Sランクギルドの主力メンバーやっていた少女が追放されたので、うちのパーティーに引き抜こうと思う

五月雨蛍

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第三十一話 模擬戦

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 ジャックさんの声と共に、フレディは真っ直ぐに駆けてくる。余計な小細工やフェイントを入れてくるような様子はない──彼自身必要がない思っているだけなのだろうが。

「っ!」
 頭上から振り下ろされた木剣を避ける。避けること自体には苦労しなかったが、鬼気迫る表情のフレディに、少し気圧されてしまう。

 フレディとまともな打ち合いなどしたら木剣がもたないため、いつも通り回避に専念してカウンターを狙うのがベターだろう。

「っらぁ!」
 フレディは激情に任せ木剣を半ば乱暴に振り回す。当たったら怪我は確実だ。それも治せるから問題はないが、何がここまでフレディを本気にさせているのかがわからなかった。

 木剣は何度も空を切り、風斬り音が吹きさすぶ。

「っと」
 竜人特有のあまりある怪力で無秩序に木剣を振り回されているため、木剣は不意に予想外に軌道をしてくる。俺がフレディの攻め筋を知っているように、彼も俺もカウンターを何度も見ているため、中々に隙を見せてはくれない。

 このままフレディの体力が尽きるまで付き合ってやることもできたが、それでは彼も不完全燃焼だろう。
 彼に対してもあまり使いたくはなかったが、今回は本来の力を使わせてもらうことにする。

「──!」
 俺の変化に気づいたフレディが大きく飛び退く。
 この試合も今までと同じルールだし、魔力運用による強化までは認められている。
 オリビア程魔力運用に自信があるわけではないが、魔力をそのまま乗せるだけで大丈夫だろう。

 フレディは俺の魔力にも黒色の気にも臆することもなく、笑みを深める。

「やっとその気になったか」
「あぁ。あまり気乗りはしなかったけどな」
 正直な話、これならフレディに打ち勝てる自信はあるが、本気で打ち合えば最後、互いの木剣は破散してしまうだろう。

 ──真っ直ぐに力をぶつけるよりかは、力を流しながら戦う感じにするべきか。

「これでようやく証明できる」
「……証明?何を証明するんだ?」
 身に覚えのない言葉に、ついそう尋ねる。

「俺が強いってことをだよ!」
 言うが早いか、フレディが一飛びで距離を詰めてくる。
 相変わらず、どこまでも真っ直ぐな攻撃だ。
 それを受け流しながらのカウンターで終わり。そう思った矢先、異変が起きる。
 ──突如として、彼の持つ木剣が姿を消した。

「なっ──!」
 俺が彼の木剣を視界に入れるよりも早く、眼前にフレディの握り拳が迫る。

 ──それはルール違反だろ!
 そう心の中で叫びながら、彼の拳を避けようとすると、回避した先の下前方から何かが振り上げられるような感覚に襲われ、反射的にそれを木剣で弾き流し、そのままルールを守る気のないフリをしたフレディ大根役者の頭上から木剣をくれてやる。

 握り拳を先まで俺の顔のあった位置より少し前で寸止めているのも見えていたため、その時点で拳で決着をつけるつもりがないのはわかっていた。

「痛ってぇな!」
 無意識に本気で叩いてしまったため少し不安はあったが、フレディの様子を見る限り問題はなさそうだ。

「フレディ、お前十分強いだろ?」
「……」
 負けたばかりだからか、フレディは不貞腐れたような顔で睨んでくる。

「──なら、何で一人で戦うことに拘る?」
「フレディ?」
「……いや、何でもない」
 フレディはバツの悪そうにそう吐き捨てると、表面から抉れてズタズタになりながらも何とか原型は止めている木剣を捨て、ジャックさんの元へと戻っていった。

◇ ◇ ◇

「ルシェフさん、いる?」
 俺が自室のベッドに腰かけて黙々と真赤鉄鉱トゥルー・ヘマタイトの生成をしていると、扉の向こうから聞き覚えのある声がした。

「あぁ」
 俺が答えてからすぐに扉が開き、レオナがそっと顔を覗かせてくる。

「どうかしたのか?」
「ううん。少し疲れてそうだったから、少し気になっただけ」
「そうか」
 疲れを表に出さないように気をつけていたんだけどな。

「ルシェフさんたちは、何しに行ってたの?」
 俺の隣へと腰かけたレオナが小首を傾げながらそう尋ねてくる。

「ちょっとな」
 取り敢えず、そう伝えておくことにした。あまり騒ぐとフレディにも悪いしな。

「……」
 適当にあしらわれたのが気に入らなかったのか、レオナが少し頬を膨らませている。

「無茶だけはしないでね……」
「わかってる──っと」
 レオナに両手で頭を持たれ、彼女の膝の上に動かされた。後頭部には、何にも代え難い柔らかさがある。
 いつもより少しだけレオナとの距離が近いこともあり、彼女が使っている少し甘めの香水の匂いにあてられた。

「……レオナ?」
「こうすれば、ルシェフさん喜ぶんじゃないかって、マルヴィナが言ってたから……」
「そうか……?」

「……」
 俺たちの間を静寂が包む。ただ、今のような静けさは嫌いではなかった。
 安心感からか少し眠気が襲ってきていたところで、何を思ったのか、レオナがそっと頭を撫でてきた。

「……嫌だった?」
「嫌じゃない」
 少し不安そうに聞いてきたレオナにそう返す。

「なら、良かった」
 言いながらレオナが小さく微笑み、それからすぐに睡魔に誘われるままに眠りについた。

◇ ◇ ◇

「起きた?」
「あぁ」
 レオナの言っていた通り疲れでも溜まっていたのか、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

「悪い、足痛くなかったか?」
 どのくらい時間がたったのかは分からなかったが、レオナにずっと膝枕させてしまっていたようだ。
 長時間の膝枕がかける足への負担は痛いほど知っているので、少し申し訳なさが募る。

「私は大丈夫だよ。それより、ルシェフさんがいつも通りに戻ってるみたいで良かった」
「いつも通り?」
 普段と変わりはないと思っていたが……。

「うん。ルシェフさん、西の国ウェストランドに来る前少し様子がおかしかったから。今日なんかは、『セレネーに頼んで、ルシェフの表面的な不安は取り除いてもらったけど、それで精神的な疲労がなくなる訳じゃないから』ってマルヴィナが言ってたよ」
「そうか」
 どうやら、二人に心配をかけてしまっていたみたいだ。

「心配かけて悪かったな……」
「ううん、大丈夫そうで良かった」
「ところで──」
 微笑むレオナに気になったことを聞いてみることにする。

「間違えてたら悪いんだけど、もしかして香水変えたのか?」
「うん。さっき新しい物を買ったから、試してみたんだ」
 俺の言葉を聞いたレオナが、花の咲いたような笑みを浮かべる。

「そうか」
 間違えてなくて良かった。

「ブラウンさん、夕食の時間ですよ!」
 オリビアがバンッ!と勢い良く扉を開ける。片手に中身の減った酒瓶を持っていることから、既に出来上がっていることが窺えた。

「他の皆は?」
「皆向こうで待ってますよ!良ければ、もう行きませんか?」
「あぁ」
 ベッドから降り、未だに動かないレオナに手を差し出した。

 レオナを連れ立ち、先導するオリビアに続く。そのまま宿を出ると、ジャックさんたちの姿を確認することができた。

「すいません。お待たせしました」
「いや、構わない」
 彼らと合流した後、全員で近場の飲食店へと入る。その直前に、オリビアに酔いが覚めたら少し出かけないかと伝え、彼女には酒瓶をしまわせた。

「……」
「置いてったりなんてしないから、安心してくれ」
 レオナが少し悲しそうな顔でこちらを見てきたので、くしゃりと頭を撫でてそう伝える。

 夕食中、ジャックさんから俺たちと別行動でギルドへと顔を出すと言われ、初めは遠慮したが半ば押しきられる形でそうなった。その時に、【四次元空間】から出した“割れた大盾”もジャックさんに預ける。

 夕食後は予定通りにジャックさんたちと別れ、そのままオリビア、レオナ、ニコの四人で町へと繰り出す。
 アメリアがついてきたがるかとも思ったが、彼女は何を思ってか、「今回は止めとくよ」と言って、ジャックさんたちとギルドへと向かって行った。

「このメンバーで出かけるのも久しぶりですね!」
 やけに上機嫌に先頭を歩くオリビアが振り向くことなくそう言った。

「そうだな」
 ……まさか、まだ酔いが残ってたりしないよな。やたらと機嫌の良さそうなオリビアに訝しむ視線を送るが、彼女はそれに気づくこともなかった。

「ルシェフ?」
 突然、後ろから名前を呼ばれる。聞き覚えのある声に振り返ると、目深にフードを被り、その隙間から深緑の髪をのぞかせる女性の姿があった。
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