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021 憧れの同級生(前編)

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 翌朝。
 目を覚ますと、視界には雲一つない青空。
 ――ではなく、テントの天井が見えた。
 そうか、テントで寝ていたのだ。
 右腕に抱き着かれている感覚がする。

「ネネイ、朝だ――あっ」

 抱き着いていたのは、エリザだった。
 俺の右腕に抱き着き、心地よさそうな寝息を立てている。
 当然ながら、今は黒のドレスを纏っていた。
 視線を下に向けると、胸の谷間がよく見える
 実に素晴らしい胸だ。
 凝視していると、昨夜の記憶が蘇ってきた。

「エリザ、朝だぞ」
「も、もう少しだけ、フリード様」

 やれやれ、こいつもネネイ達と同じだ。
 仕方あるまい、強引に起こすか。

「んっ」

 エリザを仰向けにして、馬乗りになる。
 強引に舌を絡ませてやった。
 それに反応して、エリザの目がカッと開く。
 起きたようだ。
 それを確認すると、唇を浮かせようとした。

「ぐっ」

 しかし、エリザにそれを阻止される。
 俺の後頭部を両手で押さえているのだ。

「んぐっ、んっ、んっ」

 重ねている唇が浮かねば、言葉を発せない。
 それをいいことに、エリザは俺との接吻を楽しんだ。
 恍惚とした表情を浮かべ、強引に攻めてくる。
 そう、いつの間にか攻守が逆転していた。

「ぷはぁ」

 しばらくして、エリザが俺を解放する。
 俺は大きく息を吸った後、エリザを見下ろした。

「見かけによらず激しい女だ」
「お嫌でしたか?」

 口元に笑みを浮かべるエリザ。
 俺も同じようにニヤリと笑って答えた。

「嫌じゃないさ」

 そう言って接吻を再開しようとする。
 今度は俺が攻め倒してやる。
 そう意気込んだ時。

「おはよーなの、ゴブちゃん!」
「ネネイ、おはようゴブーッ!」

 隣のテントから声が聞こえてきた。
 それにより、俺達の動きがピタリと止まる。

 二人も起床したようだ。
 声を聞くまで存在を失念していた。
 危ない危ない。
 あと少しで、二人に舌のフェンシングを見せる所だった。

「外に出ようか」
「はい、フリード様」

 最後に軽くチュッとしてから、俺達は立ち上がった。

 ◇

 準備が完了すると、移動を再開した。
 ただ歩くだけではなく、なんだかんだと楽しんだ。

「エリザお姉ちゃんかけっこしようなの」
「は、はい、わかりました」
「ゴブも混ぜるゴブーッ!」
「じゃあ皆でかけっこなの」
「えー、俺もやるのかよ」
「そうなのー♪」

 その一つがかけっこ。
 俺は強引に参加させられた。

「ゴールはあそこなの」

 ネネイが嬉しそうに場所を指定する。
 およそ20メートル先だ。

「合図は?」
「ネネイがするなのー!」

 満面な笑みでネネイが右手を掲げる。

「いちについてなのー」

 四人で横並びになる。

「よーい、どんなの!」

 一斉に走り出した。
 20メートルなので、あっという間にゴールする。

 一位は俺だ。
 相手が女子供だろうと容赦することはない。
 全力で走り、格の違いを見せつけてしまった。
 我ながら酷い大人だと思う。
 いや、俺はまだ十七歳か。
 ギリギリ子供だ。セーフセーフ。

「むぅーなの」

 ちなみに、最下位はネネイだった。
 ゴブちゃんとの激しい接戦の末、敗北したのだ。
 それ故に、負けず嫌いのネネイは不機嫌になっている。
 ほっぺをぷくぷくと膨らませていた。
 次に言う台詞は容易に想像できる。

「もう一回なの!」

 案の定、再戦の申し込みだ。
 それに対する俺の答えは決まっている。

「いやだよ、勝負は一度きりなのさ」
「なのさ、ゴブ!」
「私ももう脚が……」
「みんな意地悪なの! おとーさん、ぶぅーなの!」
「なんで俺だけぶぅーなんだよ」
「ぶぅーなの!」

 ネネイが拗ねてしまった。
 なんとまぁ可愛らしい奴だ。
 俺は「やれやれ」と苦笑い。

「お、見えてきたな」
「村なのー♪」
「村ゴブーッ」

 目的地の村が見えてきた。
 遠目に見える雰囲気はこれまでの村と変わりない。
 つまり、街に比べて遥かに良いってことだ。
 ほのぼの、ほんわか、まったり、そんな感じ。

「冒険者様だ!」
「ようこそ、冒険者様!」
「冒険者様ァ!」

 村に着くと、村民達が熱烈な歓迎をしてくれた。
 俺は「どうもどうも」と笑顔で応える。
 ネネイとゴブちゃんは手を振っていた。
 一方、エルザは恥ずかしそうに俯いている。

「フ、フリード様……」

 エリザが服の裾を軽く引っ張ってきた。
 何かを訴えるように、上目遣いで俺を見ている。
 何を訴えたいのかは分かっていた。

「あのー、村長さんはおられますか?」

 移住許可を得るのに協力することだ。
 俺が声を上げると「私が村長です」と反応があった。
 出てきたのは、カレンの様な美女。
 ……ではなく、イメージ通りのお爺さんだった。
 杖を突き、白髪で、前傾姿勢。

「冒険者様、私に何の御用でしょうか?」
「よかったら、静かな場所に移動してからでも?」
「わかりました、では我が家に行きましょう」
「ありがとう」

 村長に案内される。
 そうして、俺達は村長の家にやってきた。

「狭いところですが……」

 言葉通り、広いとは言えない家だ。
 他の民家とまるで同じ大きさ。
 適正人数は大人3人程度だろう。

「いえ、お邪魔します」

 家に上がり、居間で腰を下ろす。

「それでは、お話をお伺いさせてください」

 村長が柔らかい笑みで本題を促す。
 俺は「そうですね」と頷いてから話した。

「こちらの女性、ミエに住んでいるエリザという者なのですが、この村に移住をしたがっております。それで、移住の許可を村長様に頂ければと思いまして」

 エリザが「お願いします」と頭をペコリ。
 村長はニコニコ顔で答えた。

「わかりました、問題ございません」

 あっさり快諾。
 悩む素振りもなかった。
 俺が同伴する必要はなかったかも。
 まぁ、問題が解決したのでよかった。

「ちょうど最近、シガからうちに移住してきた者がいますので、その者としばらくは共同生活をしていただくという形でもよろしいですかな? もちろん、その者も女性ですので、その点はご安心ください」

 村長がエリザに尋ねる。
 エリザは「はい!」と元気よく頷いた。

「今は家を作っている最中ですので、完成するまでは宿屋をお使いください。こちらを見せれば、家の完成までは宿屋に無料宿泊できますから」

 村長が何やら取り出した。
 少し黄ばんだ紙だ。
 折りたたんであるので内容は分からない。
 それをエリザに手渡した。

「家を建てる作業には、エリザさんもご協力お願いします」
「はい、わかりました」

 村長が笑顔で頷く。
 その後、視線を俺に移した。

「お話は以上ですか? 冒険者様」
「はい、俺の用件はこれで終わりです」
「わかりました。ではエリザさんに村の案内をしても?」
「どうぞ、そうしてやってください」

 エリザは立ち上がると、俺に頭を下げた。

「フリード様、短い間でしたがお世話になりました」
「なぁに、こちらもお世話になったよ、特にボートの上でね」
「もぉ、フリード様ったら……」

 こうして、エリザはPTを脱退した。

「それじゃ、俺達はこれで」
「どうぞ村を堪能してやってください」

 村長に一礼した後、俺達三人はその場を後にした。

「やっぱ、むふふんはこのタイミングだよなぁ」

 村長の家から出るなり、ポツリと呟く。
 いつもと違い、なんだか締まりがない。
 むふふんがもう終わっているからだ。

 任務をこなした後に、お礼のむふふん。
 この流れがいいと改めて思った。
 途中払いは原則として受けないようにしよう。

「二人とも、お腹は?」
「ネネイはまだ空いていないなの」
「ゴブはちょっとだけ空いたゴブ」
「オーケー、ご飯はまだいいな」

 空腹なら酒場に行こうと思った。
 だが、俺を含めて、全員ぼちぼちのようだ。

「ならいつもの流れだな」

 そんなわけで、雑貨屋にやってきた。
 いつも通り鉄鉱石をあるだけ仕入れる。
 鉄鉱石の所持数が300になった。
 目標の数まで残り半分。
 かなりのハイペースだ。素晴らしい。
 ついでに木材も補充して、店を後にした。

「冒険者様には一番いい部屋を!」

 次に宿屋を確保する。
 冒険者様なので一番いい部屋だ。
 それがどんな部屋かは……お察しの通り。
 何の変哲もない普通の部屋さ。でも嬉しい。

「あとは村をぶらぶらして終わりかな」
「ぶらぶらゴブーッ」
「ワンちゃんいるなのー?」

 三人で村をあちこち歩き回る。
 村の長閑のどかな雰囲気は、見ていて心地よい。

「冒険者様ー!」
「カッコイイー!」
「素敵ー!」
「あたしのプリンスー!」

 付近の女性陣がキャーキャー言っている。
 もちろん、男の村民も「冒険者様!」と言っているよ。
 でも、女性陣の黄色い声援に掻き消され気味だ。

「おっ」

 左右から俺に声をかける女性陣。
 その中に、見覚えのある人物がいた。
 黒髪のセミロングに、超が付くほど可愛い顔。
 俺より一回り小さい背丈で、年齢は同じ。

 なぜここに?
 そう思いながら、その女に近づいていく。

「蓮村さん?」

 女は、どう見ても同級生の蓮村葉月はすむらはづきだったのだ。

 ◇

 蓮村葉月はすむらはづき
 俺の同級生であり、学年で一番人気の女だ。
 当たり前のように賢くて、まさに才色兼備。
 あまりにも可愛い為、色々な噂が出ている。
 他校にファンクラブがあるとか。
 芸能界からスカウトされたとか。
 そんな女が、村民に交じっていた。

「えっ?」

 俺の言葉に驚く葉月。
 きょとんとしてこちらを見ている。

「蓮村さんだよね、同じクラスの」
「ぼ、冒険者様、一体何を……?」

 葉月が首を傾げる。
 もしかして、人違い?
 まさかまさかの現地人?
 そんな馬鹿な。
 顔に加えて、声も同じだ。
 透き通るような美しい声。
 どう見ても本人だろう。

 しかし、本人は違うと言っている。
 どうやって確かめればいいのだろう。
 悩んでいると、ネネイが服を引っ張ってきた。

「おとーさん、PTなの」

 そうか、その手があった。
 PTを組めば情報が表示される。
 これで現地人かどうかは判別可能だ。
 現地人なら、別人ということになる。
 プレイヤーは冒険者だからね。

「あの、一瞬だけPTの招待をしてもいいですか?」
「え、私をですか?」

 葉月が驚く。

「冒険者様のPTに!? なんと羨ましい!」
「冒険者様、私も入れてくださいぃ!」
「冒険者様、私にはむふふんをさせてください!」

 周囲の反応が凄まじい。
 もう少し落ち着いてくれ、と心の中で笑う。

「ダメかな?」
「いえ、問題ありません」
「ありがとう――ネネイ」
「はいなの♪」

 数秒後――。

『ハヅキ(可愛い女Lv1)がPTに参加しました』

 このふざけた職業。
 なんてこった、現地人じゃないか。
 つまり、声と姿が瓜二つのそっくりさんだ。
 名前まで葉月とハヅキで被っているのに……。
 あれか、これがドッペルゲンガーってやつか?

「あ、ありがとう、はすむ、じゃない、ハヅキ」
「はい、冒険者様。それでは抜けますね」
「おう」

 ハヅキがPTから脱退する。

「本当に別人なんだな……」

 俺はハヅキをまじまじと眺める。
 前、横、後ろ、あらゆる角度から。
 その様子に、周囲の女性陣が嫉妬と羨望の声で騒ぐ。
 だが、そんなことは気にしない。

「あの、それほど見られると恥ずかしいです、冒険者様……」

 照れるハヅキ。
 俺は「すまん」と頭をペコリ。
 その後、ハヅキを誘った。

「よかったら少し一緒に歩かない?」
「いいのですか?」
「もちろん。俺から誘っているわけだしな」
「ありがとうございます、喜んでお供いたします」

 ハヅキが快諾する。
 それから、俺の横にちょこんと移動。
 周囲の声に気圧されて、とても恥ずかしそう。

「ネネイ、ゴブちゃん、適当に過ごしていてくれるかい?」
「はいなの、おとーさん!」
「ネネイと遊んでいるゴブー!」

 俺は「行こうか」と声をかけ、ハヅキの肩に手を回した。
 少し馴れ馴れしすぎかなと不安になる。
 しかし、問題はなかった。
 なぜなら俺は、冒険者様だからだ。

「静かになってきたな」
「はい」

 人の少ない村のはずれまで歩く。
 ここなら、ゆっくりと話をすることが出来そうだ。
 蓮村葉月の分身と言っても過言ではないハヅキと。

「ハヅキは何か困ったこととかないのかい?」
「困ったことですか?」
「うむ」

 相手が学校で一番の美少女となれば、願望は一つ。
 それは――――むふふん!
 そっくりさんだけど、ここまで似ているなら本人と同じだ。

 ハヅキにむふふんをしてもらうところを想像する。
 いや、正確にはその前段階。
 俺がハヅキにアレコレして楽しんでいるシーンだ。

 全身をくまなく舐め、唇を堪能する。
 ハヅキの口に指を突っ込むのも面白そうだ。
 指を咥えさせて、何度も抜いたり挿したりを繰り返す。
 ジュポジュポ、ジュポジュポと音を立てさせる。
 恥ずかしいポーズもとらせるのもいいな。
 そして、恥ずかしがる様を見て楽しむ。舌を舐めずる。
 いつもよりたっぷりと、むふふんの前を楽しむ。
 最後に恍惚とした表情のハヅキを見て、そして――。

 ああ、もうたまらん!

 これは絶対にむふふん不可避!
 助けたお礼にむふふん不可避!
 さぁ、困っていることを言うんだ。

「困っていることは特に……」

 なんてこった。
 何も困っていないらしい。
 これでは物語が始まらないじゃないか。
 いけない、それではいけない。

「じゃあ、何か俺に頼みたいこととかは?」
「頼みたいこと……」
「何だっていいよ」

 ハヅキが考え込む。
 数秒後、もじもじしながら俺を見た。

「へ、変なお願いなのですが……」
「どんな内容?」
「冒険者様はポーションと呼ばれる治療薬を作れますよね?」
「あぁ、作れるよ」

 ポーションとは回復薬のことだ。
 体力、状態異常、様々なものを回復する。
 調剤師のスキルで作ることが可能だ。
 ちなみに、俺の調剤師レベルは4である。

「私、ポーションを飲んでみたいです」
「ポーションを飲みたい? あれは不味いぞ」
「はい、それでも飲んでみたくて……」
「なるほど」

 たしかに変なお願いだ。
 異常がないのにポーションを飲むなんて。

 ポーションの味は概ね不味い。
 もちろん、種類によって味は異なるけどね。
 中でもHP回復系のポーションは最悪だよ。
 腐った牛乳と青汁を足したような味と評する奴もいる。

「ポーションを作るには薬草が必要だけど……」

 あいにく、手持ちの薬草では足りない。
 近くで採取する必要がある。

「少し待ってもらってもいいかな?」
「もちろん、かまいません」
「オーケー。飲みたいポーションの種類は?」
「いえ、特には。冒険者様にお任せします」
「分かった、俺に任せるんだな」
「はい」

 なら少し良いポーションを作ろう。
 作るのは『ホワイトクリームポーション』だ。
 ポーションの中では割かし飲みやすい。
 効果は寒気の緩和、つまり身体がポカポカするだけ。
 特徴なのはその見た目だ。
 白濁でドロドロとしている。
 口から垂らしてもらえば最高にグッドォ!
 そんな邪な思いを込め、このポーションに決めた。

「今日中に素材を揃えて作るからね」
「ありがとうございます、冒険者様」
「俺のことはフリードと呼んでくれ」
「はい、フリード様」

 これで、むふふんへのルートを確保できた。

 学校一の美少女を好きにできるならどうする。
 俺には既に、複数のアイデアが浮かんでいた。
 妄想の中で、それらのアイデアを実行する。

 艶めかしい声を上げ、身体をよじるハヅキの姿。
 いや、蓮村葉月の姿だ。
 どんな男をも相手にしなかった最高の美少女。
 それを好き放題に……。

 そんな妄想が、もうすぐ現実になる。
 これは超速で任務をクリアせねばならない。

「行ってくるよ」
「はい、フリード様」

 俺は大慌てでネネイ達のもとに向かった。
 すぐさま薬草採取に出発だ!
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