるが、固い樹皮を持つ木々や蔓が怪物化しているとなると細心の注意が必要だ。うかつにテリトリーに入ってしまうと鞭や槍のごとく変異した枝の一撃を喰らいかねない。
 マーシャは護身用の両手剣で、こちらをぺちぺち叩いてくる雑草の群れを切り開く。
 ジェラも右手に持った片手剣を振るって藪漕ぎしていた。
 兄妹の剣はかなり使い込んだ品だったが、鍛造された鋼材はそれなりに上等で、飾り気が無いぶん頑丈でもある。柄には白い布を巻きつけてあるだけだが、それゆえに摩耗しても交換は容易だ。
 怪物化した藪は切られた途端に活力を失い、のたうち回ってしなびる。
 二人は樹木に傷をつけないよう気をつけつつ、ようやく拓けた道へ出た。

「うう……やっぱ慣れないもんだね」

 マーシャは呟きながら、剪定した木の枝の怪物化防止カバーがずれているのを見つけて修正する。

「大丈夫」ジェラが言った。「地図通りに行けばここから村までそう遠くない」

 彼の左手には、愛用の円盾と共に手帳型の<グリモア>がある。魔力を供給する魔石が背表紙で光った。
 マーシャはその手帳に描かれた地図を見る。
 紙面の中央には二人の現在地を現す光点が浮かんでいる。歩みを進めると、それに沿って地図もすこしずつ村の地形を示してくれた。
 そのとき風を切る音がして、しなる木の枝が打ちつけてきた。
 二人はとっさに避ける。
 マーシャは剣を振って枝を斬ると、枝は苦しげに悶えてから動かなくなった。
 それに気を取られていると、足音がした。ひとつふたつと増え、羽音も聞こえてくる。二人が顔を上げるとすでに囲まれていた。
 怪物だ。他の動物たちのように巣穴へ避難し損ねた不運な者たちの成れの果てである。
 怪物たちは一斉に二人へと襲いかかってきた。
 兄妹は収穫物を入れたバッグを降ろし、戦闘態勢に入る。
 ジェラは巨大羽虫の突進を盾で跳ね返し、同時に後ろの怪鼠を斬り上げた。
 マーシャも横薙ぎで大蜘蛛を倒すと、怪物ムカデの攻撃を跳んで避けた。それから尾を踏みつけ、剣を急所に突き立てる。
 剣を引き抜いた次の瞬間、銃声が響いた。

「今のって……」
「ぼくら以外にも誰かが――」
「助けなきゃ!」マーシャは怪物化した蛇を切り払って言う。「行こう、お兄ちゃん!」

 二人は銃声のした方へ駆け出した。
 襲い掛かってきた怪物すべてを相手にはせず、進行方向の邪魔なヤツだけを捌いて急ぐ。
 まもなく兄妹は銃声の主を見た。眼鏡に狩猟ベレー帽の女性である。
 彼女は槍を振るうストロベリーブロンドの美少年を伴っていた。
 マーシャは女性の銃に噛み付いてきた怪物犬目掛けて跳び、斬り捨てながら言う。

「助太刀します!」

 彼女は二頭目の怪物犬をいなした。
 その近くでジェラも怪物化して巨躯を得た蛭の体当たりを受け流す。
 円盾を横に押しやり、兄は少年が不意打ちを喰らうのを防いだ。
 蛭がその身を地面に叩きつけると、すかさず少年の刺突が怪物蛭を貫く。
 そこから、マーシャたちの優勢が一気に加速した。
 四人で怪物の群れを一掃する。
 やがて引き際を悟った賢い個体たちは逃げ去り、森は静けさを取り戻した。

「ありがとう」眼鏡の女性が言う。「お蔭で助かったよ」
「いえいえ、あたしたち近くを通りすがったんで――」

 とその時、マーシャの顎を怪物蔓が打ち上げた。
 彼女は地面に背中を打ちつけ、一瞬意識が飛ぶ。

「マーシャ!」

 ジェラの叫びと斬撃の音が聞こえた。

「まずいぞ……!」と、女性の声。

 続けて少年が言う。

「マスクが……」

 朦朧とした意識の中で、マーシャは自分のマスクが剥がされたのを知る。
 彼女は自らの手を口元に近づけた。
 指が己の鼻と、唇を触り、静かに絶望と恐怖が心を凍てつかせる。
 この濃度の瘴気を吸ってしまったのだ。もはや運命は二つに一つ。全身を焼かれるような苦痛の果てに死ぬか、心身に不可逆的変異が起きて怪物化するか。
 だが、マーシャの身には何も起きなかった。
 顎を打たれた痛みも、背を打った痛みも落ち着いてゆき、意識も平生を取り戻していく。
 軽くうめいた後に、彼女は不思議がる視線を受けつつ起き上がった。

「え……キミ……瘴気を……」少年がマーシャのマスクを手に、顔を覗き込む。
「……あたし……なんともない……?」
「なんともなさそう……」とジェラ。「苦しくもないの?」
「ぜんぜん」

 彼女はそう答えてから、顔を蒼くした。
「っていうか、お兄やんもマスク破れてる!」
「ウソでしょ!?」

 ジェラは慌ててマスクに触れる。彼のマスクにも大きな傷があり、口元が露出していた。

「……怪物化しない……?」女性が呟く。「瘴気に完全な耐性があるのか……?」


 マーシャ、ジェラ兄妹は初顔の二人と共に村へと戻ることにした。
 道中、四人はそれぞれ簡単に自己紹介を行う。眼鏡の女性はキャリー・プレイト、ストロベリーブロンドの美少年はアリテームといい、二人は槍術と銃の師弟関係だった。

「へえ。プレイトさんは古代文明の調査を」と、マーシャ。
「そうだよ。両親が科学文明の研究をしててね。魔法とは違う技術で成り立つ文明ってどんなのだったんだって、興味がわいたのさ」

 キャリー・プレイトが答えた。

「――といっても、弾代欲しさの副業みたいなもんだけどね。普段は狩りをしてる。弟子を連れてきたのは初めてだ」

 キャリー・プレイトはアリテームのほうを見る。
 アリテームは照れくさそうに笑った。

「アリテームくんもそのいでたちで狩りを?」

 ジェラが問うと、アリテームは自分の格好を見た。深い赤紫の、涼しげな服だ。彼に似合っているが、狩人の格好ではない。

「ボクは魔法使いなんだ。先生んちの照明や水道なんかの手入れも任されてて」
「魔法使い! すごいね! ぼくもちょっと呪文の読み書きをかじったことあるけどさっぱりで……」
「得意分野が違うだけだよ。ボクだって二人みたい剣を使える自信ないもの」

 その言葉にマーシャがこう返す。

「お兄やんはともかく、あたしは力任せに振ってるだけだよー」
「それはそれですごいぞ」

 キャリー・プレイトが言った。
 やがて四人は風車の下までやってくる。もう回転はだいぶゆるやかになっていて、間もなく止まった。
 風車の操作小屋から、一人の男性が出てくる。細面で人の良さそうな、しかし浅黒い肌とよく鍛えて引き締まった身の人物だ。

「村長!」
「やあマーシャ、それにジェラ。そちらの方は?」
「あ、はじめまして」アリテームが言う。「ボク、アリテームっていいます。こちらは師匠のミス・キャリー・プレイト」

 弟子の紹介に、キャリー・プレイトは笑顔で会釈した。

「こんにちわ」
「ああ、はじめまして。私はポックァ。この村の代表をさせてもらっています」

 そう言って村長は風車を見上げる。

「もともとはウィザードだったんですが、いろいろとありましてね」
「村長でウィザード!」アリテームがにわかに躍る。「すごいですよ~っ!」

 彼の様子を見て村長は照れくさそうにしてみせた。

「ところでお二方はどちらでお泊りに?」
「野営のつもりでしたが、宿があればそこに」
「では、私がご案内しましょう」
「ありがとうございます」

 そう言ってキャリー・プレイトとアリテームは村長についていく。
 別れ際アリテームが振り返り言った。

「じゃ、ちょっとお邪魔するよー」
「ゆっくりしてって~!」

 マーシャは大きく手を振る。ジェラも控えめながら手を振って見送っていた。
 そして兄妹も家路につく。


 太陽が西に傾き、空を赤くする頃。
 家の近くまで帰ってきた兄妹は、そこで大切なことを言いそびれていたことに気づく。

「……あたしたちが瘴気に耐性あるってことさ……結局言えずじまいだったね」
「うん……」ジェラは頷いた。「……でも、突拍子もないことだし、もうすこし考えを整理してから、改めて伝えたらいいんじゃないかな」
「そうだね」

 二人は自宅の玄関を開け、郵便物を確かめたのち、荷物と装備を下ろした。
 照明のツマミを捻ると、魔石が天井から吊った照明球に力を送り室内に明かりを灯す。
 見慣れたダイニングだ。木製の円卓が中央に控え、キッチンの脇の食器棚には木の、あるいは陶器の器がガラス越しに並んでいるのが見える。傍の魔石を嵌め込んだ台座に鎮座するのは魔力で冷気を発する食糧貯蔵用の大樽二つ。そして、奥まったところに保存食や細々とした雑貨と、使わない椅子が二つ置いてあった。
 洗面所で手洗いとうがいを済ませ、兄妹は夕食の準備にとりかかった。
 ジェラが蛇口横のレバーを上げて水を出し、採ったばかりの山菜を洗う。使うのは半分だけで、もう半分は貯蔵した。
 マーシャは二人が食べる分のオートミールを椀に移して湯を入れ、ふやけるのを待つ。その間に樽から肉を取り出し、まな板に乗せて切った。

「手紙なんだった?」ジェラが問う。
「庭の魔石交換しといたよーっていうお知らせ」

 他愛の無い会話を交わしつつ、二人分の料理が出来ていく。
 まもなく卓上に夕食が載り、兄妹は向かい合って座る。

「いただきます」二人の声が揃った。

 肉料理の付け合せにした山菜はなかなか美味で、マーシャは思わず顔をほころばせる。

「人助けしたあとのごはんは格別ですなあ~」
「お見事でしたよマーシャさん」

 ジェラも彼女に調子を合わせて微笑んだ。

「でもなんであたしたち瘴気吸ってもなんともなかったんだろ」
「さあ……? よかったけど、不思議だよね」
「お父さんやお母さんも同じだったのかな?」
「うーん……どうだろう。そういった話は聞いたことないや」
「……もしさ、他の人たちにもあたしたちみたいな耐性がつけられるとしたら……素敵なことだと思わない?」
「素敵なんてものじゃないさ。それができたなら、きっと神さまからの祝福だよ」

 ジェラの言葉を聴いて、マーシャは目を輝かせた。

「祝福か……! プレイトさんたちなら、なにか知ってるかな? 古代文明の秘術でみんなを祝福する方法……!」

 彼女は高揚感に身をよじらせ、ため息をつく。

「はあ……誰もが瘴気に怯えないで暮らせる世の中……! きっと世界が広がるよ……!」
「冒険し放題だね」

 兄妹は笑い合って、和やかな夕食の時間を楽しんだ。


 次の日の朝、マーシャは庭に出て太陽の光を全身に浴びる。今日も快晴だ。
 庭から見える村は今日も穏やかで、石畳で舗装した道の両端で瑞々しい草花が輝いていた。
 すこし離れたところにある牧場で牛の鳴き声がする。
 彼女は庭の小さな畑に生った果実を一つもぎ取り、水で簡単に洗ってから朝食としてかじった。
 すると、垣根の向こうに昨日の二人――キャリー・プレイトとアリテームを見る。
 彼女は垣根越しに二人へ挨拶した。

「おはよーございます。昨日ぶり!」
「ああ。おはよう」とキャリー・プレイト。「ところで、お二人に話があるんだが……」
「話?」

 マーシャは首をかしげたが、おそらく瘴気への耐性のことだろうと考え、二人を家に招き入れた。
 兄妹は師弟にお茶を出して、向かい合う。

「私が古代文明の調査をしているのは昨日言ったね」

 キャリー・プレイトが言った。

「実は私の先輩で、古代文明の技術で瘴気克服の研究をしている人がいるんだ」
「その方が、ぼくたちに会いたいとおっしゃってるんですか?」

 ジェラの問いに、彼女は頷いた。

「名前はヒュシャン。この村からはだいぶ離れた場所にいるんだが、もしよければ――」
「もちろんですとも!」

 最後まで言う前に、マーシャは親指を立てて返す。
 彼女の即答に、キャリー・プレイトもアリテームも目を丸くした。

「このマーシャ、義のためならば遠方への冒険も厭いませぬ……!」
「そ……そうか……」キャリー・プレイトはすこし引きつった笑いを浮かべる。「乗り気でありがたいが、お兄さんは……?」
「ぼくも行きます」

 と、ジェラ。

「……妹は冒険が好きですし、その気持ちを尊重したい」
「ありがとう、お兄ちゃん……。そうと決まれば、さっそく準備しましょう!」


 かくして、兄妹は旅の用意を行う。
 バックパックに必要な品々を手際よく積み込み、家の戸締まりを三度確認した。
 愛用の武器防具に、軽鎧を装備する。兄妹いずれの軽鎧も、硬さ、柔軟性、軽さを兼ね備えたウッドグリース製で、マーシャのものは藍染の帆布、ジェラのものは黒革でウッドグリースの芯を包んでいた。どちらも胸と背骨を保護する、旅人の標準的装備だ。
 それから村長夫妻に事情を話し、留守中の畑の世話をお願いする。
 首尾よく出発準備を済ませると、マーシャたちは自宅の前で村長夫人に鍵を預けた。

「じゃあ、よろしくです」
「ええ。気をつけてネ」

 村長夫人は温かい笑顔を兄妹に向ける。
 その隣で、村長は手に持っていた小さな包を差し出した。

「少ないけど、これを持っていっておくれ」

 そう言って、兄妹に路銀と携行食を渡してくれる。

「ありがとう! 助かります!」
「いいってことさ。ただね……」
「ただ?」

 村長の笑みにわずかに翳りがさし、こう言った。

「ランダウルという人物には関わってはいけないよ」
「はあ……」

 唐突に出てきた名前に、彼女はきょとんとする。ジェラと顔を見合わせたが、兄も知らない名のようだ。アリテームは首を横に振り、キャリー・プレイトも肩をすくめた。
 四人の反応に、村長はすこし気まずそうにしてから、笑う。

「ま、まあくれぐれも気をつけてね! 朗報を待っているよ!」
「もちろん!」マーシャは親指を立てた。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」

 かくして、四人は村の外へと発った。
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