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003 冒険者ギルド

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「シロ君、つっよぉい!」

 ゴブリンを屠ると、アーシャが歓声を上げた。

 俺は悠然とした動きで、アーシャの元に飛んでいく。

 どんなもんじゃい、と言いたげなドヤ顔を浮かべながら。

「アーシャを助けてくれてありがとぉー」

 そう言って、小さな俺の身体を抱きしめてくれるアーシャ。

 かつて経験したことない妙な嬉しさがこみ上げてきた。

 これも〈テイミング〉の影響と思われるが、悪い気はしない。

「キュウー♪(今後もバンバン助けてやるぜ!)」

 ひとしきり愛でられた後、俺は再びアーシャの頭上に載せられた。

 特等席にちょこんと座り、身体をグルリと丸める。

「町に帰って、たくさんご飯を食べよぉねぇ。
 アーシャ、もうお腹ペコペコだよぉ」

 そういえば、バハムートって何を食べるのだろうか。

 目を瞑り、ご馳走を思い浮かべてみる。

 すると、ほわほわと生肉が浮かんできた。

 これまでだと食べたら腹を壊しそうな生肉の塊だ。

 しかし、今では涎が垂れかねない程に美味しそう。

 なるほど、バハムートは生肉を食べるわけか。

 人間とは別の種族に転生したおかげで、何もかもが新鮮で楽しいぜ。

 ◇

 アーシャはテクテクと歩いて森を抜けた。

 そのまま進み続け、目的地である港町ラプーンに到着した。

 港へ近づく程に低地へなっており、町の出入口から港がよく見える。

 サファイアブルーの海がどこまでも広がっていて美しい。

 ラプーンの街並みは俺が冒険者だった頃とまるで変わっていなかった。

 道行く人々の服装も、当時の流行と遜色ない。

 ということは、今は、俺が死んだ頃と大差ない時代なのだろう。

 転生すると時代が移動すると言われていた。

 過去に行くとか、逆に遙か未来へ行くとか。

 どうやらその類の話はデタラメだったようだ。

「!」

 突然、アーシャが俺の身体を持ち始めた。

 両手で持って、自身の顔の前に、俺の顔を向ける。

「アーシャはねぇ、冒険者なんだよぉ」

 薬草を採取している時点で分かっている。

 が、俺に答える術はない。

 とりあえず、首をコクコクと縦に振っておいた。

「えへへ、凄いでしょー?」

 凄いかどうかでいえば、わりと凄い。

 とても凄そうには見えない幼女だが、ちょっぴり凄い。

「でねでね、冒険者は、ここでお金を貰うの!」

 アーシャが俺の身体をくるりと反対に向ける。

 その最中、俺は「どうせ冒険者ギルドだろうな」と思っていた。

 実際のところは――冒険者ギルドだった。案の定。

「じゃじゃーん!
 ここは、冒険者ギルドだよぉ!」

「グォォ!(知ってるよー!)」

「ねー、知らなかったでしょー?」

「グォォ!(いや知ってるって)」

「シロ君ならきっと驚くと思ったんだぁ」

「ギューン(やれやれ)」

 人の言葉が話せないのは不便だぜ。

 ペットを飼っている者がよく言うセリフに、

「ペットと会話出来たら最高なのになぁ」

 なんてものがある。

 それはペットからしても同じだろうな、と思った。

 もっとも、実際に言葉や文字で明確に会話出来るようになったら、

 それはそれで新たな問題や悲劇が起きそうな予感がするけれども。

「うんしょ」

 冒険者ギルドの重厚な扉を開けるアーシャ。

 両手で俺を持っているから、体当たりする形で押し開けた。

 頭に載せてから手で開けたらいいのに、と思いながら眺める。

「グォォ(変わってねぇなぁ)」

「たくさんいるでしょー!」

 冒険者ギルドの中は、俺の頃と全く同じだった。

 木で作られたテーブル席が所狭しと並んでいる。

 奥には依頼クエストの受注・報告を行う為の受付カウンター。

 アーシャは頭に俺を載せ、テクテクと受付カウンターに向かう。

「お、アーシャちゃん」

「今日も薬草採取かい?」

「よく頑張ったねー!」

「将来は立派な冒険者になれるぞー」

 様々な冒険者がアーシャに声を掛ける。

 一様にして無精髭を生やしたおっさんだ。

 おっさん世代からすると、可愛らしい孫みたいなものなのだろう。

「えへへぇ♪ ありがとぉーございます♪」

 アーシャはニコニコ顔で頭をペコペコする。

 そうして、受付カウンターまでやってきた。
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