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第三十二話 キャロル
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「奇遇だな。一人か?」
「うん。少し気晴らしに出てきただけだからね」
俺の問いに、マルヴィナは小さく笑みを浮かべる。
一度別れていたが、どうやら彼らはまだこの付近にいるようだ。
「ルシェフたちは何か買い物?」
「そんなところだ。良ければ、君も来るか?」
「うん。──そうしようかな」
レオナにアイコンタクトで何らかの意思疏通をしたマルヴィナは、少し考えた後そう言ったので、五人で町を散策することになった。
「そういえば、カルレランを出るとき、あの数のスケルトンをどうやって止めたんだ?」
街を散策する中でマルヴィナにそう尋ねる。単純に、あの現象をどうやって引き起こしていたのかが気になっていたからだ。
「ニュクスたちの力を借りて、スケルトンの視覚を奪ったんだよ。私たちの姿を消すだけにして消費を抑えることも出来たけど、あのダンジョンの性質上、見えない相手に攻撃してくるなんてことも出来そうだったから、ね」
「そうだったのか」
「うん。シルフたちに協力してもらってクラウスの手助けをした後だったから、流石に疲れたよ~」
愚痴気味にそう言ったマルヴィナが、気だるげに自身の頭を俺の肩に寄せてくる。
「お疲れ」
そう言って彼女の頭をくしゃりと撫でる。
確かに、小竜なら“追い風”での加速もバカにならないなと納得する。ジャックさんたちには重さ的に使えない方法ではあるが。
「……」
マルヴィナに対抗してか、レオナもピッタリとくっついてくる。ただ、町中ということもあり少し抵抗があるのか、それ以上のことはしてこなかった。
「あの店を見ていきませんか?」
何か気に入りそうな店でも見つけたのか、オリビアが朗らかな笑みで一件のブティックを指す。
二人に視線を送り、問題が無さそうだったので、そのままオリビアについていく。
店の前まで来たところで、刃物のような鋭い視線に気づき、慌てて踵を返した。
「じ、じゃあ、俺はそこの魔道具店見てるか──」
「……」
踵を返して小物店に向かおうとしたところで、レオナに袖を引かれた。
「レオナ、悪いけど……」
「……」
まだ夕方だし、ごった返す程でないにしろ、ブティックもそれなりに混んでいる。間違えても、俺にはあのご婦人方が視線による牽制での争いを繰り広げている売り場へと繰り出す勇気はなかった。
ご婦人方には気を見て売り場への突攻を試みる方もおり、中々に近づけるような状態ではない。
この状態で今から割って入ってまともに買い物できるのなど、ニコくらいしかいないだろう。
結果的に、レオナは俺の方についてきたので、ニコを含めた三人で魔道具店を見ながら二人の帰りを待つことにする。
よく考えると、さっきからニコはレオナの傍を片時も離れようとしていない。
──もしかしたら、アリスたちからそういった依頼を受けているのかもしれないな。
魔道具店に入るなり大小様々なマジックバッグが目に入るが、それ以外にもいくつかの量産された魔道具があり、疎らではあったがダンジョン産の物とおぼしき魔道具も見受けられた。
「お待たせしました!」
三人で暫く魔道具店でたむろしていると、オリビアとマルヴィナが戻ってきた。
「ブラウンさん、どうですか?」
早速ブティックで買った服を着ているオリビアが、嬉々としてそう尋ねてくる。
「似合ってるよ」
「ありがとうございます!」
言いながら、オリビアが花笑む。それに釣られ、つい自身の口角も緩んでいたことに気づいた。
「……やっぱり、ブティック見てく」
少し不機嫌そうなレオナが、ブティックの方に向かっていたので、慌ててそれを止める。
何とかレオナを説得し、全員で近場のカフェへと入った。
「……ハッ、ルシェ──じゃないか!」
入り口付近のテーブルに座っているがたいの良い男が、突然思い出したようにそう叫んだ。
その見知った男の視線は俺の近くへと向いていたが、周囲を見回してみてもルシェと思われる人物は見えない。間違えても俺ではないだろう。
そう思い、空いている席を探して店内を進もうとすると、何を思ったのか、席を立った男にガシッと肩を掴まれる。
「俺だよ、俺。もう忘れちまったのかよ!」
勿論、この男の顔に心当たりはあったが、俺の記憶が正しければ、この男は男に対してこのような笑みを浮かべるような奴ではなかった。
「覚えてるよ。《剛腕》鈴木剛だろ」
俺の記憶にあった彼とはかけ離れた存在ではあるが。
「それで、何か用か?」
「“天使”からの伝言だ。『何か困ったことがあれば相談に乗りますから、頼って下さいね』だと。一週間くらいなら、王都ペリアティいるそうだ。何だったら、俺が転移で王都まで連れていっても良いが、どうする?」
用事があったなら、俺の名前くらいは覚えていて欲しかったな……。それにしても、“天使”の方からその申し出があるとはな。
俺からしたら手間が省けて助かるが、向こうがどこまで俺たちの状況を知っているのかを考えると、少し怖いな。
「剛、転移で王都まで俺たちを連れていくのは、“天使”の指示か?」
「いや、ただのサービスだ」
俺の問いに、剛は神妙な面持ちでそう答えた。
「そうか。それなら、こっちでの用事を済ませてから王都に向かわせてもらうよ」
「わかった。王女には、その旨を伝えておく」
剛はそれだけ言うと、近くにいたウェイターを呼んで会計を済ませる。その次の瞬間には、彼は店内から姿を消していた。
「どこか座りませんか?」
「あぁ」
オリビアに促され、取り敢えず適当な席に座ることにする。
「ルシェフさん、さっきの人って?」
目でマルヴィナを牽制して隣に座ったレオナに尋ねられた。
「鈴木剛。アメリアと同じ、西の国の国家公認冒険者だ」
俺の知っている彼が、女性を見て何も反応がないなんてことは滅多に無いんだが……まぁ、キャロル関連の依頼では仕方ないか。
後日、依頼を済ませた彼が、オリビアたちからの評価を上げるために花束でも持って俺たちの前に出てきそうで怖いな……。彼なら、そのくらいはしそうだ。
「そう」
あまり興味が無かったのか、自分で聞いておいたのにも関わらず、レオナは手に取ったメニューの方へと目を落とす。
「ブラウンさんは何にしますか?」
レオナと同じくメニューに目を落としていたオリビアが、俺の方に目を向けてそう尋ねてくる。この様子だと、いつものように何を頼むのか迷っているのかもな。
「特に決まってないよ。決まってるのは、ショコララテを頼むくらいだ」
「実は、ガトーショコラにするか、気まぐれショコラティエにするか悩んでまして…」
「両方頼めば良いんじゃないか?」
「……」
「……俺はどっちでも良いよ」
適当にあしらわれたとでも思ったのか、オリビアがむくれた表情で見つめてきたので、諦めてそう告げる。
「本当ですか!じゃあ、私は気まぐれショコラティエにするので──」
「わかったよ。レオナはどうする?」
言いながら彼女の持つメニューへと目を向ける。名産とはいえ、やけにショコラの使われたメニューが多いな。
元々ペルシャンではハチミツ文化が浸透しているし、甘いものに対する抵抗は少ないが、見ていて胸焼けがしそうだ。
「私は、ショコララテとラムネパイにしようかな」
レオナの言葉を聞いて、向かいに座るマルヴィナの方に視線を向けると、彼女が小さく頷いたので、店員を呼んで手早く注文を済ませる。
それから十分ほどで注文したものが届き、十分に羽休めをした俺たちは再び町へと繰り出す。
一時間程経ち、町の散策をした俺たちが宿へと戻ると、見知った男の姿が確認できた。
「うん。少し気晴らしに出てきただけだからね」
俺の問いに、マルヴィナは小さく笑みを浮かべる。
一度別れていたが、どうやら彼らはまだこの付近にいるようだ。
「ルシェフたちは何か買い物?」
「そんなところだ。良ければ、君も来るか?」
「うん。──そうしようかな」
レオナにアイコンタクトで何らかの意思疏通をしたマルヴィナは、少し考えた後そう言ったので、五人で町を散策することになった。
「そういえば、カルレランを出るとき、あの数のスケルトンをどうやって止めたんだ?」
街を散策する中でマルヴィナにそう尋ねる。単純に、あの現象をどうやって引き起こしていたのかが気になっていたからだ。
「ニュクスたちの力を借りて、スケルトンの視覚を奪ったんだよ。私たちの姿を消すだけにして消費を抑えることも出来たけど、あのダンジョンの性質上、見えない相手に攻撃してくるなんてことも出来そうだったから、ね」
「そうだったのか」
「うん。シルフたちに協力してもらってクラウスの手助けをした後だったから、流石に疲れたよ~」
愚痴気味にそう言ったマルヴィナが、気だるげに自身の頭を俺の肩に寄せてくる。
「お疲れ」
そう言って彼女の頭をくしゃりと撫でる。
確かに、小竜なら“追い風”での加速もバカにならないなと納得する。ジャックさんたちには重さ的に使えない方法ではあるが。
「……」
マルヴィナに対抗してか、レオナもピッタリとくっついてくる。ただ、町中ということもあり少し抵抗があるのか、それ以上のことはしてこなかった。
「あの店を見ていきませんか?」
何か気に入りそうな店でも見つけたのか、オリビアが朗らかな笑みで一件のブティックを指す。
二人に視線を送り、問題が無さそうだったので、そのままオリビアについていく。
店の前まで来たところで、刃物のような鋭い視線に気づき、慌てて踵を返した。
「じ、じゃあ、俺はそこの魔道具店見てるか──」
「……」
踵を返して小物店に向かおうとしたところで、レオナに袖を引かれた。
「レオナ、悪いけど……」
「……」
まだ夕方だし、ごった返す程でないにしろ、ブティックもそれなりに混んでいる。間違えても、俺にはあのご婦人方が視線による牽制での争いを繰り広げている売り場へと繰り出す勇気はなかった。
ご婦人方には気を見て売り場への突攻を試みる方もおり、中々に近づけるような状態ではない。
この状態で今から割って入ってまともに買い物できるのなど、ニコくらいしかいないだろう。
結果的に、レオナは俺の方についてきたので、ニコを含めた三人で魔道具店を見ながら二人の帰りを待つことにする。
よく考えると、さっきからニコはレオナの傍を片時も離れようとしていない。
──もしかしたら、アリスたちからそういった依頼を受けているのかもしれないな。
魔道具店に入るなり大小様々なマジックバッグが目に入るが、それ以外にもいくつかの量産された魔道具があり、疎らではあったがダンジョン産の物とおぼしき魔道具も見受けられた。
「お待たせしました!」
三人で暫く魔道具店でたむろしていると、オリビアとマルヴィナが戻ってきた。
「ブラウンさん、どうですか?」
早速ブティックで買った服を着ているオリビアが、嬉々としてそう尋ねてくる。
「似合ってるよ」
「ありがとうございます!」
言いながら、オリビアが花笑む。それに釣られ、つい自身の口角も緩んでいたことに気づいた。
「……やっぱり、ブティック見てく」
少し不機嫌そうなレオナが、ブティックの方に向かっていたので、慌ててそれを止める。
何とかレオナを説得し、全員で近場のカフェへと入った。
「……ハッ、ルシェ──じゃないか!」
入り口付近のテーブルに座っているがたいの良い男が、突然思い出したようにそう叫んだ。
その見知った男の視線は俺の近くへと向いていたが、周囲を見回してみてもルシェと思われる人物は見えない。間違えても俺ではないだろう。
そう思い、空いている席を探して店内を進もうとすると、何を思ったのか、席を立った男にガシッと肩を掴まれる。
「俺だよ、俺。もう忘れちまったのかよ!」
勿論、この男の顔に心当たりはあったが、俺の記憶が正しければ、この男は男に対してこのような笑みを浮かべるような奴ではなかった。
「覚えてるよ。《剛腕》鈴木剛だろ」
俺の記憶にあった彼とはかけ離れた存在ではあるが。
「それで、何か用か?」
「“天使”からの伝言だ。『何か困ったことがあれば相談に乗りますから、頼って下さいね』だと。一週間くらいなら、王都ペリアティいるそうだ。何だったら、俺が転移で王都まで連れていっても良いが、どうする?」
用事があったなら、俺の名前くらいは覚えていて欲しかったな……。それにしても、“天使”の方からその申し出があるとはな。
俺からしたら手間が省けて助かるが、向こうがどこまで俺たちの状況を知っているのかを考えると、少し怖いな。
「剛、転移で王都まで俺たちを連れていくのは、“天使”の指示か?」
「いや、ただのサービスだ」
俺の問いに、剛は神妙な面持ちでそう答えた。
「そうか。それなら、こっちでの用事を済ませてから王都に向かわせてもらうよ」
「わかった。王女には、その旨を伝えておく」
剛はそれだけ言うと、近くにいたウェイターを呼んで会計を済ませる。その次の瞬間には、彼は店内から姿を消していた。
「どこか座りませんか?」
「あぁ」
オリビアに促され、取り敢えず適当な席に座ることにする。
「ルシェフさん、さっきの人って?」
目でマルヴィナを牽制して隣に座ったレオナに尋ねられた。
「鈴木剛。アメリアと同じ、西の国の国家公認冒険者だ」
俺の知っている彼が、女性を見て何も反応がないなんてことは滅多に無いんだが……まぁ、キャロル関連の依頼では仕方ないか。
後日、依頼を済ませた彼が、オリビアたちからの評価を上げるために花束でも持って俺たちの前に出てきそうで怖いな……。彼なら、そのくらいはしそうだ。
「そう」
あまり興味が無かったのか、自分で聞いておいたのにも関わらず、レオナは手に取ったメニューの方へと目を落とす。
「ブラウンさんは何にしますか?」
レオナと同じくメニューに目を落としていたオリビアが、俺の方に目を向けてそう尋ねてくる。この様子だと、いつものように何を頼むのか迷っているのかもな。
「特に決まってないよ。決まってるのは、ショコララテを頼むくらいだ」
「実は、ガトーショコラにするか、気まぐれショコラティエにするか悩んでまして…」
「両方頼めば良いんじゃないか?」
「……」
「……俺はどっちでも良いよ」
適当にあしらわれたとでも思ったのか、オリビアがむくれた表情で見つめてきたので、諦めてそう告げる。
「本当ですか!じゃあ、私は気まぐれショコラティエにするので──」
「わかったよ。レオナはどうする?」
言いながら彼女の持つメニューへと目を向ける。名産とはいえ、やけにショコラの使われたメニューが多いな。
元々ペルシャンではハチミツ文化が浸透しているし、甘いものに対する抵抗は少ないが、見ていて胸焼けがしそうだ。
「私は、ショコララテとラムネパイにしようかな」
レオナの言葉を聞いて、向かいに座るマルヴィナの方に視線を向けると、彼女が小さく頷いたので、店員を呼んで手早く注文を済ませる。
それから十分ほどで注文したものが届き、十分に羽休めをした俺たちは再び町へと繰り出す。
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